-限りなくベストを目指し 自分もまた機会にあわせてゆく
ドコかに必ずあるピンポイントをさぐり
行っては戻っての繰り返し
それを楽しいと思えるのか
それともキツいと思うのか
ひとそれぞれ
--その走らせ方しだいだろう
第一話 オールラウンダー
-4月中旬 午前7時30分
レインボーブリッジ近辺
東京湾の海を一望することが出来るエリア。
通勤車両や通学バスが行き交うだけの比較的閑静な場所だが、今日は違った。
1台の黒いセダンがその列を危ない追い越しの仕方で次々と車両を避け、そのセダンを追おうと後ろから1台のパトカーが接近。
「-警視204から警視庁!
指名手配中の犯人のものと思われる車両を確認、応援要請願う!」
甲高いサイレン音を鳴らすパトカーの中で応援を要請する助手席の警官。が、その間にセダンが赤信号の交差点に入ると共に左右に揺れるような奇妙な動きをしてきた。
そして、そのまま一気に減速すると共に急にUターン。
いきなりのことに距離を詰めていたパトカーはそのまま直進して逃がしてしまう。
「-ちっ……!」
取り逃がしてしまったのではないかと運転手の警官が舌打ちをする……が、その時だ。
警察と同じようなサイレンを鳴らしながらも1台のクーペが後ろからきた。
ブォォォン!!という轟音をあげながら自分達が通った交差点を進入。減速したと思えば、キィィィ!!と煙を上げさせながらもタイヤを滑らせ、鮮やかにドリフトターンを決める。
パールホワイトのボディにアルミ製の縦ドアノブ、縦に細長いテールランプ、車体上部には覆面パトカーが付けるようなサイズの小さい回転灯……
回転灯の色は普通のパトカーとは違い、アメリカンな赤と青の二色だ。
助手席の警官は見た途端に思わず唖然としてしまう。
「な、なんだ……!?」
一般車をスルスルと回避して逃走するセダンに対し、同じようにかわして行きながらも確実に距離を縮めていくクーペ。そして、横に並ぶと共に運転席の窓から拳銃のようなものが出てきた。
パァン!パァン!という銃声が鳴り響くと共に銃のマズルから火のようなものが音に合わせて飛び散る。それと共にセダンが左右に大きく蛇行し始めた。少しずつ速度を落ちていくが、やがて車体が右に振れた勢いで勢いよくスピン。
そのまま歩道側に立っていた電柱に車体の右後方側をブツけ、ピタッと停車した。
一方のクーペの方はそれを気にすることなく、遠方の方へとどんどん遠ざかっていく。
時折、ファゥンッ!と咆哮のような音を響かせながら……
「あ、あれって……?」
遠ざかっていくクーペの後ろを眺めるながらも運転席の警官に問いかけると、彼は運転を続けながらも溜め息混じりにこう答えた。
「多分、武偵の奴だ。車は日産のフェアレディZ、型はZ33。
……いい腕してやがる」
・
-1時間後
東京武偵高校
春という新たな出会いや巡り合わせがある季節にふさわしい活気を見せる生徒達。入学したばかりなのか、赤が基調の制服をビシッと着た初々しい生徒もチラホラと目に入る。そんな中、1台の車がブォンと低音を響かせながらも学校の敷地に入ってきた。
パールホワイトのボディにアルミ製の縦ドアノブ、縦に細長いテール……先程の逃走車両を片付けたZ33だ。
ゆっくりと走らせているところを見ると純正形状よりもスパルタンなエアロが取り付けられている。恐らく、インパル製のものだろう。
ボンネットも社外製なのか、熱を逃すダクトのようまものが取り付けられている。スポイラーは純正のまま。
ホイールはレイズ製の黒いグラムライツ57……
音に気付いた生徒が次々と振り向くも、気にせずに駐車場へと進んで空いているスペースで停車……運転席側のドアから人が降りてきた。
茶髪でどこか緩いベリーショート、やる気が無さそうな感じの目付きで背丈は170cmぐらいと言ったところ。
……市ヶ谷博也(イチガヤヒロヤ)
武偵高校の3年生。
強襲科(アサルト)、狙撃科(スナイプ)、車輌科(ロジ)の3つの科にてAランク以上の実力があると認定された男。
別名、オールラウンダー。
いかにも凄そうな肩書きを持つ彼だが、1つだけ深刻な問題を抱えていた。
それは……
貧乏だということだ。
グギュゥゥゥ……と腹が鳴り響くと共に「うぅ……」と右手で腹を抱えるような動作を取り出した。
「あ、朝飯抜きであれだけ動いたのは流石にまずかったか……」
如何にもめんどくさがりそうな声質で思わず呟く。
そんな動けない中、1台のオレンジメタリックのクーペが駐車場に入ってきた。トヨタ・86……
現在、トヨタで新車として購入することが出来る唯一の車だ。後ろに付いてる純正スポイラーを見る限り、最上位グレードのGTリミテッドだろう。
そのままZ33の右隣のスペースで静かに停まった。
運転席から誰かが降りてくる……
角がない丸みを帯びた目にワックスで半ば無理矢理固めた黒髪。
背丈は彼とそんなに変わらない。
「だ、大樹か……」
大樹というのは黒髪の男のことである。
原田大樹(ハラダダイキ)、武偵高の3年生。
昔は車輌科(ロジ)でBランク、一年前に転科して現在は探偵科(インケスタ)のCランクと至って普通の人物。
そんな彼と博也は昔からの幼なじみだ。
降りてきたばかりの彼にヨロヨロとしつつも歩み寄る博也。歩み寄られた彼もこれには苦笑いしながらも人が良さそうな声質で早速何があったか問いかけた。
「ど、どうしたんだー?お前?」
「朝飯抜いたから力が出ないんだよ……
昨日の晩飯もわかめと豆腐のスープだけだったし……」
今時珍しい質素な生活……
が、大樹はこの質素な生活の原因を直ぐに見抜いた。
目をキリッとさせながらもサッと素早くあるものに人差し指を差した。……彼が差したのは博也の愛車のZ33だ。
「原因はアレだろ?」
その指摘にギクッと額から冷や汗を流す博也。
どうやら、図星のようだ。
やっぱりなと言わないばかりに「はぁ……」と小さく溜め息をつきながらも更なる原因を追及しようと問いかけた。
「今度は何をしたんだ?
前とは音が変わってたから、差し詰め吸排気系のパーツでも変えたのか?」
「正解ー。マフラーと触媒変えたんだー良い音するだろぉー?」
「えへん」と言わないばかりに少し胸を張る博也。
マフラー、触媒は車の排気系のパーツ。
排気の抜けが悪い純正品のものを排気の抜けが良いものに交換することでパワーアップやアクセルのレスポンスの改善に繋がる。その分、音もよりレーシーになる。
車の改造だと初歩に当たるものだ。
だが、それを聞いた大樹の方は驚くように「はぁ!?」と声をあげてしまう。
何故こんなに驚いたのか理由は簡単……前に変えたことがあるパーツだからだ。
「おまっ……前の奴はどうしたんだよ?」
「前の奴?あぁ、あれならヤ○オクで流してる。
落札決まるまではこんな生活だ」
「……たく、お前がこんな生活してるなんて誰も思わないだろうな」
「そーだな……つーか……ヤバイ……これはヤバイやつ……うぅぅぅ……」
ヨロヨロとした足取りで大樹から離れて校舎の方面へと歩き出す博也。
人通りが多い場所では平然を装うように努力してみるが、一歩一歩と進んでいくうちに再びよろめき始める。
歯を食い縛って態勢を立て直す……
が、人気がないような場所で力尽きるように倒れてしまった。
手足に上手く力が入らず、体の至るところをピクピクとさせながらも「うぅ……」と小さな呻き声のようなものを上げる。
何とかして立ち上がらなければ……
そう思っている時だ。
ザッザッ……と遠くから足音が聞こえてきた。
どんどん大きくなっていくことから、此方に近付いていることが分かる。
空腹のあまりの幻聴か……?
いや、取り敢えず見てみよう。
残り少ない力を使いながらもゆっくりと顔を上げる……
武偵高の女子制服らしきスカートがスッ……と靡くのが見えた。
もう少し顔を上げてみる。
すると、全体像が見えてきた。
白いリボンが2つ着いた茶髪のショートツインテールの髪。
右手に青いスクールバック、
可愛らしい童顔に高校生にしては低すぎる身長……
もしや、中等部(インターン)の迷子?
だが、彼女の様子を見る限りでは自分を心配している感じではない。
……此方を心配してるようだ。
「だ、大丈夫……ですか?」
見た目に合った可愛らしい声で問いかけてくる女子生徒。
ひょっとすれば、助かるかもしれない……
その希望から口角を軽く上げるようにして笑みを浮かべる。
同時に体の芯に眠っていた少ない力が目覚めた。
両膝を地面につけるようにしながらも両手を膝の前辺りに置く。
そして、俯くようにしながらも精一杯の力を込めて強く頼み込んだ……
「御飯が……
食べたいです……」
「あ、あの……
良かったら、これどうぞ」
苦笑いしつつもバックからコンビニなんかで普通に売ってそうなあんパンを渡してくる女子生徒。
博也はパッと素早く受け取り、包装をビリッと破るとともにバクバクと無心に食べ進める。
そして、あっという間に食べ終えてから「ぷはぁぁぁ!」と満足そうな声を出しながらも満面の笑みを浮かべて勢いよく立ち上がった。
「ありがとう、助かった!!
いやー、やっぱり朝食はしっかり食べてこないとな……」
此方の笑みに対して天使のような笑顔で答えてくる女子生徒。
神様、ありがとうございます……!
と思いながらも何か御返しをしようと考えていた時だ。
彼女が此方の顔を見て「あっ」と何かに気付いた。
「もしかして、市ヶ谷先輩ですか?」
「ん?
ああ、そうだけど……」
「私、一年強襲科の間宮あかりと言います!」
間宮あかり……
何処かで聞いたことある名前なのか、博也は「ん?」と首を傾げてから「もしかして……」と恐る恐るといった様子で確認するように問いかける。
「二年の神崎と戦姉妹(アミカ)契約結んだ奴か?」
博也の問いかけに「はい」と小さく頷くあかり。
戦姉妹というのは一人の先輩下で直接特訓を受けるという制度のこと。
そして、二年の神崎とは神崎・H・アリアという女子生徒だ。
最近、東京武偵高校に転校してきたばかりの人物。
強襲科Sランク、犯罪検挙率99%……
双剣双銃(カドラ)のアリアの異名を持つエリートだ。
あかりはそんなエリートから直接特訓を受けるという契約を結んでいるのだ。
「そうか……
君があの間宮あかりだったのか」
「はい。
あ、見ましたよ!
今朝の犯人とのカーチェイス!!」
「見ましたって、何処から?」
「武偵高行きの通学バスからです!」
そんなの追い越したっけな……?と首を傾げる博也。
実際、通学バスらしきものは何台も追い越しているのでそのうちのどれかがそうだったのだろう。
調子に乗った博也が「そうか」と格好付けるようにフッと笑みを浮かべると、彼女は目をキラキラと輝かせながらも話し続けた。
「凄い格好良かったですよっ!
まあ、"アリア先輩には敵いません"がね!」
……は?
最後の一言ゼッタイ余分だろ!!
と、思うが先程のあんパンの件もあり「アハハ……」と表情を歪ませながらも苦笑いすることしかできない。
それもそうだ。
憧れであり、師でもある先輩にはどうアピールしても敵いませんよ……
内心思い、自分を宥める博也……
が、そんな中……
あかりが彼に「あのー……」と恐る恐るこんなことをお願いしてきた。
「先輩の時間が空いていればで良いんですが、
放課後に助手席に乗せてくれませんか?」
「放課後?
まあ、空いてると言えば空いてるけど……
神崎との特訓は良いのか?」
「はい、今日はオフなんです。
"たまにはガス抜きしなさい"って」
スパルタなイメージが強かったが、意外とそんなことも言って来るんだと感心した博也は「へぇー」と意外そうな声を出しながらも腕を組む。
あんパンの件もあるし、断る理由もない。
「良いよ」と笑顔を浮かべて答えると彼女は「本当ですか!?」と両手を合わせるようにしながらも喜びを表現してきた。
どうやら、結構感情が面に出るタイプのようだ。
「じゃあ、放課後ここで」
「おう、待ってる」
そう受け答えしていると遠くから「あかりー」という高めのアニメ声が聞こえてきた。
声がした方に目を向ける二人。
ピンクの髪色に長いツインテール、角のような赤い結び留め、
少しキツめのツンデレ系の目にあかりより少し高い背丈……
神崎・H・アリアだ。
「あ、アリア先輩!」
「早くしなさい、遅刻するわよ」
憧れの先輩であり、自分の戦姉(アネ)でもある人物の言葉に「はーい!」と嬉しそうに答えるあかり。
せっせと駆け足で校舎の入り口に回ろうと急ぐ彼女に対し、 アリアはその場にいた博也に鋭い眼差しを向ける。
「……何か用でも?」
視線を感じ取った博也が同じような眼差しで問いかけると共に何か言い残したいような様子ながらもあかりと共に校舎の入り口に行こうと駆け出した。
……何が言いたかったのだろう?
とは言え、
何もなしに考えていても埒は開かないだろう。
時間も迫って来てる。
博也も校舎に入ろうと駆け出した。
・
ー放課後
約束通り、朝に鉢合わせた校舎裏で待つ博也。
夕方と言っても可笑しくないような時間帯、
日は沈もうと動き始めてる。
それを眺めつつも、校舎の壁にもたれるようにしながらも黙って待ち続ける。
静かな為、校舎の表側から「さよならー!」や「また明日ー!」という声が聞こえる。
朝と変わらないような活気に思わず自然な笑みを浮かべていると、タッタッと走るような足音が左側から聞こえてきた。
やっと来た。
そう思いつつも壁から背を離し、音がする方に顔を向ける……
間宮あかりだ。
ここまでずっと走ってきたのか、息を荒くしながらも両手を膝につけて下を向いている。
「おいおい、大丈夫か?」
「あ、はい。
すいません、なんか待たせちゃったみたいで……」
「いや、そんな待ってないって。
早く行こう」
そう促しながらもゆっくりと歩いてZが停めてある場所まで案内する。
すると、はぐれることなく無事に駐車場に到着した。
隣には大樹の86……
どうやら、まだ帰ってないようだ。
そう思いつつも「これが俺の車」とZに歩み寄り、左側のヘッドライトに軽く触れるようにすると彼女は「おぉー!!」と声を出しながらも顔を近付けたり、遠ざけたりして眺め始めた。
「なんか速そうな車ですね!
何て名前ですか?」
「フェアレディZ。
現行モデルの1つ前のZ33って型だ」
そう教えながらもピッとロックを解除し、助手席の縦ドアノブに手を伸ばしてパッと開けて内装を見せる。
如何にも後付けと言わないばかりの小さいナビにホールド性が高そうな赤いレカロ製のセミバケットシート。
ステアリングは握りやすく如何にも軽そうな黒が基調の社外製……
運転席側の右上辺りのダッシュボードにDefi製のADVANCE ZDというコンパクトなデジタルメーターがある。
そして、その右上……
Aピラーと呼ばれる車の柱のような場所にもアナログチックなメーターが1つだけある。
デジタルメーターと同じくDefi製のものだ。
それ以外はダッシュボード中央の純正3連メーターが目に入るぐらい。
かなりスッキリとまとめている。
「なんか、意外とシンプルですね」
「まあ、変にゴチャゴチャしてるよりかこういう感じの方が好きでね」
そう答えてから助手席に乗せようと「乗って」と促すと共に乗り込むあかり。
スポッとハマるようにシートに座ると、身長が低いためか視界のほとんどがダッシュボードという状態。
内心「プスッ」と笑いつつも博也も運転席側に乗り込む。
シートベルトをした後にエンジンを始動させるとガガガッ!バォンッ!!とやや派手めな音が鳴り響いた。
同時に全てのメーターが始動したのを確認。
デジタルメーターのピピピッという起動音がした後にサイドブレーキを下ろしてゆっくりと走らせ始めた。
「何処か行きたい場所とかある?」
「いえ、お任せします!」
一番困る答え方に内心「はぁ……」と溜め息をつく博也。
何処か良いルートはないものか……
と、考えているとふと浮かぶものが出てきた。
ナビの左下に表示されている時間で現在時刻を確認……
ちょうど良い時間帯だったのか、思わず表情をニッとさせてしまう。
「どうかしました?」
「いや、何でもない。
とにかく行くぞ」
ここで話してもつまらないので、そう誤魔化しつつも運転を続ける。
武偵高を出た後も排気音を抑えるために高めのギアで低めの回転数を維持……
ここまでは順調だ、快適なクルージング。
が、小さな段差につきかかった時だ。
突然、ガツン!と車内で大きな突き上げが起きたのだ。
別に故障でも何でもない。
足回りの関係を強化すると段差を越える時にどうしてもこのような衝撃が発生してしまうのだ。
気を抜いていたあかりが「うわぁ!?」と驚きの声を上げる。
慣れている博也が落ち着いた面持ちで「大丈夫?」と問いかけると頷いてくれたものの、まだ動揺してるような様子だ。
「悪い!次から気をつける」
「い、いえいえ!
悪いのは気を抜いていた私の方ですっ!!
こういう分類の車がこういう乗り心地だって言うのは車輌科の同級生から聞いてますし……」
「ああ、そう。
こういう乗り心地だ。
嫌いになったか、この車のこと?」
意地悪半分で問いかけてみる博也。
話を逸らすか、それとも無理に「そんなことはない」と否定するか……
彼女がこの場でどういう答え方をするのか気になる。
……が、答えはそのどちらでもなかった。
会った時と同じような天使のような汚れのない満面の笑顔を浮かべて彼の方を見ながらもハッキリと答えた。
「いえ、私は好きですよ!
確かに乗り心地とかは普通の車と比べて悪いけど、
先輩が大事にしてるなっていうのがよく分かるんです。
外から見てもピカピカだったし、中もゴミなんて落ちてない……
好きなんですね、この車のことが!」
予想もしてなかった答えに頬を少し赤らめながらもポカーンとしてしまう博也。
数秒間の間を開けてからようやく自分がどんな状態なのかとわかったところで「お、おう」と表情を見られないように顔を逸らす。
一方のあかりの方は頭上に?を浮かべるも、追及しても仕方ないと聞かないことにした。
それからしばらくの間、会話はないが車が首都高速のETCゲートを潜り抜けたところでようやく新たな会話が出てきた。
「高速……?
どこに向かってるんですか?」
「さっきも言っただろ。
着いてからのお楽しみ」
「えー、ヒントだけでも下さいよ!」
手足をブンブンと振ってねだるあかり。
ヒント、ヒント……
到着場所の特徴を頭の中で考える博也。
簡単過ぎても駄目だし、かなり遠回しなヒントも駄目だ。
と頭の中を回転させるが、いいヒントが出て来ない。
仕方なしに到着場所の名前からヒントを出すことにした。
「じゃあ、ヒント。
その場所の名前には"ある生き物"の名前が入る」
「生き物……?」
可愛らしく斜め上を見るようにしながらも「うーん」と考え込むあかり。
少しずつ難しそうに眉間にシワを寄せ始める様子を見ると答えは浮かび上がりそうにない。
これには博也も苦笑いの笑みを浮かべる。
「まあ、着くまで待ってて」
・
-しばらくして
東京湾を跨ぐ首都高の大橋、東京湾アクアライン。
既に日が落ち、夜に入った時間帯に二人はとあるPA(パーキングエリア)に到着した。
少し混み気味の駐車場から空いてるスペース探し、空かさず車を停める。
カタッカタッとドアが空くと共に二人が降りてきた。
運転の集中から解放されてクイッと体を伸ばす博也に対し、あかりは「あっ」と何か閃いた様子だ。
「生き物の名前って、
海ほたるのことだったんですね!!」
海ほたるPAは普通のPAとは違い、アミューズメントコーナーやレストラン、更には足湯まであるというちょっとした遊び場みたいになっている。
が、それが目的でここに来たわけではない。
ここに来た目的……それは夜景だ。
日本の夜景百選にも選ばれるほどの夜景がここでは堪能出来るのだ。
どんな反応をしてくれるのか、頭の中で想像する博也。
そんな彼に対し、あかりは「あのー……」と少し申し訳なさそうに話し掛けた。
「飲み物買いに行きませんか?
ちょっと喉渇いちゃいまして……」
「エヘヘ」と言わないばかりの彼女の言葉を聞くと自分の喉の渇きに気付く博也。
だが、彼の脳裏にあるものが浮かび上がる……
それは財布の中にある所持金だ。
……とても高校生の所持金とは思えないようなものだ。
この勢いで夕飯も外で食べるとなればかなりキツい。
金がピンチだ……!!
でも、喉は確かに渇いてる……!!!
ああああああ!!!どうすればあああ!!!
と、頭の中で葛藤すること1分後。
彼は財布を持って自販機コーナーの前に並んでいた。
結局、己の誘惑に負けてしまったのだ。
彼が目をつけていたのは100円のミネラルウォーター……
500mlと容量もあるため、しばらくの間は持つ。
「よし」と心の中で頷きながらも自販機に硬貨を入れようと財布を取り出した……
その時だ。
彼の視界にある物体が目に入った。
……炭酸が入ったエナジードリンク。
容量は半分の250mlの缶。
だが、値段は200円近く……
これで疲れを吹っ飛ばすのもありだが、今の自分にはミネラルウォーター……
と思っている時、心の中の悪魔が急に囁いてきた。
「-下手だなー、博也くん。
欲望の解放のさせ方が下手。
君が本当に欲しいのはエナジードリンク(こっち)。
これを腰に手を当ててグビッと飲んでさ、疲れを吹っ飛ばしたいんだろ?」
甘い誘惑ッ……!
それに対し、博也……
200円を投入ッ……!
惨敗ッ……!!
買ったエナジードリンクを手に取り、自販機から離れる博也。
あかりの方も既に買い終えたようだ。
手に缶コーラを持っている。
350mlの普通のサイズだが、小柄な彼女が持つと何だか大きく見える……
「先輩、それにしたんですか?」
「あ、ああ……まあな。
そ、そんなことより夜景観に行こうか」
・
-10分後
夜景を堪能し、夕食を食べようと店内に入る二人。
周囲がざわざわと少し騒がしい中、入って中央の席を陣取る。
先程のエナジードリンクで只でさえ少ない財布の中身を圧迫してしまった博也は最も安価なかけうどんを注文。
それに対し、隣に座っているあかりの方はエビフライが乗った小さめのカレーライスだ。
此方も安価な方ではあったが、かけうどんの値段とはかなり差がある。
「先輩、それだけで大丈夫なんですか?」
「ま、まあな……!
そんなに腹減ってないんだ」
嘘である。
腹が減りすぎてる、もっと食べたい!
だが、彼の財布の事情からこれしか注文出来なかったのだ。
こんなことなら少し貯金を崩すべきだった……
トホホ……と言わないばかりの表情を浮かべてそう思いつつも箸を手に取って「いただきます」と合掌してから近くに置いてあった七味をパッパッと軽く掛ける。
「いやー、それにしても……
先輩ってロマンチストだったんですね!
ちょっと驚いちゃいました!」
スプーンを手に取ったあかりがカレーを食べる前に言った一言。
……こんなかけうどん食べている奴の何処がロマンチストなのやら。
そう思いながらも、「ハハハ……」と苦笑いしてからズルズルとうどんを啜る博也。
何とも質素な食事。
上にかき揚げでも乗っていれば少しはマシになるだろうに……
そんな思いからあかりに聞こえないぐらいの小さな溜め息をついてしまう。
そんな中、あかりの方から「はむっ」という美味しそうに食べる音が聞こえてきた。
無意識のうちにそちらに視線が向かってしまう。
「……どうかしました?」
あかりが視線を感知し、問いかけてくる。
誤魔化さないと……
咄嗟に「い、いや、何でもない!」と答えて対応する博也。
それを見て首を可愛らしく傾げる彼女……
完全に怪しまれてる。
気にしていないオーラを出そうと再び質素なかけうどんと向かい合う。
そのまま再びズルズルと食べたり、レンゲでスープを飲んだりしているうちに彼女の意識も再びカレーの方へと向かった。
……何とかやり過ごしたようだ。
ほっと胸を撫で下ろしつつもかけうどんを食べ続ける。
が、もうほとんど残ってない。
食事を開始から二回目の溜め息をつく。
すると、ここで再び天使・間宮あかりが降臨する。
カレーを掬ったスプーンを「どうぞ」と差し出してきたのだ。
「そんな……いいのか?」
「もちろんです!」
再びあの笑顔を浮かべながらも頷いてくるあかり。
な、なんていい子なんだよ……!!
それに、よく考えて見れば間接キスじゃないか……
そんなことを思いながらも頬を赤らめ「あ、ありがとう」と礼を言ってからスプーンに顔を近付けてはむっ!と口にする……
味はいたって普通のカレー。
だが、この場に置いてはそんなカレーでもあかりの親切さというスパイスが効いて絶品と感じる。
犯罪的だッ……美味すぎるッ……!!
「どうですか!?」
「美味いよ、ありがと」
そう言いながらも御返ししようと博也は自分の前にあるかけうどんを見る……
こんな質素なもので良いのだろうか?
等と思っている間にあかりがその質素なかけうどんに目をつけた。
「先輩、スープだけ頂いても良いですか?」
「ああ、どぞどぞ」
何の遠慮もなしにスッと素早く差し出すとスプーンでスープを掬ってから「いただきます!」と口にするあかり。
質素で如何にもインスタントみたいな味のこのスープに対しても「美味しい!」と満面の笑みを浮かべながらも感想をの述べてくれた。
あれ、ひょっとして本当に美味しいのではないか……?
そう思い、「ハハハ」と笑いながらもレンゲを手にしてもう一度スープを飲んでみる……
……やはり、インスタントに似た味がした。
心の中で「アハハ……」と苦笑いしつつも残りを食べて全て平らげるとあかりの方も少し遅れてカレーを食べ終えた。
「ご馳走さまでした!」
「ふぅ……行くか」
爪楊枝をくわえながらもそう呟き、食器を下げようと立ち上がると隣に座っていたあかりも「はいっ!」と勢いよく立ち上がる。
そのまま一緒に片付け、自動ドアを潜り抜けた……
心地よい潮風が歓迎するように体を包み込んでくる。
クイッと体を伸ばすあかりに対し、博也はキーを手にとって遠隔で車のロックを解除。
車に歩み寄り、運転席に乗り込んでシートベルトを締めてからエンジンを掛ける……
ガガガッ!バォンッ!!と鳴り響く音が車内を蔦って聞こえてきた。
余韻に浸るように軽く目を瞑っていると助手席側のドアが開き、あかりが乗り込んできた。
シートベルトを締めて礼の言葉を口にする。
「今日はありがとうございました!」
「いやいや、礼を言うのはこっちの方だ。
楽しかったよ」
そう答えながらもゆっくりと慎重に走らせる……
Uターンに入り、東京湾アクアラインに合流。
法定速度より少し速い位のスピードで車を走らせる。
ブォォン……という低い音を響き渡る中、ふと視線を助手席に向けてると今にも寝てしまいそうなあかりの顔が見えた。
「……おやすみ」
クスッと笑いつつもそう言うと共に再び運転に集中しようと前に視線を向ける。
そのまましばらくすると首都高エリアに入った。
このままゆっくりと帰れる……
と思っていた、その時だ。
ブゥゥブゥゥゥ!!と急になり響くスマートフォン。
博也の方だけではない、あかりの方の携帯もピロピロピロ!!と鳴り響く。
恐らく、武偵高からの周知メールだ。
音で半分眠っていたあかりも「はっ!」と一気に目を覚ました。
「先輩、もしかして……!」
「多分、その"もしかして"だ!!」
答えている間に携帯を手にとって確認するあかり。
その間に携帯を触れない博也はナビをピッピッと操作していく。
普通のナビの画面が武偵高の周知システムに切り替わり、最新の情報を表示させる。
……どうやら、犯人を護送していた護送車が何者かに襲撃を受けているようだ。
場所は次のIC(インターチェンジ)からかなり近い。
「行くぞ、間宮!」
「はい!!」
返事をしっかりと聞いたところでシフトノブを握り、ガガガッ!!とシフトダウン。
グォォン!!という轟音と共に2000回転付近を維持していたタコメーターの表示が一気にリミットである7650回転に振れた。