彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話   作:やがみ0821

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捏造設定あり。


チート×チート=チート

「無駄な足掻きを止め、大人しくそこで横になれ。せめてもの情けで苦痛なく殺してやる」

 

 ニグンは勝利を確信していた。

 標的のガゼフ・ストロノーフは既に瀕死。

 援軍ももはやない。

 唯一、陽動に使ったバハルス帝国の騎士に偽装した者達が数人しか戻らなかったのが気がかりではあった。

 彼らは口々に化け物にあった、と言っていたが、ひどく錯乱した状態であり、ガゼフにやられたのだろう、とニグンは判断し、本国へ後送した。

 任務を遂行した彼らは十分な休養を要する、とニグンが判断した為だ。

 

「ふ、ふふふ……あの村には……私よりも遥かに強い御仁がいる」

 

 息も絶え絶えに、そう告げるガゼフにニグンは嘆息する。

 

「天使達よ、さっさと殺せ」

 

 そう命じた直後、ガゼフと戦士達が一人残らず消えた。

 

「……何?」

 

 何が起こった――?

 

 ニグンをはじめ、百戦錬磨の陽光聖典の隊員達は全く何が起きたのか理解ができなかった。

 彼らが棒立ちとなっている間に、彼女は現れた。

 

 

「聖なるかな聖なるかな」

 

 ニグンは目を疑った。

 現れた女はあまりにも美しすぎたのだ。

 人間の美を超越した、神々が造ったとしか思えぬ美。

 

 そして、その背に生える黒い翼が彼女を人外のものと主張している。

 

「何者か!」

 

 ニグンは誰何した。

 女だろうが人外の者だろうが、任務達成を阻むのならば可及的速やかに処理せねばならない。

 

 しかし、女は答えず、こちらへと近づいてくる。

 

「昔いまし今いまし」

 

 歌を歌っているようだが、ニグンには聞いたことのないものだ。

 

「のち、来たりたもう永遠の神よ」

 

 女は止まった。

 目と鼻の先と言ってもいい近い距離だ。

 

「無駄な足掻きを止め、大人しくそこで横になれ。せめてもの慈悲で苦痛なく殺してやる」

 

 ニグンは一瞬、目の前の女が何を言ったのか分からなかったが、すぐに自分が先ほど、ガゼフに言った言葉だと思い当たる。

 

「貴様、魔法詠唱者か?」

「神は全てをご存知である。故、汝らの罪もまたご存知だ。跪き、主へ自らの罪を懺悔なさい」

 

 コイツ、イカれてる。

 

 ニグンは素直にそう思った。

 故に、彼が下した指示も適切であった。

 

「さっさと始末しろ」

 

 ニグンの言葉にすぐさま隊員達が動く。

 近場にいた炎の上位天使が1体、動き、その剣を振り上げて――消滅した。

 

 何をされたのかニグン達が理解する前に、女――メリエルは動く。

 

「もはや神の慈悲は尽きた。これより、咎人の処刑に移る……」

 

 ゆっくりとメリエルは片手を天へと伸ばす。

 

「我は――〈神を欺く者〉なり」

 

 瞬間、メリエルを淡い光が包み込んだ。

 彼女の装いはそのままに、黒い翼は純白へと変わり、また、白い羽根が寄り集まって、彼女に新たに3対6枚の純白の翼が加わる。

 

 合計4対8枚。

 

 また同時に神々しい後光が――太陽と等しいか、またそれ以上の――彼女より発せられ始める。

 が、すぐにそれは弱められた。

 

 

 ニグンも他の隊員達も一瞬、眩しすぎて目を閉じたが、光が弱められたことに、ゆっくりと目を開く。

 彼らはただ呆然とした表情だった。

 

「てん、し……」

 

 誰かが呟いた。

 しかし、メリエルは意に介さず、宣言し行動する。

 

「我は神の代理人。神罰の地上代行者。我が使命は我が神に逆らう愚者を、その魂の最後の一片までも絶滅すること――Amen」

 

 瞬間、炎の上位天使全てが消し飛んだ。

 

 ニグンらにはもはや戦おうという気すら起きなかった。

 彼らは確信してしまったのだ。

 目の前の存在が真に神の使いである最上位天使であることを。

 

 ニグンの持っている魔封じの水晶に収まっている主天使など、最高位天使でも何でもなかったことを。

 彼らはただただ震えが止まらず、彼らはゆっくりと跪く。

 

 恐れと、そして畏れ。

 それらに悩まされながらも、ニグンは口を開く。

 

「天使様、私はスレイン法国、陽光聖典のニグンと申します。人類を救済することは……神のご意志に逆らうことなのでしょうか?」

「人類が人類を救うというのは、なんとおこがましいことだろうか」

 

 ニグンはその言葉で悟った。悟ってしまった。

 

 ああ、自分たちはまったく身勝手であった、と。

 

 人類が人類を救える筈がないのだ。

 人類を救えるのは神であるのだから。

 

 言われた相手と状況というのは大事であって、もしこれが他の人間から言われてもニグンは意に介さなかっただろう。

 しかし、神の使いである――とスレイン法国ではされている――天使から直接に言われたなら、それは信じるしかなくなる。

 信じなければその信仰に矛盾が生じてしまうからだ。

 

「ニグン、と言ったな」

「はい、天使様」

「汝らの上位組織は――真に人類の救済を確信し、行動しているのだろうか。汚職や賄賂に塗れていないだろうか」 

 

 ニグンは否、と答えることはできなかった。

 彼とて陽光聖典という特殊部隊の所属。

 後ろ暗い場面は何度も見てきた。

 

「神が私を遣わしたのはそれが理由だ。そなたらの信仰心は本物であると私は思う。だが、そなたらの上司、そのまた上司は……どうだろうか」

 

 ニグンはわなわなと体を震わせながら、懐から魔封じの水晶を取り出した。

 

「この魔封じの水晶には威光する主天使が込められております。此度の任務の切り札として使え、と……」

「……主がなぜ、私を遣わしたか、今、私は理解した」

 

 ニグンは嫌な予感を感じた。

 そして、その予感はすぐに的中することになる。

 

「汝らは……神を信仰しているのではなく、神の力を信仰しているのだな」

 

 ニグンは頭を殴られたような衝撃を受けた。

 思い当たる節があまりにもありすぎた。

 

「……はい、天使様。我々は皆、神ではなく、神の力を信仰しておりました」

「何故か? なぜ、汝らは力を望む?」

 

 問いにニグンは静かに語り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだかんだでメリエルさんに任せて良かった」

 

 モモンガはメリエルからメッセージ経由でもたらされるこの世界の情報に、ぽつりとそう言葉を漏らした。

 まさかビーストマンなる種族がおり、人間は極めて劣勢な立場に立たされているとは思いもよらなかった。

 モモンガはもっとも警戒すべきは未知のビーストマンとする。

 そうこうしているうちにも、メリエルからは様々な情報がもたらされる。

 

 アルベドにもメリエルからメッセージが同時にもたらされている為、モモンガは重要なところ以外は全部彼女に丸投げするつもりだった。

 このような状況になって数日しか経過していないが、アルベドとデミウルゴスの頭脳の優秀さは群を抜いている。

 

 トップが全て何でもかんでもできる必要はない、とはぷにっと萌えからモモンガが教えてもらったことだった。

 

「モモンガ様、メリエル様のあの御姿はいったい……?」

 

 アルベドの問いにモモンガは告げる。

 

「メリエルさんは最上位天使族である無上天の天使と最上位堕天使族である大公爵級堕天使の種族をとっている。いわば、天使と堕天使を極めた存在であり、その2つをとった場合、混沌の天使という種族になれる。その混沌の天使のスキルとして、彼女は善・悪の属性を瞬時に切り替えることができる」

 

 それが《神を欺く者》というスキルだ、とモモンガは告げ、一拍の間をおいて、更に続ける。

 

「ステータスの上昇率も属性耐性も極めて高い。おまけに天使系種族はデフォルトでクレリック系列の職業を取得することもできる。その関係で、メリエルさんはホリーバニッシャーもとっている」

 

 ワールド・ガーディアンでホリーバニッシャーってこれもうチートにチートを重ね掛けしてるよなぁ、とモモンガは今更ながらに思った。

 

 とはいえ、モモンガは知っている。

 

 メリエルの取っている中で、もっとも凶悪なものはアルケミスト職であるパラケルススとサイエンティスト職であるレジェンド・オブ・サイエンスであることを。

 

 

 モモンガがそんなことを思っていると、メリエルからメッセージが入った。

 

『彼らどうする? 神罰を地獄で受けてこいって処理するか、それとも生かしてコマにする?』

 

 メリエルの問いにモモンガはアルベドへと視線をやる。

 

「アルベド、奴らを生かすか殺すか、どちらが利益になるか?」

「生かし、情報をこちらへ流させた方が我々にとって良いかと愚考致します」

 

 アルベドの言葉にモモンガは僅かに頷く。

 

『貴重な情報源なので、生かして帰し、我々に情報を流すように……』

『了解。彼らに手紙でも書いてもらって、届くように……』

 

 メリエルの言葉が止まった。

 訝しんだモモンガだったが、すぐに理解した。

 

 空が陶器の壺のように、ひび割れたのだ。

 しかし、それはすぐに元に戻る。

 

「ああ、可哀想に」

 

 モモンガは思わず、口からそんな言葉がこぼれ出た。

 

「モモンガ様……?」

 

 どういうことか問いかけてきたアルベドにモモンガは告げる。

 

「どっかの誰かが、情報系魔法でも使ってきたのだろう。そして、メリエルさんの防壁に引っかかった。メリエルさんのは私のと違って、優しくないらしいからな……」

 

 攻略されないように、と数十パターンの対情報収集系魔法防壁がランダムで展開されているらしいが、反撃がどのようになっているかはモモンガも知らない。

 

「体験したことがある、るし★ふぁーさんとウルベルトさんが二度と味わいたくはない、と言う程度には凶悪らしいぞ」

 

 アルベドはモモンガの口から出た至高の御方の2人、そしてそんな2人が二度と味わいたくない、という凶悪な反撃に思わず身を震わせる。

 

 

 

 

 

「ニグンよ。少し待っていなさい」

 

 メリエルはそう言って、ウキウキしながら仕掛けてきた相手の座標を特定し、千里眼(クレアボヤンス)でもって覗き見る。

 

「これは……どこかの神殿かしら。巫女らしき少女と神官、あと護衛の騎士が見えるわ。巫女は冠のようなものを身に着けているけれど」

 

 ニグンはその言葉にハッとした。

 スレイン法国では叡者の額冠を身につけた巫女により、各地の監視を行っている。

 

 だが、なぜ、自分達を?

 

 

「ちょっと行ってくる」

「え?」

 

 ニグンは思わず間の抜けた声を出した。

 目の前の天使はいったい、何と言った?

 

 余程に間抜けな顔をしていたのだろうか、メリエルはくすくすと指を唇に当てて笑う。

 

「場所はもう特定したから、ちょっと行ってお話ししてくる」

「いえ、あの、おそらくですが、我がスレイン法国の神殿の一つだと思われます」

 

 何だか嫌な予感がしたので、ニグンは事情を説明する。

 彼個人としては目の前の天使は高次元の存在であるが、比較的人間に対して慈悲深いという気がしたからだ。

 無論、彼とてこのように会話ができる天使と出会ったことは今まで一度もないので、彼の勘に過ぎない。

 

「事情は分かった。しかし、何故、汝らを監視する必要がある? 上位組織は汝らを疑っているのか?」

 

 当然の問いにニグンは返す言葉をもたない。

 彼とて、何故と聞きたいくらいなのだ。

 魔封じの水晶を使った時、敵がそれほどまでに強敵だと本国が知る為にもそのように情報系魔法を使用するのは分かる。

 だが、魔封じの水晶は使われておらず、ニグンの懐に変わらずにあるのだ。

 彼は主天使をメリエルへ返し、天へと一緒に連れて行ってもらおうと渡そうとしたのだが、メリエル自身が数百年程、地上にいる、それまで使うが良いと言ったからだ。

 

 

「……ニグンよ。私が白黒はっきりさせてこよう」

 

 良いな、とメリエルが問うとニグンはただ肯定するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スレイン法国、土の神殿。

 その最奥にある儀式の間は騒然としていた。

 

「何故、見れない?」

 

 大規模儀式による情報収集魔法を発動し、陽光聖典の動向を調べようとしたが、映しだされる筈の水晶の画面(クリスタルモニター)は真っ白く染まったままだ。

 

 土の巫女姫の服装的に、儀式の間にいるのは全員が女性。

 しかし、誰もが高位の神官や騎士であった。

 

「ダメじゃないの。何にも偽装しないで、バカ正直に探知魔法使ってくるなんて」

 

 唐突に第三者の声が響いた。

 綺麗なソプラノであったが、どこか小馬鹿にしたような口調に、一斉に声の発信源を探すと、儀式の間に唯一ある大扉を背に、1人の女性が立っていた。

 そして、彼女らは誰もが呆然としてしまった。

 唯一、失明している巫女姫だけがそうはならなかったが、所詮彼女は操り人形と化しているので意味はない。

 

「てん、し……」

 

 4対8枚の白い翼を背中から生やしたメリエルがそこには立っていた。

 

「あーっと、初めに言っておくけど、この部屋と他は隔離させてもらったから。喚こうが叫ぼうが何しようが外にはまるで聞こえません。完璧な防音効果です」

 

 にっこりと笑顔でメリエルはそう言った。

 

「天使様、あなた様は一体……?」

 

 凛々しい女騎士が一歩前に出て、そう尋ねた。

 

「いや、簡単な話なのよ。どうかしら? 私の部下にならない?」

「いったい、どういうことなのですか?」

「はじめはこの私を覗き見しようとか舐め腐った真似した連中に、神罰を与えようと思ったんだけど……綺麗どころが揃っているから、それで許してあげる」

 

 るし★ふぁーやウルベルトが味わったことを当初メリエルはやろうとしていた。

 とはいえ、やることは大して複雑ではない。

 ただ、覗き見してきた相手を自分の目の前に強制転移させ、転移完了と同時にリアリティ・スラッシュを全力全開でいっぱい撃つだけだ。

 

 この強制転移からのリアリティ・スラッシュ連発する一連の流れを「こんにちは、死ね」とメリエルはひっそり名前をつけていたりする。

 

 

 さて、騎士や神官達には状況がまるで理解できなかった。

 だが、唯一理解できたことがある。

 おそらくは拒否すれば戦闘になる、とそういうことだった。 

 

 

「……ご意思に逆らうことになりますが、部下になれ、ということはできません」

「じゃあ殺してでも奪い取る。あ、土の巫女姫は頂くから……」

 

 とりあえず小手調べとマジックアローを三重化、最強化して様子を見る。

 メリエルの放つマジックアローは当然ながら最大の10発を出せる為、合計30発の強化した魔法の矢を巫女姫以外を対象として放った。

 30人もいなかった為、1人につき2発叩き込んだのだが、それで終わってしまった。

 

「……えー、なにこれー」

 

 弱すぎワロエナイ。

 

 メリエルの感想は一言だった。

 

「仕方ないから、とりあえず巫女姫ごと頂いて、護衛達の死体はもらって、あとは爆破しましょう」

 

 メリエルは溜息を吐きながら、メッセージでモモンガへ連絡するのだった。

 

 

 


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