カードショプ・テンデイズ。
意外と品揃えよかったな。けっこう痛い出費だが、まあ仕方ない。俺ばっかり弱いままってのも癪だし。
完成した新生アクアフォースを手に、未だショップ大会が行われているファイトスペースへと戻る。
大会はどうなっただろうか。
「あ、おかえり」
「どもっす。浅倉先輩は、もう終わったんですか?」
戻ってすぐ、壁に寄りかかっている浅倉先輩と目が合った。
「まあね。これでも一応伊達北のレギュラーだから、ショップ大会の準決勝くらい楽勝よ」
「さすがですね……」
梅乃台のレギュラーは1回戦負けしたけど。浅倉先輩にそういう皮肉の意図はないだろう。
このちっこい先輩にそういう嫌味なところは感じられない。
先輩の目線の先を追うと、もう一方の準決勝が未だに行われているようだった。
「ん?あいつ……」
戦っているのはさっき俺を倒した日比谷タイガと、伊達北の北岡ハルミ部長だ。パッと見、互角の勝負をしているように見える。
「ウォッシュアップラクーンのブースト、リサーチャーフォックス先生でヴァンガードをアタックするよ。フェニキアクス教授のスキルとトリガー1枚を合わせてパワー29000」
「うーん、ここはバルブトルックと霊薬の解放者でガード」
「ターンエンドだよん。フェニキアクス教授は帰宅。タイガは〜、まずウォッシュアップラクーンのスキルでドロップのシェルマスター、リサーチャーフォックス、グルウルフを戻してカウンターブラスト。ウォッシュアップラクーンを手札に加えるよ」
今までフェニキアクスが上に乗ってて気づかなかったが、今回はヴァンガードがテスターフォックスじゃない。グルタイガーとグルウルフという別のレギオンになっている。
「さらにリサーチャー先生のスキル、カウンターブラスト1でヴァンガードと同名カードをデッキから手札に。タイガはグルウルフさんを手札に加えるよ。さらにリサーチャー先生の退却により、ダックビルのスキルで1枚ドロー。これで本当にターンエンド」
見たところお互いに手札はだいぶある。ダメージも5で同じ。
ただ北岡部長にはプロミネンスグレア、日比谷のやつにはマーナガルムがある。どちらもガードできるユニットの種類を絞るユニット。枚数があればガードしきれるってもんでもない。
「強いわね、あの子」
「浅倉先輩から見ても強いんですか?あいつ」
「ええ、本当にいい腕よ。中学三年生なんだってね?」
「はい、そう言ってたと思います」
来年の春からどこかの高校に入る。そうなれば日本サーキットやVF甲子園出場をかけて戦うことになるだろう。
「できれば一緒に戦ってみたかった……」
伊達北に進学するわけではないのか。
「スカウトしてみたらどうです?」
「そうしたいのは山々だけど……あっ、ほら部長が仕掛けるわよ」
「これで最後のアタック!ブルーノのブースト、プロミネンスグレアでヴァンガードをアタック!パワー30000クリティカル2、そして____」
「グレード1以上をガードに出せない。さっすがハルミちゃん!」
失礼なガキだな、相変わらず。
「やっぱり名門伊達北高校の最後の部長は違うねぇ。でもガードしちゃう。ルーラーカメレオン2枚と、ブロードキャスト・ラビットちゃんでガード!うーさぎぴょんぴょん」
ガード合計41000。トリガーによらず通らない。
いや、そんなことよりも……
「浅倉先輩、最後の部長ってどういうことです?」
次の代の部長は2年生レギュラーの浅倉先輩がいるんじゃ……
「そのまんまよ。伊達北高校は来年には統廃合でなくなる。あたしも転校先探さないとね」
「そんな……」
統廃合。馴染みのない言葉じゃなかったはずだ。俺達みたいな過疎地方の学生にとっては、むしろよく聞く話だった。けれど、こんなに身近であったのは記憶にない。
「そんな顔しないでよ。あたし達は最後の日本サーキットに向けて頑張るって決めて、楽しくやってるんだからさ」
「そう……ですか」
かける言葉が見当たらなくて、ファイトに視線を戻す。交流戦でもずっと明るく振舞っていた北岡部長も、いろんな思いを抱えて戦っていたんだな。
「タイガの分身!バイナキュラスタイガーでアタック!パワー29000。そしてグレード1以上をガードに出せないよ。がおー」
「……ノーガード。あとはヒールにかけるだけ……っと、ダメだね。6ダメージ、あたしの負けだね。ありがとうございましたっ!」
「うふっ、ありがとうございましたぁ〜」
日比谷のやつ、北岡部長まで倒しやがった。実力は本物ってとこか。
「伊達北のメンツにかけて、あのガキはあたしが倒すわ」
浅倉先輩がデッキを構えながら、ファイトテーブルに向かう。
入れ替わりに北岡部長がこちらへと歩いてきた。
「お、トウジくんまだ帰ってなかったんだね。いや〜、負けちった」
「お疲れ様です」
北岡部長は相変わらず明るい様子だった。
「じゃ、敵討ちはなっちゃんに任せてあたしらはフリーファイトでもしよっか!いいでしょ、トウジくん」
「ええ、まあ。でも浅倉先輩のファイト、見なくていいんですか?」
「いいのいいの。どうせなっちゃんが勝つよ。うちのエースはあたしよりずっと強いんだから」
すごい信頼だな。つい先日、うちもエースは必ず勝つみたいな前提で作戦会議をしたから人のことは言えないが。
「それにトウジくん、デッキ変えたんでしょ?」
「えっ、なんで分かったんです?」
「そりゃ、ヴァンガードファイターが1度ファイトスペース離れて戻ってくる理由なんてカードを買い足す以外にないから」
まったくこの人はすごいんだか、ヴァンガ脳なんだか。
相手してくれるんだからありがたいんだけど。
にしても、伊達北が統廃合か……。
「ほーら、早くファイトしようよートウジくんー」
「あ、はい。すぐ準備します」
デッキを念入りにシャッフルし、空いてるテーブルにつきながらファーストヴァンガードを置く。
今は切り替えよう。日本サーキットは俺にとっても大事な大会なんだから、きっちり練習しないと。
「よーし、それじゃ行くよ?」
「はい、お願いします」
『スタンドアップ・ヴァンガード!』
「情火の解放者グウィード!」
「バブルエッジ・ドラコキッド」
新しいファーストヴァンガード。貯めていたお小遣いの大半をつぎ込み、大幅に変更したこのデッキを今こそ見せる時だ。
「へぇ、バブルエッジか。大胆に変えてきたね?」
「俺にとって、もともとヴァンガードはそんなに熱くなるもんじゃなかったんですけどね。でも、周りが強くなるのを見てたら、俺も強くなりたくなって」
「ははーん?"周りが"ねえ……うんうん、男の子だねぇ」
ニヤニヤと笑いながら繰り返してくる。天原先輩みたいだ。
「なんすか、その笑いは。いいから始めますよ、ドロー」
ざっと手札を確認。この手札なら……あっちだな。
「ケルピーライダー・ニッキーにライド!バブルエッジを移動」
ファーストヴァンガードのバブルエッジドラコキッドをヴァンガードの後ろに先駆する。
「これでターンエンド」
【桐澤トウジ:ダメージ0/手札5】
【北岡ハルミ:ダメージ0/手札5】
「あたしのスタンド&ドロー。疾駆の解放者ヨセフスにライド、グウィードを移動」
北岡部長もグウィードはヴァンガードの後ろに。
「まだどんなデッキかわかんないね、楽しみだ。ヨセフスでアタック!」
「そんな簡単には読ませませんよ。ノーガード」
「ドライブチェック。ゲット・クリティカルトリガー、全部ヴァンガードに」
剛刃の解放者アルヴィラか……。たしかこうやってドライブチェックで出たカードを覚えておくといいんだよな。
「ダメージチェック。1枚目……2枚目、ゲット・ドロートリガー。パワーはニッキー、1枚ドロー」
ダメージに落ちたのは蒼嵐兵ラスカルスィーパー、そしてドロートリガーの戦場の歌姫マリカ。
「蒼嵐兵ラスカルスィーパーか、なるほどね。メイルストロームに変えたんだ」
そう、北岡部長の言う通り。蒼嵐兵ラスカルスィーパーはヴァンガードが「メイルストローム」の時だけスキルを使えるユニットだ。
「あたしは、これでターンエンド。トウジくんターンどうぞっ!」
【北岡ハルミ:ダメージ0/手札6】
【桐澤トウジ:ダメージ2/手札6】
「じゃ、ターンもらいます。スタンド&ドロー」
ここから、速攻をかけていく。
「マグナムアサルトにライド。カップルダガー・セイラー、ラスカルスィーパーをコール」
2体のグレード2ユニットを"縦に"コールする。
「カップルダガー・セイラーでヴァンガードをアタック。カウンターブラストしてパワー+2000」
序盤からスキルを使えるユニット、これが俺の新しい速攻の形。
「ノーガード、ダメージチェック。トリガーなし」
「カップルダガーのスキル発動。後列のラスカルスィーパーと位置を交換する。ラスカルスィーパーでヴァンガードをアタック」
「それはガードさせてもらうよ。アルヴィラでガード」
「最後はヴァンガードのマグナムアサルトでアタック」
これで2ターン目から3体で攻撃。アタックされる心配があるのもラスカルスウィーパーだけだ。
「ノーガード!」
「ドライブチェック、蒼嵐竜メイルストローム。トリガーなし」
「ダメージチェック。幸運の解放者エポナ、クリティカル。パワーをヴァンガードへ」
ここでダメージトリガーか。俺のアタックがすべて終了した後で助かった。この連続攻撃は回数を稼ぐために1つ1つのパワーを犠牲にしているからな。ダメージトリガーは天敵中の天敵だ。
「ターンエンドです」
【桐澤トウジ:ダメージ2(表1)/手札5】
【北岡ハルミ:ダメージ2/手札5】
「それじゃああたしのターン。スタンド&ドロー!いくよ、あたしの分身。ライド!定めの解放者アグロヴァル!」
さあ、本番はここからだ。向こうの攻撃をどうさばき切るか。ガードはデッキというより俺の腕が試されるところ。
「誓いの解放者アグロヴァルをコール。スキルでカウンターブラスト1、山札の上3枚を見て1枚コール。それ以外を下へ。あたしは誓いの解放者アグロヴァルをスペリオルコール。今度は2体目のアグロヴァルのスキル。また3枚見て……ヨセフスをコール。うん、調子いいね」
スキルがつながっていく。俺が速攻をかけてダメージを2点入れたのを逆手にとってカウンターブラストをきっちり使うあたりさすがだ。
「ヨセフスのスキル。山札からコールされた時ソウルブラスト1することで1枚ドロー」
一気に盤面を整えた上にドローまでとは。やはり部長は伊達じゃないな。
「誓いのアグロヴァルでヴァンガードをアタック!」
「スーパーソニック・セイラーでガード」
「ヴァンガードの定めのアグロヴァル、グウィードのブーストでアタック!」
「ノーガード」
「ドライブチェック、トリガーなしだね」
プロミネンスグレアか。確かレギオンのユニットだったはずだ。ドロップにカードがいかなければレギオンはできないが、すでに2枚か……厳しそうだな。
「ダメージチェック。……戦場の歌姫カロリーナ。ヒールトリガー。パワーをラスカルスィーパーに」
これでダメージは2のまま。だがこれを守り続けないなら意味がない。プロミネンスグレアのレギオンスキルでクリティカルが上昇すると3ダメージでもガードしないわけに行かなくなるからだ。
「最後にヨセフスのブースト、誓いのアグロヴァルでヴァンガードをアタック!」
「ノーガード」
だからこそ、ここはリアガードを守り、ガードは温存する。
「ダメージチェック、トリガーなし」
「ターンエンド。ここからがお楽しみ、だよね?」
北岡部長は対戦相手だというに期待の眼差しでこちらを見ている。ヴァンガード自体が大好きなのが伝わってくるようだ。
「はい。期待は裏切りません」
今はその眼もまっすぐ見られる。不純な動機ばかりがヴァンガードをする理由じゃなくなったから。
【北岡ハルミ:ダメージ2(表0)/手札6】
【桐澤トウジ:ダメージ3/手札4】
さあ、俺の新たな、一つ目の切り札よ。その力を見せてくれ。
「スタンド&ドロー!ライド!蒼嵐竜メイルストローム!」
To be continued……