6、窮鼠猫を噛む
「構えぇっっ!」
気付くと、4人が銃を自分に向けている。その後ろに1人指揮官いて、もう1人は去ろうとしているところだった。その去ろうとしている男、ミュン・ゲルリッツを見た瞬間、自分でも驚くほど殺意が湧いてきた。目を見開き、バキバキと軋む体を無理遣り動かす。それを見た兵士は「なんだ……!?」「なぜ動ける?」そう動揺し、怯んだ。
「か、構わん!撃ち殺せっ!!」
バンバン、バァンっ、バンっ!!
弾が体を突き抜ける。痛いには痛いが、すぐに引いていきむず痒くなっていく。
不思議な感覚だ。
自分の体じゃないみたいに軽い。
今なら何でもできる。そう思わせるくらいの興奮。
とは言っても、体中の関節は悲鳴を上げて心臓は必要以上に拍動している。まるで動くなと警告しているかのようだ。
「ふふ……フハハハハハ……ハハハ……!」
動くのが不思議で仕方ない。普通なら意識がギリギリのあるか、死んでいる。なのに頭の中は「殺せ」「立って殺せ」「死ね」「皆殺しにしてしまえ!」と幻聴の様に叫び散らしてきて、体がそれに従おうとしているのだ。
麻薬でも吸ったかの様な高揚感、狂ったみたいな殺意。
「そっ、装填っ!」
ドルフは鞘からゆっくりとサーベルを抜いて、抑えきれない笑いに顔を歪めた。
「うて………。」
「ナメクジみたいに動いてんじゃねぇよ……眠くなっちまうだろうが。」
刹那、ドルフのサーベルは指揮官の口から入り、後頭部から突き出ていた。
4メートル離れていた所で座っていた筈の彼が目の前に現れ、後ろの上官を殺したことに気付いた兵士達がドルフを見ようと首を動かしたその時。喉に違和感を感じ、溺れていく。口から血が溢れてきて息が出来ない。化け物を見る目でドルフを見上げながら倒れていく。
「クク、聞こえてねぇか。」
サーベルが刺さったまま動かなくなったそれを足蹴にして引き抜いた。
死体を踏みつけながら部屋をゆっくり出る。
全てがスローモーションに見え、歪んで遠近感が解らない。
遠くに人がいる。いや、近くか?
自分の体がなのに言う事を聞かない。
「んンぅっ、はぁぁあっ……ククク。まぁ、どうでもいいや。」
こちらに驚いて銃を構えようとしているが、ゆっくり過ぎる。
サーベルを逆手に持ち直して槍投げみたいに投げた。鋼が突き刺さって振動する音が遠くから聞こえ、人が倒れていく。
もう1本のサーベルを抜いて、隣の部屋の扉を蹴破った。普通であればノブが壊れて開くのだが、蝶番すら壊れドア自体が軽く吹き飛んだ。
ゲルリッツが両手を挙げて何かを言っている。どうやら「気に入った、5千フルトでどうだ?」と言っているらしい。(ちなみに1フルト約100円相当)
「もっとか?では1万フルトでどうだ?ん?」
男の態度に首を傾げて見せる。
「わ、分かった。5万フルト!」
さすがに機嫌を損なわせたら危険だと分かったのか、報奨金を一気に上げてきた。
「これ以上は無理だ……。」
ドルフは勢い良く机にサーベルを突き刺した。それにビクッとするゲルリッツ。
机を回り込む。
「交渉は成立かな……?」
左手を挙げたまま右手だけを恐る恐る差し出してきた。
「名前はっ……んぅっ、ぐっ!」
握手をする振りをし、右隠しナイフを脇腹に突き刺す。
「し、し、し、しー……。」
倒れそうな彼の体を支え、耳元で子供をあやす親みたいな優しい声で続ける。
「俺はフュルフェンドルフだ。人の話は最後まで聞いた方がいいぞ……?」
それからゆっくりと床に下し、壁に凭れさせた。
ふと、壁に銃があることに気が付いた。
「リボルバー銃を持っているのか。貰うぞ。」
「んっ……あくま、め、っ……!」
弾と拳銃を棚から取って去ろうとしたドルフにそう吐き捨てた。
それを聞いて、ゲルリッツに銃口を向ける。
彼は続けた。
「地獄に堕ちろ……。」
バンッバンッ!!
罵倒してくる彼の下腹部に2発撃ち込んだ。苦しむように。
痛みのあまり喋る事すらできない彼を一瞥し振り返ると、仮面が壁に飾られていた。髑髏を模した白い仮面。それを手に取るとフードの中の顔に付けて去る。
1室1室、扉を開けて目標でなければ女子供関係なく撃ち殺してゆく。
もう兵も在中貴族もいない筈。
1階の最後の部屋。
ドンっ
ノブを打ち壊して開けると、部屋の隅で蹲って震える青女がいた。歳は20前半くらいといったところか。
「名前は?」
傍に寄り、撃鉄を静かに引いた。
「名前は?」
「ア、アマリア、です……。」
「アマリア・グライツギーセン・ヴァルデントゥガルか?」
「は、はい……。」
撃鉄に親指を宛て、弾が爆ぜない様に引鉄を引くと撃鉄をゆっくり戻した。
「こっちを見ろ。」
恐ろしさのあまり涙を流しながら、ドルフを見詰めた。
ブロンドの髪とグリーンの瞳、左目の泣きぼくろ。特徴は全て合っている。
「付いて来い。」
「だも、あのっ、血が……!」
気付けばあちこちボロボロで、黒地の外套でも血が分かるほど濡れている。触ってみるが、傷は塞がっていて痛くもない。
「いいから来い。」
「えっ、やっ、あなたは?」
状況が解らず嫌がる彼女の手を引き、近くに用意していた黒い馬に乗せた。彼女の後ろに自分が乗ってヒルトリヒの屋敷へ向かったのだった。
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