雪国の先導者達   作:黄雀

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トウジくんの新デッキが気になっているトウジファンには申し訳ありませんが、今回は天原ミコト編になります。


一途な強欲

 いつもと同じ日曜日。

 ユキネちゃんとトウジくんはやっぱり一緒に遊んでるのかな?それともミクちゃんも一緒かな?

 3人で十日町のカードショップに行ってたりね。今日大会だってハルミさん言ってたし。

 わたしはと言うと、1軒の家の前に立っていた。比較的新しい、屋根裏にボイラーがついてて雪が積もらないタイプの一軒家だ。

 鍵は……今日も開いているだろう。

「おじゃましまーす」

 中に入り、声をかける。すぐに奥からおばさんが出てきてくれた。

「あらミコトちゃん、今日も来てくれたのねぇ。シュンヤは部屋にいるから、あがってあがって」

 おばさん、また目の隈が濃くなったな……

「はい。じゃあ……」

 軽く会釈をして、奥の階段へと真っ直ぐにすすむ。

 一番奥が彼の部屋だ。

 一応ノックをすると、中から返事がある。

「……ミコト姉ちゃん?」

「うん、わたし。入っていい?」

「ああ、いいよ」

 元気のない声で許可をもらったので、中へ入る。

 昼間なのにカーテンが締め切られ、明かりもついていない。ただパソコンのディスプレイが青白く光っているだけだ。

「シュンちゃん、電気くらいつけなよ」

「……そうだね、確かに」

 比嘉シュンヤ。わたしのいとこで、梅乃台高校の1年生。一学年1クラスの梅乃台では、必然的にユキネちゃん達のクラスメイトということになる。……本来は。

「母さん、何か言ってなかった?」

「ううん、別に。どうして?」

「最近とくにうるさいから。学校行けって。出席日数、ギリギリになってきたんだと思う」

 そう、彼は学校に通っていない。夏休み前あたりからずっと。

 いわゆる引きこもりだ。

「まあ、行ってもいいんだけどさ」

 つまらなそうにパソコンの画面に目を落とす。ヴァンガードのサイトのようだった。

「行ったら少しは楽しいよ、シュンちゃん。ヴァンガード部、部員増えたんだよ」

「日本サーキット予選も出られるんだってね、ネットで見たよ」

 昔からシュンちゃんはヴァンガードが好きだった。周りはお年寄りばかりだったから、わたしはそこに合わせて将棋をはじめたけれど、シュンちゃんはずっと自分の趣味を大事にしていた。わたしはずっと、そんなシュンちゃんが羨ましかった。尊敬すらしていた。

「まあ、ミコト姉ちゃんなら予選くらい勝てるんじゃないかな。ミコト姉ちゃん、僕なんかと違って頭いいし……」

「…………」

 でもそんなシュンちゃんも、歳をとるにつれてネガティブな発言が増えていった。それも、わたしと比べての発言だ。

「そんなこと、ないよ。ヴァンガード難しいし、みんな強いし……」

 理由は分かっている。周りの大人達に比べられ過ぎたのだ。いとこだというだけで、全く別の人間なのに。

 シュンちゃんの優しさも、暖かさも、何も知らない奴らが好き勝手なことを言った。

 いとこだから比べられるというのは、兄弟とかに置き換えてもどこでもよくあることだと思う。

 でもわたし達のは少し普通よりキツかった。

 わたしが、十日町市長の娘だったから。

「そうだ!シュンちゃん、またヴァンガード教えてよっ。最近入部した子がすごく強くてね?それでユキネちゃんとトウジくんもすごくやる気が出てて____」

「いいけど…………本当にヴァンガードしたいの?」

「えっ?」

「別にヴァンガード、そんなに好きじゃないんでしょう?」

「それは……」

 ヴァンガード、好きかどうかと聞かれたら未だにそんなに好きではないと思う。それでも、入部した当初より興味ももてたとは思う。

「相変わらず鋭いね、シュンちゃんは」

「ミコト姉ちゃんとしか会わないから、ミコト姉ちゃんの表情からいろいろ分かるようになったんだ」

「そっか……」

 気まずい空気が流れる。せっかくヴァンガードを通して、昔みたいにシュンちゃんと遊べると思っていたのだけど。

「でも分からないんだ。ミコト姉ちゃんはヴァンガードの何がそんなに気にいらないのか。ゲームは好きだろう?将棋は本当に好きみたいだし」

 シュンちゃんは将棋盤を棚から出しながら質問した。将棋の方で相手をしてくれるようだった。

「なんだろう。運の要素とか……なのかな。運だけじゃないのは最近わかったけど」

 シュンちゃんと一緒に駒を盤に並べていく。

「ふーん。まあ、いいか」

 久しぶりにシュンちゃんと将棋を指す。すごく心が落ち着く。

 

 しばらく無言でパチパチと将棋を指しすすめる。

「そうだ、シュンちゃん予選見にきてよ」

「ミコト姉ちゃんが、将棋くらいヴァンガードを好きになったらね……」

「えー、将棋くらいかー。将棋みたいなデッキがあったらいいのにね」

「将棋みたい……か」

 冗談で言ってみただけなんだけど、シュンちゃんは何が真剣に考え始めた。

「1つ、心当たりがあるんだけど使ってみる?」

「え、うん」

 将棋みたいなデッキ。そんなものがあるとは思えなかったけれど、正直シュンちゃんが考えてくれたデッキなら何でもよかった。

「……ちょっと古いデッキだけど、確か引き出しの奥に」

 シュンちゃんは引き出しをごそごそと漁りはじめた。一応対局中なんだけどなぁ。

「あー、あった。はい、これ」

「ありがとうシュンちゃん。使ってみるね」

「ミコト姉ちゃんならすぐ使えるよ。僕には無理だけど、頭わるいし……」

「………………」

 自分を悪く言うシュンちゃんだけは、何度見ても悲しい。

 ごまかすようにわたしは金将を打って将棋の方を詰めた。

 

 

 

「リンクジョーカー?」

 わたしに渡されたデッキは、見たことのないクランのものだった。それも禍々しい雰囲気をもったカード達。

「そう。そのクランは設定上、倒した敵を仲間に引き入れるってことをしてたことがあるんだ。敵を仲間に変えるって、将棋っぽいかなと思って……」

「へぇー……あ、これとか?」

 リンクジョーカーのデッキの中に、ネオネクタールのカードがある。ネオネクタールは確かユキネちゃんが使っているクランのはず。

「そう。それにそのデッキはもう1つ、運の要素によらない勝ち方ができるって特徴があるんだ……。そういうところも好きかなって思って」

 よく見ればトウジくんの使っているアクアフォース、ミクちゃんの使っているロイヤルパラディンのカードもある。

「うん、うん!これ、今度探して買ってみるよ!」

「いや、いいよ。あげるから。僕には自分のデッキがあるし」

「じゃあ、ファイトして教えて?このデッキのこと」

 シュンちゃんがわたしに合うようにと考えてくれたこのデッキのこと、もっとよく知りたい。気がつけばわたしは一瞬でヴァンガードに興味が湧いてきていた。

 ううん。もしかしたらわたしは、もともとヴァンガードが好きだったのかもしれない。せっかくヴァンガードなのにシュンちゃんと一緒じゃないからいじけていただけなのかも。

「……まあ、いいか。今のは本当にやりたそうだったし」

 シュンちゃんも自分のデッキを取り出す。ユキネちゃん達には悪いけど、こんなにわくわくするファイトは相手がシュンちゃんじゃなきゃできないよ。

 ファーストヴァンガードらしきトリガーじゃないグレード0を伏せる。

 

 ________________________

 

 

「ヴァンガードのザラキエルでアタック。リミットブレイクで全ての守護天使にパワー+3000だから、合計で26000」

「ルビジウムでガード。スキル発動、このアタックの対象をヴァンガードからリアガードのレオパルド“Я"に変更するよ」

 こちらのダメージは4。手札もあと5枚、リアガードは1体だけとかなり追い詰められていた。

「ツインドライブ。……ゲット・ドロートリガー!パワーをリアガードのラグエルに。そして最後のアタックだ。ハスデヤのブースト、ラグエル。パワー32000でリアガードのレミエル“Я"を……いや、ヴァンガードをアタック」

 あ、ほらまた。シュンちゃんは優しすぎるよ。

「ノーガード。ダメージトリガーなし」

「ターンエンド。ミコト姉ちゃんのターン」

「うん、教えてもらった通りやってみるよ」

 

【比嘉シュンヤ:ダメージ4(表2)/手札9】

【天原ミコト:ダメージ5/手札5】

 

「スタンド&ドロー。全てが欲しい、欲張りなわたしの罪の化身……勝利への渇望と共に現れ出よ!ブレイクライド!星輝兵Ωグレンディオス!」

 星輝兵Ωグレンディオス。その禍々しい姿に、不思議とわたしは親近感を覚えていた。

「ダームスタチウムのブレイクライドスキル。手札のメイルストローム“Я"を捨てて3体をロックする!」

 アクアフォースのユニット・メイルストローム“Я"。トウジくん、力を貸して。

「ダネル、アラバキ、ハスデヤを呪縛!さらに、アシュレイ“Я"をコールし、グレンディオスのスキル発動。ラグエルを呪縛!」

 今度はロイヤルパラディンのユニット。ミクちゃんが引っ越してきたことは、わたし達全員が変わるきっかけをくれた。感謝してもしきれないよ。

「さらに、パラダイムシフト・ドラゴンをコール!スキル発動、山札に戻ることでハスデヤを呪縛!」

 これでシュンちゃん5体のリアガード全てが呪縛された。

「Ωグレンディオスのリミットブレイク!カウンターブラスト1、手札のビーナストラップ“Я"を捨てることで、次の相手ターン、エンドフェイズに呪縛カードは解呪されない」

 ビーナストラップ“Я"、ネオネクタールのユニット、ユキネちゃんのクラン。

 あなあがいつも楽しそうにファイトをしていたから、わたしは今までヴァンガードをやめずに続けていたんだと思う。

「グレンディオスでアタック!」

「サニースマイルエンジェル、アラバキでガード」

「ツインドライブ!ルインマジシャンと……プロメチウム。完全ガードだね。ターン終了」

 もうこれ以上、アタックをする必要はない。

 シュンちゃんもそれを分かっている。というより、この練習をさせてくれるためにさっきはヴァンガードをアタックしたんだ。

「僕のスタンド&ドロー。といっても完全ガードを引かれちゃったらすることはない。ターンエンド」

 そう……

「わたしのスタンド&ドロー。そして、グレンディオスのアルティメットブレイク!メインフェイズ開始時に相手の呪縛カードが5枚以上の時、わたしはゲームに勝利する!ワールド・エンド!」

 勝った、というより勝たせてもらっちゃった。

 まったく、こういうとこ変わってないなシュンちゃんは。

「おめでとう、ミコト姉ちゃん。なかなか楽しそうだったね」

「えへへ、そうかな?」

 決めた。わたしはこのデッキで日本サーキットを戦って、必ず勝つ。

 トウジくんにばかり、いいかっこさせてあげないんだから。

 

 To be continued……

 

 

 

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