うちのセドリックのイメージとは少し違いましたが、皆さんも見掛けることがありましたら、是非とも仲良くしてあげてください。
本部には訓練スペースが設けられており、デュエルはそこで行うことになった。見学者は数人。決して多くはない。
訓練スペースの使用許可をくれた
『《黒騎士》の実力は既に知ってる人が多いですからね』
との事だ。その副団長も何か用があったのか、少しだけ顔を出したが既にギルドを留守にしている。
(――実力を知っている人は多い、か)
それでもシルビアは自分の目で見てみたいと言った。実際、剣を交えることでわかることもあるだろうし、その考えは決しておかしなものではない。
デュエルを承認し、剣を抜き、カウントが終了した後だというのに、シルビアは剣を下ろしたまま
「準備は良いですか」
と聞いてきた。勝敗が目的ではなく、お互いの実力を見るためのものであるから、不意打ち気味の攻撃をする必要はない。当然と言えば当然だ。
剣の柄を握りしめながら、俺は頷いた。
「ああ。始めよう」
お互いに頷き、剣と盾を構えた。相手の挙動に注意を払いながら、俺は考えを巡らす。
おそらく、シルビアのビルドは敏捷重視だ。昨日のスキルスロットの説明で《軽業》の敏捷度ボーナスに言及していたし、リズベットとの会話では剣の
実際、シルビアが鞘から抜いた剣は片手直剣の中では短く、細身の部類だ。ショートソード、と表現するのがしっくりくる。
つまり、シルビアはスピード型の騎士。装備構成こそ俺と同じだが、戦い方は真逆の筈。
「では……行きます!」
シルビアは剣を構える。様子見のソードスキルか。あの構えは《レイジスパイク》だ。初期に習得できる単発の突進系ソードスキル。突進系スキルとはいえ、初期のものだ。いくら敏捷ビルドでも速さはそれほどではない。
そう、予想していた。
「せ――やぁっ!」
「――っ!?」
だが、実際には
早めに足を捌いていたのが幸いして避けることが出来たが、ソードスキルの初動から突進に移るのを視認した瞬間、既に剣先は俺の目前に迫っていた。
眼で追うのがやっとの速さ。ソードスキルの勢いのまま俺とすれ違うシルビアの表情には、驚きも悔しさも無い。俺が避けたことに動揺はしていないようだ。
自分の速さを過信せず、俺が避けることも想定していたか。そのまま着地すると同時、左足を軸にしてこちらに向き直る。
俺は素早く詰め寄り、剣を薙ぐ。シルビアは盾で受けながら後ろへ跳び、できるだけ衝撃を逸らした。
殺しきれなかった衝撃のままシルビアは一回転して着地し、床を滑りながら体勢を整える。
(身のこなしが軽い――斬撃は軽いが、速い――)
俺は盾を構え直し、油断無く剣を握り直す。
(侮るな……彼女は強い)
俺の警戒を感じ取ったのか、シルビアはとんとん、と爪先で床を叩くと、一気に疾走してきた。
「やあっ!」
「らあっ!」
振るわれる剣の軌道を見切り、盾を高めの位置に構えて受けとめる。俺は間髪入れずに腰の捻りを加えた突きを繰り出した。シルビアは防がれると見るや切先を回すようにして構え直し、振り下ろした剣で俺の刺突を迎撃。振り下ろした勢いをそのまま前宙するように回転し、遠心力を乗せて再度剣を振り下ろしてくる。
これは《軽業》の恩恵か。凄まじい動きと、そこから縦横無尽に繰り出される剣技は素早くも精緻で、俺に攻める機会を握らせない。
――スピード型の手練が、ここまで厄介とは。
クラインとの決闘を思い出し、俺は臍を噛む。
その激情のままソードスキルを発動する。
シルビアもそれを見て、無意識に迎撃のスキルを発動したようだ。しまった、と声無く口が動いた。
「おぉっ!」
「はあぁっ!」
《ホリゾンタル・スクエア》と《バーチカル・スクエア》。互いに四連続のソードスキルを発動させ、剣を交差させるように連撃を打ち合った。
シルビアの表情は厳しい。ソードスキルも迎撃の際、キャンセルされる寸前までモーションが弾かれている。俺のスキルを相殺することは彼女にとってギリギリだ。
彼女自身、それはわかっていたはずだ。
それでもソードスキルを使ってしまったのは、モンスター相手にもよくやっているゆえの条件反射か。
相殺され、ノックバックで地面を滑る――と、シルビアは地面を連続で踏み鳴らすようにステップをして体勢を瞬時に立て直し、剣を肩口の辺りで引き絞るように構え、突撃してくる。
突き込まれる剣を、盾で逸らす。俺が反撃で袈裟斬りを繰り出すと、シルビアは盾を構えて受け止めた。
「で――りゃあぁぁっ!」
「くっ!」
その状態から、筋力パラメータに物を言わせて全力で振り抜く。
シルビアはたたらを踏み、尻餅をつきそうな程押し切られる。そこから俺が更に踏み込んで斬り上げると、シルビアは思いきり床を蹴ってバック転をするように避けた。
(行ける――翻弄されるな! 真っ向から打ち合えば押し切れる!)
俺は守りの姿勢を解いて床を蹴り、疾走。剣を構え、連続で振るう。袈裟斬り、右薙ぎ、上段からの全力の唐竹。
シルビアは二連斬りを体捌きで避けると、剣を握ったままの右腕を左腕に交差させる形で盾を構え、唐竹を受け止めた。
(な――っ)
咄嗟の判断で両腕を使い、攻撃を受け止めるとは。剣を握ったままのそれを成功させるのは容易くない。ずいぶんと戦い慣れている。
「随分とやるな――血盟騎士団に居るだけはあるっ!!」
「貴方も――《黒騎士》の二つ名は伊達ではありませんねっ!!」
お互いに笑みを浮かべ、バックステップで距離を取る。
素早く距離を詰めてくるシルビアの剣。
迎え打つ俺の剣。
その二つがぶつかり合い、弾かれ合い、お互いの身体を掠めてHPを削る。
お互いに全霊の剣を振るい、技を繰り出す。
モンスター相手ではほとんど味わえることのない、この高揚感。
「「はあぁっ!」」
俺の力任せの連撃を、シルビアは流麗な剣技で迎え打つ。
俺の剣は重く、そうそう弾かれることは無い。だが俺の一撃を、シルビアは高速の二撃を以て打ち払う。
クラインなら刀で受け流したそれを、同じ敏捷ビルドのシルビアは真っ向から打ち返してくる。
「
「それ、誉めているんですか?」
ガギィ、と一瞬の鍔迫り合いで目が合い、ニヤリと笑う。
「もちろん、誉め言葉だっ!」
「それはどうもっ!」
打ち払い、距離をとって一呼吸おいてから、真っ向からぶつかり合う。
「おぉらっ!」
「せやぁっ!」
その、落ち着いた見た目にそぐわぬ好戦的な姿勢。
そんなものを見せられては、どこまで張り合えるか試したくなるというものだ。
ソードスキルなど不要。この一年、この世界で培った俺自身の剣術を存分に振るう。
お互いにヒートアップしているからか、盾を使うことすら忘れ、剣を振り続ける。打ち合わせた剣が火花を散らすより早く、次の攻撃を繰り出す。
剣がぶつかる度、その余波で少しずつダメージが
「まだだっ!」
「この程度でっ!」
減るペースはほぼ同一。俺が多めに削っても、シルビアは細かなダメージを重ねて削る。ほぼ均衡を保ちつつ、確実に減っていくHP。もう勝負は長く続かないだろう。
それでも。再現無く加速していくのではないかと錯覚してしまうほどに、俺とシルビアの剣は止まらなかった。
その剣戟が終わりを告げたのは、
――ビシッ
という音を俺の耳が捉えた時だった。
音の発生源はシルビアの剣。
本人も気付いたようで表情が固まるが、剣を振るう最中だったため、止めることが出来ない。
俺は咄嗟に、斬り上げようとしていた剣の軌道を逸らそうとした。その結果、シルビアの刃が俺の刃の上を滑り、そのまま俺の肩に食い込んだ。
叩き付けられる衝撃に、俺は片膝を着かされた。
「ぐっ――」
「セドリックっ!?」
シルビアが驚愕した声を出すと同時、俺のHPが危険域に落ちてデュエルが終了した。
勝利者表示がシルビアの頭上に出て、観戦していた皆から歓声が漏れ、拍手が送られる。
シルビアはすぐに肩から剣を引き抜き、俺の傍にしゃがみこむ。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、大したダメージじゃない」
俺は軽金属鎧を装備した状態でも、防御力はかなり高い方だ。モンスターのソードスキルをクリティカルで食らったとしても、二発までなら致命傷にはならない。この程度で死にかけることはない。
立ち上がり、周りを見渡すと、観戦していた団員達は健闘を讃えながら訓練スペースを後にしていった。人がめっきり居なくなったところで、俺はシルビアへ視線を移す。
そこまでして、シルビアは涼しい顔をしている俺に安心したようにほっと息を吐き――次いで、形の整った眉をひそめると、今度は悔しさの滲んだ溜め息を吐いた。
「セドリック。今回の件は――」
「勝ったのはお前だ。一応、な」
そう言って肩をすくめた俺に対し、シルビアは不満げに唸った。
「あのまま続けていたら、私が負けていました」
「かもしれん。だが、勝敗ではなく、互いの強さを把握する戦いだったんだ。騎士の命である剣を折るまでやる必要はない。目的は達したのだから、それで充分だろう」
「――すみません。私が剣の耐久値を把握していれば、こんなことには」
シルビアの片手直剣は細く軽い。俺の片手半剣はそれに比べて太く重い。
例え耐久値をフルに回復していたとしても、その差で真っ向から打ち合えば、そちらに先に限界が来るのは当然のことだ。
そういう俺の言葉に、シルビアは頷いた。
「はい。普段なら、私もあんな戦い方はしないのですが――貴方と斬り合っていたら、何故か昂ってしまって」
気恥ずかしい、と言わんばかりに手を組み合わせるシルビア。あのように互いに吼え、高揚した言動を思い出したのだろう。言われてみると、俺も随分と熱くなっていた。照れ臭さから、首元を掻いた。
「と、とにかく。これでいいんだろう、腕試しは」
「はい。見ていた面子が他の団員にも広めてくれるでしょう。私と同じか、それ以上の実力者であると」
その楽しむような口振りに、俺は疑問をもった。
「シルビアは、血盟騎士団で何番目くらいに強いんだ?」
「何番目、ですか。んー……」
口許に指をあて、考え込む。
「正直、デュエルは時の運なので一概には言えませんが――まあ、五本の指には入ると自負しています」
「大した自信だな」
「当然です。私はアスナとも張り合えるんですよ。多少は自惚れたって構わないでしょう」
「
「はい。今のところ5戦2勝3敗です。負け越さぬよう、精進しなければいけませんね」
「五回やって、二回勝っただと?」
ほぼ互角の腕前だ。俺など、あの速度の前では盾を構えることすらできないだろう。
「アスナは
張り合う、か。剣士としての気質はかなりの物のようだ。そう考えていた俺の注意を引くようにシルビアは咳払いをし、眼を合わせてから真剣な表情で続けた。
「もちろん、貴方ともちゃんと決着をつけたいと思っています。今日のところは私の勝ちに
「……そうだな。その時は全力でやろう」
「もちろんです」
さて、とシルビアは自身の剣を眺めてから鞘に納め、
「では、戻りましょうか。昼食を食べながら、今後について話します」
◇
「当面、私たちのすることは自身の強化やレベル上げです。
武器の修理をした後、主街区のカフェテリアの一角に腰を下ろし、サンドイッチを注文しながらシルビアは話し始めた。
「と、いうと?」
俺は少し迷ってから、シルビアの正面の椅子に座った。道中で買ってきた小さめのフランスパン(60コル)をまるごとかじる。
シルビアは少しだけそんな俺の様子を眺めた後、続きを話し始めた。
「貴方も知っての通り、フロアボス攻略は全てのギルドが合同で行うものです。私達が急いて迷宮区の攻略を進めて、ボス部屋を見付けたとしても、すぐに戦うわけではないです。死ぬだけですからね」
そう言って、十秒足らずで運ばれてきたサンドイッチをぱくりと食べる。
まったくその通りだな、と俺が頷くと、シルビアは口の中のものを飲み込んでから、
「ですので、私は基本的にボス部屋を目指しての攻略はしません。迷宮へ潜るときは経験値とお宝狙いです。奥まで行くことはあっても、あくまでボス部屋探索はおまけです」
お宝狙い、と俺は呟く。そういえばシルビアは鍵開けスキルも持っていた。そういうのも彼女の専門分野なのだろう。
「なら、この後は迷宮区へ向かうのか?」
「それも良いですけど、セドリックは何かやりたいクエストとかありますか? よければお手伝いしますが」
「やりたい、クエスト――」
特に、無い。俺の表情を見てかは知らないが、シルビアが少しだけ目を細めた。
俺は軽く首を振って答えた。
「パーティリーダーはお前だ。お前の方針に従う」
「――そうですか」
シルビアは静かに頷き、サンドイッチを口に放り込む。もぐもぐと咀嚼し、飲み込む。
残り一つのサンドイッチに手を伸ばし、また一口。もぐもぐ。
「…………」
「……ん?」
その様子を眺めていた俺に気付き、首をかしげた。
「何か?」
「……いや」
なんとなく見ていただけだ。サンドイッチが美味いのか不味いのかもわからないほど、淡々と食べていたものだから。
なんでもない、と俺は肩をすくめ、パンにかぶりつく。
その後は無言だった。お互い自分の食事に集中する。
「さて」
サンドイッチの最後の一口を放り込むと、シルビアは咀嚼しながら椅子を立ち、歩き始めた。
既にパンを平らげ、のんびり構えていた俺は慌てて立ち上がり、彼女の後について歩き出す。
「どうするんだ?」
「私のクエストを手伝ってください。モンスターを一定数処理する単純なものです」
「了解した」
◇
両手剣を凄まじい膂力で振り回す狼男に、俺は真っ向から受けて立つ。重金属鎧に身を包んだ俺は、《マリスブレード+3》を両手で握り、鍔迫り合いに持ち込む。
「セドリック、
「了解、だッ!」
力任せに押し込まれる狼男の剣を、俺は受け流すように払った。
「やぁっ!」
突き込まれるのは、シルビアの《ヴォーパル・ストライク》。半身になった俺の隙間を縫うように、ショートソードが凄まじい加速で狼男の胸に突き刺さる。
「グオッ!」
呻き、もがく狼男の胸板を足蹴にし、後ろへステップしながらショートソードが引き抜かれる。
その隙を逃さず、俺は《サイクロン》でがら空きの腹を真横に両断した。
ポリゴンの欠片となって爆散する狼男を背に、シルビアと互いに握った手の甲を打ち合わせた。
「ナイスだ、シルビア」
「ええ。セドリックもよく合わせてくれました」
お互いに剣を納めながら頷いた。
「あと何体だ?」
「えっと……残り四体ですね」
了解、と俺は重金属鎧の円筒型フルフェイスヘルムを脱ぎ、ポーションを飲んだ。
そのヘルムを脇に抱えながら、俺はシルビアに顔を向けた。
「それにしても、ずいぶん戦い慣れているんだな」
「ええ。ベータテスターほどではありませんが、そこそこ古参ですし」
「ゲームが始まった時から戦っていたのか?」
「あ、いえ。私が攻略に参加しようと戦い始めたのは、その……」
少しだけ俺から眼を逸らして言い淀み、
「……このゲームが始まってから、一ヶ月ほど経った頃です」
「一ヶ月――」
ちょうど、一層がクリアされた時期か。
確かに、あの時
シルビアもその一人か、と俺は聞いた。
「そう……ですね。まあ、その認識で間違いはありません」
「……?」
どうにも煮え切らない。気になることは気になるが、狼男が再度出現した。その数、4。
「4匹か。これでキリがいいな。3匹引き付けておく」
「わかりました。残り1体を手早く片付けます。無理はしないように」
「なに、3匹程度なら10分殴られ続けでもしない限り、死ぬことはない」
絶対の自信と共にヘルムをかぶりなおし、マリスブレードを引き抜く。
投げナイフを指の間に三本握り、《投剣》スキルによって3匹へそれぞれ投げ付け、ヘイトを引き付けた。
◇
「今日は助かりました。明日も同じく活動しますので、良いクエストでも見付けてきてくださいね」
「そうしておこう。女性のエスコートも出来ずに、騎士など名乗れんからな」
「ふっ――そうですね、期待していますよ」
にこりと笑う。
「なんだその顔は」
「いいえ、別に」
「……まあいい。じゃあ、また明日」
「ええ、それでは」
そうしてガシャガシャと重金属鎧を鳴らしながら歩いていく後ろ姿を見送る。
あんなに重たそうな鎧を着ていながら、よくあそこまで自然に動けるものだな、と思う。よっぽど筋力にパラメータを振っているんだろう。
「……さて」
剣の耐久値はまだ問題無い。けれど、今朝のようなこともあるし、万全にしておきたいとも思う。
(……もう8時か。リズベットは店仕舞いをしているでしょうか)
《剣の整備をお願いしたいのですが、もうお店は終わってしまいましたか?》、とリズベットにフレンドメッセージを飛ばしてみる。
1分足らずで返信がきた。内容は《研ぐだけならすぐできるし、来ていいわよ》。
(ありがたい)
リンダースへ転移。リズベット武具店の扉をくぐると、アスナとリズベットが談笑していた。
「あ、来た来た。いらっしゃい、シルビア」
「やっほー、シルビア」
私は二人に頷きを返し、腰に提げている片手直剣の《ティアドロップ》を鞘ごと外す。
「さっそくで悪いのですが、お願いします」
「はいはい――ん? あんまり消耗してないわね」
「今朝折れかけてしまったので、一度修理したんです。あまり減っていないと言っても、耐久値はマックスにしておきたいですし」
「お、折れかけた!?」
リズベットの驚愕と共に、アスナが驚いた様子で聞いてくる。
「今朝って、もしかしてセドリックさんとのデュエル?」
「はい。限界まで打ち合ってしまって」
「あのね……
「すみません……」
「まあ折れなかったならよかったけど、気を付けなさいよ?」
まったく、とリズベットは頬を膨らませながら奥へ引っ込んだ。
そんなリズベットを見送り、アスナが笑いながら聞いてきた。
「でも、剣が折れそうになるまでやるなんて珍しいね。シルビア、普段は速攻で決めていくタイプなのに」
「接戦だったので、つい我を忘れて」
「それじゃ、折れる前に決着がついたんだ?」
「いえ――」
決着がついた、という言葉を否定しようとして首を振ったが、別に間違いではなかった。
「――いえ、まあ、そうですね」
けれど、私はまだ決着がついたとは思っていない。剣が外れた腰に左手を添えながら、右手の拳を握った。
「どうだった? セドリックさんは」
「良い騎士でした。アタッカーとしてもタンクとしても、充分に戦えます。さっきなんて、両手剣持ちの獣人3体を相手に無傷で凌いでいました。彼はかなり手慣れています」
私の言葉に、アスナはへー、と声をあげた。
「あのパワータイプのモンスターを3体同時に……」
「防御に徹していたとは言え、3対1であんなに粘れるのは凄い。血盟騎士団の戦力として、かなり期待できるでしょうね」
「ふふっ――随分評価してるんだね?」
「ええ。多くのパーティに所属していたからか、連携も取れています。私の呼吸にも合わせてくれるので、とても戦いやすい」
「……ほんとに評価してるんだね」
アスナが少し呆れたように笑った。
そこで私は語りすぎたことに気付き、咳払いをして気を取り直し、
「ともかく、彼は強い。私との二人パーティにしておくのが勿体無いくらいです」
「そんなこと言って、男と二人っきりになるのが嫌なだけなんじゃないの?」
リズベットが研ぎ上がった剣を持ってきながら会話に参加してくる。
二人っきりが嫌――?
「いえ、特には」
「あれ、そう? シルビアってアスナとは組むけど、あんまり他のメンバーとパーティ組みたがらなかったわよね?」
リズベットの指摘に私は頷く。リズベットはアスナと同じく、私と歳の近い友人なので、色々な話をする。自然、私のパーティに対する考え方も知っている。
「そうですね。他の団員は皆男です。SAOでは珍しいからか、私のような女にも言い寄ってくる男が多くて。まあ《血盟騎士団》の中にはそのような輩はいないようですが、正直、そこらの男とパーティを組むくらいならソロでやりますよ、私は」
フレンド申請だけならともかく、年齢や住んでいる場所など、
普段ならすれ違うだけの人物が、パーティを組んだ途端、当然の権利を得たかのごとく聞いてくる。時には
そんな事が続けば、パーティを組むのが嫌になるというものだ。
「けれど、セドリックは私に対して
私の言葉に、リズベットは合点がいったように苦笑した。
「あぁー……まあ、あの生真面目な騎士さんは
内心何を考えてるかはわかんないけど、とリズベットは小声で付け足した。
私がその言葉を聞いて眼を細めると、慌てて両手を振りながら、
「ほ、ほら、男なんて皆そんなもんでしょ! 特にセドリックなんてかなり若い男だし、表に出さないだけでヤバい事考えてるかもしれないわよ?」
「それはまあ、セドリックが内心で私に対してどう考えているかは知りません。見た限りではわかりませんから。けれど、ナーヴギアによって感情がわかりやすいこの世界でも、そうして素振りにも出さないからこそ、信用に足ると私は考えます」
「まあ、確かにね。セドリックさんが女の子に言い寄ったことなんて無いだろう、し……?」
後半ぽつぽつと言葉が途切れ、アスナは考え込むように黙った。
それに気付かず、リズベットは私に対して問い掛けてくる。
「まあつまり、セドリックは二人で話しててもやらしい眼で見てこないから信用できる、ってことよね」
「はい。ですので、私はセドリックと二人であることは問題ありません。相性は良いですし。むしろ戦闘効率を鑑みて、これからも組みたいところですね」
「あらら、かなりお気にいりみたいね」
そこでアスナが何かを思い出したかのように「あっ!」と声をあげた。どうかしましたか、と声をかける。
「え、えっと、その……セドリックさんの事、なんだけど……」
「彼がなにか?」
「う、ううん! 何でもないよ何でも! あはは……」
そんなに分かりやすく隠されると気になる。そう私が追求すると、アスナは頬を掻きながら眼を泳がせ、
「ええっと……で、でも、昨日見た感じだったら、セドリックさんもかなりシルビアの事気に入ってそうだったよ?」
「――そうですか?」
間違いなく話を逸らされたが、少し気になる話題だったので食い付いてしまった。
私の疑問に、ここぞとばかりにアスナが頷く。
「そうだよー。ね、リズ?」
「どうかしら。そんな素振りは無かったように思うけど」
リズベットの頬杖を付きながらの言葉。私も少しだけ考えてみる。
といっても、昨日初めて話したので、特に心当たりのある場面は無い。
団長室で挨拶をした時にじっくりと顔を見られたり、デュエルの時に顔に似合わず好戦的と言われたり、昼食の時にじっと見られていたり――
……あれっ。
「……結構見られていますね、私」
どうしてだろう。あまり不快ではなかったから、気付かなかったんだろうか。
「気付いてなかったんだ? セドリックさん、初対面の時シルビアに見惚れてたよ?」
「まさか」
私は肩を竦めた。
「見られていたとしても、血盟騎士団に女が居たから驚いただけでしょう。私の顔なんて、見ていて面白いものでもありませんし」
アスナとリズベットが顔を見合わせ、曖昧に笑った。
「なにか?」
「別にー? けどさ、シルビアも結構セドリックのこと見てなかった?」
「私が、ですか?」
「そうよ。結構チラチラと見てたじゃない」
「あっ……それは、まあ、その――」
私は少しだけ言葉に詰まる。
「何々? なんか面白い理由だったりする? 顔が好みとか?」
「私は別に顔は気にしませんが」
「ともかく言いなさい! なんか乙女の香りがするわ!」
どうにもリズベットは
私は観念して溜め息を吐き、話すことにした。
「そういうのじゃありません。私はただ――」
リズベットに並び、アスナも興味深そうにこちらを見ている。
「――彼の笑った顔を、初めて見た」
呟くような私の言葉に、二人は押し黙った。
あの時、セドリックはリズベットの冗談に声をあげて笑った。ずっと何かを抑えているような仏頂面で、取り繕っているかのような無表情だったセドリックが――笑った。
それを見て、「ああ、この人はこんな風に笑えるんだな」と思った。
それでもやっぱり、それはどこか抑え込むような固い笑顔で。
何かを抱え込んでいるような、苦しそうな笑顔で。
「ねえ、シルビア。昨日から気になってたんだけど……セドリックさんと会ったことあるの?」
私はアスナの問いになんと答えるべきか迷った。
アスナは昨日、私とセドリックが会った時に立ち会っている。あのときの私の言葉に違和感を感じたんだろう。
『セドリック……《黒騎士》?
当然だ。あんな事を言えば誰だって気が付く。セドリック本人も、私の言葉に混乱していたように見えた。
だけど。
「いいえ、会ったことはありません。当然、話したことも。ただ、
二人は続きを待つかのように一言も喋らなかった。
視線を左上に向ける。私のHPバーの下にある、《cedric》の名がついたもう一つのHPバー。
パーティを組んだままの、あの人の名前と
「見たことがある……それだけです。だからかな。彼の
気になるのは事実だけど、けしてリズベットが期待するような感情は無い。
無い――と、思う。
(……セドリック)
必要以上に踏み込んで来ず、あまり表情を変えず、饒舌というわけでもない。
意識してそうしているのであろう、小難しい言葉使いと、気取ったような固い口調。指示に対して絶対とも言える姿勢。こんな私でも、パーティリーダーとして信を寄せてくれる寛容さ。
そして何よりも、
「――良い人だとは思います。あの人は全力で戦っている。打算無く只管に剣を振る。こんな
リズベットもアスナも、一言も話さない。ふざけることも、茶化すこともしない。真剣な、どこか気遣うような表情で私を見ている。私はそんな二人を見て、こんな状況なのにくすっと笑ってしまった。
別に真面目な話をしたい訳じゃないのに、どうしてか語ってしまった。こんな言い方をすれば心配をかけてしまう。
「ですから、副団長。私はこれからも、セドリックとのパーティ継続を希望します」
私が笑いながら言った言葉に、
「副団長としての権限で、その申請を承認します。《黒騎士》なんて呼ばれてるあの人が更正できるよう、しっかりと見張っておくように」
アスナも冗談めかしてそう返してきた。私は左手で剣を腰に添え、握った右拳を胸にあてながら、
「承知しました。その責務、果たして見せます――」
そう宣言した。
「一人の騎士として」
最近はあとがきで本編の補足説明をするのが趣味です。
もし補足がされていない場面が気になる場合、「ここってどういう意味なの」と聞いてくだされば、作者が阿呆なりに考えた後付け設定が聞けると思います。
〇二人ともバトルマニア
冒頭のデュエルでは、セドリックもシルビアもチャンバラが好きなのでヒートアップしており、言動が乱暴になっています。シルビアは自分のそういう気質を自覚していませんが、セドリックの熱気に引っ張られる形で着火し、はっちゃけました。
〇サンドイッチもぐもぐ
昼食時、シルビアがサンドイッチを口に含みながら足早に席を立ったのは、セドリックの沈黙を「既に食べ終わって退屈しているから」と勘違いし、「早く私も食べ終えて動かなければ」と焦っての行動です。決して行儀がなっていない訳ではないです。
〇セドリックの頭装備
軽金属装備の場合はイケメンビジュアルのアーメットヘルム。
重金属装備の場合は十字に模様の入ったグレートヘルム(いわゆるバケツ)です。
昔は黒地に赤のラインが入っていましたが、現在は血盟騎士団カラーの白地に赤のラインが入ったカラーリングになっています。
セドリック本人はヒースクリフの様な真っ赤な鎧を着てみたい様子。
〇シルビアの高評価
シルビアがセドリックに対して好印象を抱いているのは、第一印象が強いのと、剣を交えた(チャンバラした)ことによる意気投合が理由です。
それらの要因により、「こいつは悪い奴じゃない」という認識が出来上がっている上、セドリックの見事な騎士っぷりに対し、同じ騎士として好感を覚えています。
オンラインゲームで同じ装備の人を見付けたら、なんとなく親近感沸くのと同じ感じです。
〇セドリックの内心考えていること
色々酷いこと言われていますが、当のセドリックはシルビアに対して「美人だなー好みだなー」と眺めているだけで、決して邪な感情はありません。生真面目特有の純情です。
ちなみにセドリックはポニーテールが好きなのでシルビアはドストライクでもある。
「実は俺、ポニーテール萌えなんだ」という台詞を言わせたくなる。それにドン引きするシルビアを書きたくなるなる。
〇セドリックに対するアスナの懸念
ヒント:アルゴ
〇早くも明らかになりそうなシルビアの話
ものすごくぼやかして語らせたシルビアの独白ですが、勘の良い方はどういう意味かあっさりわかると思います。ご都合主義特有の安直な展開です。ユルシテ。