彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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モモンガさん、仕事をする

 

 時間は遡る。

 まだメリエルがラキュース達を手に入れようと芝居を打っている頃だ。

 

 モモンガはニグレドにより、ドワーフの砦と思われるものを発見し、ニグレドから座標を貰って赴いていた。

 

 

 モモンガは一人ではない。

 シャルティア、マーレ、アウラ、守護者を合計3人引き連れ、更には戦闘メイドのユリとエントマもいた。

 

 ひとえにそれはドワーフというものがどういう存在か不明であり、また現地にどんな敵が存在するか分からない為だ。

 

 モモンガが想定する最悪の予想ではアゼルリシア山脈自体が巨大なドラゴンであり、いわゆるワールドエネミーで、プレイヤーの存在を察知した瞬間に正体を現して、襲いかかってくるというものだったりする。

 

 さすがにそれはないだろう、とモモンガも頭の隅に追いやったが、ともあれ未知の場所へ赴くのに、用心するに越したことはない。

 

 子供が多い為、何だか遠足に行くような気がするが、戦闘力や索敵などを考慮した結果、偶然そうなってしまったのだ。

 

 戦闘力最強の守護者、シャルティア。

 地下に潜ることから、万が一のときは魔法で敵を生き埋めにしたり、転移阻害への対策として物理的に外への脱出口を開ける役割のマーレ。

 そして、魔獣を駆使し、索敵に優れるアウラ。

 

 戦闘メイドに関しても同様で、現地での戦闘と索敵を考慮したものだ。

 

 ユリではなく、暇をしているルプスレギナでも良かったのだが何となく、モモンガは連れていってもいいかな、と思ったというのもある。

 

 

 メリエルさんがユリがおすすめとか言うから、変に意識しちゃうんだよ、まったく――

 

 

 モモンガは内心溜息を吐きながらも、練習に練習を重ねた支配者としてのロールプレイを崩すことはない。

 そこに加えて、ヒルマ執筆メリエル監修の「童貞でもできる女との受け答え」というハウツー本。

 

 渡してきたときはお前ら何やってんの、とモモンガは呆れ返ったが、その内容は具体的であり、かつ、妙に生々しく、分かりやすいものだった。

 

 これで変な質問が飛んできても何とかなるとモモンガは熟読したのだ。

 

 そう例えばまさに今、目の前で誰がモモンガ様の正妻に相応しいか論争が巻き起こっているときなどに。

 

 私だ、あたしだ、ぼ、僕です、とわいわいと騒いでおり、モモンガは保育園や幼稚園の引率の先生の気持ちが少しだけ分かった。

 

 さらりとマーレが立候補しているあたり、モモンガは「やはりペロロンチーノの姉か!」と叫びたくなるが、ぐっと堪える。

 

「待て待て。私の気持ちはどこにいった?」

 

 なるべく優しくモモンガが問いかけると、シャルティア達は一気に沈黙した。

 3人とも震えており、今にも泣き出しそうだ。

 

 モモンガのこれまでの経験からすると、至高の御方の気持ちを無視してしまった、シモベ失格、死んで詫びよう、とそこまで3人は考えていると予測する。

 

「大丈夫だ、別に怒ってはいないよ」

「お、畏れながら、モモンガ様。わ、私達にモモンガ様の好みの女性をお教えいただければ……」

 

 恐る恐るシャルティアが問いかけてきた。

 守護者からこういった質問が出るのは初めてだった。

 

 3人とも真剣な顔であり、モモンガは念の為にユリとエントマの方にも視線を向けてみれば、やはりというか忠実なメイドとしての表情を貫いているが、微妙にそわそわしているのが見て取れた。

 

 嘘をつくのは良くないし、変に曲解されるのも困る。

 

 モモンガはそう考え、素直に告げる。

 

「私の、支配者としてのモモンガではなく、ただのモモンガとして見てくれる女性が好みだな。ここだけの話ではあるが、支配者は支配者で、色々と大変なのだ。そういった悩みを聞いてくれたりとか……有り体にいえば、内面を見てくれる女性だ」

 

 巨乳とかは言わないほうが良さそうだ、とモモンガの勘が言っていたので、言わなかったが、それはどうやら正解のようだった。

 

 シャルティア達は各々、何やら考えているようで――

 

 ちらりと視線をユリとエントマに向ければ、2人も何やら考えているようだった。

 

「み、身分などは……? あと、性別とか……」

 

 マーレが問いかけてきた。

 

「身分は気にしないな。私が好みだと思えばそれこそ、そこらにいる浮浪者の女や亜人でも、私は愛を囁くだろう。性別は……すまん、さすがに女に限定してくれ」

「そ、そうですか……」

 

 マーレのもともと垂れていた耳が更に垂れたような気がした。

 

 え、マーレってそっちの趣味なんですか、教えてください茶釜さん――

 

 モモンガは心の中で問いかけたが、勿論答えなどない。

 その為、状況証拠から推測するしかないが、やはりというか、そういうこと――男が好き――なのではないか、という答えしか出てこない。

 

 これはまずい。

 いくらなんでも茶釜さんはマーレに与えた業が深すぎる。

 

 そのとき、モモンガの脳裏に電撃が走る。

 脳など存在しないが、ともあれ、彼はピンときたのだ。

 

 マーレを矯正する良い方法を。

 

 そう、この手のことはメリエルに丸投げするに限る。

 ドワーフの案件が片付いたら、協議しよう。

 

 とはいえ、情報収集は最低限の責務だろう。

 

「あー、マーレ。率直に聞くが……男が好きなのか?」

「え、えとその、も、モモンガ様なら……」

 

 つまりはあれか、俺限定ってことかコンチクショウ――!

 

 

 モモンガは頭を抱えて転げ回りたくなったが、精神の沈静化によって何とか収まった。

 

「そういえば、マーレ。私が小耳に挟んだ話でありんすが、デミウルゴスがメリエル様の夫について、悩んでいるらしいでありんすよ」

「メリエル様の夫はモモンガ様じゃないの?」

 

 アウラの問いにモモンガは甚大な精神的ダメージを受けて、よろけそうになった。

 

 やっぱり守護者達からは俺とメリエルさんはくっつくって思われているんだ。

 やめてくれ、俺も死ぬしあっちも死ぬ。

 ついでに世界も巻き添えにする。

 

 精神沈静化が数回働いて、ようやく落ち着いたモモンガは告げる。

 

「あー、そのだな、これははっきりと言っておくが……私がメリエルさんとくっつくことは世界が崩壊してもありえないぞ。だから、メリエルさんの夫の座は空席のままだ。マーレが良ければ、狙ってみてもいいのではないかな?」

「い、いいんですか? ぼ、僕がメリエル様と……」

 

 恥ずかしそうに顔を俯かせて、もじもじするその姿はまさしく女の子にしか見えない。

 だが、男の子なのである。

 

 茶釜ァ! お前ってやつは……お前ってやつはぁ!

 

 モモンガは心で泣いた。

 マーレが背負った業の深さに。

 

「夫は確かにあたしやシャルティアじゃなれないからなぁ……」

「マーレ、よく覚えておきなんし。メリエル様の好みの範囲に、マーレはピッタリと収まっているでありんす」

「ほ、ほんと? 僕が、メリエル様の……」

 

 なんかアブナイ気配を感じたので、モモンガは咳払いをわざとらしくして、話を戻す。

 

「と、ともあれ、これより砦に接近する。守護者達よ、戦闘メイド(プレアデス)達よ、抜かりなく、十分に注意せよ。ただし、向こうが攻撃してこない限り、決して攻撃をしてはならないぞ」

 

 先が思いやられる、とモモンガは溜息を吐きたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、モモンガの予想を裏切り、驚く程にスムーズにドワーフと交流を持つことに成功した。

 砦に近づいて、アウラに任せてみたら、思いの外、良い具合に名乗りを上げてくれたのだ。

 

 その砦は普段は無人であったが、定期的にドワーフ達が見回りを兼ねて点検・補修を行う時期であったのが幸いした。

 砦にはドワーフ達が一時的に滞在しており、彼らが名乗りに応じてくれたのだ。

 

 まだ正式に建国はしていないが、魔導国の魔導王とアウラが砦に対して告げたときは、モモンガに精神沈静化が発生したが、些細なことだ。

 

 アンデッドということで忌避されるというお決まりの反応があったものの、予定通りであった為、その対策はしてあった。

 

 支配者ロールに徹し、更に事前の打ち合わせ通りにアウラとマーレが良い具合にモモンガが普通のアンデッドではないと証言した為だ。

 

「第一関門はクリアだけど、先が本当に思いやられるな……」

 

 これからの偉い人達との交渉だ。

 

 ルーン技術及びそれに関連する機材や人員を入手すること。

 ドワーフの国との通商条約を結ぶこと。

 

 

 前者はともかく、後者は不安しかない。

 政治的な話をできるような経験も知識もない。

 

 無論、ナザリックの図書館にあったそれらしい本は読み漁っていたが、実際のやり取りは全く違ったものになるだろうことは想像に難くない。

 

 

 

 デミウルゴスを使いたい、すごく使いたい――

 もしくは早く来てくれメリエルさん―― 

 

 無いはずの胃がきりきり痛むような錯覚をモモンガは覚えた。

 

 しかし、モモンガの願いも虚しく、2週間近く、デミウルゴスもメリエルも動けないという返事が来た時、モモンガは吹っ切れた。

 

 最後の切り札を、彼は使ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガ様、まずは情報収集からです!」

「ああ、そうだな……」

「ドワーフはおそらく酒が好物。ですので、良い酒を渡しましょう!」

「ああ、そうか……」

 

 ナザリックの宝物殿から、適当に擬態させて、パンドラズ・アクターを引っ張ってきたのだ。

 モモンガの精神がガリガリと削られ、精神沈静化が幾度となく発動しているが、モモンガは堪えた。

 

 俺は大丈夫だ、なぜなら俺は“強い”からだ……!

 

 わけのわからない思考と言葉を発しながらも、モモンガはパンドラズ・アクターに助言されるがままに動いた。

 

 ドワーフ達の都市、フェオ・ジュラに滞在しつつ、手分けしてドワーフ達の情報を集める。

 シャルティアはこういった任務には向かない為、モモンガの護衛として傍に置いていた。

 

 そこでアウラとシャルティアで一悶着あったが、モモンガからすると喧嘩というより単なるじゃれ合いに見えた。

 

 ユリとエントマはフェオ・ジュラにおいての拠点の建築と警備を命じた。

 拠点として適当な屋敷の購入を考えたのだが、売りに出されているのは当然ながら全てドワーフ用で、天井が著しく低かった。

 その為、2人に派手過ぎず、地味過ぎず、ドワーフの都市にマッチした屋敷の建築を命じたのだ。

 

 拠点の建築完了まで、夜になるとモモンガはナザリックに帰って休むか、あるいは仕事を終えたドワーフ達で溢れる酒場に情報収集に赴いた。

 

 摂政達から会談について、中々色良い返事は貰えなかったが、モモンガは厄介なことは未来の自分に丸投げしようの精神――要するに先送り――でドワーフの市民達との交流を深めた。

 

 それが功を奏したのか、ルーンに関しては大いに捗った。

 

 ゴンドというドワーフを仲介として、ルーン工匠達と交流を持つことに成功したのだ。

 酒と共にユグドラシルにあった装飾としてのルーンが刻まれた武具を示すことで、ルーンの可能性について語り合う。

 

 とはいえ、モモンガは語れるような知識など持っていないので、もっぱらパンドラズ・アクターに喋らせて、モモンガはその隣で時折、口を挟むくらいしかやっていない。

 パンドラズ・アクターのルーンに対する食いつき具合は凄まじく、その反応は設定的に不思議ではないが、いざ実際に見るとなるとモモンガはドン引きだった。

 

 そのような具合で、モモンガはドワーフ達が抱えている問題、ルーン工匠達が抱えている問題、その両方を特定することに成功した。

 

 クアゴアという敵とその支配者たるフロスト・ドラゴン。

 ルーンという先細りしていくしかない技術。

 

 前者はすぐにでも解決できる。

 後者に関しても支援をすれば発展する可能性は大いにある。

 

 故に、モモンガの取るべき行動は王都奪還及び他の放棄や廃棄された都市の復興支援。

 

 そうすれば摂政達は首を縦に振らざるを得ないだろう。

 

 モモンガはそう考えた。

 

 メリエルさんが来たら、一気に攻勢を掛けて、電撃的に全ての都市を制圧しよう。

 

 久しぶりにメリエルと共に戦うことができるとモモンガは楽しみで仕方がなく、メリエルの到着を持って行動が開始できるよう、パンドラズ・アクターと協議して、準備を進めた。

 

 

 

 

 

 モモンガがクアゴア及びフロスト・ドラゴン達に対する一大攻勢に向けて準備を進めている頃――

 

 フェオ・ジュラの摂政会議場では今日も今日とて、8人のドワーフ達が集まっていた。

 

「例のアンデッド。ありゃ例外じゃ」

「そうじゃな。あれは良いアンデッドじゃ。見た目は怖いけど」

 

 話題は勿論、モモンガのことだ。

 

「市民に紛れて酒場に行ったら、酒を奢ってもらった上に、土産だと酒までくれた」

「あの酒は絶品。まさに至高の代物じゃ」

「そうじゃ、そうじゃ。しかもそれを来た時から普通に振る舞っているそうじゃ」

「もっと早くに接触しておくべきじゃった」

 

 彼らは後悔しつつも、実態を見る為に必要な2週間だったとする。

 すぐに会談の返事をしなかったのはひとえに、どのような輩か、見極めるというものもあった。

 

 モモンガがやってきてからの2週間、彼らは連日会議を開いて、モモンガに関する情報を集め続けた。

 実際に市民に紛れて接触し、会話もした。

 

 その結果は白と言って良いものだった。

 

 モモンガは敵対的どころか、極めて友好的だ。

  

「ルーン技術が欲しい、儂らと貿易をしたいと言っておった。酒場の席だが、それは来た時から言っていたようじゃな」

「大勢の常連客達が証人じゃ。信頼できるじゃろう」

「ではどうじゃ? そろそろ接触してみるか?」

 

 異議なし、という声が7つ――すなわち、提案した者以外の全員から出た。

 勿論、提案者も賛成な為、満場一致だ。

 

「よし、早速、明日にでも会談するとしよう。使者と書簡の用意じゃ!」

 

 

 

 

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