紅魔館の主、レミリア・スカーレットは頭を悩ませた。
桂という名の男。彼は他の人間と共に妹であるフランドールの私室へと幻想入りを果たした。
そして運悪く…いや、必然の出来事であるか。フランは狂い、暴れ、桂以外の命を奪った。そして彼だけが生き残る結果となった。
「桂の能力は…」
わからない。圧倒的情報不足である。
そもそも、一度に何人も幻想入りを果たすこと自体おかしなことであるが。それも彼の能力が関係していると考えるのが妥当か。
パチェには能力を抑える魔法を彼に付与してもらい、専門外だとぶつぶつ呟きながらもこなす辺り流石であると言えよう。
魔法の効果は一時的なものである為、定期的にかける必要が出てくる。流石にそれは面倒とパチェが言っていたがそれは主の命令である。実行せよ。
まぁ、いずれにせよ私の目には彼が死ぬ未来は今のところ
それに正直な話、知ったばかりの人間にそこまで情はない。フランが若干気に入っている様に見えると咲夜が言っていたが、死んだらそれまでだ。
「最近退屈していたし、丁度いい暇潰しになるか」
そんな事を呟きながらティーカップに注がれた紅茶を飲み干した。
いつの間に気を失っていたのだろうか。目覚めると視界一杯にフランの泣き顔が収められていた。目から零れ落ちる涙を両手で拭いながら、鼻を啜る音が小さく響く。
「フラン…」
彼女の肩がびくりと小さく跳ねた。此方を恐る恐る涙で一杯になった瞳で見つめてきた。
「…ごめんなさい」
声を震わせながら口にする謝罪の言葉。それは聞き逃しそうな程小さな声であったが、耳は鮮明に、確実にその言葉を捕らえた。
「しょうがないよ」
そういいながらも俺の心臓はばくばくと血液を大量に送り出し始めた。甦る記憶。それは鮮明に脳裏に浮かび、額からは汗がたらりと滑る感触があった。
互いが無言になってから何分たったであろうか。無限にも感じられる時間の最中もずっと俺は気を失う前の事を思い出していた。
切り落とされた筈の手は完全に再生し、部屋の何処を見ても腕は落ちていなかった。だが、赤黒く血痕は残っており、ベットのシーツや床は殺人現場の様な雰囲気を保っている。血の臭いが鼻の奧を刺激し、あれは夢ではなかったと再認識させられる。
「…やっぱり、私は駄目なんだ」
「それは…!」
それは俺の能力がしたこと。俺はそう言いたかったのだろうか。途中で声が詰まってしまう。
そもそも、俺の能力って何なんだよ。こうなっているのは全部俺のせいなのか。なんで、なんで、なんでだよ。
どんなに嘆いても現実は甘くはならない。
フランは俺の顔を涙で腫らした目で覗き込んでいた。
とても、なにかを言って欲しそうに。
「フラン、駄目なんかじゃないよ」
そういうと目は相変わらず哀しげだが、口元は小さくにっこりと笑った。
取り敢えず、咲夜さんに事情を話したい。そう思ったとたん、背後からノックがした。
「失礼します…えっ」
部屋の状態を見た時は背中がゾッとした。妹様がまた狂気に犯されてしまったのだろうかと。だがそれはとっくに過ぎ去ってしまった事のようだ。
「あ、あの……」
「は、はい」
「朝食の準備ができましたよ」
これからもかなりの不定期更新になりそうです