40年以上前……一台のスポーツカーが生まれた。
初代フェアレディZ、S30。
ロングノーズショートデッキの華麗なスタイリングと安価ながらも高価格スポーツカーに負けない高いコストパフォーマンス……
その二つを掲げて生まれたこの車は世界中の人々を熱狂させ、"Z-car(ズィーカー)"という愛称で親しまれるようになった。
しかし、モデルチェンジを重ねていく度にその輝きは次第に失われていき……
2000年、四代目Z32型で生産中止。
その背景には厳しくなった排ガス規制、メーカーである日産の経営不振等といった大きな理由が挙げられる。
だが……
それから2年後、Zは蘇生した。
新型フェアレディZ、Z33の誕生だ。
初代S30を意識したロングノーズショートデッキの華麗なスタイリング、新車価格300万程にも関わらず1000万クラスの欧州スポーツカー以上の性能を持つという高いコストパフォーマンス……
初代S30のDNAを受け継ぐような形でこの車は復活を遂げたのだ。
突然のZの復活に人々が驚いている最中、当時日産の役員だった人物はこう述べた。
"Z-carの復活は全ての復活を意味する"
―Z 車内
ブォォォォン!!という轟音と共に夜の三車線の国道を疾走する新しいZ。ステアリングを通して伝わって来る感覚に博也は驚きを隠せないでいた。
「(動きが軽い上に素直だ……
恐ろしいぐらいドライバーに愚直な車になった)」
そう思いながらも前方を走る一般車を右にヒラリとかわしてから車線を戻し、何事も無かったかのように再び加速させていく。
すると、ブゥゥ!ブゥゥゥ!!という着信音が車内に鳴り響いた……
「はい」とブルートゥースで応じてみる……相手は大樹だ。
「―博也!今何してる!?」
「Zの運転」
その答えに「―なっ……!?」と驚きのあまり言葉を失う大樹。博也がZが帰ってくる日が今日だということを伝えていなかったため、無理もない。
半ば疑いたくなるも今はそういう場合ではないと、状況を語り始めた。
「―間宮達が大変なことになってる!!」
「分かってる、さっき救難信号を拾った。そっちはどうだ?」
「―問題ない。ただ、上手いこと離されて合流には時間が掛かる!クソッ……!!」
大樹の話を聞きながらも片手でピッピッとナビを操作して現在地と目標であるあかり達が乗る車輌との距離を確認する博也。かなり近くまで来ているようだ……
推測では三つ先の交差点を左に曲がった所で鉢合わせる。
「悪い、そろそろ鉢合わせるから切る」
「―は、鉢合わせるって!?ちょっお前……!!?」
ブチッと一方的に通話を切り、集中力の全てを運転に向けると交差点が見えてきた。
"ここを左折した先にあかり達がいる"
その思いからグイッと力強くステアリングを握る。
「(待ってろよ……!!)」
・
ーハマー車内
追跡してくる4台のハイラックスサーフから逃げるようにして三車線の中央を走らせる麒麟。
アクセルを踏み込んで突き放そうとは試みてはいるが、なかなか離れてくれない。その間にアサルトライフルによる攻撃を受けて車体が被弾していく。
「麒麟ちゃん……!!」
運転する彼女に心配そうに目を向ける後部座席左側に座るあかり。それに対し、まだ余裕があるのか比較的落ち着いた様子で「大丈夫ですの!」とはっきりと答えた後にその理由について語り始めた。
「救援要請は既に済ませてありますの。それに、この車は元々軍用だったハンヴィー(装甲車)を民間用に派生させたもの。装甲の厚さから考えればそんな簡単に……」
やられないと言おうとしたが、左側のサイドミラーに映っ物を見るや否や「ぴゃあっ!?」と驚きの声をあげてしまう。
どうしたのだろうか……?
疑問に思ったあかりがふと左後方の車輌に目を向ける……すると、後部座席に座っていた男がガサゴソと何かを手に取っているのが見えた。
RPG-7、ロケットランチャーだ。
「あ、あれは流石にマズイですのッ!!」
このハマーでもロケットランチャーの一撃には耐えられない。そんなことはあかりでも理解出来る。
阻止しなければマズイ……!
その思いが芽生えつつもふと改めて周囲を見回してみる……この車に乗っているのは逮捕した夾竹桃と彼女にやられた仲間、それから運転している麒麟のみ。
まともに動けるのは自分だけだ。仕方ないとマイクロUZIを手にして扉を開けようとする……が、手を伸ばそうとした時に脳裏にある光景が浮かんでしまった。
自分が撃った弾が相手の頭に命中し、射殺してしまうという光景だ……
自分の元々の手癖から考えれば有り得る話だ。
その影響でなかなか窓を開けることが出来ない……
が、自分がやらなければこの車に乗っている皆が全滅する可能性もある。
そう頭の中で迷っている時にある人物の背中が頭の中で浮かび上がる……自分が目指していた博也とアリアの背中だ。
「ごめんなさい…先輩方……
私、お二人のような立派な武偵になれそうにないです……」
気持ちをグイッと押し殺しながらも覚悟を決めたあかり。
そのままパワーウィンドウのボタンに手を伸ばそうとした……その時だ。
キィィィィィィィ!!!!というタイヤのスキール音が耳に飛び込んできた。
後ろから聞こえてきた音に驚いて手をピタッと止めるあかり。その間にキュインッ!キュインッ!!という跳弾の音が聞こえ、RPGを構えようとしていた男の左右の手が素早く撃ち抜かれた。車外にRPGを落としてしまい、戦闘不能に陥る男……
何が起きたのか把握出来ないながらも音がしてきた後方に確認するあかりと麒麟。
苦しそうにしていたライカや陽菜、先程まで気を失っていた志乃までそちらに意識を向ける……
その先には白いクーペボディのスポーツカーがいた。
フェアレディZ、Z33。
インパル製だったバンパー類はアミューズ製のエアロキットに、純正のリアスポイラーはニスモ製の大型ウィングに変貌を遂げていた。
完全に蘇ったその車影に皆が言葉を無くしている中、ある一本の無線通知が車内に響き渡った。
「―遅くなって悪いな。
FZ33(スリースリー)、交戦する」
・
―遠くのビルの屋上
博也のZが来たことに対し、双眼鏡で高見の見物をしていた女は驚きを隠せずにいた。
「―どうした、何かあったのか?」
「ガキのZが来た……!」
女の言葉に流石のG.Dも「―っ……!?」と言葉にならない声を出して驚く。彼の車は仲間であるB.Rが大破まで追い込んだ……そのことから「―冗談だろ……」と答えてから続けて語り始めた。
「―B.Rの報告で奴のZのボディはほぼ瀕死状態だと聞いている。俺もホークアイから送って貰った監視カメラの映像データでそれを確認してる」
「ええ、それは私も確認した。だけど、今まさに走っているわ……ナンバーからして間違いない」
「―じゃあ、"たった3日"でボディを仕上げたとでも?」
「……そうとしか言えないわ」
溜め息混じりに答える女に対し、「―……。」と無言になってしまうG.D。その間に博也のZが本格的な交戦を始めた。
先程と変わらずにハマーに張り付いている4台に対し、まずは隊列後方の中央の車線と左の車線2台に目をつける。後部座席から体を乗り出してAKを構えていた男達の手に向けてP226を構えてパンパンッ!!と素早く発砲……見事命中した。
道路上に落ちたAKを踏まないように避けてから運転中にも関わらず、中央の車線についていた車輌の運転手の両肩を"跳弾"で当たるようにパンパンッ!!と発砲。
放たれた二発の弾はアスファルトの上を跳ねて狙い通り運転手の左右の肩に命中。さらに追い討ちを掛けるように左側の後輪に向けて発砲すると、車体は安定性を無くし、キィィィィ!!という悲鳴のようなスキール音をあげながらも左の車線についていた車輌を巻き込むようにスピンした。
ガシャンッ!!という衝突するような激しい音が響き渡る中、右側の車線に移動して事故を起こした2台を回避するZ。
すると、隊列前方で左右の車線に展開していた2台がZを危険と見なしてそちらに目をつけてきた。
Zが中央の車線に戻った時に右側車輌の後部座席でAKを構えていた男が武装を切り替える……RPGだ。
「先輩!危ない……っ!!」
ハマーの車内であかりが心配している間にRPGの弾がZに向けて放たれる。
……が、Zはフォンッ!!という短い音をあげながらも左側の車線に移ってロケット弾を回避。
中央の車線でロケット弾が炸裂する中、博也は車体が爆風に流されないように左手でステアリングを操作しながらも右手でP226を手に右車線についていた車輌のタイヤを撃ち抜いた。
コンクリートで固められた分離帯に衝突している間に前を走る最後の車輌のタイヤをパンッ!パンパンッ!!と撃ち抜く。
後部座席にいた男がAKを構えようと動いていたが、車体が暴れ始めたことでダダダダッ!!と全く別の方向に向けて発砲してしまう。暴れ始めた車体がガードレールに当たって減速を始める中、博也はそれを追い越して素早くハマーの左にZをつけた。
……ビルの屋上にいた女は双眼鏡でそれを確認すると、苦虫を噛んだような表情を浮かべてしまう。とりあえず報告しなければならないとG.Dに状況を説明を始めた。
「用意した車輌は全てやられたわ……どうする?」
「―どうしようもないだろ。作戦は失敗だ……その場から撤退しろ」
あまりにも潔い言葉に「ちょっと……!?」と驚きを隠せない様子の女。このままでは自分としても後味が悪いと思い続けて進言しようとしたが、その前にG.Dが溜め息混じりにその理由についての説明を始める。
「―無策で突っ込んだら開いた墓穴を更に広げることになる。計画をプランAからプランBに変更、次は期間をあけてからの仕事になる。
今度は頼むぞ、"マスカレード"」
「……了解」
・
―数時間後、とある青空駐車場
日も上って朝を迎えた時間帯。
奥のスペースに停まる新しいZと86、銃痕だらけのハマーの3台……一年生グループと麒麟がハマーの車内で休んでいる中、博也と大樹は新しいZの前に立っていた。
「本当に3日で仕上がったんだな……」
「すっかり見た目も変わっちまったけどな。
にしても、ヤバイ…今月ピンチだぁー……」
自分の金銭面での状態を思い出してその場で「はぁ……」と大きく溜め息をつく博也。それに対して横に立っていた大樹は苦笑いの表情を浮かべながらもこんな意外なことを呟いた。
「俺も同じような感じだ」
いつもは"またか"と言わないばかりに馬鹿にするが、今回はなんと同情してきたのだ。「フォアッ!?」と驚きの声を出しながらも大袈裟に下がって半歩程距離をとる博也に対し、彼は口元の辺りを軽く上げるようにしてその理由について答えた。
「俺も自分の86をもっといじることにした。まずはコンピューターから……最終的にはお前のZみたいにターボ化する予定だ」
「でも、お前……高千穂いるだろ。金には困らないんじゃ?」
「バーカ、そんなヒモになったら人間終わりだ。ならないように出来るだけ自分の力だけでやってみるよ」
そうこう話している間に一台の赤いミニクーパーが駐車場に入ってきた。Zの横に停まると助手席と運転席から誰かが降りてくる……アリアとののかだ。ののかの方は目に巻いていた包帯を外してすっかり元気になった様子だ。確認したあかりがハマーのドアを開けて飛び出すように降りていく。
「ののか!!」
「お姉ちゃん!!」
ギュッと抱き締め合う間宮姉妹。そんな二人の様子を微笑ましそうに博也と大樹が見ている中、アリアは姉妹が離れたのを確認すると歩み寄りながらも語り始めた。
「尋問科(ダキュラ)が夾竹桃から解毒方法を聞き出したのよ……それから、私の方の作戦だけど犯人を取り逃がしたわ。戦姉妹の関係が逆転した結果になったわね」
アリアの言葉にふと疑問を抱く博也。彼女も一緒に行動していたのだろうか……?
「ちょっと」と声を掛けながらも三人の方へと歩み寄って行く。
「神崎、お前も何処かで行動してたのか?」
「ええ、私も自分の額に傷をつけた相手である武偵殺しを追っていたわ。飛行機の中で追い詰めたけど、最後の最後で逃げられたの」
へぇ……と言わないばかりの表情を浮かべる博也に対し、アリアは急にあかりに目を向けてこんな鋭い指摘をしてきた。
「アンタは確かによくやったわ。でも、死ぬ気で戦ったわね?その顔を見れば分かる……
何度も言ってるけど、もう一度だけ言うわ。死んでもいい実戦なんて無いのよ」
その言葉を聞いて「はい……」と俯くあかり。だが、そんな中、先程まで唯一離れた位置に立っていた大樹が歩み寄りながらもアリアの言葉に付け足すように呟き始めた。
「神崎の言う通り、死んでもいい実戦なんてない。
だけど……
死ぬ気で戦うかどうかは状況によるんじゃないか?
死ぬ気で戦わなければ生き残れない状況だってあるんだ」
その言葉に博也も腕を組んで首を小さく縦に振るようにしながらも「確かに」と頷いてから更に続けるように語り始める。
「死ぬ気で戦わなければならない状況ってのは基本、危ない状況に陥った時だ。本当に死ぬかどうかは本人の思いの強さと力量次第」
そう語りながらも三人から離れてZの運転席側に回り込む博也。カチャッとキーロックを解除しながらもドアノブに手を掛けた時、顔をゆっくりと上げてもう一度三人の方に向けた。
「最後に死ぬって話題関連してだが……
死んではいけないとは言ってはいるも俺達は職業柄、いつ死んでもおかしくない。
明日になるかもしれないし、明後日になるかもしれない……いや、今日の可能性も否定出来ない。
誰もそのタイミングいつになるかは分からない。
だからこそ、今を強く生きよう。悔いがないように」
そう言い残してから運転席に乗り込み、エンジンを始動させる博也。ガガガッ!バオンッ!!と咆哮のような始動音を響かせてからゆっくりと駐車場から出ていく華麗なスタイリングの車影……
三人がそれを見届ける中、博也は車内で珍しく不安げな表情を浮かべていた。
「(なあ、Z……俺、恐いよ。
この先、新しくなったお前を……しっかりと乗りこなせる気がしないんだ)」
・
―武偵高 尋問科取調室
尋問科の顧問、綴梅子は夾竹桃への取り調べを行っていた。対峙するよう座りながらも煙草を吸う梅子に対し、夾竹桃は無表情で彼女のことを見ている。
「とりあえず、ある程度は聞けたから最後の質問……
最後に追ってきた車に乗っていたのはお友達か?
うちの生徒が色々と聞きだそうとしてるが、"知らない"とか、"分からない"の一点張りなんだ」
如何にもかったるそうな問い掛けに対して無言ながらも小さく首を横に振る夾竹桃。一体、何者なのか問い掛ける前に彼女が説明を始めた。
「違うわ、彼らは"多分"何の繋がりもない一般人。
操られてたのよ……ある人物によって」
「……ある人物?」
吸っていた煙草を一旦口から離して灰皿の上に置きながらも確認するように問い掛ける梅子。それに対し、夾竹桃は一切隠す素振りを見せずにその人物について語り始めた。
「コールネーム、マスカレード……
イ・ウーと敵対関係になっている組織、"フェンリル"の幹部の女よ」
「フェンリル……?聞いたことないな」
「世界中で暗躍し、政治経済を動かしていると言われてる組織よ。主なメンバー構成としてはハッキング等の工作を行うホークアイ、戦闘要員兼サブリーダーのB.R、そして……」
少しだけ間をあけるように口を動かすのを止める夾竹桃。梅子が置いていた煙草のカスがポトッと静かに落ちると共にゆっくりと口を動かし始めた。
「かつて最強の武偵と呼ばれながらも地に堕ちた……リーダーのG.D」
どーも、350Zです。
ACT3、これにて終了です。
アニメで言ったら1クール目終了……と言ったところでしょうか。
いかがでしたか?
夾竹桃の証言によって敵の実態が明らかになりましたね。
しばらく期間を開けると言ってましたが、その間に何をするのか……気になりますね。
そして、新しいZがどんなエアロ付けてるのか分かりましたね!
正直、直前までもう1つ候補があったのですが……
空力が良さそうなスタイリングからアミューズに決めました!
にしても、あれだけ乗りこなしていた博也君が最後に不安そうな言葉を呟いていました。
それに関しては次章にて分かるようにしたいと思います。
ちなみに次章で新キャラを追加します!!
どんなキャラなのか、どんな車に乗るのか?
ある程度は決まってますが、それは次章までのお楽しみです♪
さて、アニメの方がもう終わりかけですね。
まあ、最後の辺りとかいい展開にはなってるとは思うのですが……
1つだけ不満を言わせて下さい。
乾桜ちゃん出せやゴルァァァァァァァッ!!!!
実は350Zは桜ちゃんが好きだったりします。
(あんな後輩欲しいなぁー……
もう出ないなら、こっちで出そうかな?
というわけで……読者の皆様に問い掛けます。
桜ちゃん、出してもいいですか……?
感想で良いので解答よろしくお願いします……
あ、ちなみに次回の投稿は年末ということで本編とは関係がない完全なギャグ回になります。
次の話だけキャラ崩壊があると思うので、御注意下さい……