契約者(題名仮)   作:がっきー神父

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第2話ノーブレス・オブリージ 1、ドルフの真意

第2話 ノーブレス・オブリージ

 

 

1、ドルフの真意。

 

この世には君の哲学では知り得ない事がまだまだ沢山ある。

シェイクスピア

 

世の中には知らない事が溢れている。自分では何でも解っている気でいても、その大半が謎。それを不鮮明なまま良しとし受け入れるか、何が起ころうとも探し求めるかは自分次第であり、周りの環境次第でもある。丁度親が子供に「大人になったら分かる。」と説く様なもの。解っている様でいて何かと問われれば、はてさて答えられない。そんな曖昧なものである。だが、深く考えた所で結局簡単には解らないし、時間ばかりが流れて行ってしまう。

まぁ、あまり面倒な事を考えて時間と現実を忘れようにも極論、現実は現実はでしかない。

差し迫った事を解り易く言うなれば、そう。迷子だ。正確には迷い大人だが、この際細かい事などどうでもいい。それどころではないのだ。

「ふむ…………。」

透き通る美しい湖をのぞき込み、月を見詰めるが答えなど出る筈もなかった。

アマリアをヒルトリヒの屋敷まで届けた所までは覚えているが、そこから記憶が飛んでここにいた。

見た事のない湖。

かれこれ2、3時間くらいはここに釘付けになっている。考える事など山の如くあるし暇はしていないが、下手に動けない現実がドルフを焦燥させている。

湖の周りは目が回るほど何周も回ってあきた。というか、菱形で3、4メートル四方くらいしかない。帰り道のヒントもなかった。自分の手を見ながらさっきの事を思い出した。

銃で撃たれても死んでいない。10発以上は撃たれた筈、なのになんともなかった。

「はぁ……。」

「なんだ?溜め息なんてついて。不満か?」

ハスキーな男の声が頭上からした。

「お前は?」

それに対して臆する事なく言葉を返した。

見上げれば2メートルはゆうに超えた大男。一言で言えば黒い鬼の様な見た目。鋭く力のあるアンバーの瞳で覆い被さる様に見下げ、口を動かす度に覗ける大きい牙、獣の様な爪にヒマティオンみたいな一枚布を纏っている。そして、足に行くにつれて闇に溶け込んでゆく。

「君にどう見えているかは分からないが、私はグラシャ・ラボラスと人間に呼ばれている。」

言っている意味は理解できなかったが、これだけは解った。

「悪魔か……?」

「何を基準にしてそう言うかによるな。1つ言える事は、君達で言う概念みたいなものだ。形で捉えようとしても無駄な事だ。」

「意味が分からないが……。」

「人によって見た目も声も違うという事だな。まぁ、私から見れば君の方がよっぽど悪魔みたいだがね。」

そう言われて、湖面の月明かりに照らされた自分の姿を見た。

返り血を浴びて赤く染まった仮面。緋眼に長円形瞳孔、口の中の違和感は犬歯が大きくなって牙になっているからだ。

「俺はどうなっているのだ……?」

あまりの豹変に驚いたが、今日の事を思い出せば驚きも消えて行ってしまう。

「君が望んだのだよ?任務を遂行したいと。」

それを聞くと思い出した。死にかけた時に何かを話した事を。しかし、どうしても詳細に思い出せない。

「で、どうする気だ?」

「このまま君の命を貰うつもりだったが……気が変わった。」

「……。」

「君に力を与えよう。その代わり……。」

「その代わり……?」

「72の魂を集めろ。」

なぜ72なのかは解らなかったが、どこか癇に障る。魂を集めるという事か、それとも言い方の問題か。

「なぜだ?」

返答次第では断るつもりだった。

「“知らない方がいい事もある。”だろ?」

その台詞に聞き覚えがあった。

初めて他のアサシンとの陽動作戦の時に上官に言われた言葉。それ以来ドルフの口癖になっている。

それを聞いた途端、意地でもやらなければならないと思ってしまった。理由を問われてもはっきりとは答えられないが、無意識的なやる気みたいなものかも知れない。

まぁ正直な所、今のこの力が自分のものになる事でこれからもヒルトリヒに忠誠を誓い、躍進できるという事も大きな理由の1つだった。

「分かった、72個だな。それくらいだったら問題ない。具体的にどうすればいい?」

「これをやろう。この布には魔法陣が描かれている。」

手渡されたのは麻でできた古めかしい布。20センチくらいの正方形で、これまた古ぼけた黒インクの魔法陣。

「この布に血をすわせるのだ。」

「……それだけか?」

「それだけだが?」

拍子抜けした。てっきり面倒な手順やら呪文やらあるのかと思ったのだが、杞憂だったようだ。

「条件は?血の量とか性別とか……。」

流石に後で説明を付け足されるのは面倒だから先に細かく聞く。アサシンの特性かもしれない。

「取り敢えずは無い。好きにやってくれて構わない。だが、ある程度溜まったらもう一度来る。その時に条件が付くだろう。」

「分かった。言われなくても好きにやらせてもらうさ。」

布を懐の内ポケットにしまった。

「あぁ、強いて言うなら同じ人間では意味がない。全員違うなら一滴だろうが大量だろうが構わない。」

「同じ人間から取る気はない。」

「?……まぁいい。他に何か聞きたい事はあるか?呼び出されて一々現界するのも面倒だ。今のうちにしてくれ。」

「ない……。あ、いや待った。」

布の事ばかり考えていたからすっかり忘れていたのだが、1つあった。

「帰り道を教えてくれ。」

「………。」

 




今回も契約者(仮)を読んで頂き有難うございます!毎週火曜日か水曜日にアップしますのでよろしくお願いします!!
起承転結で言えば、まだ起の部分です!
まだまだ続きますので気長にご愛読いただければ幸いです!
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