終日歩んでも嫌になることはないが、
心に憂いがあればわずか一里でも嫌になる。
人生の行路もこれと一緒だ……
常に明るく愉快な心をもって
―人生の行路を歩まなければならない
第一話 ウィスパー・イン・ザ・ダーク
―二日後 夕方
武偵高 強襲科・射撃レーン
周囲が鉄筋コンクリートに覆われたこの場所でバラララララッ!!というマイクロUZIの連射音を周囲に響かせながらも射撃の練習を行うあかり。その様子を右隣にアリア、後ろのベンチで博也が見守るように見ていた。
カチッと弾切れを起こした音を聞くと共に立ち上がり、あかりの左隣に立って射撃目標である人型ターゲットを見る博也……全然当たっていない。スコア結果も出てきたが、100点中6点。アリアはスコア結果が書かれた用紙を片手に持ち、あかりに見せるようにしながらもお怒りの様子だ。
「どうしてこうも駄目なのよ!」
「ま、まあ……落ち着けって」
苦笑いしつつもそんな彼女を落ち着かせようと声を掛ける博也。怒られたあかりの方は「ごめんなさい……」と俯きながらも謝るが、アリアは落ち着くどころか更にヒートアップさせながらもマイクロUZIのリロードを終えた彼女に対してこんなことを言った。
「アンタ、元々の悪い撃ち方を矯正しようとしてるからそうなってるんじゃない?一回元々の撃ち方で撃ちなさい。そこから直してあげるわ」
溜め息混じりにそう言いながらあかりに指示を出す。
が、彼女は俯くようにしながらも「嫌です」とそれを拒否した。再度「やりなさい」と指示しても「やりません」と頑なに拒否を続ける。
……あれほど慕っているアリアの指示をそこまで拒否するとなれば余程のことがあるかも知れない。そう思った博也は二人の間に割って入るようにして「おい」とヒートアップしている彼女を止めようと試みた。
「それ以上はやめとけって」
「私の戦妹よ、アンタには関係ないでしょ!良いから撃ちなさい!!あかりっ!!」
博也の言葉を拒否しながらも引き続き指示を出すアリア。すると、痺れを切らしたあかりは俯いた状態のまま片手でマイクロUZIの銃口をターゲットに向ける。そして、そのまま引き金を弾いてバラララララッ!!と連射するように発砲。いつも反動によってぶれていた手もピタッと止めての完璧な撃ち方……弾丸はターゲットの額、右目、左目、ノド、心臓といった急所に2発ずつ命中した。
「っ…これは……!?」
全て急所に命中しているということに驚きの表情を見せる博也。隣で見ていたアリアも同じように驚いていた……
それもその筈、彼女の発砲は実戦ならば武偵内での法律でもある武偵法の9条『武偵は如何なる状況下に於いてもその武偵活動中に人を殺害してならない』を破るようなものだからだ。二人が驚きながらもあかりに目を向け続けていると、彼女は今まで俯かせていた顔をゆっくりと上げて見せてくる。その表情は普段の無邪気な笑顔ではなく、悲しげな表情だった。目元には今にも溢れだしそうな程の涙が溜まっている……
「こんなの…武偵の技じゃない……!」
そう言うと共にマイクロUZIを素早くしまってから背中を見せて部屋から出ていくあかり。「……。」と無言になってどうしようか悩む二人だったが、博也の方はパッと真っ先に動き始めた。
「ちょ、ちょっとアンタ……!!」
アリアが止めようと声を掛けるが、彼はその静止を振り切ってバンッ!!と勢いよくドアを開けて部屋を出た。既に彼女の後ろ姿は見えない。左右を何度も見てから「あそこだろう」という予想から右に向けて駆け出す。靴を履き替え、夕焼け色の空が広がる外に飛び出し、中庭へ……すると、木の下のベンチで俯きながらも座っている彼女を見つけた。
「(見付けた……)」
そう思いながらも「ふぅ」と安堵の息をつく。ただ単に話し掛けるのも気まずいと思い、近場の自販機へと足を運ぶ。
自販機の前に到着して財布の小銭入れをパカッと開けるが、嫌なことに500円、100円硬貨がない。10円硬貨も数枚しかない。……貧乏人の博也は札を崩すは嫌だったが、"これも可愛い後輩のため"だと割り切って「はぁ……」と溜め息混じりに1000円札を手にする。そして、自販機の紙幣投入口に突っ込んだ。
反応してくれたところで自分の分の缶コーヒーとあかりの分の缶コーラを購入。ボトンッボトンッと出てきたところで両手に持つようにしながらもあかりの元へと戻った。
目の前まで近付いてもなかなか気付いてくれない彼女。余程、何かを考え込んでいるのだろう……仕方なしに持っていたコーラの缶をピタッと軽く額につけた。
「ピャッ!!?」と驚くような声を可愛らしくあげながらもようやく博也の存在に気付いて顔を上げた。
「ひ、博也…先輩……?」
「ほら、飲めよ。俺の奢りだ」
そう言ってコーラを握らせてから「よっと」と隣に座る博也。プッシュッとコーヒーの蓋を開ける彼に対し、あかりの方は蓋に指を掛けるだけでなかなか飲もうとはしない。気になってその手元に目を向けていると彼女が「あの……」と喋りだした。
「さっきの件についてなんですが……」
「聞かねえよ、何も」
想定外の発言に「え…?」と口を開けるあかり。博也は一口だけコーヒーを飲んだ後に先程発言に続くように語り始めた。
「無理に言わなくていい。その代わり、いつか話してくれよ。ずっと先でもいい……待ってるからさ」
そう言うと共に再びコーヒーを飲み始める博也。そんな彼の優しさに心を和らげつつもあかりは「……はい」と小さく頷いてからコーラの蓋をプッシュッと開けた。
・
―同時刻、とある立体駐車場 屋上階
ガラガラの駐車場の奥に停まるマッドブラック塗装の987型ボクスター。車内でノートパソコンを触る20代前半ぐらい男……肩の辺りまで伸びたゆるい感じの白銀髪にフレームが金色の丸眼鏡、少女漫画の登場人物にいそうなスッと整った目付きをしている。カタカタカタッと作業を進めていると突然、彼の携帯の着信がピロピロピロと鳴り始めた。手にとって相手を確認……ターボSに乗っていたB.Rだ。
「もしもし」
「―B.Rだ。H.E、準備は順調に出来ているか?」
H.Eというのは彼のコールネームだ。だが、彼は若干眉間に寄せながらもこんなことを言ってきた。
「その呼び方やめてくんないっすか?ボスやアンタは正式名が長いから略称でいいにしても、俺に関しては短いっすよ。ちゃんと"ホークアイ"って呼んでください」
そう言いながら空いている右手で作業を進めるホークアイ。そんな彼に「―……。」と黙り込むB.Rだったが、「―すまなかった」と謝罪してから再度問い掛けた。
「―それで、準備はどうなんだ?ホークアイ」
「順調っすよー、決行予定日の明日には余裕で間に合うっしょ」
用件が済んだため「―そうか」と言い残して通話を切ろうとするB.R。だが、「ちょっと待って下さいよー」とホークアイがそれを止めた。
「こっちも話あるんすけど、聞いてもらえないっすか?」
「―なんだ、言ってみろ」
発言の許可を得て嬉しそうにニッと不敵な笑みを浮かべるホークアイ。一旦、右手でのノートパソコンの操作をやめながらも車内のあちこちをゴソゴソと漁り始めた。
「ボスが前にやったビルの監視カメラに俺好みの子が映ってたんっすよー、時間があったらその子に手出していいっすか?」
そう言いながらも「あった」と言わないばかりに一枚の写真を右手で手にして眺める……
そこにはある女子武偵生が映っていた。
高飛車そうな雰囲気の目付きと貴賓がある金髪のロングヘアー、通常の制服とは違い、所々に大人びた改造制服を着ている……
高千穂麗だ。彼女の写真を見ると共に不敵な笑みを深くした。
「―相手はどんな奴だ?」
「高千穂グループの御令嬢っす、ここまで俺好みのやつはそういないっすよ」
「―別に手を出しても構わないが、任務をこなしてからにしてくれ。俺からは以上だ」
そう言いながら通話をピッと切るB.R。それと共にホークアイはシートに凭れるように背中をつけて写真を眺めながらも舌で唇の上をなめるようにしてこう呟いた。
「待ってろよぉ……子猫ちゃん」
・
―翌日、朝
今にも雨が降り出した空の下、Zを走らせる博也。今日は少し寝坊をしてしまったため、遅刻……かなり焦っている様子だ。
「チクショ、やっちまったな……」
そう呟きながらも空を眺めていた時だ。ブゥゥゥ!ブゥゥゥ!!と突然、スマホが鳴り始めた。何事かとナビを武偵高の周知システムとリンクさせてみる……救援要請だったが、その内容を見て驚いた。
救援要請者、遠山キンジ。バスジャック事件対応の応援要請。3年生以上の強襲科、車輌科Aランクを求む……
3年生以上の高ランクのみと限定されるとなれば異常と言ってもいい程の事態になっているだろう。学校どうでもいい……今はこの救援に応えよう。
そう思った博也は回転灯をZに取り付けて回すとともに事件現場へと向かった。
・
―数分前、武偵高行きバス
バスジャックの対応任務に出ていたキンジ達。
任務は終了した雰囲気ではあるが、三車線の真ん中を走るバスの上部で防弾装備の彼は雨に打たれながらも同じような格好をしたアリアを抱えていた。彼女の額からは血が出ている……キンジを庇って銃弾を頭に掠めたのだ。その影響から、意識はなくグッタリとしている。狙撃科のSランク・レキがヘリに乗って同行していたが、そのヘリは目の前でガタガタと奇妙な動きをしていた。
「どうした、早くこっちに来い!!」
希望を抱きながらも無線越しで強く救援を請うキンジだったが、パイロットからの通信が来た時にそも希望は打ち砕かれた。
「―機体が安定しない!最寄りのポイントで着陸してから行く!!」
「そんな暇あるかよ!こっちは一刻を争って……!!」
「―馬鹿野郎、無茶言うな!今の機体でこの悪天候の中回収したら墜落して全員死ぬぞ!!」
最後の一言胸に突き刺さり、悔しそうに「くっ」と奥歯に力を入れるキンジ。フラフラながらも去っていくヘリを眺めて力なく膝をつけてしまう。こうなったらこのバスで最寄りの武偵病院に運ぶしかない……そう思っていた時だ。後ろから縦に並ぶようにしてマッドブラックの車が3台近付いてきた。ポルシェだ。987型よりも古い、初期型の986ボクスター……
怪しげな車輌に目を向けていると何かに気付いた。……誰も乗っていないのだ。
「っ、まさか……!」
そう驚いている間にブォゥゥン!!と水平対抗エンジンの音を轟かせながらも先頭の一台が急接近してきた。
そして……
ズドンッ!!という音をあげながらも体当たりしてきた。大きく車体が揺れ、車内から「きゃー!!」という悲鳴が聞こえてくる中、車体上部にいたキンジは右腕でアリアを抱えながらも窓のスペースをガシッとつかんで落下を何とか防いだ。態勢を整えようと意識がないアリアを車内の生徒に任せようと移した時、後方二台のボクスターがそれぞれバスの左右に展開した。二台の車体上部には自動照準システムがついたM249、通称ミニミと呼ばれている軽機関銃が……
これはまずいと「伏せろ!!」と車内の武偵生に伝えてから照準が此方に向かないように伏せる。すると、左右のボクスターに登載されたミニミが発砲を始めた。
ダァッダッダッダッ!!と重い銃声を響かせながらもバスの車体に銃跡を残していく。……防弾仕様のため、何とかもったが攻撃が何度も続いたら耐えれる分けがない。
そう思ったキンジは伏せながらも携帯を手にとって救援要請をした。
・
―お台場、レインボーブリッジ前
雨が降っている中、一台のマッドブラックの997型ターボSが路肩の一角に停まっていた。車内にいたB.Rはピロピロピロと着信音を鳴り響かせる携帯を無表情で手に取ると共にピッと着信応じた。相手はボスのG.Dだ。
「B.Rです」
「―予定通り、作戦開始だ」
「了解しました、イ・ウーの連中は?」
「―俺たちと同じように自動運転の車輌を使って先に動いていたみたいだが、全部やられたみたいだ。
だが、向こうはもう虫の息らしい……畳み掛けてやれ」
G.Dの言葉に「了解」と答えながらも通話を切ろうとするB.R……だが、通話を切る前に「それと」と止められた。
「―例のガキが動き出してるらしい」
G.Dの言葉を聞くと無表情だった表情から急に怪しげで深い笑みを浮かべ始めるB.R。そのまま彼の言葉に対してこう答えた。
「そうですか……なら、"ちょっと"遊んでやりますか」
そう答えると共に通話をブツッと切るB.R。ハザードランプを切ってからエンジンを掛ける。そして、ブォゥゥン!!という水平対抗エンジンの野獣の咆哮のような音を響かせながらもそのまま走り出した……
「(ボスがわざわざ手を出すまでもない。待ってろよガキ、俺が仕留めてやる……)」
どーも、350Zです。
いろいろ省いてしまって申し訳ありません!
原作未読じゃちょっと分からない部分があったと思います!!許してちょんまげ←(ユルサンッ!!
さて、いかがでしたか?
前回とは違ってすごいシリアル……じゃなかった、シリアスだったと思います
イ・ウーの襲撃による混乱に乗じて乗り込んできたポルシェ軍団vs博也……次回はこんな感じになりますね。
どんな展開になるのか?
次回もご期待下さい←(渡○也