彼らの異世界ライフ モモンガさんがやっぱり苦労する話 作:やがみ0821
気をつけてね(白目
かくして、アインズ・ウール・ゴウン魔導国により世界は統一された。
たった100年程で、歴史上、誰も成し得なかった偉業を達成したのである。
かつて、多くの場合において、亜人と人間が反目していたなど、誰も信じないだろう。
今や、亜人と人間、そして一部のアンデッドですらも、共存共栄の道を歩んでいる。
世界の至るところに繁栄は満ち溢れている。
願わくば、至高の御方々が永久に、この世界を導かれんことを。
魔導国神祇省 主席神祇官ネイア・バラハ
ネイアは羽根ペンを置いて、両肩をほぐす。
ようやく長く続いた仕事が終わったのだ。
これまでの魔導国の歴史を纏める作業は非常に骨が折れた。
職場でやっていたら、きっと精神に悪かった、とネイアは思う。
彼女が時計を見ればもうすぐ日付が変わる時刻で、何気なしにカレンダーの日付を見ると、ちょうどあの日であった。
そして、時計の針が12時になると同時にネイアは呟く。
「おめでとう、100年前の私。あなたは今日、神様に出会う」
100年前の今日はちょうどネイアがメリエルと初めて出会った日だった。
彼女の容姿はあの時と全く変わっていない。
「あんまり変わってない」
カルカもケラルトもレメディオスも、聖王国の偉い人達は誰一人として変わっていない。
当時のままの姿だ。
聖王国ではその3人と、ネイアの4人がもっとも早くメリエルから不老不死の薬を賜っているので、それも当然かもしれない。
ネイアにとって、今でも信じられないことであったが、聖王国も、帝国も、法国も。
100年前、魔導国ができたばかりの頃にあった国家はリ・エスティーゼ王国を除き、全て存在している。
帝国など100年前と同じ皇帝が、今も変わらず、その抜群の手腕でもって万全に統治している。
魔導国直轄領を除けば、帝国が世界でもっとも繁栄しているといえるかもしれない。
魔導国は無闇に国家を滅ぼしたりはせず、基本的には対話でもって――対話が無理であった場合は実力行使をしたが――通商条約を締結した後、いつの間にか相手国が属国のような立場になっているという手法を駆使した。
ネイアも、説明されてようやく半分くらいは理解できたことだが、100年前の当時では魔導国以外では誰も気づけないか、気づけたとしてもどうにもならないやり方だった。
「相手国の経済を握り、魔導国に依存させる……だっけ? シンシアさんが教えてくれたことだけど、やっぱりよく分かんない」
むー、とネイアは唸り、頭をかく。
それにしても、と彼女は思考を切り替える。
「メリエル様は本当に、果実水を配るみたいに、不老不死の薬とか若返り薬をばら撒いているからなぁ」
4人が最初というだけであり、気に入った者がいたら、片っ端から不老不死の薬を渡してしまうのが、メリエルであった。
特に女の子にはほとんど例外なく、渡しているんじゃないだろうか、というくらいに。
おかげで出生率が低下したが、何でも願いを叶える魔法とかいうとんでもないものを使ってまで、不老不死でも寿命がある者と同じくらいの出生率に無理矢理戻していた。
そこまでするか、と話を聞いたネイアはツッコミを入れたものだ。
おかげで、告死女神とか戦場の女神という勇ましい異名もあったが、性欲の神とか至高の変態という不名誉なものも多くついてしまった。
本人は全く気にしていないようで、けらけら笑っていたが、信者としては堪ったものではなかった。
だが、否定できないのが辛いところだ。
それにしても、とネイアは見回す。
実家であるこの家も古くなったときに立て直しはしているものの、部屋の間取りなどは変わっていない。
ともすれば、この100年は全て夢か何かで、寝て起きたら、まだ自分は聖騎士の従者だったりしないだろうか、と思うときがある。
「父さんも母さんも、懐かしい。私がメリエル様の使徒って知ったら、驚くかな」
使徒というのは公に対して名乗る場合であり、より正確にはペットである。
さすがに神のペットでは色々と問題がありすぎた為の措置だ。
カルカ達3人もまたメリエルの使徒であった。
そして、聖王国は無論、帝国にも法国にも、否、世界中にメリエルの使徒は数多くいる。
人間も亜人も問わず。
そして、今この瞬間にも、それが増えていることは想像に難くない。
「アルベド様も、よく許しているよなぁ」
ネイアは素直にメリエルの妃であるアルベドの器の大きさを称賛した。
にしても、と彼女は思う。
「魔導国、世界を統一しちゃってるなんて、100年前は誰も信じないよね……?」
しかも、しかもである。
人間とそれ以外の全ての種族が共存共栄し、種族で区別されることはあっても、差別されることはない。
エルフやダークエルフ、ワイルドエルフなどの、かつては少数だった種族はその数を大幅に増やし、今では他の亜人に引けを取らないくらいにどこに行っても見る。
ネイアは自分で魔導国の歴史を編纂する仕事をしていたが、それでもやっぱり信じられなかった。
エンリ・エモットは気がついてしまった。
「……100年前、思った通りのことになっている」
隣ではネムが寝息を立てている。
ネムもまたエンリと同い年となったとき、不老不死の薬を飲んでいる。
当然、エンリも不老不死の薬を飲んだ16歳のまま、体の時間は停止したままだ。
農作業をしながら、ここ100年で一気に増えた村長としての仕事を片付けて、ふらっと現れるメリエルの相手をして一日が終わる。
カルネ村は100年を掛けて地道に開墾していった結果、一大穀倉地帯と化していた。
規模としてはもはや村の域をとうの昔に超えているのだが、それでも何となくカルネ村のまま続いている。
名前に愛着があるから、というのが一番の理由だろう。
でもまあ、それもいいか、とエンリはネムの隣に横になる。
姉妹揃って同じベッドで眠るのは100年前と全く変わらない。
かつての住民達は皆、寿命で死んだが、その子供達、孫達は変わらずにカルネ村にいる。
無論、住民は人間だけではない。
他の都市や街、村と同じくエルフやダークエルフなどの色んな種類の亜人がいる。
しかし、もっとも古くからいる亜人はドワーフ達だろう。
彼らは100年前、竜王国がビーストマンの侵攻を退けたあたりくらいから、魔導国の紹介でやってきた。
今ではすっかりカルネ村に馴染み、カルネ村は農業以外に鍛冶やルーンといったものでも有名だ。
後者2つが、エンリの仕事を大幅に増やした原因でもあったが。
「だけど、もうちょっと普通に扱ってくれてもいいんじゃないかなぁ」
不老不死の人間は珍しくなくなったとはいえ、不老不死の人間とはつまり、アインズかメリエル、どちらかの使徒ということになる。
使徒というのは言わば、神に見初められた人間だ。
神聖なものとして、扱われるのも仕方がないことでもあったが、エンリとしては勘弁して欲しかった。
「あー、暇ねぇ」
ラキュースは宿屋の一室で暇を潰していた。
黒の薔薇として世界中をあちこち探索した彼女達は伝説的な存在だ。
かつて、リ・エスティーゼ王国時代にヤルダバオトとかいう悪魔に罠にはめられたりして、家族を皆殺しにしたこともあったが、それも今や思い出話の一つに過ぎない。
名誉はとうの昔に回復されている。
また、昔のように、人間に対する憎しみは時間の経過と共に薄れている。
嫌いなことに変わりはないが、許しがあったとしても積極的に殺すほどでもない、という程度にまで。
「ティアとティナはいつも通りに娼館にいるだろうし……キーノは何か修行しているって言ってたわね」
そしてガガーランはガガーランで、鍛錬に精を出していることだろう。
「……ガガーランのときは本当に大変だった」
ラキュースは溜息を吐く。
ガガーランの蘇生に関してもメリエルは渋い顔だった。
ラキュースは色んなプレイをして、ご機嫌を取ることで――その際に色々と新しい扉を開いていたりするが――ともあれ、何とか蘇生してもらえた。
それからしばらくして、ガガーランに対して不老不死の薬をどうするか、というのが大いに問題になった。
ラキュースは、というか元蒼の薔薇のメンバーは全員が飲んだほうがいい、とガガーランに告げ、対するガガーランも不老不死になったところで大して変わりはない、として承諾。
そして、ラキュースがメリエルにお願いにいったところで――
「2ヶ月くらいだったかしらね……」
ラキュースは遠い目になった。
ガガーランを除いた元蒼の薔薇メンバーはメリエルに2ヶ月間監禁されて、それはもう盛大に色んなことをされまくったのだ。
至高の変態とかいう異名も、そのあたりでティアがつけたものだ。
まあ、気持ち良かったから、いいんだけど、と思いつつラキュースは窓から空を眺める。
変わらない空だった。
まだ王都と呼ばれていた頃と。
しかし、空は変わらないが、街並みは一変している。
古臭いだけが取り柄だったあの頃とは比較にならない。
計画的な都市整備に基づいた、美しい街並み。
行き交うのは人間に亜人、たまにアンデッドやホムンクルス。
多種多様で、その人通りは王都であった頃よりも遥かに多い。
人種の坩堝――ふとそんな単語がラキュースに思い浮かぶ。
「人種の坩堝……」
口に出して、妙にしっくりときた。
「100年の冒険、その物語でも書こうかしら?」
それはラキュースにとって、とても魅力的な暇潰しに思えた。
同時に、メリエルから内々に誘われていたことを思い出し、笑みを浮かべる。
「異世界への冒険ってのもいいわね」
歪んでしまったが、彼女の冒険はどこまでも続く。
ヒルマは悠々自適の生活をしていた。
麻薬ビジネスからは、とうの昔に手を引いて、今の彼女はメリエルの為に自分を磨いている。
メリエルの下へ積極的に訪れて、アピールは欠かしていない。
最近はそれをする連中も昔に比べて多くなったが、それでもヒルマのメリエルと積み重ねた時間から、優先的にメリエルに抱いてもらっている。
「そろそろ子供ができてもいいと思うんだけど……」
未だアルベドですら、デキていないことは予想された事態だ。
アルベドより知らされ、そのことはメリエルのペットの間では知らぬ者はいない、公然の秘密となっている。
デキる確率は極めて低い――
また、誰が最初に孕んでも、それは恨んだりはしない、という協定が結ばれている。
「あのとき、誰よりも早くメリエル様のところに行って良かったわ」
ヒルマは100年前、自分が行った決断を褒めた。
「……それと地味にコッコドールも不老不死になって、娼館経営で大儲けしているのよね」
メリエル専属の娼館を経営することで、彼は大儲けしていた。
身請けするのとまた違った良さがあるとはメリエルの談だが、それを解釈すると店で衣類を選んで試着するような感覚なのだろう、とヒルマは思う。
「そんなんだから、至高の変態とかいう異名をつけられるのよ」
ヒルマは溜息を吐いた。
変態的なプレイなど、数えきれない程、メリエルとやってきた彼女である。
「まあ、いいんだけどね」
そう言って、彼女はくすり、と笑った。
ヒルマの生活は変わらない。
これからも身請けしてくれたメリエルに尽くすだけだ。
クレマンティーヌは法国にいた。
「弱っちいわねぇ」
けらけらと笑う。
黒いスティレットを手で弄びながら。
「その程度なの? ねえ、お兄様?」
彼女の目の前には瀕死のクアイエッセがいた。
彼だけではない。
魔導国にいる番外席次を除く、全ての漆黒聖典のメンバーがそのような状態だった。
「あんたたちさぁ、メリエル様の御慈悲で全員、100年前に不老不死になった癖に、なんでそんなに弱いの?」
クレマンティーヌは100年という月日を境に、メリエルの許可をもらった上で、漆黒聖典に戦いを挑んだ。
結果は圧勝だった。
メリエルをはじめとした、人外の化け物共に修行をつけてもらったクレマンティーヌ。
途中からは面白そうだからとモモンガも参戦し、メリエルとモモンガがタッグを組んで彼女に襲いかかってきたときもあった。
それこそ、実質的には全世界を敵に回して戦っていたに等しい。
何百回も死んだ。
何百回も生き返った。
レベルダウン、とかいう蘇生による力の減少を防ぐアイテムまで使ってもらって。
強くならなくなったとき、素直にそう告白したなら、何でも願いが叶う魔法までメリエル様に使ってもらって、レベルキャップと呼ばれる個々人の成長限界というものを取っ払ってもらった。
至高の御二人や守護者、他のシモベ達も、それを行って更に強くなっているらしい。
返しきれないほど、それこそ永遠を掛けてでも返しきれないほどに恩がある。
心から、魂の奥から、クレマンティーヌは尽くすと決めた。
だから、過去を叩き潰した。
常に比較され、自分よりも優れているとされたクアイエッセを漆黒聖典ごと叩き潰して、証明した。
この100年で、クレマンティーヌは辿り着いていたのだ。
「殺しはしないよ。だって、これは模擬戦だから」
そう言って、彼女は黒いスティレットを収める。
「そうそう、それと、私は今、難度300だから」
かつてないほどに、穏やかな――まるで聖女のような笑みを浮かべ、そう告げた。
そして、次の瞬間には全く正反対の獰猛な笑みを浮かべる。
「メリエル様の最初の使徒、猟犬のクレマンティーヌ。ちゃんと覚えてね? クソ兄貴と漆黒聖典の皆」
クレマンティーヌには、もはや劣等感など存在しない。
あるのはただ、まだ強くなれるという嬉しさのみ。
彼女はようやく、メリエルに挑戦する資格を得た程度に過ぎない。
しかし、ナザリックの者からすれば、それがどれほどの偉業であるか、容易に理解できる。
クレマンティーヌは伝説を作っている。
レイナースはショッピングをしていた。
ここ100年で彼女は戦士として戦いながらも、これまでできなかった人生を大いに楽しんでいた。
「こっちの新作もいい……ああ、だけど……今月もまたお給料が……」
財布を見て、そしてショーウィンドウに飾られている新作の衣類を見て、また財布を見る。
メリエルの使徒として、少なくない額をお小遣いとして毎月貰っていたが、その半分は衣類に消え、もう半分は食べ歩きに消えていた。
三食におやつ、寝床も完備と至れり尽くせりの待遇だったのがレイナースにとっては災いした。
彼女は休みの日、とにかく遊びまくっていた。
「だって、メリエル様に見てもらいたいんだもん」
自己弁護に使うものは決まって、嘘偽りのないこの言葉であった。
過激なものから清楚なものまで、買うたびにメリエルに披露して、そのままベッドへという流れが定番だ。
「あ、そういえば、今日は新作のパフェが出る日……」
レイナースは今日も人生を謳歌する。
番外席次は幸せを感じていた。
メリエルとの間に子供はまだできていない。
だが、必ずできるという確信があった。
それはそれとして、彼女はメリエルにより、色んな娯楽をこれでもかと教えられたのだ。
三食の美味しい食事におやつ、ナザリックの図書館にあった様々な書物、はては週末にショッピングなど、およそ100年で色んな娯楽を教えられ、それを実行している。
「楽しいなぁ」
戦っていないにも関わらず、そんな言葉が出てきたことに、昔の彼女を知る者がいれば驚愕することだろう。
戦いたいときに戦って、食べたいときに食べて、遊びたいときに遊ぶ。
法国では決してできなかったことだ。
とはいえ、彼女にとってこの100年での最大の成果、それはルビクキューだ。
メリエルがルービックキューブと言っていたそれを、番外席次は遂に二面を安定して揃えることに成功したのだ。
今は三面を揃える為に四苦八苦している。
全部揃えるにはあと400年掛かるんじゃないの、とメリエルから言われたこともあった。
「400年なんて掛からないもの。たぶん300年くらいで……」
メリエルの言葉を思い出して、番外席次は口を尖らせる。
「ルビクキューはやめて、メリエルを呼ぼうかな……あ、今は玉座の間で何かやってるんだった」
番外席次は仕方がない、とルビクキューを弄る。
彼女はとても楽しい時間を過ごしている。
ナザリック地下大墳墓、玉座の間。
その玉座にはモモンガが座し、その隣にはメリエルが立っていた。
2人の前にはアルベドをはじめとした、守護者達が勢揃いしている。
これは、ちょっとした式典であったが、あくまで内輪のものだ。
アルベドが前へと進み出て、告げる。
「モモンガ様、メリエル様。御二人が望まれた、穏やかなる世界征服が完了しましたことを、ここにご報告致します」
アルベドの言葉にモモンガは鷹揚に頷き、告げる。
「守護者達よ、そしてこの場にはいない、ナザリックの全てのシモベ達よ。大義であった。諸君らの忠誠とその功績、我々は決して忘れない」
モモンガはそこで言葉を切り、メリエルへと視線を向ける。
それを受けて、メリエルは口を開く。
「モモンガも言った通りに、あなた達の成したことは私達の記憶に永遠に刻まれたわ。ただ一先ず、あなた達は休みなさい。数日以内に再度、招集するから」
御意、と守護者達は答え、玉座の間からぞろぞろと出ていった。
「100年で世界征服って凄いわね」
「ええ、凄いですね。しかも穏やかに。ツアーも、共存共栄には驚いていました」
「彼の鎧に落書きしたい」
「今度やりましょう。それで、どうしますか? この後」
この後、というのは世界征服という目標が終わってしまったので、次をどうするかだ。
「100年あったけど、仕事もあったしで、ゆっくり世界を回れなかった。旅行っていうのはどうかしら? 守護者達を連れて」
「いいですね。それが終わったら、別の世界にでも守護者達と一緒に行きますか? その為に魔法の研究から始めて」
「実はもうキーノに言ってある。あとラキュースとかにも誘ってて」
「手が早いですね。まだできるとも分からないのに」
「大丈夫よ、色々とユグドラシルにあった不利な制限も取っ払ったし。というか何よりも、世界の可能性は……」
メリエルの言葉にモモンガは声を合わせる。
そんなに小さなものではないから――