雪ヴァンも書かなきゃいけないんですが、卒論も書かなくてはいけないんです。許してください
ハルさんがリバースされた状態であたしの目の前に現れた。
リバースの話は聞いていた。ファイターを嗅ぎ分け、勝負をしかける。でも、3年生で引退したハルさんがこんなに早くリバースされているということは、自分から来たはずだ。部員を助けに。
だからリバースされたハルさんがいたことは、誇りだった。
【北岡ハルミ:ダメージ2/手札5】
【浅倉ナツキ:ダメージ1(表0)/手札5】
「あたしのターン、解放者ローフルトランペッターにライド!誓いの解放者アグロヴァル!」
デッキは変わっていない。
プレイングもそう大きな変化はない。
「アグロヴァルのスキル、カウンターブラスト。デッキからブルーノをコール」
五月雨の解放者ブルーノ。ターン中デッキから解放者がコールされるとパワー+3000されるユニット。
青き炎デッキでのこのユニットの運用は大き2つ。ガード制限効果のあるグレアの後列に起き、1ターンに何体もスペリオルコールして大火力を出す。または、1ターンに1回のスペリオルコールを確実に行い10000ブースターとしてグレード3や定めのアグロヴァルをブースト、21000ラインを恒常的に作る。
ハルさんのデッキは後者だ。
「ヴァンガードのローフルでアタック!」
「ノーガード」
「ドライブチェック、プロミネンスグレア」
ノートリガーか。
「ダメージチェック、ブランウェン。トリガーなしよ」
「アグロヴァルのアタック!」
「厳格なる撃退者でガード」
問題ない。勝てばそれでいいんだ。
「なっちゃんにもこの力、使ってほしい。それで、ミクちゃんも倒して、プロになろう?なっちゃんにこの力が加わればプロになれるはずだよ」
【北岡ハルミ:ダメージ2(表1)/手札5】
【浅倉ナツキ:ダメージ2(表1)/手札4】
「うるっさいわね。そんな力いらないのよ」
答えながらスタンド&ドローをする。
「プロになんかなれなくたって、あたしは伊達北ヴァンガード部で楽しかった。それで充分でしょ?」
ブラスターダークDiabloにライド。
……このまま行こう。
「ブラスターダークDiabloでヴァンガードをアタック!」
「霊薬の解放者でガード。ダメだよ!だって、なっちゃんのおうち、大変なんでしょ?」
2枚貫通……
「家のことは関係ないでしょ!?ツインドライブ!ファーストチェック、クリティカルトリガー・ゲット!全部ヴァンガードに!」
あたしはただヴァンガードが好きで、伊達北が好きで、それでヴァンガードをやってるだけ。
「セカンドチェック……カルマコレクター。トリガーなし。abyssでヴァンガードをアタック!」
「ノーガード、ダメージチェック。プリデリー、トリガーなし」
「プロになってお金を稼いで、家を助けるんじゃないの?ねえ、本当はそういうことなんでしょなっちゃん!」
「うるさい!あんたのターンよ、早くしなさい」
【浅倉ナツキ:ダメージ2(表1)/手札6】
【北岡ハルミ:ダメージ3(表2)/手札4】
「スタンド&ドロー……ライド、青き炎の解放者プロミネンス・グレア。今ので分かったよ、やっぱりなっちゃんの家、離婚してそれで____」
「うるさいって言ってるでしょ!だいたいそうだとしたら何なわけ?あたしはあたしの力でプロになる!訳のわからない力なんかいらないのよ。そんなのプライドが許さない」
そう、それで仮にコスモウィングに勝てなかったとしても、鈴森レイカや天道ヒメカに及ばなくてプロになれなかったとしても……構わない。
「パイセン、落ち着いて」
タイガが心配そうにこちらを見ている。
なんつー顔してんのよ、ホント。
「落ち着いてるわよ!黙ってみてなさい」
「落ち着いてるもんか!じゃあ何今の貫通狙いは、意味不明もいいとこだよ!タイガの尊敬するパイセンはそんなファイターじゃない」
「……っ」
そうだ。普通じゃなかった。
ああいうドラマティックな展開狙いはサイクオリア達だけで十分。あたしの信じる強さはそんなんじゃない。経験と確率論に裏打ちされた、堅実で面白みも盛り上がりもなくただ勝つファイト。それがアビスウィングのファイトだ。
「……そうね、ファイトに集中する」
あたしがリバースするわけにはいかない。歌星ミクがいない今、この騒動を収束できるのはあたししかいないんだ。
「ジェネレーションゾーン解放!穢れても荒んでも、黄金に輝く無敵の力を今こそ我に!ストライド・ジェネレーション!疾駆の黄金騎士カンベル!」
まずは超越から来たか。やっぱりリバースしても基礎的なところは変わらないってことね。
「このままカンベルでアタック!」
「ノーガード」
「トリプルドライブ。猛撃の解放者、ゲット・クリティカルトリガー!ヴァンガードにクリティカル、パワーをアグロヴァルへ。……もう1枚クリティカルトリガー!クリティカルをヴァンガード、パワーをアグロヴァルに」
「くっ……」
クリティカル12枚構築の強みがここで出てきた。相手のデッキを知っていても、今のは通すところだったとはいえこれは痛い。
「ダメージチェック。ドロートリガー・ゲット!パワーをヴァンガードに」
かく言うあたしだってクリティカルは10枚。標準的なデッキよりは多い。返しのダブクリだってありうる。
「カンベルのスキル、山札からヨセフスをコール。ヨセフスのスキルでソウルブラストして1枚ドロー。アグロヴァルでヴァンガードにアタック!」
「エアレイドドラゴンでガード、abyssのインターセプト」
「ターンエンド……。どうしてもなっちゃんは譲らないんだね」
当たり前でしょ。
【北岡ハルミ:ダメージ3(表2)/手札8】
【浅倉ナツキ:ダメージ5(表4)/手札6】
「あたしのスタンド&ドロー!ジェネレーションゾーン解放!闇より出でし我が力よ、屍の山を踏み崩し進め!ストライドジェネレーション!覇道黒竜オーラガイザー・ダムド!」
ハルさんを取り戻す。
それ以上に、あたしがリバースするわけにはいかない。
「ダークハートトランペッターをコール、スキルでカロンをスペリオルコール。ダムドのスキル、ダークハートとダヴィドを退却させ、デッキの上2枚を公開する」
マスカレードと、マーハか。
「これを手札に加え、ブルーノを退却させる。そしてマーハをコール」
あたしは自分の力だけでプロになれる。それを今から見せる。
「オーラガイザーダムドでヴァンガードをアタック!」
「ノーガード」
さあ、これがあたしのファイトよ
「トリプルドライブチェック!……クリティカルトリガー・ゲット!クリティカルをダムド、パワーをマーハに」
「ダメージチェック……霊薬の解放者、パワーだけヴァンガードに」
出たか。ということはマーハで10000要求……インターセプトされたらそれはそれで。
「マーハでヴァンガードをアタック。スキルでダークハートトランペッター、カロンをスペリオルコール」
「ふぅ……なるほど、やっぱりなっちゃんはこわい。バルブトルックでガード!」
「カロンのブースト、ダークハートでアグロヴァルに」
「それは通す」
アグロヴァルが打ち砕かれる。
大丈夫、あたしのファイトに破綻はない。
【浅倉ナツキ:ダメージ5(表2)/手札9】
【北岡ハルミ:ダメージ5(表4)/手札7】
「あたしのターン、スタンド&ドロー。ローフルトランペッターをコールして、シークメイト・レギオン」
クリティカル3のヒール1、計トリガー4枚が山札へと帰っていく。カルマコレクターが手札にあると分かってレギオンで来た。
「並びたて我が分身、定めの解放者アグロヴァル!ローフルのスキル発動!デッキからブルーノをスペリオルコール!猛撃の解放者をコール、グレアのスキルで退却、デッキから定めのアグロヴァルをスペリオルコール!」
「ガン回ってるわね……でもそのデッキ、クリティカル12タイプのグレアは点を詰めてからのフィニッシュ力が低い」
「そうだね、組む時もなっちゃんはそうやってアドバイスをくれた。アグロヴァルのスキルでデッキからパーシヴァルを回収。これを捨ててグレアにスキルを与えるよ。最後にヨセフスをコール」
盤面が埋まった……Diabloへの備えとしては充分ね。
「ねえ、なっちゃん……」
「何よ」
「今なら分かるよ、ユキネちゃんはやっぱり悪い子じゃなかった。ミクちゃんには、リバースしたって叶わない」
突然何を言って……
「この力をどうしても拒否するなら、伊達北がなくなった来年は梅乃台に行くんだよ。それで今度こそ全国に行って、必ずプロにならなきゃダメ」
「何言って……あたしも部のみんなと一緒に併合先の伊達南に____」
「アグロヴァルでヴァンガードをアタック!21000!」
あたしの言葉を遮るように、いつも大きい声を何倍にも張り上げる。
「っ!?ウーンテッドエンジェルでガード、マーハでインターセプト」
「っ!?パイセンしっかり!!」
タイガの怒鳴り声がする。
そうだ、何やってるんだあたし……またファイトに集中できてない。
「……今のも何かまずかったの?」
ユキネが不安げにタイガをのぞき込む。
「切るならインターセプトじゃなくて、さっきダムドで手札に入ったマーハだったってこと。もしかしたらウーンデッドも間違いだったかもしれない」
そういうことね。
タイガ視点でも、次のグレアを止めるのに必要なグレード0のカードはあたしの手札に最大3枚。
向こうはこちらの手札に完全ガードがあることを知っている。あたしのダメージは5、グレアは27kラインで圧縮率も上がっている。2枚貫通ガードならぶち抜きを狙う場面、ガード値30000を用意すべきだ。
「グレアでヴァンガードをアタック!27000クリティカル2、グレード1以上を手札からガードに出せない」
そして、わたしの手札にグレード0は2枚。合計20000。
「エアレイドドラゴン、暗黒医術の撃退者でガード」
1枚貫通……。最悪のプレイングミス。
「ツインドライブ!ファーストチェック、誓いの解放者アグロヴァル」
……トリガーなし。
全員が息を呑むのが分かる。もうあとは祈るしかない。
「セカンドチェック……バルブトルック!ゲット・クリティカルトリガー!」
あたしは静かに目を閉じた。
「……タイガ、梅乃台の2人。あたしの相手はしちゃダメよ」
赤黒い波動があたしの意識を混沌へと引きずり込む。
その刹那、愛しい宿敵の声が聞こえた気がした。
「そんな……ナツキパイセンが……」
放心状態のタイガに声をかけたのは、今まさに駆けつけた人物であった。
「しっかりしなさい中坊、逃げるわよ。ナツキリバースの相手はさすがにぶっつけではできない」
「ミクちゃん!?」
ユキネとミコトが驚きの声を上げる。
「遅くなったわね。さ、反撃するわよ」
前向きな言葉とは裏腹に、ミクの表情は曇っていた。
To be continued……