彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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御茶会やってたら、戦闘のお誘い

 

 

 一夜明け、メリエルは朝食を食べながら思いついた。

 

 そうだ、御茶会しよう――

 

 

 

 

 

 

「うん、美味しいわね」

 

 右にナーベラル、左にソリュシャン。

 そして対面するのはアルベドとデミウルゴス、そしてシャルティアだ。

 

 メリエル主催の御茶会――といえばのどかなものだが、話す内容は当然ながら物騒なものだった。

 

 

「さて、お茶とお菓子が手元にいったところで、まずは感謝を。忙しいにも拘らずに」

「いいえ、至高の御方であらせられるメリエル様の主催の御茶会となれば……」

 

 アルベドの言葉にメリエルは鷹揚に頷く。

 そして、告げる。

 

「あくまでこれは御茶会だから。正式なものではない……まあ、言うまでもなく分かるでしょうけど」

 

 メリエルは敢えて試すような物言いをした。

 すかさずアルベドとデミウルゴスは心得ているとばかりに僅かに頷くが、シャルティアは小首を傾げている。

 

「シャルティア、メリエル様がここで仰られる言葉は勅命ではない、と言っておられるのよ」

「もう少し、君は言葉を読む力を鍛えた方が良い」

 

 アルベドとデミウルゴスのダブルパンチにシャルティアはしょんぼりとする。

 そんな姿に可愛いなぁ、とメリエルは思いつつも口を開く。

 

「シャルティアの可愛い姿も見られたから、適当につらつら話していくわ……端的に言えば、人間は下等生物であり、取るに足らない存在……というのがナザリックでの共通認識でしょうね」

 

 一同が頷くのを確認し、メリエルは続ける。

 

「しかし、彼らの人数と、そして多様性は極めて厄介。普段は人間同士でいがみ合い、殺しあっているけれど、いざ強大な敵が現れたら一つに纏まって団結し、その多様性からくる脅威の対応力を発揮する」

 

 故に、とメリエルは告げる。

 

「決して、連中を一枚岩にしてはならない。絶えず、いがみ合わせ、争わせる。そうね……我々に友好的な人間の組織を作っても良い。モモンガとて、場合によってはそれを許可するだろう」

 

 メリエルは3人の反応を見ながら、更に続ける。

 

「何も人類全てを敵とする必要性はない。我々に味方する者には寛大を、我々に敵対する者には死を与えれば良いだけの簡単な話よ。早い話が……分断して統治しなさい」

 

 メリエルはそこで言葉を切り、反応を見る。

 

「……そこまでお考えとは……」

 

 アルベドはわなわなと震えながらそう言った。

 

「我々はただどのように効率的に人類を恐怖でもって支配するか、それしか考えておりませんでした。恥ずべき事です」

 

 デミウルゴスは深く頭を下げた。

 2人からすればまさしく頭を思いっきり殴られたかのような衝撃を受けていた。

 人類は非力で矮小な存在――

 ナザリックのNPCに共通している認識で、思考停止していたのだ。

 

「敵を知り己を知れば百戦危うからず。まずは人類とは何か、そこから調べなさい。彼らの歴史を知り、行動・思考を読み解き、対策を考える。そうすればどのようなものか、判断がつくでしょう」

 

 御意に、と答える2人に対し、シャルティアは悩むように、人差し指を口元に当てていた。

 

「あの、メリエル様。なぜ、私を呼ばれたんでありんす? アルベドとデミウルゴスだけで良いのではありんせんか?」

「シャルティアにも人間は厄介って知ってもらいたかったのよ。人間は決して諦めない。どんなに絶望的な状況でも、僅かな希望を胸に抱いて、決して諦めないのよ」

 

 メリエルはそう言って、シャルティアに微笑む。

 シャルティアは慌てて目を逸らしながら、告げる。

 

「わ、わかったでありんす。もし人間と戦う時になったなら、侮らないようにするでありんす」

「それでいいのよ。ところで、何で視線を?」

「し、至高の御方であるメリエル様の微笑みは強すぎるでありんす」

 

 色々な意味で、とシャルティアは心の中で付け足す。

 

「メリエル様は強烈な魅了スキルを有しているのか……?」

「いえ、そのようなスキルは所持されていなかった筈……」

 

 そんな2人の言葉を耳に捉え、メリエルは理解した。

 つまるところ、自分とモモンガは何をやっても、守護者達に過大な程に評価されてしまうらしい。

 

 微笑みなんて向けられた挙句には魅了系の魔法にでも掛かったかのようになっても、不思議ではないかもしれない。

 

 メリエルは小さく溜息を吐く。

 

「美しさって……罪ね」

 

 軽く長い金髪をかきあげてみせる。

 するとシャルティアはとろけたような、恍惚とした顔になる。

 

 面白いわね、コレ。

 あとでモモンガにも教えてあげよう。

 

 メリエルは悩めるギルドマスターへささやかな助言を決意したその時だった。

 

『メリエルさんメリエルさん』

『はいはいモモンガさん。チェックメイトキングツー、こちらホワイトロック。どうぞ』

『ネタ古過ぎませんかね……それ、教えてもらっていなかったら、分かりませんよ』

『いいじゃん。歴史に学ぶのが賢者よ。で?』

『遠隔視の鏡を使っていたら、襲われている村を発見したので、ちょっと行こうかなって』

『マジで!? じゃあ、ちょっと私もいく! この世界に我が軍勢を広めなければ……』

 

 メリエルの脳裏には哀れな異世界の連中を飲み込む、軍勢の姿が浮かび上がる。

 

『いえ、あの、もしかしたら我々よりも強い可能性が……』

『じゃあ尚更、ガチでいかないとね。私のワールドアイテム持って行くから。ブリーシンガメンね』

 

 そう返すなり、メリエルは野暮用ができた、とアルベド達に御茶会の終了を宣言し、自室へと装備を整えに戻った。

 

 

 

 

 

「最悪だ……」

 

 一方モモンガは頭を抱えていた。

 控えていたセバスが何事か、と思わず問いかけるが、何でもないとモモンガは返答する。

 

「……メリエルさん、ガチだなぁ。ヤバイなぁ」

 

 ブリーシンガメン持ち出すとか、ガチの討伐隊と戦ったときくらいだよなぁ――

 

 モモンガはブリーシンガメンの凶悪さをあの時、初めて知った。

 

 ブリーシンガメンはワールドアイテムとして考えれば効果は平凡なものだ。

 精神操作系をはじめとした各種デバフの完全無効化、属性耐性や物理攻撃力等の各種ステータスの大幅な上昇。

 上昇率が他の装備品と比べて恐ろしく高いが、何かしらの特殊な能力を持っているというわけでもない。

 しかし、その装備者がガチビルドのメリエルとなると話が全く変わってくる。

 ステータスの桁が頭がおかしいレベルになるのだ。

 

 

「……抑えとしてアルベドも呼ぶか」

 

 メリエルがやり過ぎる前に、場を収める。

 最悪、アルベドをぶつけて何とか抑える。

 

 モモンガはアルベドに最高の装備を整えてすぐに来い、とメッセージを送る。

 アルベドは驚いたものの、すぐさま御意と返す。

 

 これで一安心、と思った時、モモンガのすぐ傍に転移門が開いた。

 モモンガは門から出てきた人物に深く、深く溜息を吐く。

 

「メリエルさん……本当にガチできたんですか」

 

 メリエルだった。

 彼女はともすればどこかの姫騎士と見紛うような格好だ。

 真っ黒いドレスの上に鎧を纏い、頭にはティアラがあり、首元には黄金の首飾り――ブリーシンガメン、そして、腰に吊るした1本の剣。

 黒いドレスは今まで着ていたお洒落アイテムなどではなく、その身に纏う全てが神器級アイテム。

 

 幸いなことに、サービス終了間際に手に入れたワールドアイテム等は持ってきていないようだ。

 

「ガチで来ないとダメな気がした」

 

 真顔でそう言うメリエルにモモンガはやれやれと肩を竦めてみせる。

 そんな2人のやり取りを間近で見ていたセバスはただ戦慄する。

 

「申し訳ございません、遅れました」

 

 全身鎧姿にハルバードを持ったアルベドが姿を見せたのはその時だった。

 彼女もまたメリエルの装備の数々を見、思わず言葉を失う。

 

「……あー、このメリエルさんのワールドアイテムはメリエルさん個人のものだ。かつて、1ヶ月くらいふらっとワールドアイテム探してくると出かけていかれてな」

「散々に煽られたけど、ワールドアイテム持ってきたらそれを個人所有にしていいって言うから……」

「本当に取ってくるとは誰も思ってませんでした」

 

 さらりとすごい会話がなされる中、セバスとアルベドは改めて、至高の方々は次元の違う領域にあることを悟った。

 

「それじゃ、行きましょ。私が前衛やるから、モモンガは後衛で」

 

 そう言って座標を確認し、転移門を開くメリエルにモモンガは思わず笑い声が溢れる。

 狩りというのはやはり良いものだ、と彼は強く思いながら、告げる。

 

「この世界に我々の名前を知らしめてやりましょう」

 

 

 

 

 そして、一行は転移門にて転移した先では――姉妹が騎士に斬りかかられる寸前だった。

 

 

「ちょっとモモンガ。これは聞いてないわよ」

 

 そう言いながらも、身体は動く。

 メリエルはすかさずに剣を抜き放ち、流れるような動作で騎士の剣を受けようとし――

 

「……嘘ぉ?」

 

 間の抜けた声がメリエルから出た。

 一番早くに冷静になったのはモモンガだった。

 

「まさか、剣を受けることもできないとは……もしかして弱いのか?」

 

 端的に言って、騎士の剣を受けようと刀身を合わせたところ、そのまま勢い余って剣の刀身ごと騎士の身体を切断してしまったのだ。

 目の前には勢い良く切断面から鮮血が噴き出る騎士の上半身と下半身。

 

 やられた方も理解できないらしく、呆然とした表情で死んでいた。

 

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

 スキル:ビューイングでもって、メリエルは呆然としている後続の騎士のレベルを探る。

 基本的に自分よりも下位レベルであれば細かなステータスまで、同格ならばレベルのみが分かる、使えるようで微妙に使えないスキルだったりする。

 

『モモンガ。これは勝ったわ』

『はい?』

『レベル、一桁だわ。ステータスもレベル相応、武器も見た目のままの性能しかない』

『……マジですか?』

『マジよ。後続も私が食っていい?』

『あ、どうぞ』

 

 モモンガの了承をもらい、メリエルはにっこりと笑顔を騎士に向ける。

 

「さぁて、どうやって殺そうか? 剣を使うのはもったいない。ここは一つ、魔法でも使いましょうか」

 

 そう声を掛けられて、騎士は震える手で剣を握り、刃先をメリエルへと向ける。

 

「はい、それじゃ、さようなら」

 

 ファイヤーボールと唱えれば、たちまちのうちに騎士の身体を炎が包み込んだ。

 

「で、第一村人と第二村人発見よ」

「うむ……どうしよう……」

「モモンガの顔が怖いって怯えられるに一票」

 

 あ、しまった、とモモンガは顔を手で抑える。

 

「じゃあ、ここは私に任せなさい。とりあえず私のハーレムに……」

「自重しろ変態」

「黙れ骸骨。神聖魔法で浄化するぞ」

 

 うーうー、といがみ合うが、やがてどちらからともなくやれやれと溜息を吐く。

 

「で、本当にどうします?」

「とりあえず、助ける感じでいいんじゃないの。適当な防御魔法張っておけば大丈夫でしょ」

「そうですね。ついでに、アンデッド作成実験もしちゃいます」

 

 そんな感じでポンポンと決まり、アインズが騎士の死体からデスナイトを作成する傍ら、メリエルは姉妹に防御魔法を使ってやる。

 2人共、人間を死体としたことに対して特に何も感じなかったが、それを半ば無意識的に当然のものとして受け止めていた。

 

 そうだろうな、と。

 

 

 また、モモンガがデスナイトに騎士を殺せと命じると、主人であるモモンガの元を離れて敵を求めて駈け出してしまう、というハプニングがあったが、大きな問題は特になかった。

 


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