あと、今回からの新キャラのみんなもぜひ応援してあげてください。
梅乃台の日本サーキットが決まった。
大将戦のジャッジキルによってだ。
そのこと自体はわたしは悪いとは思わない。勝つか負けるかの公式戦だ。スリーブをきちんとしておかなかった向こうが悪い。勝負とはそういうものだと思っている。きっと、アビスウイングも。
「わたし……っ!わたしの意思じゃ……っ!」
問題は、それがわたしの知るユキネとはだいぶ違った行動だったこと。そして、この「わたしの意思じゃない」との不可解な発言を泣きながら繰り返しているということだ。
「ユキネちゃん、大丈夫。大丈夫だから」
なだめるのはミコトさんに任せておこう。わたしは、知りたいことがある。
ひと足早く会場を離れさせてもらおう。
「歌星、どこに行く?」
桐澤くんもどこかピリピリしている。
「どこでもいいでしょう。大会は終わったんだから、わたしの勝手よ」
「お前……」
ごめんね。わたしの勘が正しければ、万が一にもあなたに付いてきてもらっちゃ困るのよ。まだ、あなたの腕では。
「ユキネについててあげなさい」
まずは、アビスウイングを。ナツキを探さなきゃいけない。3人を振り切るように会場を後にした。
5位決定戦に回った4チームの控えスペースへと急ぐ。ナツキはそこにいるはずだ。
「待ちなさい、歌星ミク」
急いでいるというのに、わたしを呼び止める静かな声がする。
コツコツとうるさく響く足音がわたしを苛立たせる。そうして声の主はゆっくりと、わたしの前に立ちふさがった。
「どこに行くの?そっちは5位決定戦を待つチームがいるところよ。あんたの行く場所じゃない」
「日比谷タイガ……だったかしら。ナツキと話さなきゃいけないの。どいてくれるから」
「梅乃台の……まだパイセンに何かしようっていうのか。いいかげんにしろ……」
前に会った時のように、キャラを作っていない本当のタイガが怒りを燃やしてわたしを睨む。
「どきなさい。一刻を争うかもしれない」
「どかない。どうしても通りたければタイガを倒してからいけ」
デッキを構えるタイガ。
普段ならそういう子は嫌いじゃないんだけれども。
「どけ、日比谷タイガ!雑魚を相手にしてる暇はない」
「……っ!梅乃台はみんなそういう奴らか!」
ファイカを取り出し、ファイトテーブルに変形させるタイガ。
こっちに来てからはじめて見たわ、ファイカ。持ってる人いたのね、新潟にも。
それはともかく、話を聞かない子ね。
「いいわ、瞬殺する。説得より早そうだわ」
こちらもファイカを取り出し、テーブルに変形させる。
『スタンドアップ・ヴァンガード!』
「叩き潰せ!サンクチュアリガード・レガリア!!」
「くっ……」
一切の反撃を許さぬ速攻で6点目のダメージを叩き込む。
「じゃ、通らせてもらうわよ。アイドルさん」
こんなところで油を売っている場合じゃないのだ。
「あ、それと。あんた、敵討ちにユキネのところに行こうなんて思わないことね。そんな腕では危険だわ」
「危険……?」
そんな腕、より危険に反応したか。普段は理性的な子なのかもね。
わたしは振り返らず控えスペースに急いだ。
「ナツキ!」
控えスペースに走り込むなり叫ぶ。
幸いまだ5位決定戦は始まっていなかった。すぐに伊達北の4人を見つけることができる。
「……何しに来たの?」
北岡さんが今まで聞いたこともないような憎悪の声を向けてくる。
でもこれはただの憎悪だ。放っておいて大丈夫。
「ミク……謝りに来たとかじゃないわよね、あんたに限って」
「あたり前でしょ、あんたが悪いのよ。あれは」
ナツキは対照的に冷静だった。カードを実際に手にしたのは最近でも、彼女はわたしと同じ。真剣勝負のツールとしてヴァンガードと向き合ってきたタイプの人間なのだ。
「あなた……っ!」
北岡さんがわたしに掴みかかろうと立ち上がり、手塚さんに抑えられる。
「アキナリ!離してよ!」
「ダメだハルちゃん、暴力は」
手塚さんも、わたしに向ける視線は大差ないけれど。
「そんなことより、ナツキ。あなた、前にわたしに負けてから誰かに負けた?」
「……さっきの以外に、ってことよね?いいえ、負けてないわ。でもどうして?」
負けてない。ということは、あれではない……?
「もしかしたら、リバースなのかと思って、ね」
「リバース……って、4年前のリンクジョーカー事件の時の?御堂ユキネがリバースしてるってこと?」
「じゃないかと思ったんだけど……その様子だとナツキから伝染したリバースじゃなさそうね」
人格が変化し、ファイトの腕に一定のブーストがかかる。症状は4年前、わたしが小学生だったころに周囲で起こったリバース化現象とよく似ていたのだけれど。
あの日上空に巨大な黒輪が現れ、数時間の後にそれがひび割れ砕け散るまで、わたしは様子のおかしい何人もの見知らぬファイターからファイトを挑まれ続け、倒し続けた。
「ま、あたしも本戦出場を決めたら調べてみるわ。代わりと言っちゃなんだけど、あんた、タイガをなだめといてくれない?」
「ごめん。それ無理」
ついさっき、それが叶わぬ関係性になったところだ。
何かを察したのか、ナツキは何も言わずにただため息をついた。
「本当にどいつこいつも……。とにかく、あたしらは5位決定戦に行ってくるから。……東京の知り合いにでも聞いてみたら?あたしらより詳しいわ。4年前、こっちではほとんどリバース化は蔓延してなかったから。じゃあ、あとで」
ナツキ達伊達北をはじめとする4チームの選手達がファイト会場へと向かっていく。時間なのだろう。
「ん、がんばって」
目を合わせすらせずにナツキを見送る。
新潟ではリバース化は蔓延していなかった。知らなかったな。
たぶん、ファイターからファイターへ直接勝負することでのみ広がるリバースの特性上、人口密度の低い地域では広まりづらかった。そういうことなんだと思う。
「それにしても……東京、か」
カイトに……電話しても仕方ないから、一番頼れそうなのは____
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「暗黒を統べる魔界の将よ、その軍配で運命を揺るがせ。ストライド・ジェネレーション!忌わしき者ジル・ド・レイ!」
「終幕する喜劇と、終わらない絶望をあなたに。ストライド・ジェネレーション!深淵のナイトメアドールべあとりくす!」
「決まったぁー!勝者・福原高校代表、岸沼クロガネ・篠崎アリサペア!」
日本サーキット、関東第3ブロック予選会場が湧く。福原高校の大応援団による凱旋歌がはじまったのだ。
順当に、そして全勝で福原高校が日本サーキット本戦出場を決めたのである。
「クロ、アリサお疲れ様です。ボクもファイトしたかったんですけどねぇ」
中性的な顔立ちをした長身の女子生徒が、勝利を決め帰ってきた2人を激励する。
「学校に帰ったらいくらでもできるだろう」
クロと呼ばれたのは身長2メートル近い巨漢。ダークイレギュラーズを使っていた福原タッグの1人。
「ありがとうございます。レイカお姉様の手を煩わすまでもありませんわ」
アリサと呼ばれたのは黒いドレスに銀のジュエリーを至るところに着飾った女子だ。女子高校生としてはどちらかといえば彼女も長身の部類だが、彼ら2人と並ぶと小柄に見えてしまう。
「強くてかわいらしくて、いいですねぇありすは」
レイカお姉様、もとい鈴森レイカ。現福原部長は話を聞いているのかいないのか分からないことを言う。
「そんな……っ。強くてかわいらしいだなんて、お姉様ったら」
「いや、アリサじゃなくてありすと言っていたぞ今のは。ナイトメアドールありすの話だ」
「もう、お姉様ったら大胆なんですから」
「……聞いてないな」
クネクネするアリサと、ため息をつくクロガネ。福原ではいつもの光景だ。
「だから言っただろ。予選なんざ3人で充分だってな。レイカは来なくてよなったんだよ」
もう1人の福原レギュラー、銀髪の青年が悪態をつくとアリサがすぐさま我に返った。
「来なくていいのはあんたよ。えっと……」
「札幌ポテトくんですよ、アリサ」
「森繁キンゴだよ!いいかげんに覚えろ!」
締まりのないチームだが、彼らが本戦の優勝候補筆頭福原高校のレギュラーチームである。
「はいはい、喋ってないで表彰式までファイトの反省会をしなさい。いいわね?」
監督の女性から指示がとぶ。
「今みたいなファイトじゃ、本戦で足をすくわれるわ。だいたいキンゴは…………っと、電話だわ。反省会しとになさいよ」
4人から少し距離をとってから女性監督が電話に出る。
「もしもし、久しぶりね。元気にしてた?ミク」
〈お久しぶりです、監督。ええ、なんとか〉
電話の主は歌星ミク。
「それで?あなたは用事がないと電話してくれない子だったと思うけど?」
〈ええ、実はこっちで出来た友人が……〉
「えっ!?ミックミクなんですか!?ボクも、ボクも話したいです監督!」
「レイカ!反省会してなさいって言ったでしょう!ごめんなさいねミク、それでその友人がどうしたの?」
叱られてもレイカは監督のそばを離れようとはしない。
監督も諦めたようだ。
〈はは、部長あいかわらずですね。その友人がファイト中に人格が変わったようになって……リバースのような。でもそれとも違いそうで〉
「リバースのような……。あるいは、サイクオリアか。いずれにしても放ってはおけないわね」
「ミックミクのピンチなんですか?じゃあ、行きましょうよ新潟。仲間のピンチなんですよ?あっ、ちょっ、離してくださいクロガネ」
よこからレイカが口を挟み、それをクロガネが引きずって引き戻していく。
「リバースとは違うと言ったわね?それはどうして?」
〈はい、その友人に負けたファイターに同じ症状がでていないからです〉
「なるほど……」
確かにそういうことならば、少なくとも4年前の事件と全く同じものではないのだろう。
どちらかといえばサイクオリアに近い。
「なんとか予定をとってそちらに行きたいのだけれど、いつになるか……」
〈日本サーキット、本戦はどこに出るんです?〉
「えっ、ホームの関東と、アウェーは例年通り東北にしようと思っていたけれど……まさか、あなたとその友人、本戦出場するの?」
〈はい、一応〉
さすがね、そう言いかけたがその言葉は本戦のファイトを見た時にとっておこう。彼女はそう思った。
「なら話は早いわ。今年の福原高校アウェーは中部大会にする。そこで会いましょう」
〈すいません、お願いします〉
表彰式まで時間がないため、1度別れの挨拶をして電話を切る。
日本サーキット本戦は各チームが、北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の8大会のうち、2つの大会に出場。2つの合計順位で競うルールだ。
うち1大会はヴァンガード普及協会が交通費や宿泊施設を出してくれるため、ほとんどのチームが地元の大会+アウェーのどこかという出場形態をとっている。先程からホーム、アウェーと話しているのはそのことである。
通話を切り、監督は教え子たちの元へとゆっくり戻っていく。
「レイカ、クロガネ、アリサ、キンゴ!今年の日本サーキット、アウェーは中部大会に出るわ。SIT付属名古屋を自ら優勝争いから叩き落とす。いいわね」
「そうじゃなくてミックミクを助けに行くんでしょう?素直じゃないですねえ監督は」
「レイカお姉様とならどこへでも」
「ふむ。良き将に巡り会えそうだな」
「東北よかよっぽど楽しめそうだ。いいじゃねえか」
4人それぞれの返答。誰も反対するものなどいない。
どこの誰にも負けはしないという誇りを持っているから。
日本サーキット本戦まで、あと50日。
To be continued……