トウジと2人、こたつで固まっていた。
ヴァンガード雑誌のVF甲子園特集。その1ページに歌星ミクの名前が福原高校の選手として載っている。しかもその容姿は現在のものよりかなり派手だ。
「ミクちゃんが、福原から転校してきたってこと?」
「ヴァンガードの実力と名前、髪がだいぶ違うけど顔は似てるし、間違いないだろうな」
赤髪に金メッシュの髪は衝撃的だったけれど、言われてみればそう大きな違和感はないかもしれない。
「やっぱりミクちゃんに部活入ってもらいたいな。そしたら日本サーキットにも出られるし」
「……そうだな」
でも、難しいんだろうな。ヴァンガードやめるって言ってたんだから。どうしたらいいんだろう。
「……あのさ、ユキネ」
わたしの表情が沈んだのを見兼ねたのかトウジが少しわざとらしいくらい明るめの声を発した。
「歌星がヴァンガードやめる理由って知ってるか?」
「知らない。トウジは知ってるの?」
「いや、俺も知らねえけど。でも分かれば、もしかしたらヴァンガード続けさせられるんじゃないのかなって……」おお……!
「トウジ!!!」
「うぇっ!?な、なんだよ……」
「すごくいいアイデア!!!」
「普通の音量で言えよ」
そうか、なるほどね。考えてみれば全く謎だもんね、ミクちゃんがヴァンガードやめるって言う理由。あれだけファイト中ノリノリで口上言って、それでいて名門福原のレギュラー候補という実力で、やめたくなる要素なんてどこにもなさそうなのに。
「さっそく明日、訊いてみようかな」
「え?本人にか?」
「うん。そりゃそうでしょ」
他に誰に訊けと言うんだろう。
「そういうのって普通気を使って……って言っても転校生だからなぁ。事情知ってそうな奴もいないか」
「ほらね」
「いや、そこで得意げになる意味は全くわからんが」
やること決まったら、なんかすっきりした。とにかくミクちゃん、ミコねえ、ついでにトウジと一緒に日本サーキットを目指すんだ。
そうと決まれば練習あるのみ。
「じゃあファイトしようか」
「なんの"じゃあ"だよ」
「いいからいいから。ほら、ファーストヴァンガードはやく置いて」
トウジは観念した様子でファイトの準備をはじめた。
「じゃあ、気をつけて帰るんだよ」
「はいはい。お前こそ、ばあさん労わってやれよ」
日が沈みはじめたので帰るトウジを玄関先で見送る。おばあちゃんは晩御飯の支度中だ。
「当然。おばあちゃんが倒れたらわたし家事ひとつもできないからね」
「だから誇らしげにすんなっつーの」
苦笑するトウジ。
「うるさい。トウジだってできない癖に」
「俺はできる。いっしょにするな。……じゃあな、また明日」
「ふーんだ!さっさと帰れバカトウジ」
トウジは面倒くさそうな表情だけ返して、帰路を歩き出した。
本当におばあちゃん、大事にしないとな。唯一の家族なんだし。
翌日。
いつものように学校に行くと、もう皆来ていた。始業時間ギリギリだから当然だけども。
「トウジ、ミクちゃん、おはよーっ!」
ミクちゃんの肩をぽんと叩き、トウジの肩にチョップを入れて朝の挨拶だ。
「ん、おはよ」
「痛っ!……ったく、お前は朝から」
ただよく見ると今日はもう1人、ミクちゃんの後ろの空席に座っている人がいた。
「あれ?ミコねえどうしたの?」
ミコねえが1年生の教室に来ていたのだ。
「おはよう、ユキネちゃん」
「あ、うん。おはよう」
ミコねえはまったりした自分のペースを崩さず、挨拶から入ってくる。
「えっとね、さっき顧問の武田先生から貰ったの」
そう言ってミコねえが差し出したのは1枚の紙。
「これは……『ヴァンガード日本サーキット、予選出場申し込み用紙』?おお!ついに来たんだ」
学校ごとに4人1チームで競う日本サーキットの予選申し込み!高校生ヴァンガードファイターにとって冬の一大イベントだ!
「なんで部長のユキネじゃなくて天原先輩に渡したんだろうな、先生。お前信用されてないんじゃないのか?課題とかすぐ失くすし」
「うっ、それは…………」
嫌味しか言えないのかトウジは。ひとがせっかく日本サーキットに心踊らせている時に。
「それは…………そうとして!」
「あ、誤魔化した」
「これ、いつまでに提出すればいいの?」
「うーん、10月10日必着で梅乃台の郵便事情を考えたら5日は見ておきたいから、5日までかしら」
ミコねえがまったりと答える。そうかー、5日までかー。
「って、あと今日入れて3日しかないじゃん!!」
「そうねぇ」
あと3日で4人目の部員を確保しなければいけない。
「ミクちゃん!」
「入らないわよ」
「そこを何とか!」
「何ともならない。この前賭けに負けたでしょう?」
「くっ……」
ミクちゃんのヴァンガード部入りを賭けたテンデイズでのファイトが思い出される。圧倒的実力差での敗北。
昨日はトウジ相手に連勝したけれど、今やってもミクちゃんには歯が立たないだろう。
あ、そういえば何でヴァンガードやめるのか訊くんだったっけ。
「ねえ、ミクちゃん。なんでヴァンガードやめるの?」
視界の端でトウジが苦い顔をしている。仕方ないじゃん、直接きかなきゃ分かんないよ。
「なんででもユキネには関係ないでしょ」
そっぽを向いてしまうミクちゃん。万事休すか……そんなにたくさん策を講じた覚えもないけど。
と、その時だった。
「あ〜、わかった。勝ち逃げだ」
発したのはミコねえだ。
「はぁ?誰が勝ち逃げなんか!」
ミクちゃんがすごい勢いで振り返る。
なんというか、すごくまっすぐ生きてる子なんだなぁ。
なんかもう関心するよ。
「うんうん、ユキネちゃんに負けるのが怖いんだよね」
「ちょっと!勝手なこと言わないでよ。何度やったってユキネになんか負けないわ!」
ユキネに"なんか"と言われちゃったけど、仕方ない。ここはミコねえに任せよう。
「え〜?じゃあもし負けたらヴァンガード部に入ってくれる?」
「それは…………」
ミクちゃんが急に言い淀んだ。どうしたんだろう。
「……まあ、万が一ユキネに負けるようなことがあったら入るのは構わないわ。でも日本サーキットには出ない」
えっ……?
どういうこと?ミクちゃんの線引きがますます分からない。ヴァンガード部に入るのはギリギリOKで、日本サーキットはダメってどういう基準なんだろう。
「ユキネちゃん聞いた?勝ったらヴァンガード部に入ってくれるってー」
「あ、うん。聞いてたよ、ミコねえ」
ミコねえのほわほわとした笑顔を見るに、たぶんそれがどれだけ大変なことか分かっていない。
「ねえ、それよりミクちゃん。どうして____」
ヴァンガード部はよくて日本サーキットはダメなの?ときこうとした時だった。
始業のチャイムが鳴る。
「わっ、もう戻んないと」
その音に弾かれるように、ミコねえが慌てて立ち上がった。
「じゃあまたあとでね、3人とも」
「お疲れ様でーす」
「またねー、ミコねえ」
「……またあとで何しに来るのよ、あの人」
誰か1人失礼なことを言っていた気もするが、それより今はミクちゃんのことで頭がいっぱいだった。
結局1日ずっとこのことを考えていて、授業なんかまるで頭に入らなかった。「普段から授業なんか聞いてないだろ」とトウジに言われるに決まっているから口には出さないけれど。
でも考えてても仕方ない。まずは解決法のはっきりした問題から。
放課後の教室、部活に行く人、帰る人、それぞれが動き始めたころ。
「ミクちゃん!わたしと入部をかけて勝負だよ!」
デッキケースをミクちゃんに向けて掲げる。
「…………」
ミクちゃんは無視してスタスタと出口に向けて歩き出してしまう。
「ちょ、ちょっと!挑戦は受けてくれるんじゃないの?」
また勝ち逃げだーって言っちゃおうかな。
「あのねぇ……」
するとミクちゃんは、立ち止まって首だけで振り返って言った。
「ヴァンガードやめるって人間がデッキ持ち歩いてるわけないでしょ」
「あ、そっか」
「そういうこと。明日は持ってきてあげるから」
「じゃあ、家に行けばあるんだね?デッキ」
ミコねえほどの策士ではないけれど、わたしにも妙案が浮かびつつあった。
「だからそう言ったでしょ、今」
ミクちゃんがため息をはきながら首をやれやれと横に振る。
「じゃあ今から行くよ!わたし」
「は、はぁ?部活あんでしょ、ユキネ」
これには不意をつかれたのか体ごと振り向いた。
「あー、部活ね。トウジ副部長、ミコねえと2人でやったいてください」
「……はいよ」
こういう時トウジは察しがいいというか、ノリがいいというか、とにかく波長が合って助かる。
「来ても何にもないわよっ!」
来るなとは言わないんだね、ミクちゃんも。
「デッキがあるならそれで十分だよ。さ、行こうミクちゃん」
「あー……もう……」
たぶん今の実力ではミクちゃんに勝つのは難しい。でもやってみなけりゃ分からないよ。
それに何より、家に行けばミクちゃんがヴァンガードをやめる理由の手がかりがあるかもしれない!
ううん、絶対に手がかりを見つけてみせる!
To be continued……