雪国の先導者達   作:黄雀

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アビスウイングこと浅倉ナツキちゃん回です。
ユキネちゃんだいぶ長いこと出てないけど、彼女だけが主人公なんじゃないとかそういうことだと思います。


浅倉ナツキ

 そいつとの出会いはカードショップ・10daysのショップ大会だった。

「撃退者ファントムブラスターabyssにライド」

 グレード3のブラスターダークdiabloの上に、さらにグレード3のユニットをライドする。ブレイクライドではない、純粋な乗り直しだ。

「きゃー、Vスタンド。タイガこわ〜い」

「誰がレギオンするって言ったのよ」

 相手のダメージは4。手札は11。レギオンしても届かない。

 さすがグレートネイチャーが誇るドロー加速ユニット、幻想科学者テスターフォックスだ。パワーアップと退却、ドローとレギオンとストライドのコンビネーションも素晴らしい。

 いい腕の中学生だ。うちに来年があれば、ぜひとも来年には欲しいファイターだ。話し方はぶりっこだけれど、ファイト内容は本気そのもので好感がもてる。

「マックアートとカルマコレクターを捨ててジェネレーションゾーン解放!」

 完全ガードのカルマコレクターでさえも今は必要がない。

「1枚だけ捨てれば超越できたところを、わざわざグレード3にライドして2枚も使って超越……?」

 途端に険しい顔で思案し始める____えっと、タイガだったかしら。

「素がでてるわよ、アイドルさん。闇より出しわが力よ、屍の山を踏み崩し進め!ストライド・ジェネレーション!ファントムブラスターdiablo!」

 グレートネイチャーには致命的な弱点がある。

 それはリアガードの退却を全てのスキルの起点としていること。今だって前列にいた2体のリサーチャーフォックスはターンエンドと同時にいなくなっている。

「ブラスターダーク撃退者abyssをコール。カウンターブラスト、ぐるぐるダックビルを退却……」

 ブラスターダーク撃退者abyssはカウンターブラスト1で相手のグレード1以下のユニットを退却できる強力なユニット。ただしこれにはヴァンガードが撃退者の名称をもつことという条件がある。これがわざわざライドし直した理由。

「もう1枚、ブラスターダーク撃退者abyssをコール。カウンターブラスト、ウォッシュアップラクーンを退却」

 これで残る相手のリアガードはヴァンガードの後ろに置かれたぐるぐるダックビルのみ。

「ファントムブラスターdiabloのスキル。カウンターブラスト1、パワー+10000と追加のクリティカルを得る。そしてアタック!」

「そこでさらに……もう一つのスキルか〜」

 やっぱり、ここまで来たら気づいてるわね。カードの知識もかなりある。

「ブラスターダークとカロンを退却。これにより、リアガードを2体退却させないことには、手札からガードが出せないわ」

「つまり、ダックビルくんしかいないこの状況じゃ、タイガの手札はぜ〜んぶムダってことだね。ノーガード」

 おまけのクリティカルトリガーを乗せた3ダメージが通る。

 ショップ大会、今回も優勝。

 違うのは2つ。今回から自分のデッキってこと。

 そして、あいつがこないか少し期待してたってこと。

 

 

 

「パイセン、パイセン!お昼はどこ行くぅ?」

 違うのは____3つ。

 3つ目はこの失礼な中坊、日比谷タイガがくっついてきたということ。

「どこ行くって、家かえるけど。お金ないし」

「えぇー……パイセンもっと遊びましょうよー」

「お金ないって言ってるでしょ。それより何よそのパイセンってのは」

「パイセンはパイセンだよ〜」

 ダメだ、こいつ。調子狂う。

「それに、なんで着いてくんのよ」

「パイセンについてぇ、いろいろ知りたいからかなぁ」

 っていうか、そろそろ家ついちゃうんだけどどうしよう。

「強いファイターなら他にもいるでしょ。ハルさんとか。その辺と遊んでなさいよ」

「確かにあの人は強かったけどぉ、でも3年生だからなぁ。タイガを来年全国に連れてってくれるのはやっぱりパイセンしかいないよ。パイセン、来年どこ転校するの?」

「さあ、まだ決まってないわ。高校、行き続けるかも含めてね」

 嫌なことを思い出させる。

 伊達北高校は来年春、統廃合でなくなる。地元の公立なら、吸収先の伊達南高校以外でも転入はさせてくれるみたいだけれど。

「え〜、VF甲子園行こうよ?タイガとパイセンなら北陸予選くらい楽勝だよ。パイセンだってヴァンガードファイターなら行きたいでしょ?」

「行きたくないと言ったら嘘になるわね。いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず北陸予選は楽勝じゃないわ。あたしより強いやつもいるしね」

「パイセンより強いやつ……?」

 はあ……ついちゃった、家。

「話したらあたしじゃなくてそいつのとこ行ってくれるなら話すけど」

 立ち止まっても不自然だし、諦めて入るか。

「それはちょっと保障できない____ってパイセンやっぱりお昼食べるんじゃん」

 違うのよ。いや、確かにここで昼食べるんだけどさ。

「ここが家なの」

 ドライブイン・フジタ。それがわたしの家兼店の名前。

 

 

 

「それで結局、誰なの?北陸第1ブロックでパイセンより強いのって」

 店のテーブル席でラーメンをすすりながらタイガが話の続きをしてきた。

 お母さんはあたしがはじめて後輩を家に連れてきたと勘違いして、こいつのラーメンはタダだ。店、そんなことしてる余裕ないのに。

「梅乃台高校の歌星ミクってやつよ。ロイパラ使い。今はまだあいつのワンマンチームだけど、そのうち影響されて強いチームになるかもね」

「ふむふむ、今度遊びにいってみようかな。梅乃台。でも大会とかでも聞いたことないよ?梅乃台なんて」

 意外と学生ヴァンガード事情にくわしいのかな、こいつ。

「まあね。あそこは今年の日本サーキットまで部員が足りなくて、公式戦はしてなかったから」

「なるほど〜。じゃあ一緒にそこ入りましょうよ。来年」

 梅乃台かぁ、それも悪くないかな。

「ほら、歌星ミクを教えてあげたんだから帰りなさいよ」

「えぇー……冷たくない?パイセン。あ、そうだ部屋でもう1戦ファイトとか」

「しないから。……あ、そうだ。暇なら手伝ってほしいんだけどさ」

 いっそのこといいように使ってやろう。どうせ追い払えなそうだし。

「なになに?部屋あげてくれるなら手伝うよ」

 扱いやすくて助かるわ、本当。

「じゃ、さっさとそれ食べちゃいなさい」

「はーい」

 

 

 

「へぇ、これがパイセンの部屋かぁ。意外と片付いてるんだね」

「何よそれ。部屋が汚そうだと思われてたの?」

 まあ、言いたいことはわかるんだけどさ。

「ごめんて。そうじゃなくて、もっといっぱいカード持ってる人なのかと」

「言ったでしょ、お金ないって。カードはさっき見せた58枚で全部よ」

「ふぅん」

 さて、それじゃ手伝ってもらいましょ。

「で、そのデッキだけど。スリーブの入れ替え手伝ってほしいのよ」

「はーい。お安い御用だよ」

 ミクにもらった時の、色落ちした赤スリーブのデッキと、数枚ずつ袋に入った黒いスリーブをカバンから出して広げる。

「……なんでこんな、数枚ずつ?」

「部活のみんながくれたのよ。スリーブって、デッキに使うと中途半端な枚数余るでしょ?それで余ったやつをくれたの」

「へぇ、いい仲間だね」

「まあね。ハルミさんなんか、普段金色しかスリーブ使わないくせに。とにかくスリーブ交換、頼んだわよ。たぶん58枚以上あるはずだから」

「りょーかいでーす」

 さて、さくっと交換して。これだけで帰したらかわいそうだし、1戦くらい相手してあげますか。

 二人で作業にとりかかる。

「パイセンさぁ7、いっこ訊いてもいい?」

「ダメっていっても訊くんでしょ。なによ」

 作業の手は止めず、目線の合わないままに話す。

「これ、公式戦だから、日本サーキット予選用にスリーブ新しくすんだよね?」

「そうよ、さすがにあのボロスリーブじゃジャッジキル怖いし」

「そのスリーブを買うお金すら出せないほど、お金ないんだよね?」

「そうよ」

 言いにくいことズバズバ言う子ね。別にあたしは気にしないけれど。

「それはお店の名前でなんとなく察したんだけどさ。デッキはどうしたの?このデッキ、どう考えたって安いデッキじゃないよね?」

「ああ、そのこと。もらったのよ、さっき言った歌星ミクに。ライバルの証ってとこかしら」

 この子の言う通りだ。シャドウパラディンは強力で人気ゆえに一部のカードは値が張る。妥協のない撃退者デッキを組んでおきながらスリーブを買うお金がないなんて変な話だ。

「パイセンはいろんな人に愛されるねえ」

「そんなんじゃないってば」

「タイガもそうなりたいな~。なんて言うの?天然もののアイドル?」

「わけわかんないこと言ってないで、さっさとスリーブ交換しちゃうわよ。終わったら1戦くらい付き合ってあげるから」

「本当に!?」

 露骨にテンションが変わったわね、この子。

「パイセンが特訓してくれたらタイガ、すぐ強くなれるよ」

「あんた強くなりたいの?ヴァンガードアイドル志望じゃなかったっけ」

 てっきり全国大会で名前を売りたいから強い高校に入りたがってるんだとばっかり。

「ヴァンガードアイドルは強くないと!ラミーラビリンスなんて初心者ダメダメ。目指すならウルトラレア路線だよね、やっぱり」

「よくわかんないけど、あんたもこだわりがあるのね……」

「あるよ!ありまくるよ!」

「わかったわかった」

 あんたならやれそうね。強引にとはいえ初対面のやつの家に上がり込んでるわけだし、変なカリスマ性あるんじゃないかしら。

「パイセンパイセン~終わったよ!約束のファイト10戦!」

「1戦しか約束してない!」

 なんだかなぁ、やかましい後輩ができたってことでいいのかな。

「ほらほら、早く〜」

 既にデッキシャッフルして構えてるし。

「はいはい、今やりますよ」

 嫌いじゃないのかもね、こういうやつ。

 デッキをシャッフルして、ファーストヴァンガードを置く。

 

『スタンドアップ・ヴァンガード!』

 

 こいつに、ミクに、来年も場所を変えてヴァンガード楽しめそうかな。

 今年は勝たせてもらうけどね、梅乃台高校。

 

 To be continued……

 

 

 

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