ずっと、暗闇のなかで座り続けていた。
そうしながら、どれだけ経ったのかわからない。最初の日以来、まともに夕陽さえ見ていない。
陽が登って、沈んでいく。そうした明るさの変化はなんとなくわかったけど、だからといってそれに関心もなければ、数える気も起きなかった。
オレは、ずっと座り込んでいた。
ずっと、頭の中で同じことが繰り返される。
砕け散るポリゴン。砕け散る
泣きそうな顔になりながら、オレを励ましていた親友。
オレはそれを拒絶し、とうとう堪えきれなくなったように、あいつは部屋を飛び出していった。
諦めない、と。無駄にはしないとオレに告げて。
「すげぇよな」
あいつは、こんなになってもまだ、攻略をしようとしてるんだ。
ゲームクリアのために、何かしようとしてるんだ。
「オレは……」
オレだって、わかってる。
オレは、オレのできることをしなきゃならないんだと、わかってる。
けど、槍を捨てた。鎧も捨てた。素材も捨てた。
プライドなんてない。ゲームをプレイする気にもならない。
当たり前だ。
「兄さん――っ」
兄が、死んだんだ。
オレの目の前で。
いつも自分の部屋のゲームやらマンガやら菓子やらをちょろまかす、
本物の顔でなくても、本物の顔を想起させるほどに見慣れた笑顔のまま。
「――ッ!!」
思い出した瞬間、吐き気と、寒気と、怖気を感じた。動悸が激しくなり、自分の腕をかきむしるように身体を抑え込む。
ガタガタと、たがが外れたように震え出す身体。自分のものではないかのように。自分の内側から、何かが跳ね上がっているかのように。
震えが止まらない。冗談みたいだ。こんなガクガクブルブル震えるなんて、アメリカのアニメくらいオーバーなものだと思ってたのに。
オレはいま、その冗談を体現している。
「う、あ――」
止まれ。止まれ。止まれ、止まれ止まれ。嫌だ。嫌だ。このままどうにかなってしまいそうだ。身体がバラバラに砕け散るんじゃないか。そんな不安にすら襲われる。
必死に、思考をやめる。なにも考えないようにする。微睡んでいるような感覚を無理やり引き出す。適当な考えを捻り出し、それで頭をいっぱいにする。
そうして、少しずつマシになっていく震えに安堵し、また静かにうずくまり、また思い出しては震えだす。
そんな日々をどれだけ続けただろう。
最初の日に、あいつに連れてきてもらった宿屋からは追い出されていた。オレはふらふらと歩き出し、人の来そうにない、通りから離れた路地裏へたどり着いた。
オレは民家の壁にもたれるように座り込み、ぐったりと頭を垂れる。
「――ああ」
口から掠れた声が漏れる。
オレも、死ぬか。
その方がいいかもしれない。
あいつが走り出した時の背中を覚えている。
部屋を出る時に、振りきるようにドアを閉めたあいつの表情を覚えている。
友達を守れなかった後悔があっただろう。本当に死ぬゲームに踏み出す恐怖があっただろう。
なによりも、当たり散らしたオレに対する罪悪感があっただろう。
あいつはそういうやつだ。抱え込むやつだ。自分が責任をとろうとするやつだ。
そんなあいつに。必死に踏み止まってがんばっていたあいつに八つ当たりして、全部押し付けた
あいつを友達だって思うから。だからこそ、あいつを傷つけたオレ自身が許せない。
だから、罪滅ぼしをしなきゃいけないんだ。
けれど、どうすればいいかわからない。あいつと並んで戦うことはできない。
オレもあいつも、互いに会うことを望むとは思えないし。
なにより、ネットゲームの出遅れ組なんて、結局は中途半端にしかならない。あいつが戦い続けているのなら、今からあいつのところまで追い付くことなんてできやしない。
そもそも、オレには槍がない。金もない。
目的が、ない。
帰ったとしても、ずっと一緒にいた兄はいない。
あいつと、これからも同じように付き合っていけると思えない。
なんだ、結局ダメじゃないか。あいつのようにはなれない。あいつのところに辿り着く前に、オレはすぐに折れてしまうだろう。
やっぱり、ここで無様に野垂れているのがお似合いだ。
「あの……」
そんな時。
そうして塞ぎこんでいたオレに、声をかけてくる人がいた。
オレは最初、自分が声をかけられたのだと気付かなかった。顔を上げず、姿勢を変えず、返事をしなかった。
「きみ、大丈夫?」
とんとん、と肩が叩かれた。あまりにも予想外なその感触に、思わずびくっと身体を震わせた。
わっ、と声があがる。オレの反応に相手も驚いたようだ。
ゆっくりと顔をあげると、こわごわとこちらを覗き込んでいた顔が見えた。
メガネを掛け、濃いめの色をした茶髪を後ろで編んだ、20歳前後くらいの女性。
そこで初めて、声をかけてきたのが女の人だと気付いた。
「え、あっ……」
動揺した。歳上の女の人だ。女子とすらほとんど話さないのに、しかも歳上なんて。
そんなオレの反応を警戒していると思ったのか、その人は優しげに微笑んで話し掛けてくる。
「大丈夫? お腹すいてない?」
聞かれたのはそんなこと。
なにも食べてないから、そりゃ腹は減っている。でも、それを見ず知らずの人の前で素直に認めるのはなんとなく恥ずかしかったし、何よりも――
「関係、ないだろ」
オレが腹減ってるからって、あんたになんの関係がある。
オレの言葉を聞いて、その人は─―オレの気のせいかもしれないけど――意を決したようにメニューからストレージを開き、何かを取り出す。
その差し出された手に乗っていたのは、一つのパンだった。
「……?」
思わず声を失った。なんだこれ。見せびらかされてる? いや、そんなわけないよな。どう考えてもこの動作は――
「くれる、のか」
こくりと頷くその人。
思わず、そのパンを見つめた。
なんの変哲もない黒パンだ。中身に何も入っていないであろう、シンプルで飾り気の無い、固めに焼かれたパン。
そういえば、と思う。そういえば、
ファンタジー映画や騎士ばっかり出てくる映画やらを好んで見まくってた――からだと思うんだけど――あいつは、こういう「昔ながらの田舎パン」みたいなのが好きなやつだった。
オレはだいたいあんぱんやジャムパンみたいに甘いのが好きなんだけど、あいつは「普通のパンも噛んでれば甘いぞ」とか、「そのまま食うのもいいが、シチューとかスープにつけて食うのもうまいんだ」とか、よく給食の固いコッペパンを囓りながら力説していた。
オレは結局、固いパンは顎は疲れるし味はあんまり感じないしで、よくあいつにあげていたんだけど。
――でも、あいつはこういうパンを、本当にうまそうに食っていた。
それを思い出し、目の前のパンを見る。わずかに香ばしい匂いまで感じたような気がして、忘れていた空腹感が思い出される。無意識に視線が釘付けになる。
「いいよ、あげる」
笑って言われたその言葉に、我慢できるような余裕はなかった。
渡されたそのパンを、おそるおそる齧る。固い。ガリガリに固いわけではないけど、噛み切るのにも引きちぎるにも一苦労するその固さ。
一口分を食いちぎり、口の中で咀嚼する。ものを食べる動きを忘れるくらいの長い間、なにも食べていない。そこにこの固い黒パンだ。オレは辛抱強く歯を立て、噛み締める。
「……っ」
確かに。
あいつが言っていた通りだ。口に含み、根気強く咀嚼して味わっていると、パンの自然な甘みが味わえる。
アンコやジャムのような甘味じゃない。優しい甘さ、とはこういうことを言うんだろうか。
なるほど、確かに。
「……うま、い」
こういうパンって、うまいんだ。
オレはそこから止まらずに、ひたすらにパンを貪った。固いパンを何度も何度も噛み、飲み込み、またかぶりつく。
いやしいだとか、意地汚いとか、そう言われかねないばかりの食いつきだったと思う。目の前に女の人が居たことだって忘れていた。
一個だけのパンなんて、すぐに平らげた。
そこまでして、ようやくオレはその人にしっかりと向き直った。
「……ありがとうございます」
いえいえ、とその人は嬉しそうに頷いた。
「……なんで」
「はい?」
「なんで、こんなことしてくれたんですか」
疑問をぶつける。当然だ。なんだってこんなゲームの中で、初対面の男にパンなんて渡すのか。
その人は笑って言った。ほっとけなかった、と。
「誰かと一緒? 友達とか、パーティ組んでる人とかは?」
一瞬、兄さんとあいつの顔が浮かぶ。
「いない……いません。一人です」
今はもう、と小さな声で付け加える。
それが届いてはいないだろうけど、その人はじっと悩んだ様子で、
「少し、お話ししよう?」
◇
そういった経緯で、オレはサーシャさんと知り合った。
彼女は言ってしまえば、良い人だった。
困っている子供、一人になって苦しんでいる子供を助けたくて、声をかけたのだという。
オレは、その助けようとした子供第一号だった。
「話はわかったけど、どうするつもりなの? 子供を助けるっていっても、世話ができなきゃ意味がないでしょ」
話していくうちにすっかり打ち解け、サーシャさん本人の厚意もあって、オレは敬語を使わずに話すようになっていた。
人と話すのは久しぶりだった。
こんなにも落ち着けて、気が紛れて、楽しめるものだとは忘れていた。
サーシャさんはもう、オレが一人でいた理由までは聞かないでくれた。たぶん、今こうして話していても、オレが
「一応、考えてることはあるんだ。ほら、この町って色んな施設があるじゃない? 中には安く借りられるところもあるみたいだから――」
「そこを間借りして、みんなで暮らせる施設を作ろう、ってことか」
オレは眉をひそめ、
「いい話だし、必要なことだと思う。オレなんかでは思い付かない、すごく立派なことだ。でもそれ、お金もかかるんじゃ?」
「もちろん」
だからね、と腰に装備されている短剣に手を添えた。
「住むところと、空腹を満たすことができるくらいには、頑張って稼がなくちゃならないね」
「……なるほど」
オレは悩んだ。考え込んだ。
どうしようか、と。
なぜ素直に協力をしようと思ったのか。
相手が素朴な美人だからっていう下心はある。その日暮らすことができる程度の狩りならオレにもできるっていう自尊心もある。こんな話を聞き、パンをもらっておきながらさようならなんてあり得ないだろというプライドもある。
だが、理由はどれであっても。
手伝うことができれば、それは紛れもなく、塞ぎ込んでいたオレを救ってくれた人への恩返しとなるだろう。
きっと、正しい行動のはずだろう。
――きっと、少しは罪滅ぼしになるだろう。
◇
まずは、槍が必要だった。
オレが持っていた全てはあいつに渡してしまったから、俺は無一文だ。パン一つ買えやしない。
「クエストやればいいよな」
街の中だけで完結する、簡単なクエストがある。荷運びなどの単純作業。それをいくつかと、フィールドに出てモンスターを避けながら、採取できるアイテムを拾って売却すれば問題はなかった。
購入したのは《ブロンズスピア》。一番最初に手に入れた槍。あの時は楽しかったな、と考えてしまった。あいつもいて、兄さんもいて、みんな無邪気に楽しんで――
「ッ……」
無意識に思い出してしまった。吐き気が込み上げ、口をおさえてうずくまる。身体が震え出す。
買った槍を思い切り握りしめ、身体に引き寄せる。青銅《ブロンズ》と呼ばれる槍の感触が、どこか安心させてくれた。
初期武器。攻撃力なんて大したことない槍。実際に扱っていたのなんて数時間しかない。
それでも、こいつはオレが初めて振るった相棒だ。
「……やるぞ。オレにできることを」
オレは、《圏外》へ向かった。
◇
オレは、他の一層に残っているプレイヤーよりは、戦闘においてアドバンテージがあると思っている。なにせ、しっかりと
「せあっ!」
《スラスト》。単発で単体攻撃で単純な、一番最初に使える両手槍のソードスキル。
それでも、町の周辺のボアや、森のネペントを倒すには充分すぎる性能を持っている。
「……よし、大丈夫。戦える」
オレは槍を血振りするように振り払うと、手の中でくるくると回して肩に担ぐ。
戦闘の勘は鈍ってない。
動ける。槍も振れる。敵を倒せる。
まだ――できることは、ある。
「……次。素材も経験値もコルも、もっと必要だ」
平原を歩いていく。細々と出現するボア。数匹の群れで出ることもあるウルフ。鎧も何もつけていないコボルト。
それらを貫き、薙ぎ、斬る。
単純だ。槍を振るえば敵は倒せる。
戦おうという思考さえあれば、どれだけ精神が萎えていても
あとは、それを繰り返していけばいいだけ。
オレは手の中で槍を回して握り直し、フィールドを闊歩しているグリズリー型のモンスターへ向けて構えをとった。
◇
三体目のクマの喉元を貫く頃には、日が大分傾いていた。相変わらず、日が暮れるのが早い。
HPがだいぶ減っている。いくら一層のモンスターとはいえ、ある程度食らえば仕方ないことではある。
「ポーション、いるな」
回復アイテムも持たずにフィールドに出るなんて、オレはいったい何年ゲームをやってるのか。
「けど戦えた」
何週間かもわからないけど、ずっと閉じ籠っていたオレは。
「まだ、できたんだ」
あいつがいなくても。兄さんがいなくても。
一人で、初めて遭遇したモンスターを倒すことができた。
オンラインゲームの
でも、達成は確かに成果として残っている。
「やっと、チュートリアルの終わりだ」
オレは槍を地面に突き立て、大きく息を吐いた。
◇
戻ったオレに対して、サーシャさんはまず真っ先に無事を喜んでくれた。
そして、オレが素材を売って揃えたコルを見て驚いた。
「ちゃんと外に出て狩りをすれば、一日でこんなに稼げるんだね」
「まあ、湧きがよかったのもあるけどね」
あまり人気のない酒場のテーブルに置いた皮袋を見ての感想。オレは照れ隠しにそう言った。
けど、狩ったのは結局一層のモンスターだ。
「誰だってできるよ、このくらい」
「そんなことないよ。やられたら現実でも死んじゃうんだから、街の外に出たがらない人も多いし」
その言葉は、事実としては理解しているけど、真実として実感していないような、奇妙な軽さを持っていた。
「私なんて、ソードスキルを使えるようになるまで結構かかったから」
そういってくすりと笑うサーシャさん。
確かに、スキルの発動にはコツがいる。構えてからの溜めと、発動してからのブースト。勝手に動く身体に驚いて動きを止めてしまうことなんてざらにある。オレだって最初は槍を落とした。
「――オレは、まあ、教えてもらったから」
「そうなの?」
誰に、とは聞かないでくれた。いや、正確には口は動こうとしていたけど、そこで止まった。
オレの顔が強張ったりしたんだろうか。理由はわからないが、察してくれたことがありがたかった。
だがそれは、その分心配をかけているということだ。情けなくて自嘲する。
「けど、どうにもなぁ。もっとパーッと稼げればいいんだけど」
「でも、こうやって貯めていけばすぐに必要な分は足りると思う。あ、もちろん怪我には気をつけて、ね?」
「はいはい、わかってまーす」
たぶんサーシャさんはそういう性格なんだろう。気遣いというか、お節介というか。まあ、そうでないと子供たちを保護しようなんて思わないだろうけども。
「サーシャさん」
オレの決意は固まった。
「オレは、やれるだけのことはやるよ」
善意で動くサーシャさんという人を、助けたいと思った。
◇
教会を間借りするだけの金が貯まって。
子供たちにも声を掛けていって。
大勢で生活するようになっていた。
オレが一番歳上だった。というのも、たぶんサーシャさんは、オレをレーティング以下の中学生だとでも勘違いしていたんだろう。童顔でチビのオレは、どうしても高校生には見えないんだ。身長が180センチ近い
まったく、まったく。
だけど、そのおかげでオレは為し遂げることができた。
サーシャさんの望みを、叶えることができた。もちろん一番がんばったのはサーシャさんだけど、オレだって少しは貢献できたと自惚れたって良いだろう。
安定していた。生活も、俺も。
サーシャさんが読んでいた、プレイヤーが発行している新聞を目にするまでは。
誌面は、ギルド《アインクラッド解放軍》の副長を努めている男の活躍を綴ったものだった。
《ビーター》のような目立った強さがあるわけではないが、一層の頃から最前線に立ち、攻略に多くの貢献をした騎士の話。
《セドリック》という騎士の話。
その名前を見たとき、オレは抑え込んでいたものが溢れてくるのを感じた。
忘れようとしていた、どす黒い、自分勝手な感情を
オレの様子がおかしくなったのに気付いたか、サーシャさんが読んでいた新聞を放り出し、うずくまったオレの肩に手を置いて顔を覗きこんでくる。
大丈夫とオレが言っても、サーシャさんは手を離さずにいてくれる。
オレはつとめてその温度を意識した。
忘れちゃいけない。
オレ達は――いや、
トラウマだ、なんて簡単に言うやつは嫌いだ。ちょっと嫌なことがあると、すぐにそう言ってへらへら笑うやつが嫌いだった。
本物を知っているからだ。本当のトラウマに苦しんでいるやつを、オレはずっと近くで見ていたからだ。
トラウマなんて、冗談で口にしていいものじゃない。
けど、そんなオレでさえ、これはトラウマと呼ぶべきものだと理解した。
なまじ忘れかけていたことに自己嫌悪が沸いてくる。
サーシャさんの夢に協力して。
自分は槍を振って苦しんでいる子供達を助けることができて。それによって得られた達成感に酔いしれて。
オレは、一輝のことを、忘れようとした。
だから事実を突き付けられたんだ。
忘れるな、と言われているような気がした。
逃げるな、と言われているような気がした。
「俺は諦めない」とあいつは言った。あいつはずっと諦めずに戦い続けていたんだ。
それに比べて、オレは。
否が応にもそう考えてしまう。
ああ、吐き気がする。頭痛がする。頭が擦りきれそうなくらいの苦痛がある。胸をかきむしりたくなるほどの罪悪がある。
そんなオレを、サーシャさんはじっと見ていた。聞かないでくれている。いや、聞きたいはずだ。寄り添おうとしてくれるはずだ。
――全部話せば、この人はオレを慰めてくれるんだろうな。
そう考えてしまう自分が、たまらなく嫌だった。
目の前にある優しさに飛び付きたくなる自分が嫌だった。
だから、心配するだけに留めておいてくれているのが、ありがたかった。
オレは槍を握った。
オレにできることは、ここの生活を守ることだけだ。
オレが、守っていかなくちゃいけない場所なんだ。
なのに。
どうして
色んな感情がごちゃまぜになって、オレはあいつに槍を向けた。オレは感情を全部剥き出しにしてあいつに襲い掛かった。
あいつは強かった。レベル差なんて関係なしに、単純に戦いの技量が違っていた。
これが、あいつがずっと積み重ねてきたものなんだ。
オレが敵うはずがなく、心が折れてしまいそうになるのを感じた。
ずっと一輝のために戦っていたあいつと、閉じ籠っていたオレ。どちらが強いかは瞭然だ。
あいつも苦しんでいるのはわかっている。オレに会いに来た理由だってわかっている。
でも、あいつがいたら、弱いオレはあいつに責任を押し付けてしまう。
自分は悪くない、って思ってしまう。
オレは、結局あいつに吐き捨てるだけ吐き捨てて、意識を失った。
目を覚ますと、あいつはいなくなっていた。
よかった。あんなことを言って、斬りかかって。次どんな顔で話せばいいかわからなかったから。
激情は消えていた。頭が沸騰するほどの感情は、吐き出したからか、それとも虚無感が大きいからか、気にならない程度になっていた。
頭がぼうっとしていた。
槍が壁に立て掛けられていた。その柄を握り、今日も狩りに出て、敵を倒して、金を稼いで、パンを買って、みんなで食べて。
やることは変わらない。
生きていくんだ。
少しずつでも、前に進むんだ。
ぼんやりとした頭で、そう考えて戦い続けた。
あまり考えなくなっていった。調子が悪いけど、親友とのあんなことがあって絶好調なわけがない。気にしないことした。
ギン達も心配してくれたけど、別に気にしなくて大丈夫だ、って笑った。
調子は悪いけど、気分は悪くない。しばらくすれば治るだろう。
みんなで食卓を囲んでいる間、オレはぼうっとシチューの器を眺めていた。
――ああ
なんか、疲れたな。
「オレは……」
なにか、できたんだろうか――
呟くと同時に、視界が淡い光に包まれていくのを感じた。