アビスウイング。非公式のヴァンガード対戦サイト・ヴァルトで、圧倒的実力で数々の大会を制し恐れられたシャドウパラディン使いのファイター。
それが今、わたしの前にいる。この伊達北高校2年、浅倉ナツキこそがアビスウイングで間違いないはずだ。
「先攻後攻はあんたの好きにしていいわ。よく分かんないけど、引退試合?なんでしょ」
浅倉がデッキを確認し終わり、シャッフルに入りつつ言った。
「あんたが本当にアビスウイングならね。まあ、間違いないと思うけど。先攻もらうわ」
手札交換に入りつつ答える。
「何を根拠に言ってるんだが……」
「まず、渡したデッキ。そのGゾーン8枚に対して何も言わなかったこと。そんな不自然なGゾーンでね」
浅倉に渡したシャドウパラディンのデッキ、そのGゾーンには覇道黒龍オーラガイザー・ダムドが1枚、覇道黒龍オーラガイザー・ドラゴンが2枚。2種ともコストとしてオーラガイザー・ドラゴンをGゾーンから表にすることがスキルを使う条件のカード。
つまり、確実に1枚はスキルを使うことのできないユニットが発生する構築になっている。こういった構築は他にないわけではないけど、かなり珍しいものであることには変わりない。それに対して何も反応せず、Gゾーンに置いた。
「人のデッキにケチをつけるようなファイターじゃないってだけよ。普段から借りたデッキに合わせたプレイングをすることで、いい練習になってるのもあるし」
「ふーん」
「ふーんって何よ」
「あんたがどんなファイトをするのかにしか興味ないからね、今」
「このヴァンガ脳め」
互いにファーストヴァンガードの端をつまむ。
自然と呼吸が合う。とくに意識せずともタイミングがあった。
『スタンドアップ・ヴァンガード!』
「大望の宝石騎士ティファニー!」
「新鋭の騎士ダヴィド!」
「シェリーにライド、ティファニー移動」
わたしはヴァンガードを辞める。だからせめて最後の相手に、唯一好敵手と認めたこいつを倒す!
「ライド、真黒の賢者カロン。ダヴィドは斜め移動。カロンでアタック」
そうよ、その斜め移動。FVがジャッジバウから変わってずっとやってる速攻への布石。
「ノーガード」
「ドライブチェック、クリティカルトリガーゲット」
そう、その語順。ミコトさんとのファイトでその語順があったからこそ気づいた。実はかなり珍しいのよ、ゲットを後に言うファイターって。ヴァルトのチャットでもずっとその語順だったわね。
「まぁるがる。ゲット・ドロートリガー、パワーをVに」
「ターン返すわ」
「スタンド&ドロー。ツインソードライド。そーどみーコール。スキルでシェリーをスペコ。さらに手札からブラスターブレード探索者」
アビスウイングは伊達北高校の生徒だと言っていた。ネットで使ってるデッキと実際に所持してるデッキが違うことは実はよくある。それでも、アビスウイングほど撃退者にこだわり続けたファイターが撃退者を差し置いて他のデッキを組んでるとは考えづらかった。
「ブラブレでV」
「ウーンデッドでガード。17k」
「ティファニーブースト、ツインソードVからVに16」
「ノーで」
ほら、普段からネットでファイトしてなきゃそんな略し方がほいほい口をついて出てきたりしないのよ。
「チェック、サンク」
「ダメージ、ファンビス」
「ずいぶん呼びなれてるのね、ファンビスなんて略すなんて」
「借りて使ったことあるのよ」
「嘘が下手ね。伊達北高校に撃退使いはいないんでしょ?そーどみー、リアからVに16」
「ノー、ダメージはマックアート。はあ、わかったわよ……認める。あたしがアビスウイングよ」
「確信はしてたけど、一応はっきりしてよかったわ」
「そのしつこさ、自信、そしてこの宝石サンクシング……あんたも本当にコスモウィングみたいね。これが引退試合って言うならいいわ。全力で黒星をプレゼントしてあげる!」
【歌星ミク:ダメージ2(裏1)/手札5】
【浅倉ナツキ:ダメージ2/手札5】
「ライド・闘気の撃退者マックアート!コール・ブラスターダーク撃退者Abyss、スキルでシェリーを退却」
浅倉はアビスウイングだと認めたことをきっかけにエンジンがかかり始めたようだった。
「マックアート、VからVに9000」
「ポリーでガード」
「ドライブチェック、カルマコレクター。トリガーなし。ダヴィドブーストのブラスターダーク14kでV」
「ノーガード。ダメージチェック、トリガーなし」
無駄な会話など一切ないこの緊張感あふれるファイトがたまらなく好き。
「ターンエンドよ。……なんだ、楽しそうじゃないの」
初対面の浅倉にバレるほど顔に出ていたのだろうか。
「楽しいわよ。ヴァンガード好きだもの」
「いや、引退するって言ってたから意外だなって。ま、引退もいろんな理由ものね」
「別に気を使わなくて大丈夫」
そう、仕方ないことだってあるのよ。
【浅倉ナツキ:ダメージ2(表1)/手札5】
【歌星ミク:ダメージ3(表2)/手札4】
「スタンド&ドロー」
一応手札を確認する。ここはグレード3に乗って良さそうね。
「ライド、サンクチュアリガード・ドラゴン。ライド時スキルは使わないわ」
相手のGユニット覇道黒龍オーラガイザー・ダムドはこちらのリアガードを退却させることのできるカード。退却されても痛くないリアガードしかでていないこの状況はむしろベスト。幸い要求値のとれなくなるラインはない。
「そーどみーでVにアタック」
「ブラスターダークでインターセプト」
やっぱり防いでくる。やられて困るリアガードを無駄に晒さないのは高パワー・低コスト化した現在のヴァンガードでは鉄則だもの。
「ブラスターブレードでヴァンガードにアタック。9k」
Kというのはキロ、つまり1000の略称だ。発音してしまえば略せてないから、文章化する機会の多い人の口癖ということになる。
「厳格なる撃退者でガード」
「ラスト、サンクチュアリガードドラゴンでヴァンガードに。16000」
「ノーガード」
ここできっちり差をつける……!
「ツインドライブ。ファースト、ホーリーナイトガーディアン。セカンド、炎玉の宝石騎士ラシェル。全部ヴァンガードに」
ラシェル。宝石騎士名称のクリティカルトリガーだ。
「けっこうキツいわね、それは。ダメージチェック、ブランウェンと……2枚目、暗黒医術の撃退者。ヒールトリガーゲットね。パワーは一応ヴァンガードに、回復は裏のファントムブラスターAbyss」
「あら、長く楽しめそうね」
相手にヒールトリガーが出てこれほど嬉しいのははじめてかもしれない。わたしはこの人生ラストファイトをとにかく盛り上がるものにしたいんだと思う。
「余裕でいられるのも今のうちよ」
「なんとでもいいなさい」
【歌星ミク:ダメージ3(表2)/手札7】
【浅倉ナツキ:ダメージ3(表3)/手札4】
「スタンド&ドロー。ブラスターダークDiabloにライド」
浅倉が静かにターンを始める。ダムドか、オーラガイザーか、手札しだいってとこね。
「そしてジェネレーションゾーン解放。闇より出でし我が力よ、屍の山を踏み崩し進め。ストライドジェネレーション……覇道黒龍オーラガイザー・ドラゴン!」
手札からはブラスターダークDiabloがドロップに送られる。
「なるほど、今回はそちらで来たか」
さっきのインターセプトと合わせて考えればここからマーハがコールかな
「闇夜の乙女マーハをコール」
手札は残り2枚。1枚が完全ガードのカルマコレクター。となればもうこのまま____
「このままアタックに入る。ダヴィドのブースト、マーハ。14000でヴァンガードにアタック」
14000という低いパワーラインだけれどこれは問題ない。むしろ理想的なライン構築だ。
さすがはアビスウイングといったところね。
「マーハのスキル。カウンターブラストしてデッキからダークハート・トランペッターをコール。さらにトランペッターのスキル、ソウルブラストでさらにデッキから真黒の賢者カロンを山札からスペリオルコール」
両方のユニットを後列にコールしてくる。前のドライブチェックで完全ガードがわたしに入っての、ラストの攻撃だけれどトリガーの振り先は残してこない。
ある意味当然ね、次からクリティカル2でヴァンガードがアタックしてくるわけだから、ここで完全ガードを使って次のターンが止められなければ意味がない。
「ブラスターブレードでインターセプト」
「OK。じゃ、オーラガイザードラゴンでヴァンガードをアタック。スキル発動」
オーラガイザーのスキルコストは4つ。カウンターブラスト1、ソウルブラスト1、Gペルソナブラスト、そしてリアガード2体の退却だ。
「ダヴィドを退却するわ」
ダヴィドはスキルで2体分の退却とみなすことができるから、ここでは1体だけれど。
「山札から2枚公開。マーハと、エアレイドドラゴン。グレード1以下が1枚出たからオーラガイザーにパワー+5000」
「ノーガードで受ける」
「じゃ、遠慮なく。トリプルドライブチェック」
1枚目に、無常の撃退者マスカレード。
そして2枚目____
「撃退者エアレイドドラゴン。クリティカルトリガー、全部ヴァンガードへ」
3枚目はブラスターダーク撃退者Abyss
「トリガーなし、と。2ダメージ受けてもらうわ」
「はいはい。ダメージは……サンクチュアリガードドラゴンに、シンベリン。トリガーなしね」
無駄なトリガーが出ないのはいいことよね。
「さて、ここから本番よね」
浅倉の方も燃えてきたのか、挑発的に笑う。望むところ。ラストファイトは勝って終わる!
【浅倉ナツキ:ダメージ3(表1)/手札7】
【歌星ミク:ダメージ5(表4)/手札7】
「スタンド&ドロー。そしてジェネレーションゾーン解放」
手札からシングセイバードラゴンをドロップに送る。ユキネみたいに甘い相手じゃない、後でこれも使うことになるはずだ。
「力は我にあり。裁きの光で刃向かう者を切り伏せよ、ストライドジェネレーション!神聖竜サンクチュアリガード・レガリア!」
一瞬ガブレードにしようか迷ったけれどこれでいいはず。セイントブローが控えている圧力で完全ガードを手札に釘付けにする!
「シシルス、そーどみーをコール。そーどみーのスキルでシェリーをスペリオルコール。ティファニーのスキル発動、ソウルに入れて2体のそーどみーにパワー+3000」
中途半端に攻めれば与えたカウンターブラストを使って一気に反撃してくる。攻める時は徹底的に行く!それにこれでソウルも3枚たまった。
「さらにまぁるがるをコール。アタックに入るわ」
「いい動きね。……引退するのがもったいないほどの」
ほんの少しだけれど、浅倉は本気で悲しそうな顔を見せた。気持ちは痛いほどわかる。わたしも逆の立場だったら好敵手の引退は1人のファイターとして、純粋に悲しいものだと思う。でも____
「集中してないとプレミするわよ?シシルスのブースト、そーどみーでヴァンガードにアタック」
そーどみーのパワーが9000、シシルスが7000。ティファニーが与えた3000に、レガリアのスキルでグレード1以下のリアガード1体につき前列が+3000だからそーどみーに+9000。
「パワー28000よ」
「エアレイドドラゴン2枚でガード!」
浅倉の選択はクリティカル2枚でのガード。賢明な判断だと思う。ここで完全ガードを使うわけにはいかないのだから。
「まぁるがるのブースト、レガリアでヴァンガードにアタック。パワーは39000」
「そこはノーガード。ダブクリがないことを祈るだけね」
「ドライブチェック。1枚目、ツインソード。2枚目、宝石騎士ノーブルスティンガー。ゲット・クリティカルトリガー」
3枚目がクリティカルなら勝負がつく。けれどそうなってほしくない自分がいた。
「クリティカルをヴァンガード、パワーをそーどみー。3枚目、ホーリーナイトガーディアン。トリガーなしね。2ダメージお返し」
「ダメージチェックは……と暗黒医術の撃退者にエアレイドドラゴン。2体ともパワーだけヴァンガードへ」
「強運ね。最後のそーどみーもヴァンガードへ、パワー33000」
「ウーンデッドエンジェルとブラスターダーク撃退者Abyssでガード」
「じゃあターンエンド」
お互いにダメージは5。でもこのファイト、まだまだ終わらない……
【歌星ミク:ダメージ5(表3)/手札7】
【浅倉ナツキ:ダメージ5(表3)/手札3】
To be continued……