謎の声
日本サーキット予選が終わってから。みんなはどこか変わった。
シュンちゃんがヴァンガード部に入って、本戦出場が決定して、他に何が変わったのかうまく言葉にできない。
あの日以来、ユキネちゃんも今まで通りヴァンガードを楽しんでいるようだし。
「はぁ……」
ミクちゃんは部活に来ない日が増えた。というより、予選の日から1度も来ていない。
「天原先輩、悩み事ですか?ユキネが部の仕事しないから」
トウジくんにも心配かけちゃってるし、もっとしっかりしないと。
「何でもないわ。……たまにはわたしもファイトしようかな」
「本当?じゃあわたしとやろうよ、ミコ姉!」
「う、うん……」
ユキネちゃんとファイト、か。
何か違和感があるんだけど、断る理由もない。
シュンちゃんと席を代わり、ユキネちゃんと向かい合って座る。
「あ、そうそう。部長の仕事もしてるんだよミコ姉」
「あら、そうなの?わたしにも教えてユキネちゃん。どんなお仕事があったの?」
だいたいのことはわたしがやっていたはずだけど、何か抜けがあったかしら。
「ミクちゃんに合宿の招待が届いてね。それの手続き?とか」
なんで疑問形なのかしら。あとで確認しておいた方がいいわね。
「これこれ。えっとね、シンガポール交流戦代表合宿、だって」
「シンガポールと?」
ユキネちゃんが取り出した手紙を受け取る。
各国代表7人による交流戦のようだ。現行のVF甲子園と同じルールによる7人。たしか調べた時に、シンガポールの影響で7人制になったとあった気がする。
メンバーは……
先鋒
葛木カムイ(東京・後江高校2年)
次鋒
篠崎アリサ(東京・福原高校1年)
岸沼クロガネ(東京・福原高校2年)
中堅
天道ヒメカ(大阪・祭谷高校2年)
副将
先導エミ(東京・宮地学園高等部2年)
歌星ミク(新潟・梅乃台高校1年)
大将
鈴森レイカ(東京・福原高校2年)
「3年生いないんだねー」
「そうね、もう11月だし引退してる高校が多いのよ」
伊達北も、あれで引退したそうだ。直接聞いたわけではないけれど。
「それにしても、やっぱり東京の学校が強いのね。ミクちゃんも東京出身なわけだし」
女子も多いのね。交流戦だから、実力が近ければ男子よりもミクちゃんのようなかわいい子を出したいという思惑があったりするのかしら。
「じゃあしばらくミクちゃんは来ないのね」
「今週末その交流戦だって。テレビで見れるらしいよ」
それはたぶんシュンちゃんが調べたんだろうな。
「さ、そろそろファイトはじめよう」
「ああ、そうだったわね」
『スタンドアップ・ヴァンガード!』
「星輝兵ワールドライン・ドラゴン」
「春待ちの乙女オズ」
わたしの先攻でファイトが始まる。
ユキネちゃんのことばかり気にしてられないよね。わたしも強くならないと。
日本サーキット予選、ミクちゃんの唯一のタッグファイトは結果負けている。それなのにミクちゃんがタッグファイトで日本代表に選ばれてるということは____そういうことなのだから。
「Яクレイドルを捨ててワールドラインのスキル発動。5枚見て……星輝兵マグネットホロウを手札に。そしてライド、ルビジウム。これでターンエンド」
【天原ミコト:ダメージ0/手札5】
【御堂ユキネ:ダメージ0/手札5】
「スタンド&ドロー。うん、いい感じ。よく見える」
「よく見える?」
「ああ、なんでもないよミコ姉。早咲きの乙女ピアにライド。アタック!」
見える……?いったい何のことかしら。
〈お前も見たいか?〉
「えっ」
誰の声……?今のは、男性の声だったと思うけど、少し離れておしゃべりをしているトウジくんやシュンちゃんじゃない。
「ミコ姉?」
「あ、えっと、ノーガード」
「ドライブチェック。ウーントタナップ、ゲット・ドロートリガー」
「ダメージチェック……トリガーなし」
今の声は、いったい……。
【御堂ユキネ:ダメージ0/手札7】
【天原ミコト:ダメージ1/手札5】
「わたしのスタンド&ドロー……。ワールドラインのスキル。メイルストロームЯを捨てて5枚確認。……Яクレイドルを手札に」
〈強くなりたいのだろう?〉
まただ。
心に思うだけで、わたしの声が聞こえるの?
「マグネットホロウにライド。マグネットでヴァンガードをアタック!」
〈ああ、聞こえるとも。私はお前の中にいるのだから〉
「ノーガード」
「ドライブチェック、コロニーメイカー。トリガーなしだよ」
聞こえるなら楽だ。ユキネちゃんに怪しまれないようファイトは続けながら話ができる。
わたしの中にいる?
「ダメージチェック。マイリス、クリティカルトリガー。一応ヴァンガードにパワーを」
「マグネットホロウのスキル。カウンターブラストして、デッキからアシュレイЯを手札に。ターンエンド」
〈そうだ。私は言うなれば、お前のもう一つの可能性〉
【天原ミコト:ダメージ1(表0)/手札7】
【御堂ユキネ:ダメージ1/手札7】
「スタンド&ドロー。メイデン・オブ・フラワースクリーンにライド!メアドリーム、メアホープをコール」
わたしのもう一つの可能性?
〈そうだ。私を、可能性を受け入れろ。そうすればお前は強くなれる〉
「メアホープのブースト、メアドリームでアタック!」
「アポロネイルドラゴンでガード!」
〈強くなりたいのだろう?〉
あなたみたいに上から目線で得体のしれない男に心配されなくても、わたしは強くなる。
いつだってわたしは自分の力で生きてきたんだから。
「フラワースクリーンでアタック!」
「ノーガード」
「ディモルフォーゼ。ゲット・クリティカル!」
ダメージ2枚が入る。
なんだかユキネちゃんが強くなった気がする。
うまくは言えないけども。
「ダメージチェック。ジェイラーテイル、ゲット・ドロートリガー」
「ターンエンド」
【御堂ユキネ:ダメージ1/手札6】
【天原ミコト:ダメージ3(表2)/手札7】
「スタンド&ドロー。全てが欲しい、欲張りなわたしの罪の化身……勝利への渇望と共に現れ出よ!星輝兵Ωグレンディオス!」
〈いいユニットだな、それは。私も大好きだ〉
それはどうも。
そろそろ黙っていてくれるとありがたいのだけれど。
「アシュレイЯをコール。グレンディオスのスキル発動、メアドリームをロック」
わたしが強くなりたいのは事実。
でもわたしにはプライドがある。どんなことだって、わたしにできないことはない。
「コロニーメイカーをコール。スキル発動、パラダイムシフトドラゴンをデッキからスペリオルコール。パラダイムシフトドラゴンのスキル、デッキに戻すことで後列のリアガードをロックする。メアホープをロック」
前列のメアドリームがロックされているため、メアホープはブーストできない。けれども二つの理由があってわざわざロックした。
まず1つはユキネちゃんがライドするであろうアーシャのスキル。これによって分身するもとになるユニットを消しておきたかった。
そしてもう1つは、メアホープ自身のスキル。山札に戻ることでメアドリームをデッキからコールするスキル。
これを使ってロックカードの後ろから脱出し、逆側の前列にメアドリームとして現れる。これを阻止するため。
だいぶ慣れてきてここまで考えられるようになってきた。ミクちゃんがいれば、今のが良かったかどうか聞けるんだけど。
「さらにルインマジシャンをコールしてスキル。ドロップからメイルストロームЯを手札に。コロニーメイカーでアタック」
「ウーントタナップでガード!」
「グレンディオスでアタック」
「ノーガード!」
ドライブチェックを2枚。
謎の男性の声はやんだようだった。
「ルビジウム、そしてパラダイムシフトドラゴン。ゲット・クリティカルトリガー!クリティカルはグレンディオス、パワーはアシュレイЯ」
「ダメージチェック。フェアリーライト・ドラゴン、パワーをヴァンガード、2枚目、グラジオラス」
わたしが強ければ、ユキネちゃんはあんなことをしなくても済んだんだ。
だからわたしは、強くなる。
「ルインマジシャンのブースト、アシュレイЯでアタック。パワー27000」
「……ノーガード」
4点目のダメージがユキネちゃんに入る。
〈そうだ、強くなれば御堂ユキネを救うことができる。わたしを受け入れろ、そうすれば御堂ユキネのように強くなれる〉
また何か喋り始めたし。
……ユキネちゃんのように?
【天原ミコト:ダメージ3(表0)/手札7】
【御堂ユキネ:ダメージ4/手札5】
「スタンド&ドロー。ライド・ラナンキュラスの花乙女アーシャ!そしてジェネレーションゾーン解放!」
フラワーピストルがドロップに置かれる。
そして、問題はここからだ。
「この大地を枯らそうと、力を吹いあげ伸びゆけ。ただ美しく咲くために。ストライド・ジェネレーション!春色の花乙姫アルボレア!」
ストライドの口上が、変わった。
ユキネちゃんのはっきり分かる変化はそれだけだ。口上なんて、言っても言わなくてもいいものだし、変えるのだって自由だ。
だからこそユキネちゃんがおかしいと感じているのはわたしとトウジくんだけ。
「フラワースクリーンとピアをコール。フラワースクリーンでコロニーメイカーをアタック」
いろんな迷いを抱えて悩んでるわたしと違って、ユキネちゃんには迷いがない。様々な戦法をすぐに考え実戦してくる。
「ノーガード。コロニーメイカーは退却するわ」
「じゃあ、アルボレアでヴァンガードをアタック!」
口上が変わった。
前の口上はおばあちゃんが考えてくれたと言っていた。ユキネちゃんの大好きなおばあちゃんが。
それを変えた理由は……?
「ノーガード」
「ドライブチェック。パッションフラワー、パドミニ、マイリス。ゲット・クリティカルトリガー!クリティカルをアルボレア、パワーをピアに」
「ダメージチェック。Яクレイドル、そしてアポロネイルドラゴン。ゲット・クリティカルトリガー。パワーをヴァンガードに」
一気に追い詰められた。
たぶん強さはそこまで変わってない。ユキネちゃんは前から、ミクちゃんが来てしばらくしてから強かった。ただ、考える時間が極端に短くなった。
口上の変化といい、いったい何が。
〈わたしを受け入れろ。強くなれるぞ。お前が強くなれば御堂ユキネはこれ以上追い詰められることはない〉
「っ!!」
こいつか……!この男(?)が、似たようなことを言ってユキネちゃんを。
〈やはりお前は頭がいい。だれかさんがお前に嫉妬するのもわかる。1つ訂正するなら、選んだのは御堂ユキネだ〉
「アルボレアのスキル発動、フラワースクリーンの上にフラワースクリーンを上書きコール。パワー+2000。ピアでブーストしてフラワースクリーンのアタック!23000でヴァンガードをアタック!」
「パラダイムシフトドラゴンでガード」
誰だか知らないけど、わたしは騙されない。
「うーん、ターンエンド。メアドリームとメアホープをアンロック」
【御堂ユキネ:ダメージ4/手札5】
【天原ミコト:ダメージ5(表2)/手札6】
「わたしのスタンド&ドロー」
手札を確認し、戦略を考える。
順番は、こうか……
〈騙されないのは結構。自分の力で強くなる、結構。しかしわたしを受け入れなければ、御堂ユキネに起こっていること、その手がかりは得られない〉
何を言って……。
ミクちゃんなら、ミクちゃんが帰ってきたら何か知っているはず。
〈知っているはず、か。知らないかもしれない。それに、帰ってくるのか?やつは〉
えっ?何を言っているの?
〈歌星ミクはヴァンガードから離れるために、このような僻地に来たのではないのかということだ。ヴァンガードを続けると決め、レベルが高く旧知のファイター達と再会したならば……なぜこの地に帰ってくる?〉
……っ!
帰って、こないかもしれない。直接勧誘したユキネちゃんは、ミクちゃんのことをすごく信頼していたけれど、わたしはそこまであの子のことをよく知らない。
シュンちゃんが入部したことで、1人抜けても日本サーキットの定員4人には届く。抜けやすい環境が整った。
いや、まさか……
〈まあ、私はどちらでも構わんがな。お前よりも、楽に交渉できるファイターはいくらでもいる〉
……わたしの中にいるんじゃなかったかしら。
〈それは私の一部だ。ヴォイドの欠片は、ほぼ全てのファイターの中にある〉
ヴォイド、それがあなたの名前ね。
それだけ分かれば、あとは自分で調べるわ。消えなさい。
〈おっと、これは失言だったかな。くくく……〉
少しずつ、声が遠ざかっていく。
「ミコ姉、まだー?」
「ああ、ごめんなさいね。どうやったら勝てるのか考えてて。すぐやるわ」
ヴォイドにどうやったら勝てるのかを、ね。
「強欲にして傲慢たる我が魂よ、その力をもって大罪を押し通せ!ストライド・ジェネレーション!」
ビーナストラップЯをドロップゾーンへ送る。ユキネちゃんの、ネオネクタール……。絶対助けるから。
「滅星輝兵∞グレンディオス!Яクレイドル、そしてメイルストロームЯをコール。ここで、ルインマジシャンをコール。スキル発動、Яユニットの種類だけドロップのЯユニットを手札に加える。ЯクレイドルとビーナストラップЯを手札に」
表のダメージは1枚、∞グレンディオスのスキルのCBには足りない。だけど____
「アシュレイЯ後ろのルインマジシャンには退却してもらいましょうか。ビーナストラップЯをコール。そしてもう1体のルインマジシャンも。プラセオジムを上書きコール。プラセオジムのスキル発動、Яユニットの種類だけカウンターチャージ」
アシュレイ、ビーナストラップ、メイルストローム、クレイドルと4種類のЯユニットが存在するためダメージを全て表にする。
「そしてプラセオジムの上に、クレイドルを上書きコール。∞グレンディオスのスキル発動!」
カウンターブラスト2、そしてGゾーンの∞グレンディオスを表にする。
「場のЯユニットの数だけ、ユキネちゃんはリアガードサークルを選び、デッキの一番上をロック状態でそのサークルに置く。わたしのЯユニットは5体。5つ全てのサークルにЯユニットを置いてもらう」
「上書きされた5体は退却……、5枚置いたよ」
「さらにわたしのダメージが5枚以上の時、全てのロックをΩロックにする。わたしはこれでターンエンド」
「えっ?ターンエンド!?」
「うん、ターンエンド」
【天原ミコト:ダメージ5(表3)/手札2】
【御堂ユキネ:ダメージ4/手札5】
「全部がΩロックだからって、さすがに油断しすぎだよ!ジェネレーションゾーン解放!」
ああ、またあの口上が来る。
ユキネちゃんらしくない、あの口上。
「この大地を枯らそうと、力を吹いあげ伸びゆけ。ただ美しく咲くために。ストライド・ジェネレーション!聖樹竜マルチビタミン・ドラゴン!」
あなたの強さは、そうじゃないはず。
「マルチビタミンでヴァンガードをアタック!パワー26000」
「ルビジウムでガード。スキル発動、アタック先をリアガードのビーナストラップЯに変更するわ」
「そんな……わたしは、もっと強くないといけないのに」
トリプルドライブが行われる。もう見る必要もない。
「……ターンエンド」
「わたしのターンね。スタンド&ドロー。アタックしなかったのは別に油断じゃないわ」
ドローしたテルルを眺めて、少しだけ笑顔になれる。
「……どういうこと?」
「ヒールトリガーが出ちゃったら困るじゃない?グレンディオスのアルティメットブレイク発動!メインフェイズ開始時に相手のロックカードが5枚以上ある時、わたしはファイトに特殊勝利する。終わりよ」
大丈夫。わたしはこのままで強くなれる。
きっと、ユキネちゃんを助けられるくらいにまで。
「うわ……やっぱりミコ姉はすごいや。わたしももっと強くならないとね」
「そう、もっと強く……」
To be continued……