トウジくんの方はカード自体は所持、ミクちゃんのは私のデッキそのままなので一番楽です。
「テンデイズ?」
朝のホームルーム前、わたしはトウジからその名前を聞いた。カードショップ10daysといい、梅乃台からローカル線で二駅、十日町にあるカードショップらしい。
「ま、そのままの名前だわな」
「じゃあ明日ちょうど休みだし、ミコねえとわたし達で行こうよ」
二駅と言えど放課後行って帰ってくるには遠すぎる。新潟ローカル・ほくほく線の電車は1時間に2本も来ないから。
「まあ、別に明日も行ってもいいんだが、明後日そのテンデイズで非公式だけど交流戦をやるって」
「ミコねえが?」
「天原先輩が」
昨日の今日ですぐ約束とりつけるなんて、本当にミコねえはすごいなあ。
「それで、どこの高校なの?交流戦の相手」
「伊達北高。VF甲子園では毎年、新潟予選を突破して北陸予選までいってる名門みたいだな」
そんなすごいとこのファイターと戦えるなんて……!自分の実力を知るチャンス!
「伊達北高校? 行くの?」
「へ?」
隣から唐突に話しかけられる。
「ううん、行くわけじゃないけど。歌星さん、伊達北高知ってるの?」
そう、声をかけてきたのは昨日の転校生、キラキラの歌星さんだ。
「知り合いが1人いるってだけ」
「そっかー。あ、それより歌星さんっ!ヴァンガード、どこで知ったの?」
わたしは昨日ミコねえが言ったことを思い出していた。歌星さんはヴァンガードを知っている。勧誘できないと諦めるにはまだ早いって。
「えぇっ?し、知らないわよ……あんな子供っぽいもの」
うわぁ……。
わたしが言えたことじゃないけど、歌星さんアホの子なのかな。それ完全にヴァンガード知ってるって言ってるようなもんだよ。なんか急に親しみやすい子に見えてきた。
「そっかー、知ってたら一緒に十日町のテンデイズでの交流戦でてほしかったんだけどなー。明後日伊達北高との交流戦なんだけどなー」
わざとらしく全部言い直して反応を伺ってみることにした。
「な、な、何よ。知らないものは仕方ないでしょ」
これで明後日テンデイズに来てたら、歌星さんじゃなくてミクちゃんって呼ぼう。そんなちょろかわいい子をさん付けなんてできない。
「残念だなー、歌星さんに来てほしかったなー」
ダメ押しをしてふと視線を逸らすとトウジが半目で呆れていた。
仕方ないじゃん。4人目が入れば冬の日本サーキットには出れるんだから。なりふり構ってられないよ。
翌々日。
待ちに待った交流戦の日。
梅乃台ヴァンガード部の3人でローカル線に乗り、昼食をとってからお目当てのショップ、テンデイズへとのりこんだ。
交流戦のはじまる2時には少し早いけど、せっかく電車に乗ってきたのだからカードを見ていきたいのがファイター心というもの。
「いらっしゃいませー」
店主のおじさんの声がして、はじめて入るカードショップの光景が目に飛び込んでくる。
「おおーっ!」
「すげえ、梅乃台にもカードショップがあったらなあ」
興奮するわたしとトウジ。
そしてミコねえでさえも__
「ふふ、わたしもデッキ買っちゃおうかしら」
__なんて言い出すくらいだった。
「わりと大きなお店なのかしら?」
「……俺らも標準が分かんないです。すいません」
ヴァンガード専門店というわけでもないので、キョロキョロと見回してヴァンガードのコーナーを探す。
「ん?おいユキネ、あれ……」
トウジに言われて指さされた方を見ると、サングラスをかけた女性が熱心に高額カードのショーケースをのぞき込んでいた。
「あ、あの人……」
歌星さん、いやもうミクちゃんと呼ぼう。サングラスをかけ、学校の時と違って髪を後ろで束ねている。一応変装してるつもりなんだろうし、確かにだいぶ雰囲気は変わっている。
でもね、ミクちゃん。このド田舎にそんな明るい茶髪の子はたくさんはいないんだよ……。
「トウジどうしよう? 一応気づかない振りしてあげた方がいいかな」
「えー……無理があるだろ。でもその方が面倒がなさそうだな」
「あの子が転校生の? せっかくだしファイトしてもらったら?」
梅乃台ヴァンガード部作戦会議が小声で始まる。というかまだこっちに気づかないミクちゃんも流石にどうよ。
「じゃあこうしましょう」
トウジがまとめにかかる。
「ユキネは歌星に、気づかないフリしてフリーファイトを申し込んで__」
「ダジャレ?」
「やかましい」
ゴチンと頭にゲンコツを入れられる。いたい……
「とにかくフリーファイトをして探りをいれてくれ。なんでヴァンガードに興味ないなんて言ったのか。で、天原先輩」
「はぁい」
「先輩はその間に俺とデッキ作っちゃいましょう。せっかくですし、交流戦に自分のデッキがあった方がいいでしょう」
「えっ?わたしもファイトするの?」
「むしろしないつもりでいたことに驚きを隠せません」
ミコ姉、相変わらず天然だ……
「あはは……えっと、じゃあわたし話しかけてくるね」
「おう、せいぜい頑張れ」
「いってらっしゃーい」
まずクランを決めましょうかというトウジの声を背に、ミクちゃんへと近づいていく。
「あの……ミクちゃん」
「へ?」
まずい。まずいまずいまずい早速やらかした。知らない人のフリしなきゃいけないのに____
「あ、えっと人違い……みたいでs」
「な、なんでいきなり下の名前でっ……ってべ、別に嫌なわけじゃないけど、びっくりしたっていうかその……。……あっ」
輪をかけてやらかしてるよ、この子。なにこれ愛くるしい。
「……」
「……」
「……そうね、人違いのようね。わたしはミクではなく__」
「待って待って待って!さすがにそれには乗っかれないよ!」
「……勝負よ」
「ええっ!?」
「わたしが勝ったら、わたしがヴァンガードやってること、誰にも言うんじゃないわよ」
「う、うん……」
別に普通にお願いしてくれれば言いふらしたりしないんだけどなぁ……。ヴァンガ脳なのかな、ミクちゃん。
あ、でもそうだ。そういうことなら__
「じゃあミクちゃん、わたしが勝ったらヴァンガード部に入ってもらうよ」
交換条件。というかこっちは実質ノーリスクだし、当初の予定と全然違うけどいいよね。この方が話早いし。
「いいわ。勝てるものなら勝ってみなさい。コスモウィングと呼ばれたこのわたしにね」
なんか、ミクちゃん。昨日の自己紹介の時と全然違って、はっちゃけてるなぁ……。
「勝負は1本。クランファイトのルールでいくわ」
「うん、望むところだよ」
お互いのデッキをシャッフルしながら、ルールを確認していく。ミコねえに教えながらのファイトとトウジ以外の人とファイトをするのははじめてでわくわくしてきた。
「Gゾーンは8枚」
ミクちゃんが裏向きにカードを並べて8枚示してくる。普段こんなにちゃんとやったことないや。
「わたしは4枚」
真似して並べて見せる。
「え、4枚?」
「うん」
ミクちゃんはそう言って怪訝そうな表情を見せる。
「まあ、いいわ」
じゃんけんをしてミクちゃんが先攻、わたしが後攻に決まった。ミクちゃんの手札交換は3枚。わたしは____
手札を見る。
アーシャ、オーランジュ、グラジオラス、ディアン、フフルブルーム。グレードは1から3まで全て揃ってる。
「わたしは変えなくていい」
「ん、ならさっさと始めましょ」
『スタンドアップ・ヴァンガード!』
「大望の宝石騎士ティファニー」
ミクちゃんのデッキはロイヤルパラディン。それも宝石騎士デッキか。キラキラしたミクちゃんのぴったりだね。
「春待ちの乙女オズ」
わたしもファーストヴァンガードを表にする。
「わたしのターン、ドロー。必中の宝石騎士シェリーにライド、ティファニーはV裏に移動。ターンエンド」
ミクちゃんが慣れた手つきでパチパチと軽やかにカードを操る。けっこうファイト慣れしてるのかな。
【歌星ミク:ダメージ0/手札5】
【御堂ユキネ:ダメージ0/手札5】
「さ、ユ……御堂さんのターン」
「あはは、ユキネでいいよ?」
「……っ!いいからあんたのターンよっ」
赤くなるミクちゃん。もう、かわいいんだから。
「スタンド&ドロー。萌芽の乙女ディアンにライド。オズは後列へ」
「ふーん、バニラねぇ……」
「へ?バニラ?」
「ディアンみたいにスキルをもたないユニットのことよ。非公式だから覚える必要は無いわ」
あ、なんか東京の人っぽい。かっこいいなあ、東京のファイター。
「じゃあオズでブーストしてバニラのディアンでアタック!」
「だから覚えなくていいってば。ノーガード」
ドライブチェック。めくれたのは、メイデンオブディモルフォーゼ!
「やった、ゲット・クリティカルトリガー!効果は全てヴァンガードに」
幸先いいぞ、わたし。絶対勝って、ミクちゃんに入部してもらって、みんなで日本サーキットに出るんだ。
「はしゃいでるとこ悪いけど、ダメージトリガーゲット。ドロートリガーよ。パワーはヴァンガード、1枚ドロー」
ダメージに送られたのはトリガーのまぁるがる、そして宝石騎士そーどみー。
「へぇ、宝石騎士デッキなのにトリガーは宝石騎士にしないんだ?」
「……まあ、ドローはね」
名称デッキは名称で固めた方がいいよってあとで教えてあげようかな。そーどみーなんてカウンターブラストも宝石騎士じゃなきゃダメって書いてあるし。
【御堂ユキネ:ダメージ0/手札6】
【歌星ミク:ダメージ2/手札6】
「ドロー。ライド、スターライト・ヴァイオリニスト。スキル発動」
スターライト・ヴァイオリニスト、スキルはヴァイオリニスト以外のグレード2を呼び出す登場時スキル。コストとしてまぁるがるがカウンターブラストされ、シェリーがソウルブラストされる。
「スペリオルコール、宝石騎士そーどみー。スキル発動」
そーどみーは宝石騎士のダメージをカウンターブラストすることでグレード1以下の宝石騎士を呼び出す登場時スキルをもったユニットだ。
「スペリオルコール、必中の宝石騎士シェリー。さらに手札からブラスターブレード探索者をコール」
「そんな……手札をほとんど使わずにリアガードサークルが4つも埋まった……」
「普通よ、これくらい。ブラスターブレードからアタックする」
可愛らしかったミクちゃんが今ではギラついたオーラを放っている。
レベルが違いすぎる……。わたしがこんな子に勝てるんだろうか。
「ヴァイオリニストでヴァンガードをアタック」
「の、ノーガード」
「ドライブチェック。トリガーはないわ」
サンクチュアリガード・ドラゴンというグレード3のカードだ。けっこう古いカードだった気がする。
「ダメージチェック」
こちらは全くトリガーが出ない
「シェリーブースト、そーどみー16000でヴァンガードに」
冷酷な騎士団長と化したミクちゃんが、無慈悲に淡々とアタック宣言をしてくる。
最後のダメージチェックはメイデンオブ デイブレイク。この場面ではなんの意味もないスタンドトリガーだ。
「ミクちゃん……強い……」
【歌星ミク:ダメージ2(0)/手札6】
【御堂ユキネ:ダメージ3/手札6】
To be continued……