ミクちゃん、タイガちゃんとのタッグファイトを経てもわたしの中のヴォイドは抜けることはなかった。わたし自身が完全なリバースまで到達していないからなんだと思う。
ミクちゃんと2人、伊達北の校内を駆け回る。完全なリバースではないけれど、わたしがリバースファイターに狙われることはないようだった。
「ねえ、ミクちゃん」
「ん?何よ」
「別々に行動しない?わたし、どうせ狙われないからけっこう自由に動き回れるし……」
ミクちゃんはこれまで何度かリバースファイターに挑まれている。その全てにあっさり勝っているとはいえ、ハルミさんを探すことを考えたらタイムロスだ。
「……ファイトは受けちゃダメよ?」
「わかってるって」
ミクちゃんも2人でいるのが非効率だとは感じていたのだろう。あっさり承諾してくれた。
「じゃ、また後でね」
「ん」
ミクちゃんと別れ、走り出す。
とりあえず正門に戻ってみよう。外に出られたら田舎とはいえもう探せない。
正門前には、既に2人の先客がいた。
「いけぇーっ!ドラゴニックカイザー・クリムゾン、曇し黄金の鎧を叩き割れ!で前列すべてのユニットにレギオンアタック!」
「ヴァンガードだけ完全ガード……」
ハルミさんと……あれは?
「ツインドライブ!ゲット・クリティカルトリガー!効果は全てリセイに!クリムゾンのスキルで後列のヨセフスとブルーノを退却!」
「いやだよアキナリ……あたし、あたしこの力を失いたくない!間違った力だとしても弱いファイターに戻りたくない!」
アキナリ……さん?
雰囲気が違いすぎて、あのアキナリさんには全く見えない。
「うるさい!俺はハルちゃんのためにファイトをしてるんじゃないんだ!俺がもとのハルちゃんの方が好きだから力づくで元に戻すためにやってるんだ!そんなに失いたくなきゃ、俺をたおせばいい!リセイのパワー+12000!リセイでヴァンガードをアタック!」
「アルヴィラとバルブトルックでガード」
状況は一言でいえば、アキナリさんがあのハルミさんを圧倒していた。今までわたしの見てきたファイトは本気じゃなかったかのように、見違えるほどの強さを彼は見せていた。
「エッグヘルムのブースト、チャトゥラでヴァンガードをアタック!」
「……ノーガード」
ダメージ5枚目。対するアキナリさんはまだダメージ3。クリティカルの増加するプロミネンスグレアがあるから3でも安全圏ではないけれど、リアガードの数、手札の枚数、どれをとってもアキナリさんの有利は間違いなかった。
「バルブトルックをバインド。1枚ドロー。ターンエンド」
「この……スタンド&ドロー!ジェネレーションゾーン解放!」
ハルミさんの反撃がはじまる。
でももうこのファイトは、終わっているのだ。
「あたしは……あたしさえ強ければ伊達北は最後に日本サーキットに行けたんだ!なっちゃんや、アキナリみたいに強ければ」
日本サーキット……か。
わたしのせい、とずっと思っていたけれどそれはきっと伊達北の皆さんに失礼なんだろうな。
5位決定戦を彼らは戦って敗れたのだから。
「ユキネ!」
そんな思いに浸りながら、2人のファイトを少し遠巻きに眺めているとわたしを呼ぶ声があった。
「トウジ……?」
見る感じ、リバースの解けた普通のトウジに見える。
「戦ってるのは、アキナリさんか」
「あ、うん。それよりトウジ、その……リバースは」
「え?ああ記憶ねえんだけど、なんとなくアキナリさんが助けてくれた気がする」
よくは分からないけれど、とにかく解けたならよかったんだよね。
「それにしても、トウジ。ずいぶんアキナリさんと縁があるんだね?」
まだ1日も経ってないのに、すごく久しぶりにトウジと軽口をきいた気がする。
「なんだか似てるのかもな……」
「え?」
「カンベルでヴァンガードをアタック!」
「完全ガード。ねえ、ハルちゃん。俺達の高校ヴァンガード生活はもう終わったんだ。強くなきゃいけない部長って立場も、もう終わった。だから、これからはただ楽しくヴァンガードをやろう」
「でも……」
「いいじゃないか。しばらく大会とかから離れてさ、後輩達の応援して過ごせば。ジェネレーションゾーン解放……」
そっか……わたしも、ミクちゃんが来てから全国に行くとか、大会で勝ち進むとかばっかり考えてたな。トウジとミコねえと3人だけの時は、トリガー1枚で一喜一憂して……。
勝利を目指して、本気でヴァンガードに熱くなるのもいいけれど、気楽に楽しむヴァンガードもいいものだったよね。それを忘れてたからリバースなんてものに手を出したんだ、わたし。
「雷竜騎士ゾラスよ、曇し黄金に今、輝きを吹き込む一閃を!ヴァンガードにアタック!」
「………………」
ガードの宣言も、ノーガードの表明もないしばしの沈黙。
「ハルちゃん?」
「はぁ……分かった分かった。どのみちなっちゃんにもアキナリにも勝てなかったしね、こんなちっぽけな力いらないや。ノーガード」
稲妻の槍が青き炎を呑み込んでいった。
ほどなくして皆と合流すると、伊達北のファイターも全員リバースが解かれたようだった。ミクちゃんとナツキさん、それからフユキさんも人知れず黙々と戦っていたようだった。
アキナリさんは倒したリバースファイターからデッキを没収し、再リバースを防いでいたようで(どうして他に誰も思いつかなかったんだろう)、みんなにデッキを返してまわっていた。
緊急時だったから忘れていたけれど、わたし達梅乃台の5人とタイガちゃんは他校に侵入してしまっていたわけで、バレる前に早く帰るように言われた。
……学校サボったこと、すっかり忘れていて、みんな梅乃台高校に戻るなり、普段の行いに応じて格差のある怒られ方をした。もちろんわたしは1番怒られた。
日本サーキットを間近に控えての、十日町での小規模なリバース事件はこうして収束を迎えたのだった。
日本サーキットの前に、もう一つだけ事件があったんだけど、それはあまりに平和な事件だった。
リバース事件が去って、2週間くらいのことだったろうか。朝、教室に行くとミクちゃんが何やら神妙な顔をしていた。
トウジとシュンヤくん、ミコねえもいる。
「えっと、みんなおはよう……え、何この空気?」
今度は何事かと、身構える。
「いや、あの……あのね、ユキネ」
神妙な表情を崩さず、ミクちゃんがぽつぽつと語り出す。
「その……雪掻きってどうやるの?」
「………………へ?」
「雪掻きよ!雪掻き!」
「え、なんで逆ギレしてんの!?」
雪掘りなんてどうやるも何も、ねえ。
戸惑っているとトウジが補足説明してくれる。
「歌星んとこのおじさん、一昨日から用事でいないんだって。それで、だから一昨日から雪掘りしてないらしくてさ」
「えぇ!?昨日、一昨日とけっこう降ったよね?」
「……そろそろ家から出られなくなる」
「なんでそんなになるまで放っておいたの!?」
怪我や病気以外でこのセリフを使うことがあるとは思わなかった。
「それでね、今日のヴァンガード部の活動はミクちゃんの家の雪掘りにしようと思うんだけど、いい?ユキネちゃん」
ミコねえの提案を断る理由もない。冗談抜きにあと1日したら家が潰れる。
ミコねえの家みたいにボイラーで屋根を温めて雪を溶かすタイプの家もあるけど、ガス代がバカにならないからある程度裕福な家にしかボイラーはない。
「……頼むわ。ねえ、ところで雪掘りって?」
「ああ、一般的には雪掻きって言うんだったね。この辺では雪掘りっていうんだ。雪に埋まった家を掘り出すってイメージの方が近いくらい降るからね」
「歌星の場合、本当に掘り出さなきゃいけなさそうだし」
シュンヤくんのせっかくの説明に余計なことを付け加えるトウジ。本当にこいつは一言多いんだから。
「なんかもう……あんたらに任せるわ」
「いや自分でもちゃんとやろうね!?」
「____で、そこの後ろのとこにフックをかける。うん、完璧♪サイズはどう?」
「基準がわからない」
「あはは、そうだよね」
ミクちゃんには江戸時代の道具だと思ってたなんて言われちゃったけど、かんじきは雪国だと今でも使われている。
「ほい、トウジくんとシュンヤくんは軒下の雪どかして」
「はい、分かりました」
「マジかよ……」
軒下の雪と屋根の雪が繋がっちゃうと……なんかとにかくまずいから大事な作業だ。1番地味で重労働なんだけどね。
「で、あそこのおばあちゃんは?」
「わたしのおばあちゃんだけど」
「……なんで来たの?」
「現場監督兼エースストライカーだよ」
うちのおばあちゃんに限った話じゃないけど、お年寄りの方が雪掘りは速いんだよね。体力じゃないんだ、雪掘りは。
「ミコトちゃんとユキネは屋根端出して」
「はーい」
「ほいさっ。じゃ、ミクちゃん。またあとで、屋根の上で会おう」
「え……わたしも登るの?あのボロいハシゴで?」
「誰の家だと思ってるの……」
屋根の雪下ろしはまず端の雪を落として、どこまでが屋根かが見てわかるようにする。
下に屋根がない雪を踏むと落ちるから。
「ええと、ミクちゃんだったね」
「はい」
「あんたは下から指示だして。どこまでが屋根か」
おばあちゃん、雪掘りだけじゃなくてヴァンガード部の監督もしてくれないかなぁ。
「ほらそこ!休むんはまだ早いよ!まったくいい若い男が」
約1時間の作業の後、家が姿を取り戻した。
「ぜぇ……はぁ……筋肉が筋肉痛で痛い……」
「お疲れ様、ミクちゃん」
やったのほとんどわたし達なんだけど。
「公民館の雪掘りの量だったな」
「そうだね、僕の家ボイラーだから久しぶりの雪掘りだったけど、みんなでやると楽しいものだね」
男子陣もまだまだ元気そう。やっぱり慣れなんだね。
「ユキメおばあちゃん。さっき埋めてたの、掘り出していい?」
「ありゃ、ミコトちゃんには見つかってしまってたかえ」
さっき埋めてた……ああ!みんないるからサービスだ!
「ミコねえ、わたし掘り起こすー!」
「うん、こっちだよユキネちゃん」
不思議そうな顔してるミクちゃんをよそにお宝を掘り起こす。
これもミクちゃんは初めてかな。
「じゃーん!冷凍みかん!」
雪に埋めておくと普通のみかんが冷凍みかんになるの。
みんな適当な雪の塊に腰掛けて、仕事終わりの御褒美タイムだ。
「こんな寒い中で冷凍みかんなんて……って普通思うけど、動いたあとだとおいしいわね」
「ミクちゃん1番動いてなかったけどね」
「あんた達が異常なのよ」
ふふっ、楽しいな。
ヴァンガードを離れても、このメンバーなら何したってきっと楽しいんだろうな。
しばらく黙々とみかんを食べる6人。
ふいにおばあちゃんが口を開く。
「あんた達、カードの全国大会に出るんだってねぇ」
「……?うん」
代表してわたしが答える。
「私ゃカードはよく分かんないけど、今みたいにみんな協力して頑張んなさいねえ」
そうだね、一人一人の強さだけじゃなくて、みんなで協力して。
わたし達はそれぞれの思いを胸に、力強く頷いた。
To be continued……