雪国の先導者達   作:黄雀

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ついにヴァンガードのお約束展開に突入いたしました(?)


逆転のヒールトリガー

 日本サーキット北陸第一ブロック予選Bブロック決勝。

 その中堅戦が今、終わった。

 戦いを終えた2人が帰ってくる。

「ごめんね、わたしがもうちょっと上手ければ……」

 ミコねえの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

「もう、泣かないでよ。チーム戦なんだから、わたしが負けた時はじめて一緒に泣こう?」

 そうは言っても、わたしも声が震えていた。

 まさかミクちゃんのいるタッグで負けて、大将戦が回ってくるなんて思っていなかったから覚悟も決まっていない。

 そういう意味では一番チーム戦を分かっていないのはわたし。ミクちゃんに頼ることしか考えていなかったことに今さら気がつかせられる。

「ごめん。大将戦がんばって」

 ミクちゃんは短くそれだけ言うとまた腕を組み、壁に寄りかかってファイトフィールドを見つめた。

「うん、行ってくる」

 やるしかない。震える手でデッキを掴み、前へと踏み出した。

 トウジは、こんな時に限って何も言わなかった。

 

 

 

「それではBブロック決勝、伊達北高校浅倉ナツキ選手対梅乃台高校御堂ユキネ選手の試合をはじめます。先攻は御堂選手でお願いします」

 ジャッジのお兄さんのコールがあり、わたしとナツキさんは互いの手元にあるファイトテーブルにデッキを置いた。

 背の小さなナツキさんがすごく大きく見える。気迫、覚悟、そういったもので負けているんだ。

「悪いけどあたしが勝つ。なんの面白みもなく、ただ勝つ。伊達北高校、廃校前最後の公式戦日本サーキット。こんなところで立ち止まってる時間はないの」

 廃校……?

 そういえば、ミコねえがそんなことを言っていた気がしてきた。今年で伊達北は統廃合でなくなるって。

「ま、でもあんたらのことは嫌いじゃないわ。ミコトも今日はちゃんとヴァンガードに向き合っていた。5位決定戦、応援してあげるから本戦まで来なさい」

「わ、わたしは……」

 ダメだ。何も言い返せない。ここで負けるとわたし自身が思ってしまっている。

「……始めましょうか」

「は、はいっ」

 

『スタンドアップ・ヴァンガード!』

 

「春待ちの乙女オズ!」

「新鋭の騎士ダヴィド!」

 今日3回目に見るわたしの分身の姿は、どこか弱々しく見えた。

「わたしのスタンド&ドロー。仮初めの騎士メアホープにライド!オズを移動」

 冷静に、冷静に。

 とにかくファイトに集中しなくちゃ。オズをヴァンガードの後ろに下げ深呼吸。

「ターンエンドです」

 

【御堂ユキネ:ダメージ0/手札5】

【浅倉ナツキ:ダメージ0/手札5】

 

「スタンド&ドロー。真黒の賢者カロンにライド。ダヴィドを左後ろへ」

 ファーストヴァンガードを斜めに移動……?そんな戦い方が?

「カロンでヴァンガードをアタック」

 パワー7000だ。わからない。これだけパワーが低ければガードした方がいいのかな。

「の、ノーガード!」

「ドライブチェック、マックアートよ。ノートリガー」

 ドライブチェックで光を反射する黒スリーブがシャドウパラディンの刃のように恐ろしい。

「ダメージチェック。フェアリーライトドラゴン、ゲット・ヒールトリガー!」

 このヒールトリガーは意味がない。

 やっぱり守った方が……?

 嫌だ、絶対勝って日本サーキットに行くんだ!

 

【浅倉ナツキ:ダメージ0/手札6】

【御堂ユキネ:ダメージ1/手札5】

 

「スタンド&ドロー。仮初の騎士メアドリームにライド。さらにメアホープをコール」

 あれほど感動したモーションフィギュアシステムの映像を見ている余裕はない。

「メアホープでアタック!」

「厳格なる撃退者でガード」

 6ダメージ、絶対にいれる!

「メアドリームでアタック!」

「ノーガード」

「ドライブチェック!」

 めくられたのはパッションフラワー。完全ガードだ、いい感じ。

「ダメージチェック、ファントムブラスターabyss」

「ターンエンド!」

 

「ユキネ!もっと落ち着きなさい」

「力入りすぎだ」

 背後からミクちゃんとトウジの声がする。

 分かってるよ、絶対勝つから……

 

【御堂ユキネ:ダメージ1/手札5】

【浅倉ナツキ:ダメージ1/手札5】

 

「スタンド&ドロー。闘気の撃退者マックアートにライド。そしてブラスターダーク撃退者abyssをコール」

 向こうも展開をしてくる。ダヴィドの前にブラスターダークが来る形だ。

「abyssのスキル、カウンターブラスト。メアホープを退却」

「くっ……」

 影のように忍び寄ったブラスターダークにメアホープが切り裂かれる。

「マックアートでヴァンガードをアタック」

「花園の乙女マイリスでガード!」

 ダンガンマロンの代わりに新しく採用したクリティカルトリガーでアタックを防ぐ。これで貫通はない。

「ドライブチェックはブラスターダークDiablo。ノートリガー。このままabyssでアタック」

 向こうは全く動じた様子はない。

 全て読み切っているってこと……?

「ノーガード。ダメージチェック、フラワースクリーン。トリガーなし」

 

「いいよなっちゃん!その調子!」

「なっちゃんなら勝てる!」

 ハルミさん、アキナリさんから声援がとぶ。

 わたしだって……

 

 《お前なら勝てる》

 

「えっ……?」

 誰かの声がする。でも誰の?

 分からない。

 手札のアーシャが怪しく光った……気がした。

 カードの声?まさか。

「どうかした?あたしはこれでターンエンドだけど」

 

【浅倉ナツキ:ダメージ1(表0)/手札5】

【御堂ユキネ:ダメージ2/手札4】

 

「な、なんでもありません!えっと、スタンド&ドロー。ラナンキュラスの花乙女アーシャにライド!」

 わたしとずっと一緒に戦ってきたアーシャがファイトフィールドの真ん中に花開く。

 ねえ、本当にわたしは勝てるの?答えてよ、アーシャ。

 当たり前だけれど立体映像のアーシャは何も答えてはくれなかった。

「メイデン・オブ・グラジオラス、早咲きの乙女ピアをコール!」

 

 《大丈夫。お前が負けることはない》

 

「……!?」

 まただ。他の人には聞こえていない様子だけれど、わたしにははっきりと聞こえた。

「アーシャでヴァンガードをアタック!」

「ノーガード」

 ねえ、アーシャなんでしょ?教えてよ、どうやったらナツキさんみたいな強い人に勝てるの……?

「ツインドライブ。ゲット・ドロートリガー!パワーはグラジオラスへ」

「ダメージチェック、マーハ。トリガーなし」

「グラジオラスでアタック!」

「それも受けるわ。……ノートリガーね」

 ダメージは逆転。

 ここまでは確かに上手くいっている。

 

 《お前の勝ちは決定している。さあ、私とともにどこまでも勝ち進もう、御堂ユキネ》

 

 誰?誰なの……?

 

【御堂ユキネ:ダメージ2/手札5】

【浅倉ナツキ:ダメージ3(表2)/手札5】

 

「あたしのスタンド&ドロー。ブラスターダークDiabloにライド。そしてジェネレーションゾーン解放」

 見る者を威圧する黒いスリーブが一層の光を放った。

「闇より出でし我が力よ、屍の山を踏み崩し進め!ストライド・ジェネレーション!覇道黒竜オーラガイザーダムド!」

 闇に包まれたブラスターダークDiablo、その闇の中から禍々しい腕が伸びて、這い出してくる。暗黒の竜だ。

「スキル発動。カウンターブラスト、Gゾーンのオーラガイザードラゴンを表に。さらに3体のリアガードを退却させる」

 3体……?ナツキさんのリアガードサークルには2体しかユニットはいない。

「ダヴィドはスキルで2体分の生贄となる。ダムドのスキル、山札の上2枚を公開」

 カルマコレクターとダークハートトランペッターが公開される。どちらもグレード1のユニットだ。

「このスキルで公開したグレード1以下のユニット1体につき、相手のリアガードを1体退却させる。グラジオラスとピアを退却!」

「そんな……!?」

 2体のリアガードの足元から黒い腕が伸び、2体を地の底へと引きずりこんでいく。

「マーハとダークハートトランペッターをコール。ダークハートのスキル、ソウルブラスト。カロンをスペリオルコール」

 しかも向こうのの展開は止まらない。

「ダークハートのブースト、マーハでヴァンガードをアタック!スキル発動、ダークハートをコール。さらにダークハートのスキルでカロンをコール」

「フェアリーライトドラゴンでガード!」

 まさに猛攻。次のターンの展開を考えつつ防がないと。

「ダムドでヴァンガードをアタック!」

「ノーガード」

 黒竜が大剣を振り回しアーシャを襲う。

「ドライブチェック、ゲット・クリティカルトリガー。パワーはダークハート、クリティカルはヴァンガードへ。セカンド、ノートリガー。サード、ゲット・ヒールトリガー。パワーをダークハートへ。1枚回復」

 淡々とトリプルドライブが行われる。トリガーにも特に喜んだ様子はない。

 ナツキさんにとってはそんなものは些細な違いなんだ。

「ダメージチェック。ゲット・クリティカルトリガー!パワーをヴァンガードに」

「カロンのブースト、ダークハートでアタック!トリガー合わせてパワー24000」

「……ノーガード。フェアリーライトドラゴン、ゲット・ヒールトリガー!」

 よし、このアタックはやり過ごせた。

「ターンエンド」

 でも、圧倒的不利には変わりがない。

 

【浅倉ナツキ:ダメージ2/手札7】

【御堂ユキネ:ダメージ4/手札4】

 

「スタンド&ドロー。ジェネレーション解放!」

 やれるだけやるしかない。まだ負けたわけじゃないんだ。

「この地に芽吹け吹雪にも負けぬ花、その名も希望!ストライド・ジェネレーション!春色の花乙姫アルボレア!」

 幾度となくわたしと一緒に戦ってきた相棒だ。アルボレアなら。

 

 《私にすべて委ねろ。そうすれば必ず勝つ》

 

「アルボレアでヴァンガードをアタック!」

 また謎の声がする。でもそんなの構っていられない。

 わたしは勝たなきゃいけないんだ。

 勝ってみんなと日本サーキットに行く。梅乃台に生まれても夢はもてるんだって証明する。

「アルボレア単騎……?ふっ、いいわノーガード」

 ここでトリプルクリティカルを出す。もうそれしか方法はない!

「ファーストチェック、マイリス。ゲット・クリティカルトリガー!効果はすべてヴァンガード!」

 そうだ、このまま、このまま。

「セカンドチェック、ディモルフォーぜ。ゲット・クリティカルトリガー!」

 会場がどよめく。

 いけるかもしれない。そう思った時だった。

「出ないわ」

「えっ」

 ナツキさんがまったく動じずにこちらを射抜くように見ていた。

「そんなの、引いてみなければわかりません!」

「まあ、その通りなんだけどさ。でも出ないのよ、トリガーってのは互いが死力を尽くしたファイトをした時に勝負を動かす神の気まぐれ。全てをトリガーで解決しようなんて諦め半分のファイトをする人間のもとには、トリガーはこない」

「くっ…………サードチェック!!」

 引いたのは____ウーントタナップ。

「ゲット・ドロートリガー……」

「ダメージ3枚チェック。ヒール……は、発動しないわね」

「……ターンエンド」

 

【御堂ユキネ:ダメージ4/手札8】

【浅倉ナツキ:ダメージ5/手札7】

 

「スタンド&ドロー。さっさと終わらせましょ。ジェネレーションゾーン解放」

 期待はずれだとでも言わんばかりに、ナツキさんは手札を雑にドロップゾーンに置く。

「闇より出でし我が力よ、屍の山を踏み崩し進め!ストライドジェネレーションゾーン!ファントムブラスターDiablo!」

 新しいGユニットだ。でももう退却させられるユニットもオズしかいない。

「ブラスターダークの超越時スキル。オズを退却」

 最後に残ったオズすらも消し飛ばされる。

「ファントムブラスターのスキル。カウンターブラスト、そしてGゾーンのファントムブラスターを表に。パワー+10000。クリティカル+1」

 あれを食らったら終わりだ。

 もうダメージは4なのだから。

「ファントムブラスターDiabloのアタック。カロンとダークハートを生贄にしてスキル発動。2体のリアガードを退却させない限り、このアタックに対し手札からガードできない」

「!!」

 2体のリアガードを……できない。こちらにはもうリアガードがいない。

「ガード不能ね。トリプルドライブチェック、ゲット・クリティカルトリガー!セカンドチェック____」

 6点ヒールだ。もうそれしかない。

 

 

「くそっ!出てくれヒールトリガー!」

 トウジが叫ぶ。

 こんな、何もできず一方的に負けるなんて……

 

 《私にすべて委ねろ。勝たせてやる》

 

 謎の声はまだ聞こえていた。

 ここからどうやって勝つっていうのさ。

 《私にすべて委ねろ……》

 もうわかったよ。委ねる。

 それで本当に勝てるなら、どんなことしても勝ちたいよ……

 

 

「____サードチェック、トリガーなし。3ダメージよ」

 ナツキさんのドライブチェックが終わった。

 わたしの望みは叶った。

 どうして気がつかなかったんだろう。こんなにはっにりと、目の前に勝ちへの道があるじゃないか。

「ふふっ、ふふふふふっ」

 笑いが止まらない。勝った、わたしは勝ったんだ。

 そんな喜びと、そんなことを望んではないという気持ちがぶつかり合う。

「……何よ、早くダメージチェックを____」

「ジャッジの人」

「____はい?」

 わたしはまっすぐナツキさんを指さした。

「右から5番目の手札、スリーブが違います」

「はぁ?何言って……」

「光の反射の仕方が、1枚おかしい」

 会場がざわつき始めた。

 なかでも伊達北の応援席が、おかしなざわつき方をしている。そんなはずない、言いがかりだ、そんな声がまったく上がってこない。

 これは確定だ。

「い、一応確認します」

 ジャッジが浅倉ナツキに寄っていく。

「普通にしていたら同じスリーブです。ただある角度で見ると、光の反射が他のカードと違う。同じ黒スリーブじゃない」

 わかりづらいので丁寧に説明をする。

「ほ、本当だ……」

「位置的に、前のターンで出たヒールトリガーじゃないですか?」

「ええ、そうです。他のカードも確認しますがよ、しいですね?」

 許可なんかとってなくていいから早く探してよ。

 

 静まりかえる会場内。

 

 しばらくしてジャッジの確認がおわった。

「デッキの中に合計4枚、光り方の違うスリーブがありました。しかしほとんど判別不能、かつ4枚のカードにも何の関係性もないため故意ではないと判断し____」

「わたしはまだ負けてないからそれで納得してもいいですけど、伊達北と1、2回戦で当たった高校は納得しますかね?たしかナツキさんが先鋒でストレート勝ちでしたっけ?」

 どんどん言葉が溢れてくる。

 わたしがわたしでないみたいだ。不思議な感覚。

「そ、それは____」

「もう帰っちゃったんじゃないですか?今から同意とってきます?」

「もうやめろユキネ!!」

 その時、トウジの声が背後から響いた。

「お前本気で浅倉先輩が不正したと思ってるのか!?俺達は負けたんだ。伊達北は今年で最後の日本サーキット、俺達は5位決定戦にまわって頑張ればいい。来年だってある!」

「5位決定戦?なんでわたし達が回らなくちゃいけないの?来年?その時また4人部員がいるって保証がどこにあるの?今しかないんだよ!梅乃台が日の目を見るのは!!」

 助けてトウジ、わたしそんなこと思ってない。

「お前……どうしちまったんだよ」

「で?ジャッジの人、このイカサマの処分はどうするんです?わ・た・し・は、どっちでもいいですけど」

 何なの、これ。

 なんで勝手に、こんなこと……。

「御堂ユキネ!このクソファイターが!」

 観客先から怒号がとぶ。タイガちゃんだ。

 何を言われても仕方がない。ただ、わたしには止められないのだ。

「そのスリーブはな!伊達北の人達がスリーブの端数分をパイセンのために____」

「ああ、だからみんな黒いスリーブ使ってたんだね。それで?」

「っ!このっ、だいたい何がまだ負けてないだ!ダメージ4でクリティカル3のアタックがヒット、ヒールトリガーはダメージに2のドロップに1、負け確じゃないか!」

「イカサマされてなければね」

 人格が歪められているのか、それとも乗っ取られているのか。

 思いもしない言葉が次々と出てくる。ただ、この試合に勝つためだけに。

「このっ!大した腕もないくせに!」

「やめなさいタイガ」

 止めに入ったのはナツキさんだった。

「でもっ」

「いいから黙ってなさい。それで、最終的な判断はどうなりますか?」

 ジャッジに伺いをたてるナツキさん。

「今、無線でヘッドジャッジに確認をとりました。罰則としてマッチの敗北を適用します。これ以前の試合の結果については悪質性が極めて低いために問いません」

 難しい言葉が次々と出てくる。

「したがってこの試合、御堂ユキネ選手の勝利となります。ですのでBブロック優勝、日本サーキット本戦出場は梅乃台高校となります」

 勝った……。でも、こんなの望んでない。

 わたしは、こんなことしたくはなかった……。

 

 何かが頬を伝う。

 

 

 To be continued……

 

 

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