豪槍の邪紋使い   作:久保田みのる

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仲間内で行ったグランクレストRPGキャンペーンの前日譚となる作品です。そのため、些か水野先生の作品世界と齟齬がある場合があります。また、この小説は作者がルールブックの表記を基準に自分の都合の良い第三勢力(当時、まだ条約の存在がなかった頃のキャンペーンが下地になっております)を登場させての作品となっております。そういった改竄を気にされる方には間違ってもお奨め出来ない作品となっております。
原作とここが矛盾している、これはアトラタンの勢力図式として有り得ないだろう、という点が多々あるかと思われます。もしそういった感想を頂いた場合、話の都合に差し障りがなければ修正いたしますので不快に思った方はどうぞご一報ください。
また、文章を書くのに慣れていないズブの素人の作品です。表現のおかしな点、誤字、脱字などお見苦しい点が多いかと思われます。そちらも良ければご指摘いただければ幸いです。


豪槍の邪紋使い

空が――青い。

こうして見上げれば、抜けるようなそこに吸い込まれそうな感覚に捉われる。

爽快…なのだろう、芝生の柔らかさを背中に感じ、このように晴れ渡ったうららかな春の陽に身を委ねるというのは。

ただし。

ただし、である。

しきりに自己の中身が空っぽである事を嘆きかける胃袋の存在を度外視すれば、だ。

ブレンダ・レンフィールド、23歳。職業・傭兵。

彼女の命は今、尽きかけようとしていた。

「――ああ、参ったのう…。馬のヤツめ、ワシ以上にバテバテかと思いきや、食われると思った途端元気に逃げよって」

中身の入っていない煙管を咥えて揺らしながら一人ごちる。そもそもここはどこなのか?近くに村なり町なりはあるのか?いや、それ以前に近かろうが遠かろうがもう長歩きする体力なぞ残っていないが。

戦場で最後まで戦いを愉しんで死ぬ予定だったのが、こんな場所で空腹が死因で逝くのか。

そう思うと情けなさよりも悲しさよりもうんざりとした気分になった。何しろ、この空きっ腹が冥土への相方になるのだ。

素直にそれは嫌だなと思っていたところに、ふと閉ざしていた瞼が陽に透けて赤く染まっていた視界が黒に変わった。

ゆっくり目を見開けば、なるほどそこには覗き込むように一人の女が居た。

何となく、自分とは対照的な女だ、と思った。

ブレンダの肌は赤みを帯びた褐色である。対してきょとんと覗き込むその女の肌はぬける様に白かった。

ブレンダの髪は陽光を思わせる金色だが、その女が軽く抑えた髪は黒だった。

ブレンダの瞳は切れ長の赤い瞳だが、その女のぱちくりと何度もよく動く目は垂れ気味の青だった。

そして、何よりも戦士であるブレンダの体と違いその女の体は強く抱き締めれば折れそうな華奢な体をしていた。

「まぁ。まぁまぁまぁ、まだ生きてらしたのですね?」

おっとりとした透明感のある声がそう言った。そして何が嬉しいのかにこりと笑う。

「まぁ、まだ逝ってはおらんようだのう。これからどうなるかはお主の行動次第とは思うが」

ぐぎゅるるるる、と腹が捻くれた主とは違う素直な要求をする。

それを恥ずかしいなどと思うようなまともな羞恥心は物心ついた時から持ち合わせていなかったが。

「あらあら、お腹が空いてらっしゃるのですね?どうしましょう、生憎食料などは今手元には…。少しお待ちくださる?パンか何か、取ってきますわ」

「ああ、いや…」

高い高い青い快晴の空を見上げながらブレンダは思った。

「出来るなら、酒を頼む」

こんな晴れた昼間から飲む酒はさぞかし腹に染みるだろう、と。

 

******

 

「それで、ブレンダさんと仰るのですね?」

数刻後、豪華と言う程ではないが決して平民の家には見えないエリーゼと名乗った女の館でブレンダはガツガツと出された料理を貪り食っていた。

子山羊の骨付き肉のローストに兎肉と芋のシチュー、パンは固い黒パンではなく柔らかい白パンだ、その上バターまでついている。塩漬けとは言えたっぷりと盛り付けられた青菜野菜も盛られ、何よりも葡萄酒がボトルで用意されていた。言う事なしだ。

「ああ、傭兵業をやっておる。だが、この近くで開かれた戦端が予想より随分早く収束してしまっての。どうしたものかと思っていたらあの体たらくじゃ」

「見たところ、邪紋使いの方…ですわよね?傭兵をされているなら、結構な報酬を貰ってらっしゃるのでは?」

言いたい事は分かる。普通の傭兵と違い、邪紋使いはまさしく一騎当千だ。敵からは化物と揶揄され味方からすら巻き添えを恐れて遠巻きにされかねない。それだけの戦力なのだから、雇用側も報酬は弾むのが常である。が…

「そんなもの、前の仕事が終って十日も経たず使い切ったわ」

傭兵は宵越しの金を持たない、というのを一般論とするのは些か乱暴だが、ブレンダの信念としては「いつ死ぬか分からんのだから貯めるよりパーっと使ってしまえ」なのである。

もっとも、そのせいで死に掛ければ世話はないのだが…。

「はぁ…。えっと、この間の戦い…ああ、アルマーダ卿が出撃したアライアンス、ユニオンとの二面戦争ですわね?」

「おう」

酒を飲むために短く応える。

それはこのブルテリア公国の支配下においては…いや、それ以外においても有名な事件である。

ブルテリア公国とファクトリー、ユニオン両勢力の折衝地点にあるアルマーダ領に両勢力が同時に兵を派遣したのだ。

無論、それでファクトリー、アライアンスがぶつかり合う危険は十分にあった。が、少しずつとは言え勢力を伸ばすブルテリアの牽制のためファクトリーもユニオンも『どちらが獲っても恨みっこなし』の早い者勝ちを良しとしてまでブルテリアの勢力を削りに出たのである。

出る杭は打たれる、という典型例だ。

皆、一様に守りに入って時間をかけて潰されるか、どちらかを迎撃し、その間にもう片方の勢力に陥とされるか…その様に思っていた。

「まさかのう…辺境駐留軍とは言え、ファクトリー、ユニオン二つの勢力からの派兵をものの五日で追い返して見せるとはのう」

素直に賞賛するしかない。相当に無理な作戦を取ったのだろうが、アルマーダ伯・ジェイルはまず隊列の延びきる渓谷でファクトリーを急襲。ファクトリー側も油断はしていなかっただろうにどういう魔法を使ってかその戦力の45%を削り、撤退させた。

そのまま、土地の者しか知らない獣道を通過、背後からの強襲と時間をおいての正面からの突撃をもってユニオン軍を浮き足立たせて撤退へと追い込んだというのだ。

正直、そんな真似が出来るのか?と首を捻らざるを得ない。

だが、ブレンダの心に湧いていたのは賞賛よりも稼ぎと愉しみを奪われたというイラつきである。

「まったく、アライアンスの連中もユニオンの連中も根性のない。呉越同舟まで決め込んだなら全滅するまで戦えば良いものを」

物騒な事を舌打ち交じりに言う。エリーゼは困ったように苦笑した。

「正直、私達としては助かりましたが…このナナリー領の兵も、多くはありませんが全て送るべきだろうという話も出ていましたし」

「お主が指揮をして、か?」

エリーゼはまた小さく苦笑をした。どうやら言い難い事は苦笑で流すのがこの女の癖のようだ。

「止せ止せ、戦は指揮官次第じゃ。兵士がどうでも指揮官が戦を知っていれば自然と兵の規律は保たれ士気は上がる。逆もまた然り、じゃ。」

とは言え、無論元々の兵士の質も無視出来ないのは確かであるが…いずれにしろエリーゼが指揮官向きとはとても思えなかった。

「と言うか、どうやってこの領地を維持しておるんじゃ?先ほどの話ではお主が領主代行でロードは駐留しておらんという話じゃったな?」

「ああ、それは…」

この質問も苦笑で流されるだろうか、と思っていたが応えは普通に返ってきた。

「私の夫がこのブルテリア公国の公爵ですので…」

ただし、応えは意外なものだった。

 

*******

 

夕焼けの赤い空を雲が流れていく。

牧童達が羊達を誘導していくのが遠目に見える。

気付けばここに来て一ヶ月。

自分は何をしてるのだろうとブレンダは煙管から吸い込んだ紫煙を吐き出し、半目で考え込んでいた。

「戦を求めて流れてきた…はずなんじゃがなぁ」

胡坐を組み、膝に肘を乗せて更にその手で頬杖をつき、考える。

「何故こんな牧歌的な場所でぼけらっと平和に甘んじておるのだワシは?」

はたと気付いて一から一週間ほど。この丘でこの自問自答を行うのが最近のブレンダの日課になっていた。

昼には鈍らない程度にトレーニングをし、槍を振って感覚が衰えぬようにする。

とは言え、毎日戦に身を置くのとではワケが違う。

人一人斬るのは稽古の一ヶ月分にも匹敵する。

最強という漠然としたモノを求めるブレンダにとって、この暮らしは目標を遠ざけるものだ。

それが分かっていながら何故すぐに出て行かないのか。

いや、まずそもそもそれが分かっていながらここでの暮らしを悪くないと思っている事が不思議だった。

幾ら考えても答えが出ないほどに。

「ブレンダ、食事の準備が整いますよ?」

不意に声がかけられた。

最初に会った時もそうだったが実に不思議な娘だ。

ブレンダは戦場に身を置く者である。当然、気配には敏感になる。

それが、何故かごく自然に近寄ってくるこの娘の気配はいつも感じ取れずにいた。

「分からんと言えばお主もじゃなぁ…」

ぷっと完全に灰と化した煙草を吐息で煙管から飛ばし落とす。

「何故どこの者とも知れぬ流れ者に寝床や食事を用意する?」

「あら、だって…」

口元を手で隠すようにしてくすくすと笑う。悪戯っぽい仕草だ…男が見たらぐっと来るかも知れない。

無論、ブレンダにその手の趣味はなかったが。

「お金もない人を追い出してまたおかしな場所で行き倒れられても困りますから」

「……」

思わず一瞬返す言葉がなかった。が、勿論それだけの理由ではあるまい。

それなら、多少の金なり賃金の出る仕事なりを与えて館は追い出した方が良かろう。

それをしないのは、人が良さそうに見えてもこの娘に何か考えるところがあるからだろう。

恐らく、アルマーダ領に派兵が行われた事で危機を感じて戦力として手元に置きたいといったところか。

「ワシを戦力にしたいなら、戦になればきっちり貰う物は貰うぞ?」

なので、釘を刺すつもりでそう言ってやった。場の勢いに任せてタダ働きとか御免である。

「あら、あらあら。見透かされておりました?やはり私は領主には向きませんね」

コロコロと笑う。その笑みを見ていると、毒気が抜ける。

意外に領主として問題ないんじゃないか?と、思いながらジト目を送る。

「それでしたら、明日から兵の訓練を見ていただけませんか?ブレンダも、いざという時に練度も低いよく知らない兵を押し付けられても困るでしょう?」

名案、とばかりにパンと手を打ち合わせる。確かにそうだが、それは既に傭兵としての仕事をさせられそうになってはいまいか?

「勿論、お嫌なら無理にとは…ですが、戦の気配もまだ遠いのにこうして丘でぼーっとしているのよりは建設的だと思いますが」

そうなのだ。

らしくないと言えばこの領にぼけらっと居座っているのが既にらしくないのだ。しかも、まずまずの部屋と食事、そして何よりも十分な量の酒も毎日与えられている。

一宿一飯、ところでは既にないのだ。もし断ってその分支払えと言われたらどうしようもないのである。

「…お主、ほんわか良い人ぶって外堀を埋めたな?」

恐らく、ここ最近は様子を見ていたのだろう。

そして、ブレンダがここを出て行くつもりがなさそうだと判断して今日、このタイミングで話題を切り出したのだ。

ブレンダからの質問はただの切欠に過ぎなかったのだろう。話の場が今ここか、夕食のテーブルになるかの違いだけだったのだろう。

そんなブレンダの半目を受け流すように、しかし目は決してそらさずにエリーゼはただにこにこと返事を待っているようだった。

「良かろう」

「あら、本当に?」

ラッキー、とでも言いたそうな様子でまたパンと手を打つ。この娘を見ていると、喜以外の怒哀楽の感情が欠損しているのではないかという疑念が生じてくる。

まぁ、とは言え…。

「お主の言うとおり、時間を無駄にしてるよりは体や感覚も鈍りにくかろうて。それに…」

「?」

そこから先は少し腹が立ったので、彼女には聞こえないようにごく小さく呟いた。

「意外に強かなヤツは嫌いじゃない…」

 




お見苦しい作品を晒しております。気になる点はご指摘いただければ幸いです。
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