4、守りの一手と攻めの一手。
鉛の弾が飛び交い爆風が辺りを震わす中走れ。例えこの身を撃ち貫かれようとも魂の潰える事はない。
しっかり目を見開き、敵を見ろ。後ろを向く必要はない。背中は仲間が守ってくれる。感覚を研ぎ澄ませて感じろ。そうすれば勝利のシンフォニーが響く。
我々は国に忠義を尽くすのではない。己の義に尽くすのだ。
――落ち着け、そしてよく狙え。お前はこれから一人の男を殺すのだ チェ・ゲバラ――
「お前がそれを望むなら好きにするといい。」
案外あっさりと認められてしまった。今までは隠密行動以外は一切認めてくれなかったのだが……。
「いいのですか?」
「あぁ、先ほどの会議でも言われた。戦力が弱い、要塞壁もないでは敵に入り口を与えているようなものだと。」
意気消沈気味に口を開くヒルトリヒ。
「そうは言っても、帝国との友好関係を持つと言ったのはウルリッヒ2世ではないか。だから交易郡市として関所の役を買って出たのだ……。」
軍帽を机の上に投げるように置いた。
「全く、ドイツもこいつも好き勝手しやがって……。」
事実、帝国との友好関係を言い出したのはウルリッヒ・エーデルフェルト王。それに対して反発していた他国を諫めたのはヒルトリヒだった。
汚れ役を買って出たのに結局嗜められているのだ。業を煮やすのも理解できる。
「ヒルトリヒ様、こうするのはどうでしょう?ブレーベルグとの国境付近に簡易防壁を作り、その間に要塞壁の建設をする。最前線は私が指揮します。」
ブレーベルグは帝国から見放され共和国からも圧力がかかっていて触発状態。一方、隣国ブジンベルグはブレーベルグに対して攻撃状態をしめしているが、こちらには攻撃姿勢ではない。そして、両国に対して突き出す様に領土があり、その箇所、直線距離100キロだけ国境壁がない状態。ブレーベルグに向かって右のエリカ山脈から80キロ、左の隣国エムフェルドから20キロの地点までは壁があるのだ。
直線的に国境を仕切れば最短距離、最短時間で要塞を築ける上に最も安全な方法。しかし、領土の一部が剥き出しになる為にブレーベルグが陣取る可能性が高くなってしまう。
「それしか方法はないか……。兵や資材は私が用意しよう。」
「ありがとうございます。」
これはヒルトリヒにとって苦渋の決断だった。
交易で発展して、都市レベルまで大きくなった村を破棄するのは遺憾。多くの市民商人に場所を棄てさせなければならない。それは信用問題になり兼ねないのだ。信用を損なえば士気の低下にも繋がる。
「しかし、簡易防壁で防ぎきれるのか?」
「策はあります。少し古いですが、東国に火縄銃を使った戦法があるのをご存知ですか?」
「あぁ、見たことはないが、鉄砲隊を3列に布陣して順番に撃つ。という戦術だろう?」
「えぇ、銃の性能は上がっても装填数は1発。装填時間に進行されては意味がありません。防壁に小さな穴を空けて狙えば、敵からは当たりにくい。」
「防壁まで進軍されたらどうする?」
「これも古いですが、馬防壁を後方に設け、砂袋を敷き詰めた簡易防壁を作って足止めなはどうでしょう。それからガトリング式の銃もいくつか投入すれば充分に時間は稼げる筈です。」
ガトリング銃があるだけで進行が止まる。そう言った意味でも有効だった。
「分かった。なんとか準備しよう。」
「お願いします。私は少し準備に取り掛かりたいので、しばらく留守にします。」
ソファーから立ち上がりサーベルを腰に差す。
「準備?一体なんのだ?」
「簡易防壁を作る時間稼ぎです。」
「その間の指揮はどうする?」
「アドルフ・ヒルト・ティルピッツにお願いしてあります。彼なら大丈夫ですよ。」
「アドルフ?まぁ、お前が信用できない奴なら文句はないが……。って、いないし……。」
このまま防壁一辺倒では時間稼ぎも高が知れていた。つまり、敵の進行を遅れさせる一手も必要なのだ。だが、不用意に突けば進行を早めることになる。蜂の巣と同じ、燻して麻痺させなければ逆に群がって来る。
ドルフは今、ブレーベルグ領のエリカ山脈にいた。目的は山脈に陣取っている敵軍基地。緑の豊かなこの山脈は伏兵や奇襲を仕掛けるには最適な場所。そして、山頂の基地への物資を絶ち、奇襲を仕掛ける。
「……。」
唯一、人の通った跡のある道の木の上に登り、補給隊が来るのを待っていた。
望遠鏡を覗いてふもとの方をじっと見つめる。
葉の間から白い軍服が動くのが見えた。1キロ先、移動速度からいって馬車での移動だろう。そのまま地面に降り、サーベル抜いて待つ。
黒のアサシンの衣装が余計に不穏な空間を作り出していた。
右手のサーベルだけ逆手に持ち変えると、補給隊が見えてきた。距離300メートル。
ドルフを発見した隊は止まり、先行していた2人が近寄って来る。
「ここは立ち入り禁止区域だぞ!」
「そこをどきなさい!さもなければ敵対行為と見なし攻撃する!」
体勢を低く右足を軸にし、左足を滑らす様に左に一回転する。左足が敵の方を向いた瞬間、地面にがっちりつけて、向かって右側の兵士にサーベルを投げた。
その反動のまま走り出すと、サーベルが命中した鈍い音が響く。
左の兵士が驚き、隣を見た頃にはドルフはもう目の前。音も無く貫くサーベル。赤く染まってゆく軍服を目に声を出せずにドルフを見た。
「て、敵襲っ!!」
馬車に乗った兵が叫ぶ。
右手で敵の腰からサーベルを走らせ、左の足を回して身をよじり左のサーベルを放つ。トンッと木に突き刺さる音が鳴って自分に刺さった剣を握り悶えている。馬車の後方からぞろぞろと隊が向かって来た。
走って2頭の馬の間を抜け、馬車に駆け上りながら剣を抜いて屋根に上がる。
消えた敵に横たわる仲間を見て動揺する兵。
死角から首を切り、次々と切り倒してゆく。隣にいた友人も上司も同僚もたおれてゆく。
「いたぞぉっ!!」
バァンっ!
ドルフは撃たれた。
流石の威力に後ろによろけるが、目を合わせて首を傾げる。
20人編成の部隊が僅か1分足らずで壊滅した事など誰も知らない。
今亡き彼らとドルフ以外は…………。