Another Testers Online   作:FX

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剣の世界

石畳の上に降り立つ

僕はゆっくりと目を開けるとさっきまで居た僕の部屋ではなく全くの別世界が広がっていた

僕はあたりを見渡しそこには、街路樹に囲まれていて中世的な街並

正面には黒光りする城

 

「戻って来た」

 

僕は思わず革のグローブで包まれた手を握りしめた

そうだ、やっと戻って来れたんだ

 

「この世界に」

 

このアインクラッドという城

ソードアート・オンラインの世界に

 

* * * * * * * * * *

 

「ぬおっ……とりゃっ………うひぇぇ!」

 

奇妙な掛け声に合わせて滅茶苦茶に振り回された剣先が、すかすかっと空気のみを切った

直後、巨体のわりに俊敏な動きで剣を回避してのけた青いイノシシが、攻撃者に向かって猛烈な突進を見舞った。平らな鼻面に吹き飛ばされ草原をころころ転がる有様を見て、僕は思わず笑い声を上げた

 

「ははは……そうじゃないよ。重要なのは初動のモーションだよクライン」

 

「ってて……にゃろう」

 

毒づきながら立ち上がった攻撃者ーーパーティメンバーのクラインは、ちらりと僕を見ると情けない声を投げ返してきた

 

「ンなこと言ったてよぉ、アキト……アイツ動きやがるしよぉ」

 

赤みがかった髪を額のバンダナで逆立て、長身痩躯を簡素な革鎧に包んだこの男はクライン

そのクラインをレクチャーしているのはアキトーー向こうの世界では吉井明久という名だ

 

「動くのは当たり前でしょ。訓練用のカカシじゃないんだから

ちゃんとモーションを起こしてソードスキルを発動させれば、後はシステムが技を命中させてくれるよ」

 

「モーション………モーション………」

呪文のように繰り返し呟きながら、クラインが右手に持って握った海賊刀をひょいひょい振った

 

「どう言えばいいかなぁ……一、二、三で構えて振りかぶって斬るのじゃなくて初動でほんの少しタメを入れてスキルが立ち上がるのを感じたら、あとはこうスパーン!て打ち込む感じで……」

 

「スパーン、てよう」

 

クラインは曲刀を中段に構え、すうー、ふー、と深呼吸してから、腰を落とし、右肩に担ぐように剣を持ち上げる

 

そうすると、刀がぎらりとオレンジ色に輝く

 

「りゃあっ!」

 

クラインは構えた剣を振るうと、突進に入りかけていた青いイノシシに見事に命中し倒した

 

「うおっしゃあああ!」

 

「初勝利おめでとう……でも、今のイノシシは他のゲームではスライム相当だけとね」

 

「えっ!?まじかよ!おりゃてっきり中ボスかなんかだと」

 

「そんなわけないよ」

 

僕は笑いを苦笑に変えながら、剣を背中の鞘に収めた

 

「どうだった?はまるでしょ」

 

「ああ!」

 

クラインは笑みを浮かべながらそう言った

 

「それはよかった

よし、次いこうか」

 

「おう、じゃんじゃんいこうぜ!!」

 

僕とクラインは次の狩場に向かった

 

* * * * * * * * * * * *

 

ようやく満足したのか、クラインは剣をこしの鞘戻し同じようにぐるっと視線を巡らせた

 

「しっかしよ……こうして何度見回してもいまだに信じられねえな。

ここがゲームの中だなんてよ」

 

「中って言っても、別に魂がゲームに吸い込まれたわけじゃないよ僕たちの脳が眼や耳の代わりに直接見たり聞いたりしているだけだよ………ナーヴギアが電磁波に乗せて流し込んでくる情報を」

 

僕が肩をすくめながら言うと、子供のように口を尖らせる

 

「そりゃ、おめぇはもう慣れてるんだろうけどよぉ。おりゃこれが初のフルダイブ体験なんだぜ!すっげぇよなあ、まったく………マジ、この時代に生きてよかったぜ!!」

 

「大げさたよ」

 

笑いながらも、内心では僕もまったく同感だった

 

「じゃあ、クラインはナーヴギア用のゲーム自体も、このSAOが初体験なの?」

 

僕がクラインに聞くと「おう」とうなずいた

 

「つーか、むしろSAOが買えたから慌ててハードも揃えたって感じだな

なんたって、初回ロットがたったの一万本だからな、我ながらラッキーだよなぁ

………ま、それを言ったら、SAOのベータテストに当選してるおめぇのほうが十倍ラッキーたけどよ。

あれは限定千人ぽっちだったからな!」

 

「ま、まぁ、そうなるかな」

 

じとっと睨まれ、思わず頭を掻く

 

しかし、クラインが初のフルダイブとは思わなかったよ

僕はてっきり、ナーヴギア用のゲームはやっていると思ったよ

 

「なぁ、ベータの時は、何処まで行けたんだ?」

 

クラインが僕にそんなことを聞いてきた

 

「二ヶ月で、八層までしか行けなかった。

………けど、今度は一ヶ月もあれば十分だけどね」

 

「おめぇ、そうとうはまってるなぁ」

 

二ヶ月のテスト期間中僕は、学校にいる間もひたすらにスキル講成やら装備アイテムについて考え続け、授業が終わるや家に飛んで帰って明け方近くまでダイブしっぱなしだった。

………まぁ、その分よく怒られたけど。

特に愛里紗の説教は長かったなぁ〜普通に四時間近くまで正座させられたからね〜

 

「さてと………どうする?勘が掴めるまで、もう少し狩り続ける?」

 

「ったりめえよ!……………と言いてぇとこだけど…………」

 

クラインの端整な目元がちらっと右方向に動いた

視界の端に表示されている現在時刻を確認したのだ

 

「………そろそろ一度落ちて、メシ食わねぇとなんだよな

ピザの宅配、五時半に指定してっからよ」

 

「準備万端たねぇ」

 

呆れ声を出す僕に、おうよと胸を張り、クラインは思いついたように続けた

 

「あ、んで、オレそのあと、他のゲームで知り合いだった奴らとはしまりの街で落ち合う約束してるんだよな

どうだ、紹介すっから、あいつらもフレンド登録しねぇか?

いつでもメッセージ飛ばせて便利だしよ」

 

「え………うーん」

 

僕は思わず口籠った

 

歯切れの悪い僕の返事に、クラインはすぐに首を振った

 

「いや、もちろん無理にとはいわねえよ

そのうち、紹介する機会もあるだろうとしな」

 

「あっいや、そういうわけじゃないよ」

 

「?じゃあなんだ?」

 

「僕としては、してもいいのだけど

約束で、毎日六時には、ゲームを終わらせるという約束があるから」

 

「そうかそりゃぁ、残念だな」

 

「ごめんね、せっかく誘ってくれたのに」

 

「ははは、別にいいさまた今度紹介してやるよ」

 

「ありがとうクライン」

 

「おいおい、礼言うのはこっちのほうだぜ!おめぇのおかげですっげぇ助かったよ、この礼はそのうちちゃんとすっからな、精神的に」

 

にかっと笑い、もう一度時計を見る

 

「……ほんじゃ、おりゃここで一度落ちるわ

マジ、サンキューな、アキトこれからも宜しく頼むぜ」

 

ぐいっと突き出されてきた右手を握り返した

 

「こっちこそ、宜しくね

また訊きたいこたがあったら、いつでも呼んでね」

 

「おう、頼りにしてるぜ」

 

そして僕たちは手を離した

 

クラインが一歩しりぞき、右手の人差し指と中指をまっすぐ揃えて掲げ、真下に振った

ゲームのメインメニュー・ウインドウを呼び出すアクションだ

たちまち、鈴を鳴らすような効果音とともに紫色に発光する半透明の矩形が現れる

僕も数歩下がって、そこにあった手頃な岩に腰掛け、ウインドウを開いた

これまでのイノシシ相手の戦闘でドロップした戦利品を整理しようと、指を動かしかける

 

直後

 

「あれっ」

 

クラインの頓狂な声が響いた

 

「なんだこれゃ……ログアウトボタンがねぇよ」

 

その一言に、僕は手を止めて、顔を上げた

 

「ボタンがないって……そんなわけないでしょ、よく見てみなよ」

 

僕は呆れ声でそう言うと、クラインはまた探したが

 

「やっぱ何処にもねぇよ

おめぇも見てみろって、アキト」

 

「だから、そんなことないって……」

 

僕はため息混じりに呟き、自分のウインドウの左上、トップメニューに戻るためのボタンを叩いた

右側に開いていたアイテム欄が滑らかに閉じ、ウインドウが初期状態へと戻る

まだ空白箇所の多い装備フィギュアが浮き上がり、左にメニュータブがぎっしりと並ぶ腕に染み付いた動作で、僕はその一番下に指先を滑らせーー

 

そして、ぴたりと全身の動きを止めた

 

無かった

 

クラインの言葉どうり、ベータテストの時はーーいや、今日の午後一時にログインした直後も確かにそこにあったはずのログアウトボタンが、綺麗に消滅していた

 

「………な?ねぇたろ?」

 

「うん、ない」

 

少々癪だったが僕は素直に頷いた

 

「ま、今日はゲームの正式サービス初日だからな

こんなバグも出るだろ、今頃GMコールが殺到して、運営は半泣きだろなぁ」

 

ノンビリした口調でそう言うクラインに、僕は

 

「君もね」

 

「えっ?」

 

「今五時二十五分だけど」

 

「………あ!!俺様の照りマヨピザとジンジャエルがぁぁぁ!!」

 

「とりあえず君もGMコールしてみなよ

システム側で落としてくれるかもよ」

 

「試したけど、反応ねぇんだよ

他にログアウトする方法って、なかったけ?」

 

僕は少し考えこむ

 

「………いや……ないよ

自発的ログアウトをするには、メニューを操作する以外の方法はない」

 

「んなバカな……ぜってぇ何かあるって!」

 

僕の回答を拒否するかのように喚き、クラインは突然大声を出した

 

「戻れ!ログアウト!脱出!!」

 

しかし当然何も起こらない

 

「言ったでしょ、ないって、マニュアルにも、その手の緊急切断方法は一切載ってなかった」

 

「おいおい……嘘だろ……

そうだ、マシンの電源を切りゃいいんだそれか、頭からギアを引っぺがすか」

 

見えない帽子を脱ごうとするように額に手を触れさせるクライン

 

「できないよ、どっちも

僕たちは今生身の……現実の体を動かせないんだ

ナーヴギアが、僕たちの脳から体に向かって出力される命令を全部ここで……」

 

僕は指先で後頭部の下延髄をとんと叩く

 

「……まじかよ、じゃあ、結局のとこ、このバグが直るか、向こうで誰かが頭からギアを外してくれるまで待つしかねぇってことかよ」

 

呆然とした口調でクラインが呟いた

 

僕は無言の首肯で同意を示した

 

「でも、オレ、一人暮らしだぜ

おめぇは?」

 

少し迷ったけど、素直に答える

 

「母さんたちは今海外にいるけど、妹がいるかけど今日は帰りが遅いって、言っていたら………」

 

「おお!?あ、アキトの妹さんって幾つ?」

 

突然目を輝かせ、身を乗り出してくるクラインの頭を僕はぐいっと押し戻した

 

「は、はぁー、あいつ運動部だしゲーム大っ嫌いだし、僕らみたいな人種とは接点皆無だよ

…………そんなことよろさ」

 

無理やり話題を変えるべく、僕は右手を大きく広げた

 

「なにか………変だと思わない?」

 

「そりゃ変だろさ、バグってん^_^だもんよ」

 

「ただのバグじゃない、ログアウト不能なんて今後のゲーム運営にもかかわる大問題だよ

この状況なら、運営サイドは何はとんあれ一度サーバーを停止させて、プレイヤーを全員強制ログアウトされるのが当然の措置、なのに……僕たちがバグに気付いてからでさえもう二十分近く経っているのに、切断されるどころか、運営のアナウンスすらないのは奇妙すぎる」

 

「む、言われてみりゃ確かにな」

 

ようやく真剣味の増した表情で、クラインがごしっと顎を擦った

 

「どういうことなんだろ………………」

 

そんなことを考えてる

時刻はすでに六時を回り、細く覗く空は真っ赤な夕焼けに染まっていた

差し込む夕陽が、広大な草原を黄金色に輝かせ、僕は異常な状況にもかかわらず仮想世界の美しさに言葉を失った

 

直後

世界はその有りようを、永久に変えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し変えさせていただきました。
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