雪国の先導者達   作:黄雀

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卒論を書かなきゃいけないのに気がつくと雪ヴァン書いてます


新潟リバース戦線

 ミコねえに手を惹かれて初雪の集落を歩く。

 普段なら雪は大好きだ。雪が綺麗だというドラマやアニメの感覚はとうの昔になくなって、雪だるまだってもう作り飽きたけど、文句を言いながらみんなで家の雪掘りをするのは大好き。

 うちはおばあちゃんとわたししかいないから人手が足りなくて……まあ、若者が1人いるだけでも梅乃台ではマシな部類に入るんだけど、毎年トウジが手伝ってくれていた。

 トウジ……。

「リバースされたファイターは他のリバースされていないファイターにファイトを仕掛け、倒した相手をリバースさせる。リバースを解除するにはファイトで倒す____か。都市伝説じゃなかったんだね」

 ミコねえはさっきからスマホでリバースについて調べてくれている。

「問題はさっき集まってたのがユキネちゃんの家ってことだよね。ユキネちゃん、うちに泊まる?」

 リバースファイターはリバースされていないファイターに勝負を仕掛ける____か。

 シュンヤくんの顔に現れた赤い模様。

 きっと前にタイガちゃんがわたしの顔に一瞬見えたって言ってたやつと一緒だ。わたしが手を出したあの力はきっと、リバース。

「ううん、帰るよ。わたしはきっと、大丈夫だから」

「何言ってるの!?大丈夫じゃないよ、さっきのシュンちゃん見たでしょ。ユキネちゃんまさか戦ってリバース解除するつもりじゃないよね?」

 それも狙えるなら狙いたい。

 けど、わたしはたぶんファイトしてもらえない。だって既にリバースしてるから。

 シュンヤくんは完全なリバースって言ってた。きっとわたしのは不完全なんだ。完全にリバースしたら……ミコねえをリバースさせるかもしれない。

「ファイトはしないよ、大丈夫。大丈夫だから」

 言い聞かせるように呟く。

 この後に及んでわたしは、ミクちゃんの帰りを待ってるんだ。ミクちゃんがみんな倒してなんとかしてくれるだろうって。部長はわたしなのに。ミクちゃんの先導者になるって偉そうなこと言った癖に……。

「ユキネちゃん……」

 自然と涙が溢れる。どうしたらいいんだろう。

 梅乃台にもうファイターはいない。一番近い伊達北の人達は、わたしのことなんか絶対に助けてくれない。

 

 ふいに、携帯が鳴った。

 

 雪で響かないその音の元を、力なくポケットから取り出す。着信。

 ____ミクちゃんから。

「もしもしミクちゃん!?お願いだから早く帰ってきて!」

 通話ボタンを押すが早いがわたしは叫んだ。情けなさでさらに涙が溢れる。

 〈うわっ、ちょっと何、どうしたの?〉

「トウジとシュンヤくんがリバースしちゃって!そのっ!リバースっていうのは、あの……」

 〈落ち着きなさい、リバースなら分かるから説明しなくていい。桐澤くんと比嘉くんだけ?それで全部?〉

 ミクちゃんのいつもの、冷静な声がほんの少しだけわたしを安心させてくれる。

 〈明日の朝一の上越新幹線で帰るから、それまで誰ともファイトしちゃダメよ。ミコトさんにもそう伝えなさい〉

「うん、うん。誰ともファイトしちゃダメだって、ミコねえ」

 〈リバースの症状には個人差がある。4年前のリバース事件の時、ファイトを始めるまで普通のファイターと区別のつかない奴もいた。だから大丈夫そうな人とのファイトもダメ〉

「わかった。早く帰ってきて……」

 スマホを持つ手に力が入る。

 〈大丈夫よ。新潟のファイターなんて全員リバースしたってわたしとナツキで倒すから〉

「うん……」

 電話が切れる。

 ナツキさん、か。ミクちゃんに信用されているのはわたしじゃなくて、ナツキさんなんだね。日本サーキット予選で実力の差は痛いほど見せつけられた。

「ユキネちゃん……」

「家、戻るよ。わたしは大丈夫。むしろミコねえこそ気をつけて」

 ミコねえが何か言う時間を与えず、来た道を引き返しはじめる。

「積もり始める前に、ミコねえも帰った方がいいよ」

 その日、帰ったわたしを待っていたのはかんじきを編みなおすおばあちゃんだけで、トウジもシュンヤくんもその姿はなかった。

 いや、その日・わたしの家だけではなかった。

 

 

 

 次の日の朝、月曜日の教室にトウジとシュンヤくんの姿はなかった。ミクちゃんもまだ帰ってきていない。

 1年生はわたし1人だ。

「……どこに行ったの」

 周りががらんとした自分の席に荷物を置く。

 ミコねえは来てるんだろうか。そんなことをぼんやり考えながら、2年生の教室へと足を伸ばした。

 限界集落の学校なんてほとんどみんな顔見知りだけど、一応先輩の教室。入らずに外から様子を見ると、ミコねえは既に来ていた。

 真剣な表情で誰かと電話をしている。

 電話が終わるのを待って外から声をかけた。

「ミコねえ」

 その声に反応し、教室の外まで急ぎ足で出てきてくれる。

「おはよう、ユキネちゃん」

「おはよう……。ねえ、トウジとシュンヤくんが来てないの」

 ミコねえは沈鬱な表情でしばらく黙り込んだのち、意を決したように口を開いた。

「トウジくんとシュンちゃん、伊達北高校にいるって。朝練中のヴァンガード部員の何人かがリバースされたみたい」

「…………」

 トウジ……。

「ユキネちゃんは学校に残って。わたしは、シュンちゃんのリバースを解きにいく」

「わたしも……」

 行く?行ってなにができるんだろう。

 わたしが倒してもリバースって解除できるのかな。既にリバースの力に手を出してるわたしが。

「わたしも行く」

 悩んでてもしかたない。行って確かめよう。

 デッキは上着のポケットに入ってる。荷物は置いたまますぐに行ける。

「……わかった、いこうユキネちゃん」

 

 

 

 新潟ローカルほくほく線で一駅。電車の本数が少ないため意外に時間がかかってしまった。

 十日町の伊達北高校、実際に来るのは初めてだ。

「もう1時間目、はじまってる時間だね」

 そのせいか学校全体は静かだ。

 誰の姿も見当たらない。

 

「あれ?あんた達何してんの?」

 

 背後から声を掛けられる。

 振り返るとその姿には見覚えがあった。

「タイガちゃん……」

「トウジくんとシュンヤくんしか聞いてないよ、リバースしてるって。あんた達もリバースしたわけ?」

 おおよそ何が起こっているか理解した上で彼女もここにいるらしい。

「わたし達は、トウジとシュンヤくんを連れ戻しに」

「ふーん、あんた弱いんだから大人しくしててよね。リバースファイターを倒すのはタイガとパイセン。いい?」

 返す言葉もない。

 タイガちゃんとナツキさんの実力はよく知っている。

「それにあんた、まるっきりリバースしてないって訳でもないんでしょ?この前ファイトした時、例の模様があったし。大人しくしてなさい」

 小声でまくし立てるタイガちゃん。やっぱりわたしも……。

「……心配してくれてるの?」

「はあ?なんでタイガがあんたなんか。ま、でも、あんたがどんな奴かはリバース解けてからまた判断する。実力は大したことないけどね、べーっだ」

「タイガちゃん……」

「ほら、こんなとこで油売ってないで行くよ。ユキネ、ミコトちゃん」

 あ、わたし呼び捨てなんだ……。

 

 

 

 タイガちゃんに案内されるままに伊達北ヴァンガード部の部室があるという場所を目指して進んでいく。

 話を聞いていくとどうやらタイガちゃんはナツキさんに呼び出されてここに来たらしい。リバースファイターが増えすぎて手に負えないから手伝ってほしいって。

「リバース、広がってるんだね。レギュラーだった3年生が引退して朝練に出てないからかな」

 ミコねえが冷静に分析する。

「あー、なるほどね。圧倒的な強さがないとリバースは広まる一方……らしいし。タイガも噂でしか聞いたことないけどさ、リバースなんて。パイセンじゃなかったら信じなかったよ、こんな話____」

 

 

『スタンドアップ・ヴァンガード!』

 

 

 どこかでファイトが始まった声がする。

「あっちから!」

 ミコねえがしっかり聞いていた。

 走り出す背中をタイガちゃんと一緒に追いかける。

 

 

「新鋭の騎士ダヴィド!」

「情火の解放者グウィード!」

 

 走りついた先に広がっていたのは何もかもが異様な光景だった。

 赤黒いオーラがファイターを閉じ込めるように渦巻き、ユニットは何のシステムもなしに視覚化されている。そしてその中で戦っているのは、ハルミさんとナツキさんだ。

 

「あ、タイガ、来たのね。……と呼んでないのも来てるけど」

 ナツキさんがこちらに気がつく。

 この様子からして、リバースしてるのはハルミさんか。

「はい、とりあえずモブども倒してきましょうかパイセン」

「カロンにライド、ダヴィドを移動。おねがい!……ってあんたうちの部員をモブ扱いすんじゃないわよ!」

 ファイトしながらもこちらを気にかける余裕があるみたいだ。

「グウィードのブースト!ヨセフスでアタック!」

「ノーガード!」

 恐る恐る見ると、ハルミさんの目の下にも赤い模様が出ている。ハルミさんほどのファイターでも、リバースされちゃうんだ。

 それでも、わたしは……トウジたちを探さなきゃ。

「わたしは!わたしはこの力で強くなる!もうなっちゃんの足は引っ張りたくない!だから奪わないでよ、この力。ドライブチェック、ゲット・クリティカルトリガー!」

「はぁ!?ハルさん、あんた何言って……ダメージチェック。ヒールトリガー・ゲット!ダメージ回復」

 ナツキさんの足を引っ張りたくない?

 ハルミさんほどのファイターが足を引っ張るなんてそんなこと、あるわけないのに。

「だって……!だってなっちゃん、プロになりたがってたじゃない!そのためにプロチームにアピールしなきゃ行けないのに……日本サーキットには出れない。そのせいでシンガポールとの交流戦代表にも選ばれないで……。わたしが日本サーキット予選、5位決定戦でしっかりしてさえいればなっちゃんは____」

「違うわよ!日本サーキットにいけないのはチーム全体の実力の問題、あんた1人のせいじゃない。交流戦代表なんかもっと関係ないわ、あんなの本当に実力があれば日本サーキットなんか関係なく代表に選ばれるのよ」

 ハルミさんは、リバースしても部員のことを考えているんだ……。もう引退して部長でもなくて、ヴァンガード部も今年度で終わりで、それでも……。

「なっちゃんの実力なら選ばれてたはずだよ。それを日本サーキットが足を引っ張った。絶対そう!」

「こんの分からずや!マックアートにライド!ブラスターダーク撃退者abyssをコール!冥府に落ちよ、グウィード!」

 Abyssのスキルでハルミさんのファーストヴァンガードが退却する。

「マックアート!頑固部長を殴り飛ばしなさい!」

「頑固なのはなっちゃんの方だよ!アルヴィラでガード!」

 ヒートアップする口論と、冷静で洗練されたファイトがぶつかり合う。

 その迫力にわたしもタイガちゃんもすっかり引き付けられ、動けないでいた。

「ウーンテッド・エンジェル。クリティカルトリガー・ゲット!全部ブラスターダークへ。そしてダヴィドのブーストをつけてブラスターダーク、アタック!」

「ぐっ……ノーガード」

 影となってヨセフスとすれ違うダーク。その一瞬で2つの傷がヨセフスの鎧へと刻まれた。

「ダメージチェック……ゲット・クリティカルトリガー」

 2枚のダメージが置かれる。実力者同士、これからどうなるか予想もつかない。

「ターンエンドよ、ハルさん」

「……なっちゃんは」

 呻くような声。

「あたしは?」

「なっちゃんは絶対にプロにならなきゃいけないんでしょ……。ならなきゃいけない理由があるでしょ、だから!」

 プロにならなきゃいけない理由……?

 

 To be continued……

 

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