彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話 作:やがみ0821
「あぁ~、御方々の戦い、あぁ~」
シャルティアは丸テーブルに横顔をつけて、そう呟きながらへらへら笑っていた。
ここはナザリックの第六階層、そこの階層守護者であるアウラとマーレの住居であったのだが、最近、シャルティアはここに入り浸りであった。
「シャルティア、だらしないよ。まあ、気持ちは分かるけど」
アウラはソファに座って足をぶらぶらさせながら、そんなシャルティアに声を掛ける。
その横ではマーレが俯いて、えへへ、と笑っていた。
「メリエル様……かっこよくて、綺麗だった」
ドワーフの国での仕事を終えて、帰ってきてからマーレとシャルティアの2人はこんな調子だった。
2人程ではないが、アウラもどうにも夢見心地が抜けなかった。
脳裏に今でも鮮明に焼き付くメリエルとモモンガの共闘。
それはまさに神々の共闘であり、ナザリックのシモベにとって、天にも昇る心地だった。
戦闘メイドであるユリとエントマも、仕事に支障はない程度にこのようなことになっているとアウラはルプスレギナから聞いていた。
私も見たかったっすー!
そんな風に全力で地団駄を踏むルプスレギナが記憶にあったが、誰も彼も、ナザリックのシモベであれば同じだろう。
とはいえ、パンドラズ・アクターが気を利かせて、大量のスクロールで映像に残し、それを図書館に寄贈していた為、図書館ではちょっとした騒ぎになったと聞いている。
もっとも、一番重傷なのは弟のマーレであるとアウラは断言できる。
モモンガとメリエルがくっつくものだとばかりに思っていたアウラ達、しかし、それはモモンガ本人から否定された。
そして、モモンガ本人から言われたのだ。
メリエルの夫の座、マーレが狙っても良い、と。
「お、お姉ちゃん、メリエル様って、僕のこと、好きかな……?」
アウラはシャルティアに視線を向けた。
「良いでありんすねぇ……私も男に……いやでも私はモモンガ様が……ああ、なんて罪な御二人……」
シャルティアもアテにならなかった。
「メリエル様に聞くしかないよ」
「そ、そんなこと、できないよぉ……」
恥ずかしさから顔を真っ赤にするマーレ。
アウラとしてはマーレを全力で応援したい。
とはいえ、色恋沙汰――ましてや、至高の御方であるメリエルの気持ちなんてアウラには推し測ることすらできない。
「そういえば、メリエル様のペットにヒルマという元娼婦がいたでありんすよ」
ぐでーっとしながら、シャルティアがそう言った。
「意外と、そういう輩に聞いたほうが早いかもしれないでありんすねぇ」
「よ、呼び出しが……」
「
「そ、そうだね。あ、ありがとう!」
マーレは部屋を飛び出していった。
「恋でありんすねぇ」
「恋だよねぇ」
「ということは、おチビはメリエル様にとって義姉ということになるでありんすね」
「畏れ多いから無理無理。で、シャルティアはどうするの?」
「私は……御二人の妃は無理でも、側室ということで良いでありんす」
意外な言葉にアウラは首を傾げる。
「何で?」
「確実になれそうでありんすから」
「腹黒いなぁ」
「何とでも言いなんし。それで、おチビはどうするでありんすか?」
「あたし? あたしはまあ、うーん……分かんない」
今度はシャルティアが笑う。
「さすがはおチビ。色恋はまだ早かったようでありんすねぇ」
「シャルティアみたいに永遠におチビじゃないから、安心して」
「おいこら何て言った?」
「そっちが先に喧嘩売ってきたじゃないの。沸点が低いんだからもう」
そう言われるとシャルティアとしても怒りを収めざるを得ない。
「そういえばだけど、デミウルゴスが牧場を作ったみたい」
「あぁ、人間とか亜人とか、色々かき集めていたみたいでありんすね」
「あたしもこの間、トブの大森林で魔獣とか色々集めるのに協力したのよ。そのときに、大きな樹木のモンスターを見つけたよ。今度、メリエル様が討伐するんだって」
「ふーん……」
シャルティアは不満げだ。
自分のところに仕事が回ってこなかったが為に。
「聞いた話なんだけど、メリエル様専用の愛玩動物も集めているみたい」
「ペット養成所といったところでありんしょうか?」
「みたいだね。雌同士で色んな薬を使って繁殖させるんだって。性別転換薬とか色々」
「メリエル様は種族を問わない博愛主義でありんすからねぇ……」
「なんか、王族がメリエル様専用のところに入ったんだって。血筋を絶やすのは良くないってデミウルゴスが言ってた。メリエル様も賛成したみたい」
シャルティアは王族と聞いて、頭に出てきたのは王国くらいしかない。
ラナーとかいう3番目はデミウルゴスが評価していたでありんすから、1番目と2番目が入ったんでありんすかねぇ――
「メリエル様の許可がもらえるなら、私も現地視察したいんす」
「何が楽しいのかあたしには分からないけど……」
「おチビはおチビでありんすから、大人の楽しみが分からないでありんすねぇ」
「なんでそこで勝ち誇るかなぁ……」
妙に勝ち誇った顔のシャルティアにアウラはとりあえず、胸について反撃することに決めたのだった。
ヒルマ・シュグネウスは元高級娼婦というプロとしてのプライドと拘り、更に女としてメリエルを落とす――のは無理そうなので、今の立場を永遠に確保し続けたいという狙いがあった。
当初は落とそうという気概であったのだが、あまりにも物理的な意味で、危険な敵が多すぎた為に断念している。
もっとも、アプローチは欠かしていないのだが。
そんな彼女はペットという立ち位置だが、その生活は王族と比較しても自分のほうが良い生活をしていると断言できる。
何よりも彼女は寿命と老いを心配する必要がない。
ヒルマからすればまさにメリエルには感謝してもしきれない程に多大な恩がある。
だからこそ、メリエルの嗜好にあった衣類や化粧、そしてベッドの上でのプレイなども常に研究している。
少しでもメリエルに喜んで、楽しんで、気持ち良くなってもらう為に。
とはいえ、メリエルが直接にこういうのをやってみたい、と要望を言ってくれる為、ヒルマとしては非常に助かっている。
更にはメリエルが麻薬売買を続けても良いと言ってくれたことも、ヒルマにとっては有難かった。
メリエルからは金塊を身請け代金として、以前に見せてもらった分を全て貰っているが、保管場所に困るので所有名義はヒルマだが、保管者はメリエルのままだ。
保管場所も、ナザリック内の適当に空いている場所に移っており、ヒルマはいつでもそこに立ち入ることができるようになっている。
ヒルマが麻薬売買をする必要はもうないのだが、それでも人脈の維持と拡大の為にやっている。
それがメリエルの役に立てば、ヒルマとしても幸いだ。
そんな彼女は現在、自室のクローゼットで衣類をにらめっこをしていた。
彼女の部屋はメリエルの居住区の中にある。
居住区という表現をしてしまえる程度にはメリエルのプライベートなスペースは広く、また部屋数も多かった。
ロイヤルスイートにある客室でも良かったのだが、知らない間にシモベが食い殺していたという悲劇を避ける為にヒルマをはじめとした、メリエルのペット達は基本的にメリエルの居住区内に自分の部屋を持っていた。
さて、彼女が多数の衣類とにらめっこしている理由は簡単で、メリエルと会うとき、どんな格好をするか、ということで悩んでいた。
「難しい」
ヒルマの口から思わず溢れた言葉。
「メリエル様は清楚も痴女も何でもいけるクチだけど、だからこそ難しい」
ヒルマはメリエルの性癖を把握している。
メリエルは何でもいけるタイプなのだ。
選り好みをしない、と言えるが、悪く言えば節操がない。
衣装などはもとより、プレイの内容も非常に幅広いので、十分に立派な変態といえるだろう。
もちろん、それは女に対する好みも同じであり、節操がない。
ヒルマとしてはメリエルがどれだけペットが増えようが構わない。
構ってくれる時間が減ることが不満といえば不満だが、権力者が何人も女を囲うのは当然のこと。
高級娼婦であったヒルマだからこそ分かるのであるが、権力者にとってどれだけの女を囲っているかは一種のステータスでもある。
単純に言って、性的な奉仕を女の側がするだけでは終わらない。
囲っている女の私生活から欲しがるものまで、全て囲う側が面倒をみる――すなわち、養うのだ。
特にヒルマのような高級娼婦ともなると、1人でも湯水のようにカネが掛かる。
高級娼婦にとって、どれだけのカネを自分に対して使わせたかというのが自分の価値に直結している。
高級娼婦における自慢話というのは何人の男を破産させたか、どれだけ貢がせたか、というものなのだ。
ヒルマにとって、メリエルというのはこれまで、そしてこれから先を考えても、自分に対してもっとも価値をつけてくれた存在である。
以前、彼女が手土産に渡している高級娼婦達にもメリエルは不老不死の薬を与え、希望する者には若返り薬も与えた上に、生活に一切の不自由をさせていない。
率直に言えば、彼女達もまたヒルマの近くの部屋にそれぞれ個室を与えられて住んでおり、ちょくちょくメリエルとベッドを共にしている。
勿論、彼女達もメリエルの為に常日頃の研究はヒルマと同じく欠かしていない。
価値をつけてくれるからこそ、心から尽くそうという気にもなる。
だからこそ、ヒルマ達はメリエルに対して従順であり、かつ積極的だ。
そして、不老不死になったからといって、メリエルの気を引く為に女としての美しさを磨くことは一切怠っていない。
「最近だと清楚が流行だったわね」
他の娼婦達との会話で出たのが最近、メリエルは清楚系にのめり込んでいるらしいというもの。
「となると、やっぱり姫や貴族の令嬢といったところかしら……」
呟きながら、ある考えが頭を過ぎる。
王国が荒れそうだし、繋がりのある子、全員メリエル様に身請けしてもらおうかしら――?
高級娼婦だけでなく、単なる娼婦として働いている者もヒルマの交友関係には多い。
さすがに殺されるのは寝覚めが悪い為、ヒルマは提案してみようと思う。
とはいえ、さすがにそこまでの大勢の人数を受け入れるとさすがに手狭なので、別途、専用の屋敷なり何なりを立ててもらう必要があるが、メリエルなら拒まれることはなさそうだ。
ヒルマの脳裏に子供の声が響いたのは、そんなときだった。
『あ、あの、えっと、ま、マーレですけど』
驚きのあまりヒルマはビクッと体を震わせた。
しかし、彼女も伊達に裏世界を生きていない。
すぐに気を落ち着けると、頭に響く声に答える。
『確か、守護者の……?』
『は、はい。第六階層守護者のマーレです。えっと、その、ヒルマさんに相談が、ありまして』
はて、とヒルマは首を傾げた。
自分なんぞ歯牙にもかけない程に強大な階層守護者。
そんな存在から相談をもちかけられるなど、さすがにヒルマも未知の体験だ。
『ちょ、直接、会って、話してもいいですか?』
『ええ、構わないわ。今、どこに?』
『め、メリエル様のお部屋の前に……』
『迎えに行くから、待っていて』
『は、はい』
ヒルマはクローゼットの扉を閉めた。
どんな相談か、さっぱり分からないが、わざわざ自分を頼ってきたということは大雑把に方向性は分かる。
「性的なことか、あるいは恋愛相談ってところかしらね……」
そういやメリエル様、以前、コッコドールのところで見た目は完全に女っていう男の子を購入していたわね、とヒルマは何となく思い出した。
マーレをヒルマは迎えに行き、自身の部屋へと招き入れた。
そして、彼をソファに座らせて、ヒルマもまた対面のソファに座る。
「それで、相談って?」
ヒルマの問いにマーレは顔を俯かせ、体を小刻みに震わせている。
その様子は女の子そのものだ。
彼の創造主も業が深いことをするものね――
素直に男の子にするか、あるいは女の子にしてあげればよかったのに、とヒルマは思いつつ、マーレのような男の子に対しては興味がないといえば嘘になる。
妙な背徳感を覚える為だ。
ヒルマがそんなことを思いつつ、マーレを眺めていると彼は意を決したかのように顔を上げた。
左右で色の違う瞳はまっすぐにヒルマを見据えている。
「そ、そのっ! ぼ、僕、メリエル様のお、夫になりたいんですっ!」
顔を真っ赤にしながら、マーレはそう言った。
「……はい?」
ヒルマは理解できなかった。
「え、えっと、その、夫、です……も、モモンガ様が、夫になってもいいって……」
「ちょっと待ってね……」
ヒルマはコメカミのあたりを押さえつつ、状況を整理する。
「モモンガ様があなたに許可を与えたのかしら?」
「え、えっと、こ、この前のドワーフの国に行った時、モモンガ様はメリエル様の夫にはならないから……ぼ、僕に夫の座を狙ってもいいって……」
これはちょっと自分の手には負えない――
ヒルマはすぐさま両手を挙げたくなった。
とはいえ、命令で夫になるのと、好きで夫になるのでは違うということだけは教えておかねばならないだろう、と考えた。
「あなたはメリエル様のことが好き?」
ぼんっという音がしそうなぐらいにマーレの顔が先程よりも真っ赤に染まる。
その様子に、実年齢は分からないが、恋を知らない子供であるとヒルマは仮定して、話を進める。
「夫になるっていうのは好きなだけじゃダメで……勘違いのないように伝えると、メリエル様にあなたの子供を産んで欲しいかどうかっていうところなのだけど……」
あわわわ、と両手で頬を押さえるマーレ。
「あと、そうね、メリエル様を性的な意味で満足させることができるかどうかも重要ね」
「せ、性的な意味で……!」
「……もうちょっと色々考えてからでもいいんじゃないかしら?」
ヒルマの問いにマーレはコクコクと何度も頷いた。
「珍しいお客様だったわね」
ヒルマがマーレを居住区の出入り口まで見送ると、ソリュシャンが後ろから声を掛けてきていた。
彼女ともそれなりに長い付き合いだ。
「ええ。強さとかはともかく、そっち方面では見た目通りだったわ」
「メリエル様の夫、これは荒れるわよ。アルベド様が全力で阻止するだろうから」
ヒルマはソリュシャンの言葉に肯定を示しながらも、告げる。
「まあ、でも、メリエル様が彼を欲しいって言ったら、それで終わりね。あなたも、知っているでしょう? メリエル様はああいった男の子ならイケるクチだって」
「知っているわよ。購入した奴隷にいたし、その奴隷で楽しんでいらっしゃったのだから」
「処女は?」
「奴隷相手に喪失していたら、大騒ぎだわ。主にアルベド様が」
「ただでさえ、処女には価値がある。それがメリエル様ともなれば、その価値は天井知らずってわけね」
ヒルマの言葉にソリュシャンは腕を組みながら、軽く頷く。
そんな彼女にヒルマは告げる。
「あなたも知っているだろうけど、メリエル様は色を好むから、望んでいるなら、早いとこ男を教えてあげないと面倒なことになるわよ? こじらせると大変だから」
「ご忠告、痛み入るわ……というか、ペットであるあなたから言ってみたらどう? 私はただのメイドに過ぎないから」
「まあ、後で言っておくわ。今日はカルネ村に?」
「ええ。戻られるのは夕方くらいではないかしら……」
ヒルマは頷きながら、問いかける。
「何で今更? 早い時期からそれなりに交流はあったのでしょう?」
「メリエル様が仰られるには、将来への布石なんですって」
何やら色々と思惑がありそうだ、とヒルマは思いながら、とりあえず自室に戻って衣装選びを再開することにした。