彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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一族の繁栄の為に!

 

「良いですか? 決して失礼のないように。もしそうしたならば私があなたをこの世に生まれたことを後悔するようにしますので」

「わ、分かりました」

 

 ヤルダバオトの有無を言わさない言葉に魔現人(マーギロス)の女王、ナスレネ・ベルト・キュールは震えながらに頷いた。

 

 話がある、と言われて、ナスレネは外に連れ出された。

 丘陵にある彼女らの集落ではなく、そこから更に見たことも聞いたこともない魔法を使って、移動し、見知らぬ土地へ。

 しかし、そこで終わらず、更にそこから見知らぬアイテムを使って移動を繰り返して、ここまでやってきた。

 途中ヤルダバオトからは飲むように、と小瓶を渡された。

 もとより拒否権などあるはずもなく、それをナスレネは飲み干した。

 彼女本人からすれば何となく違和感はあるものの、特に変化はないように思えるが、ヤルダバオトは満足そうに頷いていたので、何が何だか分からなかった。

 

 それはさておき、ここには亜人であるナスレネから見ても、息を呑むような恐ろしいモンスターがそこら中をウヨウヨしており、当初はヤルダバオトの居城かと思ったが、どうにも彼の様子から違うような気がしていた。

 

 そして、明らかに雰囲気が変わった階層に到達し、そこから更に歩いて、ある一つの、荘厳な扉の前で彼は立ち止まり、ナスレネに警告を発したのだ。

 

 

 彼女の勘が囁いた。

 ヤルダバオトを手駒に使う程に、強大な存在がいる、と。

 

「あなたがヤルダバオトの子種を欲しがっているという話を耳にしましてね」

「そ、それは……確かに、そう、です」

 

 慣れない敬語だが、ナスレネはヤルダバオトの先程の言葉から無理矢理にでも敬語を、敬う態度を見せておかねばならないと強く自身に言い聞かせる。

 死ぬわけにはいかない。

 

「それは一族の繁栄の為ですか?」

「そうです。私の一族の為です」

 

 嘘偽りなどない為、ナスレネははっきりと答える。

 

「ふむ。確か、あなたの一族は女は強く数が多い、しかし男は弱い上に数は非常に少ない。そのため、両性具有の個体もいるということですが……」

「はい、そうです」

「人数としては3000人程で、うち男は僅か100程度、両性具有は700程度でしたか?」

 

 そこまで把握されているのか、とナスレネは恐怖しつつも、肯定する。

 

 現地の基準で考えれば生来の魔法行使能力を持つ為、第1位階や第2位階程度は誰でも使える魔現人(マーギロス)は非常に厄介だ。

 最高では第4位階魔法も扱えるようになり、魔法詠唱者としての能力に目覚めれば行使する魔法は第5位階にも到達する。

 

 そんな連中が一族全体でたった3000人とはいえ、それらは国を一つ落とせるような脅威である。

 

「なるほど、分かりました。もしこれからお会いする御方があなたを気に入れば、永遠の繁栄を手に入れることでしょう。あの御方もとても慈悲深い……」

 

 あなたの幸運をお祈りします、とヤルダバオト――デミウルゴスはそう締めくくり、荘厳なる扉に向けて告げる。

 

魔現人(マーギロス)の女王をお連れしました」

 

 

 

 

 扉が開かれ、ナスレネはデミウルゴスと共に更に奥へと中にいたメイドに案内される。

 幾つかの部屋を通り過ぎて、辿り着いたその場所にいた存在にデミウルゴスは平伏した。

 ナスレネも見よう見真似で平伏する。

 

 一見、何の変哲もない人間の小娘に見えた。

 だが、ナスレネの本能はそれが擬態だと強く警告する。 

 亜人であるナスレネから見ても、その人間の小娘は美しく思えたのが、その警告が正しいことを証明している。

 

 亜人の感覚と人間の感覚は異なっており、例えば豚鬼から見た人間の美女は豚鬼にとっては非常に醜悪なものに見える。

 ナスレネ自身もそれなりに長く生きてきたので、人間の美女というものを幾人か、見たことはある。

 だが、醜悪とまではいかなかったが、美しくは思えなかった。

 

 そんな彼女が美しいと感じたのだ。

 それは異常なことだった。

 

「メリエル様、こちらが魔現人(マーギロス)の女王であるナスレネです」

「ナスレネ・ベルト・キュールです」

 

 慣れない為、名前を告げるのが精一杯のナスレネだったが、特に何も言われないことに安堵する。

 

「顔を上げて頂戴」

 

 そう言われ、ナスレネは顔を上げる。

 少し離れたところにメリエルの顔があった。

 その視線はナスレネに固定されている。

 

「中々、良いわね」

 

 良いとはどういう意味か、とナスレネは思ったが、口に出すことなどできよう筈はない。

 

「ヤルダバオト、彼女は自分の姿を見たのかしら?」

「いいえ、メリエル様。まだ見ておりません」

「見せてあげなさい」

 

 メリエルの言葉にヤルダバオトは畏まりました、とナスレネに手鏡を手渡してきた。

 どこから出したのだろう、とナスレネは思いながらも、その手鏡を受け取って覗き込んだ。

 

 すると、そこには自分ではない顔があった。

 思わずに両頬を片方2つずつ、合計4つの手で触ってみる。

 

 鏡に映っていたのは人間の女の顔だった。

 長い銀色の髪と同色の瞳。

 

 手を見てみればそれらも全て人間のもの。

 視線を下に向ければそこには人間の体が見えた。

 

 ここに来るまでに飲んだ小瓶だ、とナスレネは思ったものの、今が一族の存亡の時であると強く思うことで様々な感情を抑え込む。

 

「さて、ナスレネ。率直に言うけど、今から私の力を示す。それを見て、どうするか決めると良いわ」

 

 そう言い、メリエルは唱えた。

 ナスレネの耳にはっきりと聞こえた。

 

 至高なる戦域(スプリームシアター)

 

 

 世界が変わった。

 

 

 

「……なん、じゃと……?」

 

 ナスレネは周囲を見回す。

 隣にいた筈のヤルダバオトはおらず、あたりは草原であり、不気味なほどに青い空が見える。

 風の音などは一切なく、自分の呼吸音などが聞こえてくる程度でしかない。

 

「驚いたかしら?」

 

 声の方向にナスレネは視線を向ける。

 そこにはメリエルが微笑みを浮かべ、佇んでいた。

 

「敬語を使わなくて良いわ。素直に疑問をぶつけることを許すので」

「何をしたんじゃ? これはどういう魔法なんじゃ?」

「簡単よ。世界を作った。そして、あなたを取り込んだ。それだけよ」

 

 ナスレネは耳を疑った。

 そんな魔法、聞いたこともない。

 

「とはいえ、これだけでは終わらないわ。もう2つ、見せましょう」

 

 メリエルが指輪を一つ外した。

 瞬間、その存在感は急激に膨れ上がっていく。

 

「あ、あぁ……」

 

 ナスレネは恐怖や感嘆の混ざりあった感情に支配される。 

 ヤルダバオトなど目の前の存在からすれば、単なる手駒に過ぎないことを理解させられる。

 同時に彼女の下腹部がこれまで一度も感じたことがない程に熱くなり、そして疼く。

 

 ナスレネの雌としての本能がメリエルから雄の気配を感じ取り、反応したのだ。

 知らず知らずのうちに、ナスレネは下腹部を4本の手で撫で始めた。

 

「さぁ、ナスレネ。あっちの方をよく見ていて?」

 

 メリエルの言われるがまま、彼女の指し示す方角を向く。

 

隕石落下(メテオフォール)

 

 白い尾を引く何かが遥か天空から落ちてくる。

 それはみるみるうちに地上へと近づき、やがて激突した。

 

 激突した際の振動はナスレネの体を大きく揺らし、転倒しそうになるが、それをメリエルはさっと抱きとめる。

 

「今のは空から大きな岩を落とす魔法よ。威力は言わなくても分かるわね?」

 

 ナスレネの耳元でそうメリエルは囁やけば、ナスレネは体を大きく震わせた。

 

「ナスレネ、あなたは今、人化のアイテムで人間に近い見た目となっているの。私はそのほうが好きだからね」

 

 そう前置きし、メリエルは告げる。

 

「それで、あなたの決断は?」

 

 問いにナスレネは瞬時に行動に移す。

 彼女は2本の腕でメリエルの背中に2本、腰に2本回してしっかりと抱きしめる。

 

「メリエル様、お願いします。私に、メリエル様の子種を……子を孕まさせてください……」

 

 ヤルダバオトのことなどナスレネの頭から消え去っている。

 ただメリエルの子が欲しい、とそれだけだ。

 

 彼女の答えにメリエルはすぐに結論は出さない。

 

「当然、条件があるわ。まずあなたの一族の男、アレはいらないわ」

「殺します!」

「それと私は見ての通り、単体で完成されているの。だから、子ができる確率は極めて低い。そもそも子孫を残す必要がないから」

「どれだけ長い時間がかかっても構いません!」

「あなたの一族の他の女と交わってもいい?」

「勿論です! 我が一族は全て、メリエル様のモノとなります!」

「全員にあなたのような人化のアイテム使ってもいい?」

「構いません! それがメリエル様のご意志ならば!」

 

 メリエルは満足しつつ、ナスレネに告げる。

 

「まずは男以外のあなたの一族と会いにいきましょう。そして、同じように見せる必要があるわ。その後に……ね?」

 

 その意味が分かったナスレネは期待に胸を膨らませ、僅かに頷いた。

 

「ああ、それと紹介しておきたい子達がいるの。あなたも、名前くらいは聞いたことがあるはずよ。つい最近、ペットに加わった人間達なんだけどね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石はメリエル様」

「そう言われても、なんだかなぁ……」

 

 私室にて、メリエルは先程までのことを思い返す。

 

 デミウルゴスのもはや定番となった褒め言葉に素直に喜べないメリエルだ。

 単純に言って、チョロすぎた。

 あまりにもチョロすぎた。

 

 番外席次以上にチョロいやつもいないだろう、と思っていたメリエルだったが、ナスレネとその一族はその上をいった。

 

 謁見の後、ナスレネ、デミウルゴスと共に魔現人(マーギロス)の集落へと赴いて、ナスレネの姿に驚きつつも、デミウルゴスがうまいこと男を除く全ての魔現人(マーギロス)をメリエルの前に集めて、ナスレネにやったことと同じことをした。

 そうしたら、ナスレネと同じ反応をされて、メリエルが命じたら、その場で男達を皆殺しにして、その首を全てメリエルに差し出してきたのだ。

 

 さすがにメリエルも首なんていらなかった為、丁重に埋葬してもらったが、魔現人(マーギロス)の変わり身の速さというか素直さというか、そういうものにメリエルは驚くしかなかった。

 

 面従腹背とかそういう気配などはまるでなく、事前に打ち合わせをしていた形跡などもなく、メリエルが命じた瞬間に躊躇いなく、女と両性具有の魔現人(マーギロス)が男を殺しに移ったことから――中には討ち取った首の数が多ければ多い程寵愛を受けることができると張り切る者もいた――本心でメリエルに忠誠を誓ったということがよく分かった。

 

「面従腹背とか、そういう可能性は……」

「まず、ないでしょう」

 

 念の為にデミウルゴスに確認したが、そういう返事だった。

 

「男を引いて、今は2900人くらいだったかしら? ダークエルフやエルフと同じく、できるだけ数を増やす方向にしていきたい」

 

 人間と比べたらどの種族も圧倒的に少数だ。

 せめて万、できれば数十万には増やしたいと思うメリエル。

 

「では、そのように。魅了(チャーム)などを使用する為に淫魔達を使いたいと思いますが、よろしいでしょうか?」

「牧場とまではいかないけど、各種族ごとに繁殖場みたいなのを作って、そこでアレコレするのもいいかもしれないわ。とはいえ、あくまで私のペット……というには数が多すぎるわね」

 

 クレマンティーヌとかレイナースとかヒルマとかそこらへんの、個人ならばペットというのも通用する。

 さすがに一つの種族を全部ペットと言い張るのはメリエルとしても厳しいものがあると感じる。

 

「エルフと、この間の謁見でダークエルフからも神様扱いされているから、連中は信者ということでいいけど、ナスレネ達は……どう呼称すればいいかしら?」

「家畜が最適かと。その中から気に入った者がいればペットとすれば……」

「そうね、そうしましょう。とりあえず、その3種族は産めよ増やせよね。若返りとか不老不死の薬は使っていいから、どんどんやりなさい。場合によっては性別転換薬のうち、両性具有化薬と女体化薬も。そこらはデミウルゴスに一任するわ」

 

 畏まりました、と一礼するデミウルゴスにメリエルはエルフとダークエルフで思い出す。

 エルフだけでなく、ダークエルフでもメリエルは神様扱いされてしまっているのだが、それはひとえに、力を見せてほしい、とせがまれた為だ。

 

 ダークエルフの女王は当然ながら美しかった為、メリエルはカッコいいところを見せようとはりきってしまった結果だった。

 

「宗教ってどうかしら?」

「素晴らしいお考えです。早速、メリエル様とモモンガ様の宗教を立ち上げましょう」

 

 全肯定してくるデミウルゴスにメリエルはちょっと困りながら、モモンガとの会話を思い出す。

 

 自分はイヤだ、と断固拒否していた彼だ。

 気がついたらできていた、ではさすがに可哀想だろう、とメリエルは思う。

 

「……私は宗教を作ってもいいけど、モモンガは絶対に本人がどうしたいか、と聞きなさいよ? 彼は静かに暮らしたいタイプだから」

 

 善意100%のメリエルの言葉だ。

 デミウルゴスは勿論でございます、とメリエルの問いを肯定する。

 

「いい? ナザリックの為とかそういうことは抜きにして、モモンガという個人がどう思っているか、と問いかけなさいよ? 絶対よ? 彼はナザリックの為なら自分を殺してしまうから」

 

 デミウルゴスの明晰なる頭脳はすぐさまメリエルの言いたいことを掴む。

 

「モモンガ様は、あまりにも我欲が少な過ぎます。もっと欲を出していただけるよう、メリエル様からも……」

 

 ぽつりとこぼれ出たデミウルゴスの言葉。

 

「ええ、知っているわ。ようやく最近、シュークリームにハマっているって言い出したのよ」

 

 デミウルゴスは懐からハンカチを出して、僅かに出てきた涙の雫を拭う。

 

 あまりにも、あまりにも小さな幸せだ。

 もっと、欲を出していただきたい、と。

 

「モモンガが幸せにならなければ、ナザリックは幸せにならないわ。忠誠ではなく、モモンガ個人としての本心はどうなのか、探ってみて」

「畏まりました。必ずや、モモンガ様の幸せを……」

「ええ。ところで、モモンガの嫁探しだけど、私はユリがいいと思うの。それとなく……理解できるわね?」

「はい、勿論です。アルベドや他のプレアデス達と協議し、進めていきます」

「よろしく頼むわ」

 

 メリエルがそう告げると、デミウルゴスは失礼します、と告げて部屋から退室していった。

 

 さて、とメリエルは立ち上がり、寝室へと向かう。

 寝室では新しいペット3人とナスレネが待っているのだ。

 

 ウキウキ気分だった。

 

 

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