2、実力と限界。
戦争による平和は長くは持ちはしない。しかし、それでいて平和を持たせるには戦争しかないのである。結局は戦う事でしか生きられないのだ。そしてまた、戦火が世界を覆い尽くす。1人の人間のエゴイズムに感化され、多くの人間を捲き込みながら傷付けていく。振り返れば多くの死体と鉄の塊とコンクリートの残骸で溢れている。血に塗れ薄汚れた名誉の為に武器を取る。なんの価値もない人殺しの勲章の為に。
――群衆は絶対的な権力と決定権により大衆になる。アドルフ・ヒトラー――
「うむ……。」
藁で作られた案山子に軍服と軍帽を被せて敵に見立てた物が10体程並べられていて、軍服は銃弾の跡が無数に開いてボロボロ。
ドルフは拳銃を眺めながら唸るばかり。
「ダメだな……。」
地面には薬莢が大量に散乱していて、弾丸が大量に入った木箱も無造作に転がっている。
ここはヒルトリヒがドルフの為に作った施設。とは言っても大層な物ではなく、広い敷地に小屋が2棟と駐屯兵士用の寮が1棟。小屋の1棟は兵士の武器弾薬が保管されていて、もう1つはドルフのアサシンの道具が保管されている。重要な武器の類は置いていないが、量が多いので警護が付いている。
「確かにスピードは早くなっているが威力が劣る……。」
確かにシングルアクションの銃の撃つ速度は早くなっている。以前は3発に0,2秒、これは訓練すれば大抵の人ができるようになる。だが、今は6発撃てる。しかし、この銃で撃てる弾では威力に劣るし、射程もそこそこ。300メートルも離れれば十分に威力を発揮できないだろう。それに、腹部や手足に命中したくらいでは確実な殺傷にはならない。足止めくらいにはなるが、仕留めるには頭に2、3発。これが最良の方法。(稀に脳に命中しても運よく死なない場合がある。)
「いや待てよ?」
確か以前ヒルトリヒが作った(作らせた?)銃があった。大型ライフル銃と同じ口径の弾を装填する拳銃。
構造はリボルバー銃とほぼ同じだが、違うのは一回り大きい事と銃身が長い事。ただし、強度の問題で1発しか装填できない様に作ってあるのと専用の弾が必要。
「あったぞ、これだ!」
倉庫を漁ると一番奥に、桐箱に入ったその銃。大分砂埃を被っているが、中身は大丈夫だった。そして、弾薬は10発のみ。
普通の弾丸は先端が尖っているが、これは平らで真ん中に先端から円柱状に窪んでいる。もう一つは素材。銅製(一部、金や鉛のみ)が一般的だが、これは二重構造で後部半分は硬い鋼製だが前部半分は軟らかい鉛製。これにも意味があるが後ほど。
「弾が勿体ないが、行ってみるか……。」
サーベルを腰に差し、銃と弾をホルスターに入れて、フードを被った。
それから小屋の扉に鍵をかけて、赤い軍服を羽織る。
「いや、だからダメですって!」
「フュルフェンドルフ様から許可がなければ通せません。」
馬を取りに行こうとすると門の方から誰かが口論している声が聞こえた。そこへ、ここの管理官が走ってくる。
「何を騒いでいる?」
「すみません、女性が来ていまして……その、ドルフ様に会わせろと……。」
「誰だ?」
「確か、アマリアと言っていたと思いますが……。」
「アマリア……?」
なぜ彼女がここに来たのか……。
「ブロンドの女性でしたが……お知り合いでしたか?」
取り敢えず門で騒がられると面倒だし、みっともない。人の往来はあまり無いが、貴族や兵士が多く行き来している。貴族の令嬢が騒ぐなど笑いものだ。
「通してやれ。」
「はい。」
再び走って戻って行った。焚火を消す前でよかった。火を熾すのは億劫だし、紅茶を入れるにも熱湯でなければならない。お湯はポットの半分は残っているから大丈夫だ。
「フュルフェンドルフ様。この度は助けて頂き、感謝の言葉もございません。なんとお礼を申し上げたら良いか……。」
淡い桜色のドレスにフリルで飾られた麗人は頭を深々と下げた。
大きなサファイアのイヤリング。純銀のチェーンに赤いルビーを飾ったネックレス。金のリングにダイアモンドを散りばめた指輪を中指にはめている。
「礼なら父上に言うのだな。俺は依頼を受けただけだ。」
「いいえ。貴方に助けられたのは紛れもない事実です。あのままいれば、きっと売られていました。」
「売られていた……。」
「えぇ、なんとか逃げようと思って髪飾りで鍵を壊していた時に外から聞こえたんです。身代金が届いたらうっていまえ、って。」
そう、敵国であるブレーベルグは人身売買や違法ドラックが横行し、あまつさえブレ―メルフォルデまで被害が拡大しつつあった。そのせいで治安が悪くなるどころか暴動まで起き始める始末。この事態を重く見た共和国側の諸国は帝国側に協力を要請した。しかし、回答は「ブレーベルグは既に帝国勢力を離脱している為、協力しかねる。」帝国は責任を転嫁したまま投げ出したのだ。この答えに激昂。最初は小競り合い程度だったが、最近はこれを皮切りに帝国軍・共和国軍の領土争いにまで発展しつつある。もはや、民衆レベルにまで不満が浸透していた。全面戦争も時間の問題だろう。
「ところで、フュルフェンドルフ様は……。」
「ドルフで構わん。」
「ド、ドドド、ドルフさ、様は……何をなされているのです、か……?」
急に口籠もり始めた。
「?」
ただ、今の質問なのか全体的な質問なのかがピンと来なかった。
「仕事なら軍人だが?今は訓練をしていた。」
何をそんなに緊張しているのか、頬を赤らめながら目を見開いている。
「は、はいっ。」
「紅茶でも飲むか?落ち着くぞ。」
「あ、え?あ、頂きます……。」
「まぁ、リラックスしろ。肩肘張っていても仕方ない。」
紅茶を注ぎながら言う。
「あの、ドルフ様……!」
「なんだ?」
注ぎ終えたティーカップをアマリアの目の前の受け皿の上にそっと置いた……。
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