3、始まりの初まり。
自由の為に戦い、自由を勝ち取ったとしても結局多くの人は自由に不服を言い逃げる。人は自由に憧れ望む一方で恐れ、支配される事を望む。なぜなら、自由であることには力と責任が伴うが、支配されていれば力に付き従うだけで生きて行けるからである。そうやって自由は死にゆき、金と力と権力に支配され続けるのだ。
――苦しい事もあるだろう。云い度い事もあるだろう。不満な事もあるだろう。腹の立つ事もあるだろう。泣き度い事もあるだろう。これらをじつと堪えてゆくのが男の修行である。 山本五十六 ――
「ドルフ様は……その、お一人ですか……?」
急にボソボソと恥ずかしそうに話されても聞こえないし、そもそも会話の流れからいって予測も不能だった。
「は?」
それもあってか、思わず首を傾げて神妙な顔をした。
いくら思考を巡らしても答えには到底辿り着きそうにない。
「仕事の話しか?」
最終的に行き着いた結果はこれ。
「あ、いえっ、そうじゃなくて……えっと、独り身ですか、という事です……。どうなのかなぁって……。」
羞恥心と不安、緊張を隠し切れない様子で目が泳いでいる。白く透き通る頬が赤く染まり、どこか落ち着きがない。
(なるほど、そういう事か……しかし、なぜだ?)
紅茶を上品な仕草で飲みながら彼女をまじまじと見て、今までの会話のおかしな点の納得がいった。
「結婚も婚約もしていない。」
「えっ?そっ、そうなんですか!……よかったぁ。」
ドルフの言葉を聞いて安堵に胸を撫で下ろす。
「だが……。」
と、カップと受け皿を机に置いて真面目に向き合う。それにビクリとして姿勢を正すアマリア。
「君の気持ちには答えられない。」
きっぱりと断った。
「………な、なんでですか?……私では不満ですか?」
再び不安の色に染まる表情。みるみる涙で一杯になる瞳。
「私は軍人だ。明日死ぬとも知れない世界にいる。君の様な素敵な女性を悲しませていては私の名が廃る。」
最もらしい事を言ってお払い箱にしたのではなく、ドルフの本心からの言葉だった。
「それでも構いません。私はドルフ様を好きなのです!それでもダメですか!?」
整った顔立ちで明るく聡明な彼女なら解ってくれると思ったが、18という若さが邪魔をしているのだ。恋は稲妻の如く、人を盲目にする。とはよく言ったものだ。
「気持ちは嬉しいがね。君を娶る事ができるなら幸せ者だろう。しかし、それができぬのだよ。私の辛さも思ってはくれないか?」
「………私……私、絶対諦めませんから。また来ます……!」
精一杯嗜めたつもりだったが、涙を零しながら足早に去って行ってしまった。
「はぁ……。」
彼女を責めるわけではないが、無性に遣る背のない気持ちで一杯になり心が痛んだ。
自分が不死身の身の上で悪魔とも解らぬ者と契約してしまった以上、不幸を振りまく訳にはいかなかった。この先何が起こるか解らない。寧ろ、ここで不幸を受けた分、彼女には幸せになって貰いたいものだ。
「今の方は……?」
「ただの客人だ。」
アマリアの大声を聞きつけた2人の兵士が歩いてきた。
「あの……泣いてましたけど、放っておいていいんですか?」
すれ違い様に見たのだろう。無理もない、顔立ちもスタイルもいい麗人がドルフに会いに来たのだ、気になって当然。
「構わん。次は絶対通すな。」
「はっ!」
立ち上がるドルフに敬礼する。
「留守中頼むぞ。」
「はっ!お任せ下さい!」
軍服を羽織って馬に跨った。足早に進ませ、ヒルトリヒの屋敷へ向かう。
目的は例の銃と弾丸の制作。そして、もう1つ。血を集める事だ。だがそれには今のままではいられない。
72個という数は途方もないものだ。うかうかしていられないのと今の状況を一刻も早く治めなけらば、悲惨な戦争が始まってしまう。それだけは避けたかった。
ヒルトリヒの屋敷に着いたのは夕方近く。それはいいのだが、彼は近隣国の将校及び領長と会談をしているらしく、30分は部屋の中をうろついていた。
「ドルフ、申し訳ない。会議が長引いてしまった。」
「いえ、やはり攻撃姿勢ですか?」
息の絶え絶えしながらソファーに座るヒルトリヒに水を出しながら自分も座る。
「お前は勉強熱心だな、他の奴らに見せてやりたいよ。だが、我々の陣営は戦力不足でね……。」
自国、ブレ―メルフォルデは兵士の数が少ない。それに軍備も中途半端で帝国側に防壁もない上、国土の右側に山脈が通っていてそこから進軍されると中枢部まで一気に攻め込まれてしまう。地の利も生かせそうにない。
「ところで、その顔どうした?仮面なんて付けてたか?」
唐突に話題を変えてきた。確かに仮面なんてしてなかったし、アマリアを助けてから1度も彼と会っていなかったから無理もない。
「あぁ、えっと……先日怪我をしたもので……。」
「ふぅん……けど、それは……まぁ、無理はするなよ?」
まじまじと見ながらコップの水を一気に飲んだ。
「そうだ、用事ってなんだ?」
「あ、そうでした。これを作って欲しいんです。」
ドルフは軍服の中のホルスターから例の拳銃と弾丸を取り出した。
「なんだこれ?」
銃を手に取って眺めるが身に覚えがなさそうな素振りを見せる。作ってから1年以上経ってるから当然の反応かも知れない。
「ヒルトリヒ様が以前作った試作品です。」
「あぁ!けど……反動が強過ぎて使いにくいって言ってなかったか?」
ようやく思い出したらしく、朧げながらも当時の事を話し始めた。
「そうです。ですが、この銃をもう一丁と弾丸を作って欲しいのです。」
「それはまた、なぜだ?」
「……私も最前線に志願したいからです。」
これが本題だった。火力の弱い自軍の先陣を切って後押しする事、それは多くの魂を集めるのに相応しいと踏んだ。
前線を広げる自信はある。ヒルトリヒが了承すればだが………。
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