彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話 作:やがみ0821
「疲れた」
「お疲れ様でした」
机に突っ伏したメリエルに対し、モモンガはそう声を掛けた。
聖王国での最大の茶番劇は1週間前に幕を閉じた。
今、聖王国は復興の段階に入っており、陰に日向にと魔導国は聖王国に対する影響力を高めるべく、動いていた。
王国のようにメリエルが陣頭指揮を執ることはなかった。
あくまで聖王国は属国という立ち位置に収まる為だ。
無論、インフラやその他諸々に関しても魔導国領土と同等に仕上げるつもりではあるが、そこまで急ぐものではなかった。
直轄の領土なら早急に発展させるが、属国ならそこまで急がなくても良いだろう、というのがメリエルの思いだ。
「どうしますか? 竜王国は私が代わっても良いですが」
「竜王国は一瞬で終わらせるから平気よ」
女王と会談し、ビーストマンを潰す代わりに同盟の締結と復興の支援を受け入れてもらえれば終わりだ。
無論、メリエルの個人的な趣味として、女王を手に入れることも彼女の目標にはあった。
デミウルゴスによれば、幼女と大人のどちらにも自力でなることができるので、メリエルとしては是非とも手に入れたい存在だった。
もっとも事前に準備は整っている。
聖王国でヤルダバオトの役目が終わって、若干の休憩を挟んだ後、デミウルゴスを担当者として竜王国に派遣してあった。
彼からの報告ではビーストマンをどうにかしてくれたら、何でもすると宰相が言ってきたとのことだ。
「で、バカップルの片割れさん」
「それは酷すぎませんか?」
「事実じゃないの」
ばっさりとメリエルに言われたモモンガはしょんぼりとする。
肩を落とす支配者の姿はメリエルの笑いを誘うのに十分だった。
「知りたい?」
問いにモモンガは顔を上げる。
イタズラを思いついた、子供のような笑みのメリエルがいた。
「私がリアルで何をしていたか。アルベド達にはもう話してあるんだけど」
モモンガは溜息を吐いた。
そう言われたならば、聞かないわけにはいかない。
「企業の偉い人って前、聞いた記憶がありますが?」
「大雑把にはね。さて、モモンガさんに突然ですが問題です。これはですね、正解すると100万点の問題ですよ」
なんだその前振り、とモモンガは呆れ返る。
「とある世界的な複合企業で、内務統括委員会の代表」
モモンガは固まった。
精神の沈静化が数回に渡って発動し、ようやくに言葉を紡ぐことに成功する。
「その委員会がある企業って、1つしかないんですが、本当ですか? っていうか、リアルの名前と容姿、分かっちゃったんですが……あんな温厚そうなのに、その仕事に?」
「あら、知ってたの? まあ、新聞やテレビにも出たことあるし、ネットで色々と書かれていたから仕方ないか」
けらけら笑うメリエル。
しかし、モモンガとしてはメリエルがここで嘘を言う理由が存在しないことから、やっぱり本当なんだ、という衝撃に再度、沈静化が働く。
「しかし、何でそれを?」
「ラナーに仮面を取れって言われたから、その場を誤魔化す為に、リアルのことを話すしかなかった」
モモンガは「あー……」と何とも言えない声を出す。
仕方がない状況とはいえるが、出てきたものはリアルを知るモモンガにとっては衝撃的過ぎた。
「あの、よくある不審な死とか事故とかそういうの、あったじゃないですか……それって」
「私の部下がやってる仕事ね」
「やっぱりガチのやばい人だったー!」
モモンガは絶望した。
あのギルドの問題児が、リアルでもガチでヤバイ人だったことに。
「まあ、そういう仕事もあるけど、本来の仕事は企業内の統治とかそういうのね。命のやり取りなんて、あんまり起きないわ。いわゆる単なる事務屋」
「単なる事務屋が色々とネットで悪口書かれませんよ……」
「今じゃもう、あなたは私を超えるくらいにヤバイ人に認定されるから大丈夫」
「うわー、全然嬉しくないぞー」
モモンガは机に突っ伏した。
「で、私をどうする? リアルでの詳しい罪状を知るのはあなたくらいだけど」
メリエルの問いかけにモモンガは机から顔を離して告げる。
「今のあなたはもうメリエルでしょう? それにリアルよりももっとヤバイこと、やっているじゃないですか。俺もそうですけど」
「……そういや今更だったわね」
「ええ、今更です。むしろ、メリエルさんのことを知ってしまった以上、どうやって扱き使ってやろうかと思っています」
モモンガの本心だった。
たとえ、リアルでヤバイ人だったとしても、今ではもう何の意味もなさない。
モモンガにとって、メリエルとは最後の最後までユグドラシルに残ってくれた大切な仲間だ。
性格に問題があるとはいえ、むしろリアルのことを考えればその程度で収まっていると思った方が精神的に良いのでは、とモモンガは思う。
俺以上にストレスとかすごかっただろうしなぁ――
単なる営業職だった彼でも、仕事のストレスは酷かった。
それが世界的な巨大複合企業の偉い人だとすれば、どれほどのストレスだろうか。
「というわけでメリエルさん。竜王国までやり終えてから、長期休暇に入ってください」
「うわ、早速扱き使ってきやがった。鬼、悪魔、モモンガ」
「酷い言い方です。それとメリエルさんだってきっと、アルベドとバカップルになりますよ。絶対に」
断言するモモンガにメリエルはジト目で見つめる。
「何をやった?」
「さて、記憶にありません。ただ、悪いものではないでしょう。なにせ、バカップルの片割れなので、俺の口からはとても……」
「こいつめ、根に持ってやがる」
「何分、やられたらやり返す性分でして」
そして、2人は互いに笑いがこみ上げてきた。
ひとしきりに笑った――モモンガは沈静化――したところで、メリエルは告げる。
「これまでと変わらない感じでやるから」
「こっちもこれまでと同じでやりますので、お構いなく」
そういえば、とメリエルは思い出す。
「なんか色々用意していた計画だけど、王都進軍で王国軍が大反抗するとか思ってたけど、結局そんなものはなかったわね」
「あー、そういえば、そうですね。カッツェ平野での戦いで全部終わってしまいましたからね」
「王国軍も気合が足りなかった」
「王都強襲作戦とか色々、張り切ってメリエルさんは用意していましたからね」
ラナーにそれらの計画書を提出し、王国は100万人が死ぬことになるのだ、とメリエルはドヤ顔だった。
しかし、蓋を開けてみればカッツェ平野での戦闘で王国軍が呆気なく崩壊し、追撃戦で国王以下大貴族達を捕虜にしたとはいえ、王都には王子達が残っており、反抗作戦をできないことはなかった。
だが、数日待ってみたものの、反抗の兆候はどこにもなく、王都では戦闘らしい戦闘も起こらず、また王国全土でもそれは同様で、スムーズに駐屯できてしまったのだ。
唯一実行したのが王国貴族の女達を自分のものにしようという計画であり、今では一部を除いて大半がメリエルの支配下にあった。
ニューロニストはめちゃくちゃ頑張ったのである。主に卵の植え付けを。
「それで冒険者は? 漆黒のモモン」
「ああ、あれですか。もう必要なくなったので、魔導王やメリエルさんが悪さをしない為の抑止力として、魔導王に仕えるという風にパンドラズ・アクターを使って一芝居、打ちまして……」
いつの間に、とメリエルは思いつつ、そういえば内政をしている最中、モモンガから30分だけパンドラズ・アクターを貸してほしいと言われた記憶があった。
「まあ、それはいいとして、竜王国……じゃなかった、ビーストマン、殺りましょう」
「竜王国に攻め入っているところのビーストマンはメリエルさんが、それ以外は俺がやりますね。黒い仔山羊、何体出るかなぁ……」
「ちなみにモモンガさんや。ビーストマンの女の子って、いわゆるケモノ娘なので、愛でると良いぞ。勿論、男の子も良いぞ」
「この変態め……いつからショタもいけるようになった!」
「ぐへへへ、常に進化しなければ、この業界、生きていけないのよ! ぶっちゃけ、可愛ければ何でもいいと思う」
「可愛いは正義ですから、仕方ないですよね。やっぱり俺もペット、飼うかなあ……そういやトブの大森林にそれなりに強い魔獣がいたような……」
「私も魔獣をペットにしようかしらね……ちゃんとした意味でのペットも欲しい」
結局のところ、2人の関係に大して変化はなかった。
そして、このやり取りの数日後、メリエルは最後の仕事となる竜王国へと向かった。