ソードアート・オンライン 一人の騎士として   作:ロア

10 / 22
難産です。一応書きたい展開は書けたのですが、少々もやもやしてます。
少しずつ細かい描写を修正していくかもしれません。


10話

「ソーヤ」

 

 俺の呟くような声に、ソーヤはその瞳をこちらに向けた。

 それをまっすぐに受け止める。目を逸らしたりなどしない。俺は、ずっとこれを求めていたのだから。ここまで来て逃げることなどしない。

 

「ああ、お前か」

 

 普段通りの声。さも狩りに出ていて疲れたという印象を受ける、吐息混じりの声。

 それが、濁った瞳のソーヤから発せられるのはどうにも不安を感じさせた。

 ソーヤの「お前か」という言葉を聞き、サーシャが本当に知り合いだったのか、という旨の呟きをした。

 

「その槍――圏外で戦っているのか?」

「ああ。金が無きゃ食い物も買えないしな」

「そうか」

 

 ソーヤは少しだけ()()になったのだろうか。戦うことが出来るくらいには吹っ切っているのだろうか。

 そう考えていると、ソーヤはちらりと俺の身体(よろい)に目を落とした。

 

「お前は攻略組なんだろ?」

「ああ。俺は今も前線で戦っている」

「……屈しない、か。変わってないな、お前は」

 

 ソーヤはふっと口許を緩めた。俺はまさか笑いかけられるとは思ってもおらず、面食らって言葉が出なかった。

 

「けど、だからこそお前は()()に来るべきじゃない」

 

 続けられたソーヤの言葉に、俺は今度こそ息を呑んだ。

 

「なあ。お前はどうして降りてきた? どうしてオレに会いに来た? オレは()()()()()()()()()()のに、なんで――」

 

 ソーヤは眼を剥き、

 

「――なんでお前はここに来たんだよ!!」 

 

 そう吼えて背の槍を構えた。

 その慟哭を聞いて、その激情のままの敵意を見て、少年達やサーシャが怯えた表情を浮かべた。

 それを見た俺は即座にソーヤに接近し、左手に装備した盾で殴り付けてソーヤを教会の外へ吹き飛ばす。

 

「お前――っ!」

「やるなら外だ。迷惑になる」

 

 跳ね起きるソーヤに対し、俺は静かにそう返した。

 そう。俺は応じるつもりだった。

 

「デュエルか? それとも――」

「いらねぇよ!」

 

 ソーヤはデュエルの申請すら無いまま、こちらに向けて地面を蹴った。

 

「そうか――」

 

 俺は腰の鞘から剣を抜いた。

 デュエルを申請しない状態で、しかも《圏内》であるこの場で攻撃しても、HPが減ることはない。

 それはつまり――

 

「――なら、相手をしてやる!」

「おおおおおっ!」

 

 ――気が済むまで戦うことができる、ということだ。

 

 

 

 

 なぜソーヤが俺に槍を向けたのか。

 なぜ俺は当然のようにそれに応えたのか。

 おそらく、その理由はどちらも十全にわかってはいないだろう。

 だが、ただ一つ……これだけはわかる。

 

 これは、八つ当たりだ。

 

「らあっ!」

「はあっ!」

 

 鋭く振り下ろされる槍を剣で受け、切っ先を下に向けて受け流すと同時に斬り払う。腹に斬撃を受けたソーヤは尻餅をつき、しかしすぐに立ち上がって槍を突き込んでくる。

 

「温い!」

 

 それを盾で受け流し、回転と共に袈裟斬りを繰り出しながら俺は吼えた。

 俺もソーヤも、おそらく八つ当たりをしている。

 俺は、二度に渡って友を救うことをできなかった後悔を。

 ソーヤは、実の兄を目の前で失った自身の無力さを。

 お互いに抱え込んだそれらを吼え散らし、ぶつけあっている。ソードスキルも使わず、ただがむしゃらに。

 

「「らあっ!」」

 

 ぎり、とソーヤの槍の柄と俺の剣の刃が噛み合い、ぎりぎりと押し合う形になる。

 ソーヤと俺のレベルは大きく違うはずだ。装備の質を見てもよくわかる。

 それでもこうして拮抗しているのは、ソーヤの恐ろしい胆力によるものだろうか――そう考え、俺は内心で苦笑した。

 いくらVRの世界とはいえ、このSAOで意志の力などあるわけがない。そんなもの、映画の世界だけだ。

 

「お前が――」

 

 ソーヤがぽつりと呟いた。

 

「お前がここに――」

 

 涙を流しながら、

 

「オレの前に出て来なけりゃ――」

 

 ギリ、と歯を食い縛り、

 

「オレはちゃんと――自分を責められたんだよ」

「なに……?」

 

 俺はその言葉に眉をひそめた。

 

「レイが死んだのは()()()()()だって思えた筈なんだよ!」

「――っ」

 

 その言葉は、おそらくそれだけを聞いたとしたら、意味がわからないだろう。

 だが、俺にはわかった。

 ()()()()()()という、同じ苦しみを持っている俺には。

 

「ソーヤ、お前まさか……」

「オレのせいで死んだんだよ! そうでなきゃならないんだよ! でなきゃ――」

 

 何もかもを振り切るかのように、ソーヤは怒鳴った。

 

「でなきゃ、お前を恨んじまうだろうが!」

 

 

 

 

 俺の中には『責められるのが嫌だ』という気持ちが間違いなくあった。しかし、罪悪も間違いなくあった。

 

『俺があの時こうしていれば』と。

 

 あの日、俺はソーヤから逃げ出した。もし本当にソーヤに責められたら、俺は心が折れていただろう。

 だからこそ、前線で戦うことで『レイのために行動している』と自分に言い聞かせ、眼を逸らし続けてきたのだから。

 だが、今になって考えるなら。

 

 ――俺にとっては、あの選択は間違っていた。

 

 ――しかしソーヤにとっては、俺の選択は正しかったのだ。

 

 ソーヤは絶望に呑まれていた。塞ぎ込み、理解することを拒絶し、それでも認めざるを得ないレイの死に打ちのめされた。

 その時ソーヤはなにを思ったのか?

 怒りか?

 悲しみか?

 無力感か?

 それとも……怨みか。

 

――それを感じたとして、一体誰に?

 

 少し考えればわかることだった。

 俺は自己保身に走り、考えないようにしていたから、その答えに辿り着けなかった。

 

『もう、行けよ。これ以上居たら――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一年前のあの日に言われたことば。

 脳裏に刻みつけられたこの言葉の違和感に、俺は今更気付いた。

 

 お前(おれ)を責めたくなる、とソーヤは言った。それはつまり、あの時点では俺を責めていなかった、ということだ。

 

 ならば――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(ああ……そうだったのか、ソーヤ)

 

 ソーヤはきっと、自分を責めていたのだ。兄を見殺しにした責任は自分に――自分だけにある、と絶えず自己嫌悪に陥っていたのだ。

 それはどれだけ辛かったことだろう。どれほどの罪悪に苛まれたことだろう。正気を保っていることすら嫌になるほど、投げ出したくて堪らなかったことだろう。

 

 ――どれだけ、責任を誰か(おれ)に押し付けたかったことだろう。

 

 けれど、ソーヤはそれをしなかった……俺を責めることはしなかった。

 きっと、責めないように必死だったのだ。

 もし俺を責めていたら、それこそソーヤは自己嫌悪に殺されていただろう。

 

 それに気付いた俺は、目の前で崩れ落ちて嗚咽を堪えているソーヤに対し、何も言うことが出来なかった。

 俺に慰めを言う資格などない。その罪悪を肩代わりすることもできない。

 

――俺の選択は間違っていた。

 

 俺が残っていれば。ソーヤと共にお互いを責め合い、傷の舐め合いをしていれば。

 俺も、ここまで歪むことはなかっただろう。

 

――しかし、ソーヤにとっては俺の選択は僥倖だった。

 

 俺を責めてしまえば、ソーヤは自分を許せなくなる。故に、俺が目の前から消えたのはソーヤにとって都合がよかった。

 

 (俺は……無力だ……)

 

 騎士としての在り方を捨て去ろうと決意し、何かにすがるようにソーヤを求め、八つ当たりをして。

 なのに、ソーヤはこんなにも苦しんでいたことを知った。ならば、こんな状態のソーヤに何を求められると言うのだろうか。

 

「もう嫌だ。兄さんが死んで……でも、お前は戦ってるのに――オレは、ずっと止まったままだ」

 

 ソーヤの意識が限界を迎えたのか、そのまま意識を失うように眠りについた。

 俺は、ソーヤを呆然と見下ろすことしか出来なかった。

 

 

 

 

「すみませんでした」

 

 ソーヤを部屋に運び終えた俺に対し、サーシャはそう言って頭を下げた。

 

「いや……謝るのは俺の方です。結局あいつを傷付けてしまった」

 

 俺は顔を覆い、溜め息を吐いた。

 

「――ソーヤ君は、この街の路地裏でうずくまっていたんです。見付けたのはゲームが始まってから1ヶ月ほどが経ったころでした」

 

 サーシャはぽつりぽつりと話し始めた。俺が気になっていたことを察したのだろう。

 

「『こんなに小さい子が一人なんだ』って思って、声を掛けたんです。そうしたら、他にも同じような子供達がたくさん居ることに気付いて――」

「……子供たちを助けようと、この教会を?」

「はい。少しでも、あの子達のために出来ることがあるならと思って」

 

 一人で困っている子供や、ゲームに閉じ込められたことで精神にダメージを負った子供たちを保護しているらしい。

 立派なことだ、と素直に思った。

 俺は5000コルほどを実体化させ、机の上に置いた。

 

「迷惑を掛けた詫びと、寄付です」

「え!? 受け取れませんよ、こんな――」

「ソーヤを頼みます」

 

 俺は言葉を遮った。

 

「今の俺には、ソーヤを救うことができない。あいつのためにできることが何一つない。だからこそ、貴女にお願いします……ソーヤを見捨てないでやってほしい」

 

 俺にそんなことを言う資格があるだろうか、と自問しつつ。

 サーシャは何かを堪えるように頷くと、コルを受け取った。

 

「すみません。こんなことを頼んで」

「いえ……あの、セドリックさん」

 

 躊躇いがちな言葉に、俺は首をかしげた。

 

「無理をしないでくださいね。ソーヤ君も確かに大変な状態ですが――貴方も、とても辛そうに見えます」

 

 そう囁くように言ってきたサーシャの表情は、とても悲しそうだった。

 俺は何故か――心配してくれたというのに――その言葉を聞いて、どうしようもなく苦しくなった。

 

「……大丈夫です。では」

 

 俺は絞り出すようにそう答え、その場を後にした。

 

 

 

 

 俺はとうとう、目的を見失った。

 いや、そもそも俺に目的などあったのだろうか。

 あの日――全てが始まったあの日。俺はレイの死を無駄にしたくないという、その一心で走り出した。

 そうして、ディアベルが俺を見出してくれた。彼と共に歩めば、きっと俺は何かを為すことができる。そう感じた。

 だが、そのディアベルも死んで、それでもがむしゃらに進んで。

 自分の在り方に疑問を抱いて、ソーヤにすがって、そのソーヤがどれだけ苦しんでいたかを思い知って。

 

 結局、なにも出来ないのだと思い知らされて。

 

 俺は、また立ち止まってしまった。

 

「レイが居れば……」

 

 何もかも、そこに端を発している。

 レイが死ななければ、俺がこんなにも迷うことは無かっただろう。

 ソーヤがあんなにも自分を責めることにはならなかったろう。

 

 レイが――一輝さえいてくれれば。

 

 そう願わずにはいられなかった。

 だからこそ俺は、情報をかき集めた。金を払って情報屋から裏付けをとっていき、片っ端から手掛かりになりそうなNPCクエストをクリアしていった。

 そして、やっと俺は突き止めたのだ。 

 一ヶ月後――十二月のクリスマスイベントに出現するフラグmobを討伐すれば。

 

「蘇生アイテムが手に入る……っ」

 

 俺は自分の身体が震えるのがわかった。

 

 

 

 

 ネットゲームのイベントらしく、設置された巨大なクリスマスツリーや、サンタの衣装を着たNPCを横目に歩き、リンドを筆頭とするギルド《聖竜連合》の面子に合流した。

 

「来てくれたんだな、セドリック!」

「ああ」

 

 俺はリンド達に協力を持ち掛けられた。彼等の目的も《蘇生アイテム》なのは間違いないだろう。そしておそらく、その対象は――

 

「よかった。お前が来てくれたなら、きっと勝てる。蘇生アイテムはオレ達のものだ!」

 

 リンドはそう言って考えに耽っていた俺の肩を叩き、顔を覗き込むと、少し気遣うような表情を浮かべた。

 

「大丈夫か? ずいぶんと疲れた表情をしてるけど」

「そうか……? 別に疲労なんて溜まってないが」

「ならいいが、無理はするなよ。それと――」

 

 俺の身体を包む黒い鎧を指して続けた。

 

「もう《軍》じゃないのか?」

「……ああ。脱退した」

 

 俺は《軍》を抜けた。もうあそこに居ても何も意味は無いと感じた。

 しかし、キバオウには会えなかった。結局、キバオウの本心を聞くことは叶わなかったのだ。

 この情報を聞いても、リンドは俺を聖竜連合に誘うことはしなかった。俺の状態を見て、気を使ってくれたのだろうか。

 

「今の俺が持ってる中では、この鎧が一番性能が高いんだ」

 

 軍の鎧は返却し、今は黒い色調の《ダマスカス》シリーズに装備を変更している。

 インゴットを入手し、軽金属の鎧に仕立ててもらったものだ。

 俺はその漆黒のプレートをガントレット越しの指で撫で、リンドの眼を見た。

 

「場所はわかってると聞いたが?」

「『《黒の剣士》がクリスマスボスの出現位置と思われるツリーの情報を買った』という情報を買った《風林火山》の情報を()()()()()。奴等をつければ間違いなく着くさ」

 

 リンドの作戦を聞き、ふん、と俺は鼻を鳴らした。

 

「情報屋……《鼠》は相変わらずというわけか。まあ、そこが好感の持てるところでもあるが」

 

 それは言ってしまえば、金さえ払えば嘘をつかないということでもあるのだから。

 そういう意味では、奴の情報は信用に値する。

 

「わかった、問題なさそうだな。リンド、お前たちの準備はできているか?」

「ああ、問題ない!」

 

 その言葉を聞いて俺は頷き、手を差し伸べた。

 

「必ず手に入れよう」

「ああ……ああっ! 唯一可能性のある蘇生アイテムだ。どんな手段を使ったって手にいれてやるさ!」

 

 その言葉に頷き、握手をする。

 

「よし、行くぞ!」

 

 リンドの号令を聞きながら、ダマスカスヘルムを装備する。鎧と同じく黒いフルフェイスヘルムの面頬を下ろし、俺は音を出さずに鼻で笑った。

 

(――どんな手段を使っても、か。同感だ)

 

 何がなんでも、手に入れてやる。

 俺は誰にも気付かれないように、精神を尖らせていた。

 

 

 

 

 尾行をしている人間は、自分が尾行されることに不注意な場合が多い。

 いつどこで誰に教わったかも忘れたが、少なくとも風林火山の侍どもは当てはまるらしい。

 三十五層の《迷いの森》で追跡スキル持ちプレイヤーの後に続きつつ、地図を確認しながら俺は内心そう思った。

 マップさえあれば、《迷いの森》もただの不気味な森林地帯だ。

 

「セドリック」

「なんだ」

 

 リンドの呟きに、俺はヘルムの下から小さく返事をする。

 

「お前、対人は得意か?」

「俺は攻略組だ。対人勢じゃない」

「真面目な話だ」

 

 俺は肩をすくめたが、リンドは険しい表情を浮かべた。

 

「俺達の中じゃ、お前は装備もレベルも高い。だから、もし奴等と戦闘になったら前に立ってもらうことになる」

壁役(タンク)なら何度も経験があるが」

「そういう意味じゃない……率直に聞こう。セドリック、お前はプレイヤーを攻撃したことがあるか?」

()()

 

 俺は短く答え、

 

「所属しているパーティの判断に従う。だが、聖竜連合(おまえたち)の様に目的のためなら進んで人を斬ったりはしないな」

 

 続けた言葉に、聖竜連合のメンバーが俺を睨んだ。リンドは俺の当て付けるような言葉に驚いた様子を見せたが、振り切るように視線を前に戻した。

 

「ならいい。別にお前にオレンジになれって言いたい訳じゃない。仮に、の話だ」

「だといいがな――着いたようだぞ」

 

 《迷いの森》の区画を通り過ぎ、ワープを終えると、風林火山のメンバーがキリトに追い付き――何やら言い争いをしていたようだ。

 あのサムライ――顔は見覚えがあるが、名前がわからない――とキリトは知り合いのはずだが、何を争っていたのだろうか。アイテムや報酬が欲しいのなら協力(のフリでも)すればいいものを。

 俺達を認識し、奴等に動揺が走った。まあ、三十人ほどの集団を見れば――しかもそれが友好的でないのなら――自分達の危機くらいわかるだろう。

 

「くそッ! くそったれがッ!!」

 

 《風林火山》のバンダナを巻いたサムライが腰のカタナを抜き、キリトに先に行くよう言った。キリトはなにも答えずに背を向け、ワープしていった。

 

「ここは食い止める、か。オレ達の数を見た上であの気概はすごいな」

「――潰すか」

 

 俺の呟くような言葉に何を感じ取ったのか、リンドが僅かにこちらを見て、

 

「セドリック……落ち着け」

 

 俺の肩に手を置いた。

 

「なに?」

「そんなに肩を怒らせるなよ。確かにあのサムライは大きく出たと思うが……あの位で苛つくなんて、お前らしくもない」

 

 なんだと、と言い返そうとした瞬間、

 

「《聖竜連合》の野郎共!」

 

 バンダナがカタナをこちらに突き付け、叫んだ。

 

「おめぇらの目的もクリスマスのフラグmobだろ! だが通すわけにゃぁいかねぇ。ここを通りたきゃ、オレ達を倒してからいけ!」

「では――」

「待て待て待て待て! 待てやその騎士! 話は最後まで聞け!」

 

 俺が剣の柄に手を掛けると、サムライは慌てて手を振って制止し、続ける。

 

「けどな! どう見たってオレ達の方が不利だ! そうだろう!? 数が違いすぎる! んなの卑怯だ!」

 

 お前のギルドメンバーが少ないのは別にオレ達のせいじゃないんだが。

 そんなリンドの呟きに、俺は呆れたように頷いた。

 

「そこでだ! 男らしく一対一(タイマン)……デュエルで決着をつけようじゃねぇか!」

「そんな申し出、受けると思ってるのか!?」

「受けねぇってのか!? それでも男かおめぇら!」

「下らないことを――」

「まあ、待て」

 

 俺は手をかざしてリンドを制した。

 

「フラグmobを狩りに行くんだ。真っ向からぶつかって消耗するのもよくない。一騎討ちで済ませると言っている。所謂武士道精神、という奴だ。ならば、俺達も騎士道精神を見せるべきじゃないか?」

 

 俺のからかうような言葉に、リンドは顔をしかめた。

 

「言いたいことはわかるけど、あの男は『クライン』だ。決して()前線の攻略組じゃないが、カタナ使いの中じゃかなり上位の腕前だ。正直、一騎討ちとなると分が悪い」

「構わんさ。俺がやる」

「けど、お前は対人は……」

「特別得意じゃないが、できないわけじゃない。レベルも、俺はこの中では一番高いだろうしな」

「……わかった。頼む」

 

 俺の言葉に納得してくれたのか、リンドはギルドメンバーに頷きかけ、俺の背を叩いた。

 俺はその激励するかのような素振りに苦笑しつつ、一歩前に出てサムライ――クラインに答えた。

 

「デュエル、了解した」

「おっしゃぁ! お前ら、手ぇ出すなよ!」

 

 クラインがメニューを操作し、俺の前にウィンドウが表示される。

 

【Klein から1VS1デュエルを申し込まれました。受諾しますか? YES/NO】

 

 俺はYESを押し、《初撃決着モード》を選択する。剣を抜き、盾を背から外す。

 開始までのカウントが始まる。奴との距離は十メートルほど。俺は特に構えることなく静かに佇んでいたが、クラインはカタナを掲げ、

 

「《風林火山》のクライン!」

 

 名乗りをあげた。その辺りも武士らしい。

 カウントが減っていくのを確認しながら、俺はヘルムの面頬を上げ、名乗りに応える。

 

「所属は無い。セドリック」

 

 それだけを言うと、面頬を下ろした。

 俺の名乗りを聞いてクラインは真剣な表情で頷き、

 

「あの騎士、セドリックって……おい、まさかッ!」

 

 風林火山の剣士が慌てたように声をあげた。

 

「クラインさん! そいつ《黒騎士(くろきし)》だ!」

「ああ!?」

 

 ――それは、俺を指す名称だろうか。

 

「ふっ……黒騎士か」

 

 『黒騎士』とは、単に黒い鎧の騎士という意味ではない。もちろん、ゲームやマンガなどでそう呼ばれる黒色の騎士は多い――現に俺の鎧も黒だ――から、そういう意味も含まれてはいるだろう。

 

 だが――『黒騎士』とは本来、()()()()()を指す言葉だ。誇りも忠誠もなに一つ無い、哀れな放浪騎士を。

 

 俺にぴったりじゃないか、と自嘲した。レイも居ない、ディアベルも居ない。目的も見失った俺は、ただの騎士崩れの傭兵に成り下がっている。

 自嘲し、笑った。この時の俺はきっと、酷い顔をしていただろう。フルフェイスヘルムを被っていたのは幸いだった。

 

「相手がなんだろうと関係ねぇ! 名乗った以上、戦うだけだ!」

「その意気や良し、とでも言っておこう。武士よ」

 

 俺はからかうように肩を揺らし、

 

「「いざ、参る……ッ!」」

 

 カウントが、ゼロになった。




17巻のクラインさんの登場シーンの格好よさは異常。クラインさんの実力ならつむじ風も竜巻に変わるのだ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。