緋弾のアリア-X-クロス   作:350Z

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第二話 オーバー・イット

 

―大黒PA

 

 

盛り上がりを見せていたミーティングも終わりが近付いてきた。チラホラと駐車場から去っていく歴代Z達の後ろを見た博也はスマホを手に時間を確認する…

 

到着してからかなりの時間が過ぎていた。

 

 

 

「あかり、かなり時間が経ってるけど大丈夫か?明日休みと言っても、あまりにも遅いと妹さん心配するんじゃないか?」

 

 

 

「そ、そうですね…そろそろ帰ります」

 

 

 

「わかった。じゃ、乗ってくれ」

 

 

 

キーを手にとって遠距離からカチャッとドアロックを解除する。それを見て小走りで駆け出してZの方へと向かうあかりだったが、それに対して博也の方が誰かがZの方へと歩み寄って来るのに気付いた。

 

切れ長の目にマッシュショートの赤茶色の髪、色白の肌。四角いフレームの黒縁メガネを掛けている青年。

 

武偵高の制服は着ているが、見たことがない……

 

 

少し警戒するようにしながらもZに近付いていくと青年が足を止めた。

ドアノブに手を伸ばして乗り込もうととしていたあかりも、カッというアスファルトを踏み締めるような足音で彼の存在に気付いて動きを止める。

 

 

 

「え…?」

 

 

 

「…少し待ってろ」

 

 

 

そう言いながらも警戒するように目を向けながらも青年の方へと歩み寄る博也。あかりの前まで来たところで「アンタ、誰だ?」と問い掛けると、彼は苦笑いするようにしながらも敵意はないと伝えないばかりに両手を軽く挙げて見せてきた。

 

 

 

「怪しいものじゃないですよ。見ての通り武偵高の生徒です」

 

 

 

「名前は?」

 

 

 

「早川晃之(ハヤカワテルユキ)、二年生です」

 

 

 

聞いたことがない名前…思わず首を傾げる博也だったが、その後ろであかりの方が「あっ」と小さく声を出した。何か知ってるのだろうか…?

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

「噂ですが聞いたことがあります…確か、福岡武偵高から転校してきたとか」

 

 

 

「福岡から?にしても、どうして学校で見ないんだ?」

 

 

 

「進級出来るだけの単位を取っているから学校に来る必要がないんですよ。ランクは車輌科Aランク、強襲科Aランク、衛生科(メディカ)Bランク。先輩と同じく向こうで"オールラウンダー"の異名を持っていたそうです」

 

 

 

あかりの説明を聞いてその出来すぎなスペックに驚きながらも「なるほど…」と小さく頷く博也。改めて用件を聞こうと早川の方に目を向けると、何を言おうとしているのか察したのか先に用件を切り出してきた。

 

 

 

「市ヶ谷先輩…ですよね?貴方にお願いしたいことがあって来ました」

 

 

 

「お願いしたいこと?」

 

 

 

「ええ、車のことで…」

 

 

 

そう言って後ろの駐車スペースに停まっている一台の車に目を向ける早川…

ガンメタ塗装で刀のように研ぎ澄まされたボディ、旧車ならではのリトラクタブルと呼ばれる開閉式ヘッドライトでサイドミラーはドアミラータイプ。SA22Cだ。

 

 

 

「SAセブン…!?」

 

 

 

博也の言葉に反応するように「えっ!?」と声を出すあかり…先程の青Zのオーナーの話に出ていた車と車種も塗装も一致する。

もしや、青Zのオーナーが言っていた車と同じなのでは…?

そう考えていると博也の方が「そういうことか…」と小さく呟いてから答えを出した。

 

 

 

「俺の方もアンタと話したいことがある。でも、後輩を家まで送らないといけなくてな…その後でもいいか?」

 

 

 

「はい、構いませんよ」

 

 

 

「じゃあ、10時に落ち合おう。場所は…」

 

 

 

「武偵高の前でお願いします」

 

 

 

早川の言葉に「わかった」と小さく頷いてからZの運転席に乗り込んでシートベルトを締める博也。彼に続くようにあかりも助手席に乗り込んでシートベルトを締める。が、ゆっくりと発車しようとした時…彼女はどこか心配そうな目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―午後10時頃、武偵高前

 

 

先程の大黒PAの雰囲気とは一転、閑静で静まりきった正門前。Zを待つ早川は路肩にSA22Cを停め、エンジンルーム内をチェックしていた。街灯によって車が照らされてはいたが、夜間の作業に充分と言えるようなものではない。口に小型の懐中電灯をくわえ、中を照らしながらも配管やパッキン類の状態を確認していく…異常はないようだ。

安堵の笑みを浮かべながらもボンッとボンネットを下ろした時、ブォンッ!という咆哮のようなサウンドが聞こえてきた。

 

 

 

「(来たか…)」

 

 

 

くわえていた懐中電灯を右手に持ち、スッ…と顔を上げた時にヘッドライトの明かりがパッと彼を照らしてきた…白のZ33だ。SA22Cの後ろにつくように車を停めると、運転していた博也がゆっくりと降りてきた。

 

 

 

「待たせたな」

 

 

 

「いや、気にしてないですよ」

 

 

 

そう言いながらも懐中電灯をポケットにしまう早川。カチャカチャ…という音が響き渡る中、博也は街灯に照らされたSA22Cに目を向けた。ボディには傷ひとつ付いてない。それどころか、新車を感じさせるような艶のようなものを放っている。

 

 

 

「綺麗だな…これ、何年式だ?」

 

 

 

「84年式、SAの中でも後期型です」

 

 

 

「84年式…か」

 

 

 

84年式…博也がZの前に乗っていた鉄仮面と変わらないぐらいの年式だ。

SA22Cと鉄仮面…この二車種は当時1、2位を争っていた屈指のスポーツカーだった。しかし…時が流れ、技術が発展した。その分、今と昔じゃ大きく違う。昔の車ではチューニングするにも限界がある…そのことはかつて鉄仮面に乗っていた博也も痛いほど分かっていた。

 

 

 

「(スーパーチャージャー仕様のZに勝つ旧車…か。

一体、どんな組み方してるんだ?エンジンルームの中を見せてもらうか)」

 

 

 

等と思っている時に早川が突然、運転席側のドアを開けて「どうぞ」と言ってきた。突然のことに博也が「は?」と言わないばかりの表情を浮かべているとフッと彼は自然な笑みを浮かべながらもこんなことを言ってきた。

 

 

 

「この車のことが知りたいんですよね?なら、運転してみて下さい。エンジンルーム見るよりも分かることがありますよ、絶対」

 

 

 

 

 

 

 

 

―数十分後、C1エリア

 

ギュウィィィンッ!というロータリーエンジン特有のサウンドを轟かせ、湾岸線エリアから合流してきたSA22C。

二車線という少ない車線で右に左にヒラリヒラリと舞うように一般車をかわしていく…その感覚に運転していた博也も驚きを隠せないでいた。

 

 

 

「(動きが軽いな…足回りも古いものとは思えないぐらいに働く、動きもスムーズだ)」

 

 

 

驚いていたのは運転している彼だけではない、助手席に座っていた早川もだ…が、驚きの対象は車ではなく博也の対応力と腕に対してだ。

 

 

 

「(初めて乗る車をここまで上手く走らせるとは…)」

 

 

 

低速コーナーでブレーキングを行い、フォンッフォンッ!とシフトダウン。一般車がいないため、アウト・イン・アウトの基本的なライン取りでコーナーを抜けていく…安定したところで再びアクセルを踏み込んで加速。

加速Gが車内に伝わりギュウィィィン!!というサウンドが響き渡る中、メーターの斜め上に取り付けられた緑色のブーストメーターで圧を確認した博也は小声で「なるほど…」と小さく呟いてから助手席に座る早川に向けて話し始める。

 

 

 

「12A(元々のエンジン)からエンジン載せ換えてるだろ?コイツ。」

 

 

 

「と言うと…?」

 

 

 

「恐らく、同じロータリーエンジンでもSAセブンの二つ後のFD3Sに載っていた13B-REWが載っている。パワー的なチューニングとしてはタービン交換と軽いブーストアップ、最大馬力は400馬力弱…ブースト圧と馬力を照らし合わせるとタービンはT04あたりか。でも」

 

 

 

淡々と話しながらも軽くブレーキペダルを踏みんで姿勢を整えてからズワンッ!と左車線に移り、一般車をかわしていく。再びアクセルを踏み込んで加速を始めた時に"やっぱり"と言わないばかりの表情を浮かべてから話を続けた。

 

 

 

 

「コイツの最大の武器はパワーじゃない、車重の軽さだ。感覚的には1000kg切るか切らないかってところ。そうなると、パワーウェイトレシオは2.5キロ前後ってところか」

 

 

 

パワーウェイトレシオとは、車重とパワーの比のことで、値が少なければ少ないほど加速力が優れているとされている。

この値がどれだけ少ないのかという例題を出すと、軽量化なしのZの車重が1450kg。このSA22Cと同じだけのパワーウェイトレシオにするには580馬力は必要になる…350馬力のZが負けるわけだ。

詳細を口にしてそも速さを強く感じていた博也に対し、早川はフッと笑みを浮かべた後に「流石ですね」と呟いて語り始めた。

 

 

 

「正解です。エンジンは後期型のFDからの流用、タービンはT04。車重は1000kgぐらい…もっと言うと足回りもFD用の社外のものをベースに改造して取り付けたものです」

 

 

 

「そうか…どおりで抜けがなく仕事するわけだ」

 

 

 

そのままC1をぐるりと一周後、120km/hまでペースダウンしていき湾岸線エリアに戻る…武偵高へと戻ろうと走らせていると、早川の方が突然、切り出してきた。

 

 

 

「次、Zに乗っていいですか」

 

 

 

「乗るって…運転するってことか?」

 

 

 

「いえ、横がいいです。先輩が運転して下さい」

 

 

 

早川の言葉に再び意外と言わないばかりの表情を浮かべる博也。この流れなら運転するのは彼だろう…だが、目を見る限りでは遠慮をしてるわけではなさそうだ。

彼には彼なりの考えがあったからだ…

 

 

 

「(初めて乗る車をこれだけ上手く走らせたんだ…自分の車ならもっと上手く走らせるに違いない)」

 

 

 

 

 

 

 

 

―十分後、Z車内

 

ゆったりとした速度で湾岸線エリアへと入る博也のZ。助手席に座る早川はステアリングを握る博也の方に目を向ける…すると、一ヶ月前に意図も簡単にオーバーテイクされた光景が頭の中に浮かび上がった。

あれだけ速い車の助手席に乗れるとは自分はツイている…これだけの貴重な体験は二度とないかもしれない。

 

 

 

「(しっかりと体験させてもらう…この車のスペックとアンタの腕を)」

 

 

 

80km/hで走っていたZが4車線の最高速ポイントに差し掛かった。すると、「踏むぞ」と告げると共に博也がアクセルを踏み込んでいく。ブォォォォン!!というV型エンジンのサウンドを響かせると共に加速を始めるZ。先程のSA22C以上の加速Gが車内に襲い掛かってきた。

グンッ!とシートに押し付けられるような感覚に早川は驚きのあまり「っ!?」と言葉にならない声を出す。

 

 

 

「(凄い…!Gで体が押さえ込まれる!

ジェット戦闘機にでも乗ってる気分だ…!!)」

 

 

 

Defi製のデジタル追加メーターがピィィ!というアラート音を鳴り響かせる中、シフトノブを握って2速から3速にシフトアップ。それから間もなくして再びピィィ!というアラート音が鳴り響き、再びシフトノブを握って3速から4速にシフトアップ。…ターボ特有のラグはない、追従するようにブーストが掛かっていく。

そんな中、一般車が前から迫ってきた。

軽いブレーキングで姿勢を整えてから左車線に移ってかわし、再び加速……終わる気配を見せない加速に早川は言葉を失ってしまう。

 

 

 

「(今までZは車重が重い見せかけだけの車だと思ってた…でも、コイツは違う。間違えなく"モンスターマシン"の部類に入る…!!)」

 

 

 

最高速区間が終わるとブレーキング行い、スローダウン。80km/hというC1エリアに入っていくのを見て運転している博也の方に目を向ける早川…すると、彼はどこか不安げな表情を浮かべていた。

 

 

 

「(……?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

―翌日

 

屋根がある屋外駐車場 朝

 

 

チュンチュン…という小鳥のさえずりが聞こえる中、赤いツナギ姿でSA22Cのチェックを行う早川。ボンネットを開け、エンジンルーム内に手を入れてチャキチャキッと工具を動かしているとふと前日の博也の表情が頭の中に浮かび上がった。C1に入った途端のあの不安げな表情だ。

 

 

 

「(あの時、何があったんだ?マシントラブル…いや,計器類に異常はなかったし、異音という異音も聞こえなかった…完璧かどうかは知らないが、Zの調子は悪くはなかった)」

 

 

 

そう思いながらもチャキッと増し締めを終えたところで工具を地面に置いていた箱にしまい、バンッとボンネットを下ろす。箱を手に運転席に乗り込み、助手席に置いてからステアリングを握りながらもキーを差し込んでセルを回し、エンジンを始動させた。ギュウィンッ!!というロータリーエンジンの咆哮がガレージ内で響き渡る中、「ふぅ…」と小さく息をついた後にサイドブレーキを下ろし、ギアを入れてゆっくりと走らせていく。

 

 

 

「(まあ、いい。そんなことより、今はあのZよりも速く走れるようにコイツ(SA22C)を仕上げることの方が重要だ。少なくとも今のままではダメだ…もっとパワーがいる)」

 

 

 

首都高経由で東名高速に合流。東京のお隣、神奈川に入る…

更に十分後、高速を降りて下道を少し走らせて行くとある大きなチューニングショップに到着した。

車が10台は入りそうな広いガレージ…従業員が薄汚れた紺色のツナギ姿で黙々と作業を進めているのをチラッと見ながらも横長の駐車場にSA22Cを停め、ゆっくりと降りていく。

アスファルトの路面に足を付けた時、ガレージ入り口の上に表示された看板に書かれたショップ名が目に入ってきた。

 

ショップの名前は…"L'sプロチューン"。

 

 

 

 

 

 

「…ここか」

 

 

 

 

 




どーも、350Zです。

SA22Cの速さの秘訣はエンジンなんかの中身がFDだったという落ちでした…


「だったら、FD出せよ!!」


と言いたくなる読者様もいられるかと思いますが、自分としてはどうしてもSAを出したかったのです。


こういう走り系の作品(特に頭○字D)で何かと前に出されるのはSAの後継のFCやFDばかり……
そのせいからか、このSA22Cが初代RX-7だということを知らない人も多いかと思われます。歴代RX-7の中でSA22Cが一番好きな作者としては少しでもそれを無くしたいと思い…SA22Cをチョイスしたというわけです。


でも、SAって何か良いところあるの?と思われる方もいるかと思いますが…

ズバリ答えます。

それは、今回の話にも出てきた"軽さです"

SA22Cは軽量化なしでも車重が1000㎏ちょっとと恐ろしいぐらい軽いのです。(まあ、古いぶん色々と物が省かれてるとかってのはありますが…)

ちなみにSAの後のFCは車重が1250㎏ぐらい、その後のFDの車重は1280㎏ぐらいだった気がします。


これを見るとどれだけ軽いのか分かりますよね?


でも、エンジンとかがFDだったら重くなるんじゃ…?
という方もいるかと思います。

確かにそのままにしてれば重くなります…が、ロータリーエンジン特有の軽さを考えると、軽量化を加えてやればノーマルとの差は±0ぐらいにはなります。

なので、早川のSA22Cはノーマルとは変わらないぐらいの軽さになったのです。

((なんか思いきったことを書いたからツッコミが来そうで恐いなぁ……))


まあ、SA22Cの話はこの辺にしておいて…


最後に出てきた"L'sプロチューン"。

覚えてらっしゃる方いますか?

覚えていない方はACT.3『黒い狂気』の第五話を読んで見て下さい…

きっと「あっ!!」っとなります。

というか、なって頂きたいです……


まあ、今回はここまでにします。

東京遠征の話の続きは次回の後書きで書きたいと思います…

では、また次回お会いしましょう!

さよなら!!
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