やはり俺と彼女は青春をまちがい続ける。   作:冬奈水沙

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第三話

ホームルームが終わり、いつもなら、すぐさま家に帰っている俺だが、今日からはすぐに家に帰ることはできない。昨日、俺と水無瀬は平塚先生の手によって、強制的に学校では誰もが知る雪ノ下雪乃が部長をしている奉仕部に入れられたのだった。

 

俺は奉仕部の戸の前にいる。本当は行きたくないんだけどね? 行かないと平塚先生がうるさいからなぁ・・・・・・。

 

「うぃーす」

 

中に入ると、雪ノ下と水無瀬そして平塚先生がすでに部室に来ていた。

 

「おお、比企谷か。やっと来たな」

 

「あら、こんにちは」

 

「八幡先輩! おそーい!」

 

あれ? おかしいなぁ、雪ノ下と平塚先生が早く来ているのはまだわかるが、なんで水無瀬まで早く来てるの?やる気なさそうだったじゃん。同士じゃなかったのかよ。

 

「うむ、全員揃ったな。それでは昨日言い忘れていたことを話すとしよう」

 

「昨日いい忘れていたこと、ですか」

 

「そうだ、部員も増えたことだし何かしようと思ってな。そこで勝負しようをしようと思う」

 

「勝負?」

水無瀬が首を傾げる。

平塚先生が何を話したいのか意図が全く掴めない。

 

「部活動と言えばやっぱり勝負だろう! ふっ、誰が一番人を導き救い、誰が一番人に奉仕をすることができるか!? そして互の正しさを存分に証明するがいい! 世紀末の戦いの始まりだ!!!」

 

・・・・・・・・・。

 

部室に沈黙が流れる。

まぁそうだろね、いい大人が何子供みたいなことを口走ってるのだろう。しかもドヤ顔で。だから結婚できないだろうか?

そしてその沈黙を破ったのは氷の女王こと雪ノ下だった。

 

「嫌です」

 

おお、ストレート一発。恐らく相手の打者は三振だ。

だが平塚先生は動揺することもなく前から雪ノ下が拒否することが分かっていたような顔をしていた。

 

「うむ、そうか。ならこうしよう、死力や尽くして戦うわけだ、この戦いに勝利した人は負けた人になんでも命令が出来るという報酬をあげよう」

 

「「な、なんでもっ!?」」

 

俺と水無瀬の声がハモった。

 

「その勝負やりましょう!先生!!」

 

水無瀬は先生の意見に全面的に賛成みたいだ。

それとなんでもって、なんでもいいんだよね?

がたっと椅子が引く音が聞こえたと思いきや雪ノ下が二メートルほど後ずさり自分の身体を抱える防御体制に入っていた。

 

「嫌です。水無瀬さんだけならともかくこの男も相手となると身の危険を感じます」

 

「いや、あの俺そんないやらしいこと考えてませんよ?」

 

少し、いや半分ぐらいは考えてました。

 

「ほう、雪ノ下雪乃でも恐れるものがあるのか・・・・・・。勝つ自信がないのかね?」

 

平塚先生が挑発するように言ったが普通はそんな安い挑発に乗るやつはいないのだが・・・・・・。

 

「いいでしょう。その挑発に乗るのは少しばかり癪ですが、その勝負受けて立ちます」

 

そう、雪ノ下はとてもプライドが高く、そんな安い挑発にも乗ってしまうのだ。

 

「てことは決まりですね!? 先生!」

 

水無瀬が先生をキラキラと目を輝かせながら言う。

 

「うむ、そうだな。勝負の裁定は私の独断と偏見で決める。あまり気にせず奉仕活動に専念したまえ。では私は仕事に戻るとする」

 

と、言い残すと先生は部室から出ていった。

あの僕の意見は聞いてもらえないのでしょうか・・・・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

×××

 

平塚先生が帰って20分ぐらいはたっただろうか。その間、戸は開かれることはなく誰も入ってこない。全員が読書をしており時々水無瀬と雪ノ下が話してる。あれ俺空気なのでは? いやぁ、やっぱり人に存在を認識されないことにおいては最強だな。しかし、依頼者が誰も来ないとなると勝負とかどうなるんだろう?

 

そんなことを考えていたからか、弱々しいノックの音が聞こえてきた。

 

「どうぞ」

 

雪ノ下が扉に向かって声をかけた。

 

「し、失礼します」

少し小さめのソプラノボイスが聞こえてきた。どうやら、女子みたいだ。

がらりと戸が開けられ彼女が入ってきた。

肩までの茶髪にウェーブを当てた女の子で俺と目が合うと、小さく悲鳴をあげた。いや、僕怪しい人ではないです。

 

「なんでヒッキーとみっちーがここにいるの!?」

 

ヒッキーっとみっちーって誰だよ? あ、俺と水無瀬か、なんでこいつ俺達の名前知ってるの?

 

「なんで私達のこと知ってるんですか?」

 

俺が思っていた疑問を水無瀬が聞いていた。

 

「いや、だって普通に昼休み、みっちー教室にヒッキーのこと呼びに来ているからクラスでめっちゃ有名だよ?」

 

あー、そりゃぁ目立つなうん。 って!!もしかして!

 

「もしかしてお前同じクラス!?」

 

「はぁ!?ヒッキー知らなかったの!? 同じクラスなのに知らないとかありえない!」

 

ま、まじかよ。いま知ったぜ。と言うかのクラスで顔を覚えてる奴いたかな・・・・・・。うん、いないな。

 

「まぁまぁ八幡先輩はぼっちだから人と関わる必要がないから覚えてないだけだよね?」

 

うん、そうなんだけどこのタイミングで言われるとなんか虚しくなるな。

 

「まぁろくにクラスの人の顔を覚えれないアホ谷君のことはほっといて。なにか依頼があってここに来たんでしょう? 由比ヶ浜結衣さん」

 

雪ノ下が話を切り替えて本来の話題に戻した。

なんか悪口言われた気がするが気のせいだろう。

 

「あ、私のこと知ってるんだ。平塚先生から聞いたんだけど、ここって生徒の願いを叶えてくれるんだよね?」

 

「そうなのか?」

 

てっきり本を読む読書クラブかなんかかと思っていたぜ。

 

「そうね、少し違うわね。あくまで奉仕部手助けをするだけ。願いが叶うかどうかはあなた次第ね」

 

「どう違うんですか?」

 

水無瀬が問う。それは俺も疑問であった。

 

「飢えた人に魚を与えるか、魚の捕り方を教えるかの違いよ」

 

なるほど、それなら納得できる。つまり生徒のために働くという部活ってことだな。うん。

 

「な、なんかすごいね!」

 

いかにも分かってないような納得の仕方で、由比ヶ浜は納得していた。いや絶対分かってないだろこいつ。

 

「必ず願いが叶うという訳でもないけどできる限り手助けするわ」

 

由比ヶ浜はなにか思い出したようにあっと声をあげた。

 

「あのね、クッキー・・・・・・」

 

俺の顔をちらっと見てきた。

俺、クッキーじゃないよ?ましてはヒッキーでもない。比企谷だ。比企谷。

 

「あ、そいうことか! 八幡先輩!」

 

水無瀬が廊下の方を指さした。うん?出ていけということかな?

あぁ、なるほど。いわゆる女子会って奴ですね! いやまぁ、ただ単に女子同士でしか話せないことだろう。

そいえば、中学のときの女子だけ集めた保険体育の授業って何してたんだろう?そんなことが気になる高2の春。

 

「まぁちょっと飲み物買ってくるわ」

 

と理由を付けて俺は廊下に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

×××

どうやら由比ヶ浜の依頼は手作りクッキーを焼くことみたいで、いま家庭科室にいる。ちなみに俺は味見役だ。雪ノ下いわく、男子の意見が必要になってくるらしい。まぁ俺はたいていのものはうまいという感じる素直な人だからな。うん。・・・・・・俺役に立たなくね?

 

女子たちも準備が終わったみたいで、エプロンを着ていた。制服にエプロンってなんだかいいと思います!

 

「それじゃあ、一回作って貰えるかしら?」

 

「そうですね、一回由比ヶ浜先輩の腕がどのぐらいか知りたいですし」

 

「うん!わかった!」

 

由比ヶ浜は元気良く返事をしていたが、そこからは地獄だった。クッキーごときで大袈裟かもしれんが、シンプルなものこそ料理の上手さが見えてくるのだ。

 

まずは卵のからは入ってる。

それから小麦粉はダマになっている。

バターは固形。

あ、もうダメだ、俺味見役じゃないわ、毒味役やわ。

 

雪ノ下と水無瀬はというと、どちらとも青い顔をして立っている。そりゃあそうですよね・・・・・・あんなもん見てしまったら戦慄しますよね。

 

由比ヶ浜の方に向きを変えるとコーヒーを取り出していた。

それをなにに、使うのだろう?

 

「飲み物ですか? 確かにその方が食が進むかもしれませんね」

 

水無瀬もどうやら由比ヶ浜がコーヒーを取り出しているところを見ていたみたいだ。

 

「いや違うよ〜、隠し味だよ! ほら男子って男子って甘いの苦手な人多いじゃん?」

 

由比ヶ浜は水無瀬を方を見ながら作業をしているため、手元を見ていない。その為にボウルには中には黒い山ができていた。

 

「由比ヶ浜先輩! 全然隠れてませんよ!」

 

「え、あ本当だ。じゃあ砂糖を入れて調整する!」

 

いや、もう本当ダメだ。由比ヶ浜は料理スキルが最初から備わってないわ。俺食べても死なないよね?

 

例のブツが出来上がったころには何故か真っ黒のホットケーキらしき物体が出来上がっていた。

 

「な、なんで?」

 

由比ヶ浜が自分で作った物体を見ながら言う。

 

「理解できないわ、どうやったらあんだけのミスを重ねることができるのかしら・・・・・・」

 

「でも、ほら! 食べてみたら案外美味しいってこともあるじゃないですか!」

 

雪ノ下は理解できないような顔をしていた。水無瀬に関してはお世辞を言っているようなものだった。

 

「そうね、味見をしてくる人もいることだし」

 

「ふははは! 雪ノ下これは味見じゃない! 毒見だ!」

 

「ど、毒じゃない!」

 

おい、どこからその自信は湧いてくるんだよ・・・・・・。

 

「なぁおい、これ食べても死なないよな?」

 

一応怖い為に確認の為に聞いておく。いや誰も食べたことないから死なないとかわからんけど。

 

「食べれない材料は使ってないから大丈夫だと、思うよ・・・・・・」

 

あの水無瀬さん? なんで途中から声が小さくなるですかね?

 

「大丈夫よ、私も食べるから。あなたには試食をお願いしただけで、別に処理まではお願いしてないわ」

 

「あ、なら私も食べますね」

 

そんな光景を見ていたからか、由比ヶ浜も仲間に入りたそうな目をしていた。

ちょうどいい! お前も食え! 人の痛みをしれ!

 

✕ ✕ ✕

 

 

由比ヶ浜の作ったクッキーはギリギリ食べることができた。

むしろ、マンガみたいに気絶できるほうが幸せだなということがわかった。

 

その後なんとか食べ終わった俺たちは由比ヶ浜が手作りクッキーを作るにはどうしたらいいかを話し合い結果一回雪ノ下がお手本を見せるということになった。まぁ由比ヶ浜が料理をしなければ済む話なんだけどね!

 

「いい? 一度お手本を見せるからその通りにやってみて」

 

雪ノ下の動きはまさにプロそのものの動きだった。その手際は由比ヶ浜とは比べ物にならないもだった。あっという間に生地を作ると、ハートやら星やら丸やら型抜きで抜いていく。

 

焼き上がったクッキーをお皿に移して、雪ノ下がすっと差し出して来た。お手並み拝見というわけで一つ手にとって食べてみた。

 

「うまっ! お前何色パティシエールだよっ!?」

 

「本当に美味しいですね」

 

「雪ノ下さんすごい」

 

三人の素直な感想に雪ノ下は

 

「ありがとう」

 

と優しくなんの嫌味もなく微笑んだ。

 

「でもレシピに忠実に作っただけだから、由比ヶ浜さんもきっと同じような物が作れるようになるわ」

 

それからということ、それはまさに死闘だった。雪ノ下のスパルタ指導に由比ヶ浜は戸惑いながらも必死にクッキーを作ってた。雪ノ下さん怖いっス。

 

何回か繰り返すごとに由比ヶ浜と上達をしていきまともな物が作れるようになっていた。さっきとよく似たいい匂いが漂っていた。

 

「なんか違う・・・・・・」

 

由比ヶ浜の言う通り、食べ比べて見れば確かに先ほど雪ノ下が作ったものとは明らかに違う。

 

「どう教えれば伝わるかしら?」

 

雪ノ下の由比ヶ浜も納得がいかないみたいだ。

すると水無瀬が雪ノ下と由比ヶ浜に近づいていって言った。

 

「すみません。あのここは私に任せて貰えませんか?」

 

「「「え」」」

 

水無瀬以外が驚いたような声をあげたが

 

「私が本当の手作りクッキーを見せて上げます!」

 

それにひるむことなく水無瀬は宣言した。

 

 

✕ ✕ ✕

 

「入ってきて大丈夫ですよ〜」

 

水無瀬が廊下で待っている俺たちに声をかけてきた。

 

「で? その手作りクッキーとは?」

 

雪ノ下が興味ありげに水無瀬に聞く。

 

「まぁまぁ少し待っててください。すぐにわかりますよ」

 

と、水無瀬は言うと俺のそばに来た。手にはセロハンの包みを持っていた。え? 俺なんかした?

 

「あ、あの!八幡先輩良かったら手作りクッキーどうぞ!」

 

水無瀬が頭を下げ、セロハンの包みを両手で俺に差し出してきた。そのとき俺は、水無瀬の意図を理解した。なるほど、流石水無瀬だよく考えてるな。

 

その可愛らしくラッピングされたセロハンの包を開けると中には黒色の形も不器用なかろうじてクッキーとわかる物体が入っていた。

 

ふと横を見てみると雪ノ下は全てわかったような顔をしていて、由比ヶ浜は何がなんだかわからないような顔をしていた。

 

「実はその・・・・・・少し、失敗しちゃって・・・・・・でも頑張って作ったので食べてみてください!」

 

ここまで言われて食べない奴は男じゃないと思い、俺は恐る恐るそのクッキーを口に運んだ。余り美味しくはないがまぁ……悪くはないと思う。

 

「まぁ、悪くないんじゃないの」

 

俺は素直に感想を水無瀬にいった。

 

「ありがとうございます!まぁ全部由比ヶ浜先輩のクッキーですけどね!」

 

にやりと水無瀬はいたずらが成功したような笑顔を浮かべていた。

やっぱりな、そんなところと思ったよ。

 

「え、えええ!? それ私のクッキーなの?」

 

自分のクッキーだと言われた由比ヶ浜はかなり驚いている。

 

「なるほど。そいうことね、女子が作った手作りクッキーだからこそ意味があると」

 

流石雪ノ下、気づくのが早い。

 

「そうです! 女子からクッキー貰ったら普通にときめきますし、美味しいと思いますよ! 八幡先輩以外は!」

 

あの水無瀬さん? なんか俺侮辱されてませんかね?

 

こうして奉仕部初の依頼は後輩のナイスアイディアによって解決した。

 

 

✕ ✕ ✕

 

「やっはろー!」

 

いかにも馬鹿そうな挨拶とともに部室入ってきたのは、初めての依頼者の由比ヶ浜結衣だった。

 

「・・・・・・何か?」

 

「この前のお礼をしようと思ってクッキーを自分で焼いてきたの! はいこれ! ゆきのんのね!」

 

由比ヶ浜は雪ノ下に可愛らしくラッピングされたセロハンの包みを渡していた。

 

「いまは食欲ないから家で食べるわ。あとその呼び方は辞めなさい」

 

多分雪ノ下は家でも食べるきはないな。それと、どうやら由比ヶ浜の頭の中では雪ノ下さんからゆきのんに昇格したみたいだ。

 

「これはみっちーのね!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ちょっと、由比ヶ浜さん話聞いてる?」

 

由比ヶ浜はクッキーを渡すのに夢中で雪ノ下の話を聞いていない。

 

「で、これがヒッキーので。うん? ゆきのんなんか言ったー?」

 

「はぁ、もういいわ。なんでもないわ」

 

おお、雪ノ下が折れたぞ。由比ヶ浜恐るべし。まぁ料理の腕も殺人級だけど・・・・・・。

 

こうして奉仕部にトラブルメーカーが入ってきたのだった。




お久しぶりです。冬奈水沙です。
今回はご報告があり、後書きを書きました。
まずこの第三話ですが、三点リーダーの調子がおかしく、いつもと違う感じになってしまいました。次の投稿のときまでには元に戻せるようにします。
もうひとつのご報告なのですが、再来週に学校の方の期末テストがありますので、申し訳ないですが20日まで投稿を休止したいと思います。いつも読んでくださってる方々には申し訳ないですが、今後もよろしくお願いします。

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