ソードアート・オンライン 一人の騎士として   作:ロア

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12話

 ヒースクリフは十メートルほどの距離に立っていた。なぜこんな所に一人でいるのか。なぜ俺に声を掛けてきたのか。それを考え、俺は剣を握る手に力を籠めていた。

 あり得ないとは思いたいが、俺を攻撃する可能性が無いとは言い切れない。今の俺はオレンジだ。攻撃しても、グリーンプレイヤーであるヒースクリフにデメリットは無い。

 だが、同時にメリットも無い筈だ。俺はただの一般プレイヤーだ。俺を殺しても、金もアイテムも、大したものは得られない。

 血盟騎士団団長である奴が、俺を攻撃するような条件など思い当たらない。

 

「剣を納めたまえ。私は事を構える気は無い」

 

 その言葉に、俺は言われた通り鞘に納めた。向こうも剣は盾に納められている。もし向こうが抜いたとしても、こちらも抜く余裕は充分にある。

 

「――何の用だ?」

 

 俺は空になった右手を開いたり握ったりしながら聞いた。

 ヒースクリフはこれ見よがしに眉を上げ、

 

「用、か。単刀直入に言えば『勧誘』だ」

「勧誘?」

「ああ。君に、我が《血盟騎士団》の一員となってほしいのだ。《黒騎士》君」

 

 俺は目を細めた。唐突な勧誘。まるで、一層でディアベルに「俺達のパーティに入らないか」と誘われたときのような――

 俺は頭を振って意識を切り替え、ヒースクリフをじっと見た。

 

「《黒騎士》を受け入れるようなギルドなのか? 《血盟騎士団(KoB)》は」

「その実力と、資格があると見込んだからこの話をしている」

「俺は実力など無いさ。どこにでも居るただのプレイヤーだ」

「数多く居る騎士ビルドのプレイヤーの中で唯一《黒騎士》と呼ばれている人間が、()()()などと言っても謙遜にしか聞こえないがね」

 

 ()()()()()ならあんたもそうだろうに。俺は呆れたように右手を挙げた。

 

「その称号は、ギルドに所属せずに――所属していたとしても――あちこち彷徨って戦う俺への皮肉だろうさ」

「主が居ないから、と言って騎士の評価を決めつけることはないだろう? かのアーサー王に仕えたランスロットも、最初はブリテンに渡ってきた主無き騎士だったのだ」

「俺がランスロットなら、ギネヴィアもいるんだろうな? 俺の不義(せい)で《血盟騎士団(えんたく)》は瓦解するだろうな――そもそも、円卓の騎士達は名前こそ有名だが、その生涯は悲哀に満ちている」

 

 兄弟と自分をランスロットに殺されたガウェイン。

 ギネヴィアを愛するあまり円卓崩壊の切っ掛けを作り出したランスロット。

 愛していた女性と結ばれず、愛せなかった同じ名の女性に裏切られたトリスタン。

 姉弟であったアーサー王とモルゴースの実子であり、実の父親を殺し、殺されたモードレッド。

 そして、かのアーサー王自身。

 有名な円卓の騎士は、誰もが《幸せに暮らしました》とは程遠い物語として描かれている。

 

「騎士物語に憧れを抱かないとは言わんが、あまり体験したくは無いな」

「なるほど……それもそうだ」

「それにランスロットといえば、彼はアーサー王の実力に惚れ込んで王の騎士となったはずだ」

 

 剣の柄に手を添えながらの俺の台詞に、ヒースクリフはふっ、と笑った。

 

「戦いたいのかね? 私と」

「――興味が無いといったら嘘になる」

 

 《神聖剣》と名高いヒースクリフだ。勝てる見込みは無いだろうが、それでも技術を盗むことは出来るだろう。

 盾と剣を構えて前線に立つその戦い方は、俺にとって目標とするべきものでもある。

 

「所属するギルドの実力を重んじる、ということか?」

「KoBの実力を知らない奴など居ないだろう。今更考えることでもない」

 

 血盟騎士団はまだ人数こそ少ないが、その実力は確かだ。フロアボス攻略でも、かなりの成果をあげている。

 

「では、何が気に入らない?」

「単に()()()が無いだけだ」

「ほう……」

 

 攻略を急くのも、人のために行動するのも。

 もう、そんな気力が無いのだ、俺は。

 そう言った俺に、ヒースクリフは真剣な表情で口を開いた。

 

「ならば何故きみは――まだ()()()()()()()()()()?」

「――っ」

 

 ヒースクリフは確信しているようだった。自信に満ちているというよりも、当然の事を指摘しているだけ、と言わんばかりに。

 

在り方(やる気)を無くした、と君は言ったな。だが、それでも君は《騎士》の姿をしている。《騎士》の振る舞いをしている。内心でどう思おうと、どれだけ自身を卑下しようと、端から見れば君は立派な《騎士》なのだ」

「俺が――俺は……騎士に見えるのか?」

 

 ヒースクリフは鷹揚に頷いた。

 

「私は、君のその《在り方》を評価している」

「在り方、だと?」

「そうだ。君は自分を責めているな。自分に嫌気がさしているようにも見える。それでも君は無意識に《騎士(ロール)》を演じている」

「それは……俺は、結局はプレイヤーでしかないから……」

「ふむ――君は、()()()()をどう思っている?」

 

 唐突な話の転換に俺は眉をひそめたが、素直に答えた。

 

「あくまでゲームだ」

「ゲーム、か」

「ああ。だが――」

 

 今になって考えるなら。

 

「俺はそのゲームの中で生きているのだ、と思い知らされた」

 

 友を亡くして。

 友と離別して。

 その意思を無駄にしないために、命を削りながら戦った。

 その確執を無くせるかも知れないと、蘇生を求めて足掻いた。

 その過程で多くのモンスターやプレイヤーと剣を交えて。

 

 そして、その中に――どこか充実感に似た高揚を感じていて。

 

 俺はきっと、現実世界で生きていたときよりも、真剣に世界(いま)を生きている。

 いや、生きていた、と言った方が正しいか。

 

「今の俺は、矜持も目標も無くした放浪騎士(くろきし)だ。いっそここで死ぬのも已む無し、と思う程に」

「目的が無いと言うなら、私と来い」

 

 いつの間にか目の前に歩いてきていたヒースクリフは、右手を差し伸べた。

 

()()()()を真剣に生き、向き合う者は必要なのだ。でなければ、我々の日々に、なんの意味もなくなってしまう」

「……奇妙な言い回しをするんだな。だが、言いたいことはわかる――ような気がする」

 

 俺は差し出された手を見つめた。

 アバターの手。それを包む手甲。ほんの僅かなポリゴンの乱れさえ無い、現実の物のようなリアルな質感。

 

 ――いや、いまの俺にとっては、SAO(ここ)が現実なのだろうか。

 

 ならば――死ぬ前に、もう少し足掻いてみても面白いかもしれない。この世界で生きている今は、無意味ではないと。無価値ではないと。無駄にしてはならないと感じた。

 

 ――そうだ。そうでなければ、レイの死も無駄になってしまう。

 

 そうだ。あの時誓ったじゃないか、俺は。

 

「改めて、《黒騎士》君。我が《血盟騎士団》に入ってくれないか。後悔をさせない、とは言えない。むしろ、君はいつか私に従ったことを後悔するかもしれない。それを理解した上で、私と来るかを決めてほしい」

 

 俺は数秒眼を閉じてその言葉を反芻した後、ゆっくりと頷いた。

 

「了解だ。その不名誉な称号に誓い、この剣を団長(あなた)に捧げよう」

 

 握手には答えず、代わりに剣を抜いて切っ先を地面に突き刺し、

 

「一人の騎士として」

 

 そう、宣言した。

 

 

 

 

 カルマ回復クエストを終えてグリーンプレイヤーに戻った俺は、ヒースクリフからメッセージで送られてきたギルド本部の門前へ辿り着いた。

 五十五層の主街区《グランザム》。隅から隅まで鋼鉄で作られた荘厳な街。

 その中で一際高く、目立つ建造物。天辺からは白地に赤で十字が刻まれた旗がたなびいている。

 

「……さて」

 

 どうしたものか。まだ加入手続きをした訳ではないので、勝手に入るのも憚られる。

 聖竜連合の様に門番が居るわけでもない。聖竜連合(あそこ)ならともかく、血盟騎士団の本部には興味本意でも入ろうとするプレイヤーは居ないのだろう。

 もしくは、血盟騎士団はメンバーが少ないから門番に人員を割いていないだけだろうか。

 

「メッセージを飛ばすか……?」

 

 いやしかし、『出迎えろ(要約)』と送るのも礼儀知らずだろうし、どうしたものか――と悩んでいると、門が開き始めた。

 自動ドアだったか、と感心しながら見ていた門が開き切ると、そこには名高き副団長(アスナ)が立っていた。彼女が操作したのか。

 

「アスナ。久しぶりだな」

「はい。お久しぶりです、セドリックさん」

 

 そう言って、僅かに微笑む。以前と比べると、少し固くなったと感じた。

 朧気だが、序盤にキリトと行動を共にしていた頃は、もう少し取っ付きやすかったように思う。

 まあ、最近のプレイヤーの事情など知らない。キバオウと袂を分かち、リンドの期待を裏切った俺はここ数ヶ月、情報屋(アルゴ)とすらメッセージをやり取りしていないのだ。

 

「そろそろ来るはずだ、って団長に言われて来ました。ご案内します」

「ああ、よろしく頼む」

 

 どうやら俺が来たことに気付いていたらしい。渡りに船だ、と俺は頷くと、アスナは踵を返して歩いていく。

 後に続くように俺も歩く。

 

「まさか、セドリックさんが血盟騎士団に来てくれるなんて、驚きました」

「なんだ、《黒騎士》が来るとは考えられなかったのか?」

「そうですね……《軍》を辞めてからどこにも所属していなかったと聞いていますし」

「血盟騎士団にも俺の評判は届いていたのか?」

「はい。『ディアベルの後継者だった真面目な騎士(ナイト)がグレた』って」

「後継者はリンドだろう。俺は一介の騎士プレイヤーにすぎんぞ」

 

 そこでアスナが少しだけ口ごもり、続けた。

 

「――彼がいつか言っていました。『騎士のフェアネスはキバオウが引き継ぎ、ヒロイズムはリンドが引き継いだ。そんな中でセドリックは、()()()()()()を引き継いだんだ』って」

「……ビルドが似通っていただけだ」

「実力だけじゃなくて、勝利のために全力を尽くす姿勢を、形は違えども貫いている。そう言っていました」

「……周りからはそう見えたのか」

 

 おそらくキリトの言葉だろう。随分過大な評価だ。

 

――俺はただ、逃げ続けていただけなのに。

 

 そんな俺の顔を見て何を感じたのか、アスナが少し明るい口調で話を切り替えた。

 

「大丈夫ですよ。血盟騎士団(うち)のユニフォームは白地に赤のラインですから、《黒騎士》なんてブラッキーな名前、すぐに聞かなくなりますよ」

「白と赤、か……」

 

 俺の苦笑いを見て、アスナはくすりと笑った。

 

「嫌いなんですか?」

「赤は好きなんだが、白に合うかと言われるとな……白には青が映える」

「デザイン次第だと思いますけど……確かに、白と青も合いますよね」

 

 そこで、アスナが表情を引き締め、

 

「ここです」

 

 随分長い階段を上りきると、アスナは手で示した後、大扉を開けて中へ入っていく。豪華な両開きの扉は、まるでボス部屋のようだ。まあ、団長が居る部屋なのだからあながち間違ってもいないか。

 

「失礼する」

 

 俺もくぐると、半円型のテーブルにヒースクリフが座っていて、こちらに視線を向けてきた。

 あんなでかいテーブルなのに、一人で仰々しく座っているのは、どこか拍子抜けだった。

 

「よく来てくれた、セドリック君。我がギルドは君を歓迎する――が、まあ細かい説明は省かせてもらう。私もそれなりに多忙でね。加入手続きを早急に済ませてしまおう」

 

 心なしか早口で述べたヒースクリフがウィンドウを操作すると、俺の前に○×が表示されたウィンドウが出現する。

 ここまで来て拒否(バツ)など無い。俺は迷わず承認(マル)を押した。

 

「これで君は《血盟騎士団》の一員となった。アスナ君、すまないが後は頼む」

「わかりました」

 

 椅子から立ち上がると、足早に歩き去っていった。

 珍しく落ち着かない様子だったようにも思う。俺が首をかしげていると、アスナがこちらに向き直った。

 

「――と言っても、私もこれから攻略会議に向けての下見に行かなければならないんです」

「そうなのか。俺も向かおうか?」

「いえ、セドリックさんは先に装備の受け取りに向かってください。攻略会議の際には参加して貰いますので」

「了解した。部隊へはどのように行けばいい?」

「既に案内の団員を呼び出しているので、すぐに来ると思うんですが――あ、来たみたいです」

 

 アスナが言い切る前に、扉がノックされた。

 続いて扉が開き、一人のプレイヤーが入ってくる。

 その人物を見て、俺は驚いた。

 

「失礼します」

「シルビア、ごめんね、急に呼び出して」

「いえ、大丈夫です。新しく人が入るのは聞いていましたから」

 

 アスナに笑顔で答えた女性。

 そう、女性プレイヤーだ。

 長い髪を後頭部でポニーテールに纏め、サークレット状のヘルムで前頭部を保護している。きりっとした姿勢と、軽金属装備カテゴリの騎士鎧に身を包んだその佇まいは、見事な『女騎士』と言えるものだった。

 賢さと真面目さと落ち着きを感じさせる整った顔立ちで、その雰囲気ときっちりした鎧がよく似合っていた。

 率直に言うと。

 

 好みだった。

 

「こちらの方がその《新人》ですか?」

 

 その顔がこちらに向けられた。煩悩まみれだった俺は多少動揺し――同時に、彼女の顔に驚きが浮かんだのを見た。それを見て俺は疑問を持ったが、気を取り直して会釈をした。

 

「セドリックだ。よろしく頼む」

「セドリック……《黒騎士》? ()()()……?」

 

 戸惑っている。《グレた騎士》の悪評か、とも思ったが――どこか、俺の名前ではなく、俺の顔を見て驚いていたように思う。

 知り合いだろうか。数えきれないほどのパーティに加わってきたので、どこかで共闘している可能性はある。が、流石にこれほど見事な《女騎士》であれば覚えていても良いはずだ。あの落武者(クライン)の顔を覚えていたくらいなのだから。

 となると、やはり顔は知っているが名前は知らない、というところになるだろう。プレイヤーの人数が少ないSAOでは珍しいことでもない。

 それに、俺は《黒騎士》の頃はフルフェイスのヘルムを被っていたのだ。《黒騎士》とその名前を知っていても、顔を知らないというのはおかしな事でもない。

 ――いやいや落ち着け、彼女は()()()を見て驚いたのだ。『顔を知らない』では論理が成り立っていない。セドリック(なまえ)や《黒騎士》ではなく、俺の顔を知っていた。となれば、本当にどこかで会っていたのでは……

 

「あの――はじめまして。私は《シルビア》です。よろしくお願いします」

 

 考え込んでいたところをアスナに小突かれ、俺は考えを放棄して頷いた。

 

「それじゃシルビア、後はお願いね」

「はい。気を付けて行ってきてくださいね、アスナ」

 

 アスナを見送ると、シルビアは俺に向き直る。

 俺の肩ほどの背丈で向き直れば、少し見上げる形となる。俺はどこか落ち着かない気持ちになりながら、

 

「これからどうすればいい?」

 

 そう聞いた。

 

「まずは制服――ユニフォームを受け取りに行こうと思っています。血盟騎士団には専用のカラーリングがありますから」

「性能は大丈夫なのか?」

「はい。現時点で判明している鎧の中でも、高水準のものを採用していますから。でも、もし気に入らなければ、貴方の鎧を塗装するという方法もあります――けれど、染料と加工の手間と支出を考えると、あまりオススメはできませんが……」

「自腹なのか」

「はい。どうしますか?」

 

 団長室を出て、階段を降りながらシルビアが説明してくれる。

 しかし、俺は別に金に困っているわけでもない。

 

「この鎧は強化したばかりだし、これ以外に重金属鎧を使うこともあるんだ。自分の鎧を染め直すことにする」

「わかりました。後で贔屓の鍛冶プレイヤーを紹介しますので、一緒に行きましょう」

「了解」

 

 俺は頷いた。

 

「それとセドリック、貴方はホームを持っていますか?」

「いや、最近は野宿が多い」

「でしたら、本部(ここ)の部屋を使ってください。ギルド本部は最近新しくしたので、宿舎には空いている部屋が多いんです」

「わかった、ありがたく使わせてもらおう」

 

 そこで俺は部隊の話を思い出した。

 

「部隊への所属、という話を聞いたんだが、俺の所属部隊はどうなるんだ?」

「正確には、部隊、というほどの区分けはありません。血盟騎士団(うち)はパーティーごとに行動しています。本当は四人から五人組が理想なのですが、メンバーの都合上、そうもいかないのが現状です」

「つまり?」

「貴方には私とパーティー……コンビを組んでいただきます」

 

 なんと。

 

「つまりは私の部下ということになりますが……よろしいですか?」

「問題ない」

 

 なぜそこで不安げに聞いてきたのかわからないが、俺にはなんの問題もない。

 女性の上司とは新鮮なものだ。それが好みの女性ならなおのこと。まあ、上司にしてはあまり年上には見えない――年下かもしれない――が。

 俺の返事を聞いてほっと息を吐き、シルビアは顎に手を当てて考え込む。

 

「でしたら、後は――」

「……なあ、フレンド登録はしなくていいのか?」

「あっ、そうでした」

 

 シルビアは胸の前で両手を小さく打ち合わせると、器用にも歩みを止めないままウインドウを開いて操作する。

 

《silvia からフレンド申請が届いています。受諾しますか?》

 

 俺は〇を押すと、続けてウインドウが表示される。

 

《silvia からパーティに誘われています。受諾しますか?》

 

 続けて〇。

 視界右上のHPバーに、もう一本追加される。

 《silvia》と表示されるバー。隣に小さくレベルも《67》と表示されている。

 

「セドリックのレベルは70なのですね」

「ああ」

「スキル構成などを教えてもらうことは可能ですか?」

「大丈夫だ、大したものでもないしな」

 

 本来はスキルの追及は誉められたことではないが、別に俺は気にしない。敵に見せるわけでもないし。

 俺のスキルスロットを見せると、シルビアはぽかんとした様子で口を開けたまま固まった。

 

「これは……随分と偏っていますね」

「まあ、これ以外必要なかったからな」

 

 俺が肩を竦めると、私のものはこうなっています、とシルビアもあっさり見せてきた。

 

〇片手直剣

〇索敵

〇軽金属装備

〇盾装備

〇鍵開け

〇軽業

〇戦闘時回復

〇槍

〇料理

 

片手剣使い(ソードマン)――いや、盾もあるなら騎士ビルドか。他にも、索敵に鍵開けに軽業……」

「私は軽装なので動きやすく、昔から索敵を任されていましたし、鍵開けはダンジョンで重宝します。軽業は熟練度を上げれば敏捷値にボーナスが付くので、それで取得しました」

「槍は?」

「遠間から攻撃できれば有利になると聞きまして。使い分けが難しいので、あまり熟練度は上がっていませんが」

「なるほどな……料理なんてするのか?」

 

 一番下にあるということは、最近スロットに追加されたということだ。

 俺の疑問を聞いて、シルビアはばつが悪そうに腕を組んだ。

 

「手順だけなら少しは参考になるから覚えておいたほうがいい、とアスナが……」

「……そうなのか」

 

 女子力というやつだろうか。シルビアはリアルでは料理が苦手なのだろうか。まあそんなことを追及するのもデリカシーが無いだろうし、俺は曖昧に頷いて言葉を濁す。

 シルビアはそんな俺の気遣いを察したようで、咳払いをして話を切り替える。

 

「それでは、まず鎧を塗装しに行きましょう」

 

 ちょうど転移門広場に到着し、シルビアがそう締め括った。

 

「目的地は48層の《リンダース》です」

 

 

 

 

 リンダースは田舎と言った風情の街で、ずいぶん雰囲気が良い。水の流れが特徴的な、とても綺麗な町だ。都会より田舎派な俺としてはかなりの好印象だ。少なくとも、グランザムよりは圧倒的にこちらが良い。

 

「ここです。私もアスナに教えてもらったのですが、人柄も腕前も良い方ですよ」

「ほう」

 

 シルビアが案内してくれたのは水車付きの家。随分と高そうな建物だ。俺の手持ちを全部はたいてもこんな家は買えないぞ、と戦々恐々としている俺に気付かず、シルビアが扉を開けて入っていく。

 

「リズベット、居ますか?」

 

 俺も後に続くと、ちょうど奥の扉からプレイヤーが出てくるところだった。

 

「あ、シルビア。新しい剣はどう?」

「良い出来です。ここまで軽さと威力が両立できているのはありがたいですよ」

「今日はどうしたの?」

「彼の鎧を塗装してほしくて」

 

 シルビアがこちらに手の平を向けた。

 

「セドリックだ。先程《血盟騎士団》に加入した際、腕利きの鍛冶師を紹介してくれるということでここを教えられた。よろしく頼む」

「あ、どうもご丁寧に。ようこそ《リズベット武具店》へ。私がその()()()()()()()ことリズベットよ」

 

 リズベットと言うらしい鍛冶師――鍛冶プレイヤーとは女だったのか――は冗談めかしてそう名乗ると、俺を上から下までじっくりと見た。

 

「ふーん……ダマスカスの鎧ね。結構稀少な金属なのに、よく一式揃えられたわね。高かったでしょ」

「まあ、それなりにな」

 

 俺は普段着に装備を変えながら頷いて答える。

 

「ダマスカス……性能はどれほどの物なのですか?」

「同じ軽金属装備にしたら、シルビアの鎧の1.2倍くらいはあるかしらね」

「そんなに? なら、やはり塗装する方で正解だったかもしれませんね」

 

 脱いだ鎧をオブジェクト化し、カウンターの上に並べていく。

 

「あと、重金属装備(こっち)も頼む」

 

 ごろごろと鎧をもう一セット出した俺に、リズベットはうわ、と声に出さずに口を動かした。

 

「ああ、そういう事ね……料金は二倍になるわよ」

「できるだけまけてくれ」

「はいはい。時間も二倍になるから、少し店の中でも見ててね」

 

 リズベットはそう言って奥へ引っ込んでいった。

 シルビアは手近にあった椅子に腰掛け、

 

「剣を見てみたらどうですか? リズベットの店は最前線のNPC店より良い物がそろっていますよ」

 

 そう言ってきた。

 鎧や剣がショーケースに並べられている店内を見渡し、俺は近場に置いてある片手用直剣を手にとってみる。

 

「なるほど……確かに悪くはないが――」

「?」

 

 今俺が使っている片手半剣カテゴリの武器が見当たらない。

 そう説明すると、シルビアは納得がいったように頷いた。

 

「片手半剣……なるほど、セドリックの剣は大きめだと思ったら、そういうことだったんですね」

「慣れるとあれも便利でな。手放せなくなる」

 

 次に盾を手に取ってみる。長方形の盾だ。大きさも手頃なそれを見て、左手に装着してみる。

 

「これは良いものだ」

 

 カイトシールドの方が好みではあるが、この盾の性能は俺が使っているものより高く、装備条件もクリアしている。リズベットが戻ったら売ってもらうことにしよう。

 

「あの、セドリック……」

「なんだ?」

 

 心なしかもどかしそうに名前を呼ばれ、盾を持ったまま俺は向き直った。

 

「……いえ、やっぱりいいです。初対面であまりずけずけと聞くことでもありませんし」

「ん……? まあ、そう言うなら気にしないことにする」

 

 と、口では言ったがそんな言い方をされたら気になるのが普通だ。

 聞きたいことでもあったのだろうか。

 

「はい、お待ちどーさま。済んだわよ」

 

 リズベットが戻ってきた。

 カウンターに置かれた鎧は白地に赤のラインが入った色に変わっていた。

 

「サービスで耐久値も回復させておいたわ」

「仕事は早いし寛大とはな。確かに腕も人柄も良いようだ」

 

 俺の言葉にリズベットはふふーん、と満足そうに頷く。鎧をまずストレージに仕舞い、ステータスウインドウを開いて装着し直す。

 黒かった装甲が見るかげもない。俺は何となく手甲のベルトを――サイズ調整など不要なのに――弄りながら、姿見で自分の姿を確認する。

 

「――少々、明るすぎないか?」

「血盟騎士団は皆そんなもんよ」

「よく似合っていますよ」

 

 シルビアは頷き、リズベットもうんうんと同意する。

 違和感があるのは、ここ一年ほど《軍》の鎧とダマスカスという黒色の鎧で過ごしていたからか。

 

「ふむ――すぐに慣れるか。ああ、そうだ。リズベット、その盾を貰えるか」

「これ? はいはい、まいどあり」

「それと、剣も見繕いたいんだが――片手半剣は無いか?」

 

 俺の質問に、リズベットはばつが悪そうに笑った。

 

「あー、片手半剣ね……あんまり需要ないから作るのやめちゃったのよ。必要ならオーダーメイドになっちゃうけど」

「む……そうか」

 

 流石にオーダーメイドとなると、ぽんと出せる金額にはならないだろう。

 そう悩んでいた俺に、リズベットはにこやかに提案してきた。

 

「強化なら安くしとくわよ」

 

 清々しい程の商魂に、俺はあっさり折れた。

 

「……そうだな。素材も集まってきているところだし、頼めるか」

 

 いずれにせよ、強化はしなければならないのだ。

 俺はストレージから今使っている片手半剣を取り出し、リズベットに渡す。

 

「わ、重たっ――あんた、見た目通り筋力ビルドなのね」

「誉め言葉として受け取っておく」

「あ、しかもこれ、プレイヤーメイドね……」

「む……そうだったのか」

「どなたが作ったのですか?」

 

 鑑定してもいい? と律儀に聞いてくるリズベットに頷き返す。

 

「えっと固有名は《マリスブレード》――悪意(malice)? 変な名前つけるのね」

 

 俺に言われても困る。俺がつけたわけでもないのだから。

 

「製作者は……って、うそっ!?」

 

 あまりの反応に俺たちも覗き込むと、製作者の欄には《nagree》とある。

 

「ん……? なんて読むんだ、これ」

 

 シルビアに目を向けたが、首をかしげられた。

 少なくとも英単語では無さそうだ。造語だろうか。

 目を見開いたままだったリズベットが、溜め息混じりに説明してくれる。

 

「これは《ナグリー》って読むわ。あたしが知ってる鍛冶師の中でも……というか、たぶんSAO中の鍛冶師で一番の変わり者」

「変わり者……どのようにですか?」

 

 シルビアが後ろで手を組み合わせながら聞き返す。

 

「えっと、知ってると思うけど、武器の作成って、熱したインゴットをハンマーで鍛える(たたく)のよ。ある程度の回数を叩くことで、武器に変化するの」

「ああ、見たことがある。なかなか根気のいる作業だ」

「それがナグリーという方と関係が?」

「ええ。あいつは武器を作る時――片手棍(メイス)()()()()()()()叩いて作るのよ」

「……ほう」

「……はあ」

 

 ソードスキルをぶっぱなしまくる鍛冶職人。

 その光景を思い浮かべた俺達の口から、煮え切らない声が漏れた。

 

「それは……何か特殊な効果があるのか?」

「無いわよ」

 

 リズベットは呆れたように手をあげた。

 

「SAOの『鍛冶』は回数を叩くだけで問題はないの。どんなに真剣にやっても適当にやっても変わらない――って言われてるわ。あたしはしっかりやるけどね」

「叩く回数というのは、ソードスキルでもカウントされるのですか?」

 

 シルビアの疑問に、リズベットは腕を組んで唸った。

 

「うーん……まあ、鍛冶のチュートリアルクエストで『インゴットをソードスキルで叩いてはいけない』なんて言われてないけど……」

「現に作っているのだから、カウントされるんだろうな」

 

 よくわからんが、と俺は肩をすくめた。

 

「まあ、変人だけど、良い武器を作っているのは確かよ。一線級の刀匠っていっても良いくらいね」

「そうなのですか? 周りでその名前を聞いたことはありませんが」

 

 でしょうね、とリズベットは嘆息した。

 

「どこに工房を構えているのか不明で、たまに路上販売してたかと思えば、NPC武器屋に委託販売してる時もあるの。そもそも街を歩いてるのすらろくに見掛けないのに、どうやって武器を作ってるんだか……」

「セドリック、貴方はどこで手に入れたのですか?」

「いや……覚えていない」

 

 俺は頭を掻いた。ただでさえこの一年なにをやっていたのか、ろくに覚えていないのだ。武器の購入など完全に無意識だ。

 まあいいわ、とリズベットが剣を鞘に納めた。

 

「じゃ、強化始めちゃいましょ」

 

 

 

 

 強化された《マリスブレード+3》を軽く素振りする。

 重さと鋭さを一つずつ上げたのだが、振った感触としてはそこまで変わらない。

 

「感謝する」

「もし新しい剣が必要になったらあたしに言ってきなさいよ。ナグリーより良い物作ってやるんだから」

 

 随分と気合いが入っていると思えば、歯軋りまでしている。それほどのことなのか。鍛冶職人同士の確執は闇が深いようだ。

 

「その時は頼む」

「ええ、任せときなさい」

「では、私達はこれで。ありがとう、リズベット」

「どういたしまして。シルビアもありがとね。おかげで新しい固定客が得られたわ」

 

 こちらを見てニコニコと笑う。良い営業スマイルだ。俺もつられて笑ってしまった。

 

「ははっ……わかった。これから贔屓にさせてもらう」

 

 そう言ったところで、シルビアがこちらを横目で見ていることに気付いた。

 

「どうかしたか?」

「い、いえ……なんでもありません」

 

 シルビアはごほん、と咳払いをした。何かおかしな行動をしてしまっただろうか。

 シルビアの俺に対するイメージを悪くしたくないし、言動には気を付けねばなるまい。俺はつとめて平常を装い、シルビアの後に続いて歩き始めた。

 そうしてグランザムの本部に戻ってくると、シルビアは俺に向き直った。

 

「では、今日はこれで終わりです。明日は貴方の実力を見させていただきます」

 

 俺は腕を組みながら聞き返した。

 

「実力――だと?」

「はい。クエストを受けてそれを達成するか、ある程度のモンスターを狩って素材を集めるか――他には、団員とデュエルを行うという方法もあります。なんでもいいから、貴方がしっかり戦えるという証明が欲しいのです」

「それは……やらなければならないのか?」

「団長直々に勧誘され、《黒騎士》として有名とは言え、やはりわかりやすく実力を示した方が周りからの信用も得られますし。何より――」

 

 シルビアはまっすぐに俺の眼を見た。

 

「私はこの眼で貴方の戦い方を見てみたい」

 

 真っ向からそんなことを言われ、俺は小さく息を呑んだ。 

 

「了解だ。なら……デュエルにするか。一番手軽だろうし。デュエルを選んだら、誰とすることになんだ?」

 

 デュエルならクエスト等と違って数分で済む。面倒なことはさっさと終わらせたい、と考えながら聞いた俺に対してシルビアは、

 

「私です」

 

 あっけらかんと答えた。

 

「私と戦っていただきます」




ヒロインです。シルビアです。礼節を重んじる物腰丁寧な女騎士ですが、見た目のイメージ的には騎士王よりもルーンファクトリーのフォルテさんの方が近いです。
くっ殺はありません。
セドリックを(精神的に)救ったり(物理的に)救われたりする予定です。
綴りはsilviaだけどシルヴィアではなくシルビアです。
キャラが真面目な顔で下唇を噛みながら「ヴィ」を発音する構図に耐えられなかったからです。全部シヴァタさんのせいです。
ユリエールさんとちょっとキャラが被っていますが気のせいです。

なんかこの作品対人戦多くね?と感じるこの頃ですが、一層でちゃんとネペントやコボルト勢とPvEしてるのでいいかな、と思いました。
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