日本サーキット編、ついに始動!
集う強豪
時は12月下旬。ついに日本サーキットが開幕した。
北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の全8大会が開催され、各チームは2大会を選んで出場する。その成績を合計して順位を競う。
わたし達が出場するのは中部大会と九州大会。
中部大会の会場へ学校が手配してくれたバスで移動する中、すでに前日に開催された東北大会のレポートをみんなで確認する。
「優勝は…………秋田の市川高校だって。誰か知ってる?」
誰か、というかミクちゃんとシュンヤくんだけどね。こういうのは。
「市川?聞いたことないわね。ジュニア選抜にも、東北のファイターはいた記憶がないし」
ジュニア選抜……?
いや、まあ今は触れないでおこう。
「市川は僕も聞いたことがないな。数ヶ月間、ネットでヴァンガードの情報ばかり見ていたけど、VF甲子園の東北第1ブロック代表も、毎年違う高校だったはずだし。日本サーキットの東北大会は……例年福原の優勝だったから」
シュンヤくんの引きこもり生活の中でもヒットしなかったと。
口に出しては言えないけど。
「全くの無名校が突然優勝したんだねぇ」
「俺らに全くの無名校とか言われたくないだろうけどな」
それもそうだね。梅乃台は去年までは予選に出てすらなかったんだもん。
「流れは無名校にあり、ってことじゃない?」
ミコねえがまとめて、みんな気を引き締める。
初戦くらい勝って帰ろう!
あ、あとせっかく名古屋だしひつまぶし食べて帰りたいな。
名古屋市内にある中部大会の会場に到着すると、予選の時とはさすがに雰囲気が違っていた。愛知県ユナサン支部の建物らしく、設備がしっかりしており多数のギアースを試合用に使用するそうだ。
この大会に集まるのは42校だそうで、集まった学校数的にはそう違いはないはずだけれど、強いファイターの雰囲気が出てる。
既にテレビな雑誌の取材を受けている学校もある。
「鳴海監督、今年の福原は例年の東北大会ではなく中部大会にこうして出場するわけですが、その狙いは?」
「どこだって同じだってことよ。我々福原は誰が相手であれ勝つ」
あ、あの人わたしも雑誌で見たことある!
福原の鳴海アサカ監督。高校時代には選手として、卒業後はコーチとして常勝福原を築き上げたアサシン。
「それでは鈴森部長にお伺いしま____」
「ああーっ!ミックミクじゃないですかー!?久しぶりですー!」
鈴森部長と呼ばれた髪の長い美女?美男子?たしか福原の部長は女子だった気が……
とにかくその部長が取材を放り出してこちらに走り寄ってくる。
「レイカ部長、お久しぶりです」
ミクちゃんが軽く会釈する。
ミクちゃん、敬語使えたんだね……
「いやあ、引っ越すって聞いた時はボクそりゃもう凹みましたよ。日本サーキットもVF甲子園も一緒に優勝するものと思ってましたからねえ」
出場じゃなくて優勝ってさらっと言ってしまえる。これが福原の部長……
「でもこうして別のチームで戦うのも悪くない。楽しみにしてます」
「勝つのはわたし達梅乃台ですけどね」
な……
昔なじみとは言え、あの福原を挑発するなんてミクちゃん……
「そうこなくっちゃ。あ、そちらが部長さんですか?」
鈴森部長はそう言って今度はわたしの方に視線を向けた。
「は、はい!梅乃台高校ヴァンガード部部長、御堂ユキネですっ」
「そんな緊張しないでください。ボクは福原の部長鈴森レイカです。よろしくユッキー」
あ、やっぱり女子で合ってた。
ん……?ユッキー?
鈴森部長がこちらに走ってきたためか一部のマスコミ関係者もこちらに向かってきた。
「あ、梅乃台高校!」
「ジャッジキルでの本戦出場決定ということでしたが、部長としていかがお考えですか!?」
「あのタイミングでのジャッジキルについてはどのように____」
知れ渡ってる____!?
あの時のことが、マスコミの人に……
そう、だよね。各地で予選はやっていたかもしれないけれど、あれだけの出来事はそうないはずだ。
「あの…………その…………」
自分がやったことだ。何か、答えないと……
そう、意を決した時だった。
「どけ、マスゴミども」
わたし達のあとから会場に入ってきた一団の先頭に立っていた人が、1台のカメラを蹴り飛ばした。
「雑魚を撮ってるフィルムがあったらこの俺を撮れ」
言いながら落ちたカメラを踏み壊す。
制服を来ているから、どこかの高校の選手のようだ。黒髪をベースに赤青黄など……様々な色のメッシュが入った髪。失礼を承知で言うなら花火をモチーフにしたとしか思えない。目もオッドアイ。たぶん、カラコンだけど。
「帰ってきてたんですね、ゴッド」
「帰ってこなくていいのに」
鈴森部長とミクちゃんが口々に呟く。知り合いみたいだ。
「あ?レイカとミクか。てめえら、シンガポールとの交流戦見たぜ。腕なまったんじゃねえか?」
「んっふふ、それは直接ファイトして確かめるといいですよ」
「あんたこそ頭のネジ、残さず飛ばしちゃったんじゃない?」
だいぶ仲がいい……のかな。
会話からして、見た目や言動に反して相当の実力者だ、この人。
「ふん、言ってろ」
その男子はもう一度カメラを踏みつけたあと、そのまま会場の奥まで歩いていってしまった。
「あーあー、またやらかして」
一団の後方から監督らしき男性が出てきて、無残な姿となったカメラを見て肩をすくめた。
「感心できないねえ。女性をいじめるのはもっと感心できないから、今回は許すけど」
監督も変わった人みたいだ。この学校は。
なんて名前の高校だろう。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったね。俺はファジル・アリ。このSIT付属名古屋高校ヴァンガード部の監督だ。よろしく梅乃台諸君!特に女の子達!」
えっ……?
「部長の道峰セセリいいますー。すいません、監督がこんなんで」
一団の中からメガネを掛け、柔らかな物腰の男子が出てくる。
よかった。ここの学校にもまともな人がいた。
「あ、それとマスコミの皆さんもそろそろ取材はご遠慮願いますー。選手もそろそろ集中したいんで」
そう言って鮮やかに取材を解散させる。
すごい人だ。
「じゃ、試合で会いましょう。行きますよ、監督」
「えーっ、俺は今からユキネちゃん、ミコトちゃん、ミクちゃんとお近づきに____」
監督が道峰部長に引き摺られ、その後に部員達が続いていった。
「じゃ、ボクもそろそろ福原のとこに戻ります。クロと監督に怒られちゃいますから」
鈴森部長も去っていく。
「……なんだか、すごい人がいっぱいだね」
ミコねえもさすがに動揺してるのが声から分かる。
「ってかこのカメラの残骸、俺らが片づけなきゃダメかな」
トウジもよく分かんないとこ気にしてるし。
それで、結局これ壊したあの人は誰なんだろう。
「歌星さん、SITのアレは……天神ミヤマかい?」
シュンヤくんは心当たりがあったらしく、個人名をだして尋ねた。
「ええ、ミヤマよ。アメリカで自由にやってたみたいね。留学前からああだったけど」
天神さんかぁ……助けてくれたのか、本当に気分屋なのか……。
しばらくすると館内放送が流れた。
「日本サーキット中部大会の組み合わせ抽選の結果を中央ホールのスクリーンにて公開します。ファイト開始は40分後となりますので慌てずに確認し、指定のギアースに移動してください」
いよいよ、1回戦が始まる。
「わたし、代表して見てこようか?」
たまには部長らしいことしないとね。リバースの件ではみんなに迷惑かけっぱなしだし。
「そう?じゃあお願いしようかしら」
そんな思いも含めて汲んでくれたのだろう。ミコねえが乗ってくれる。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「いってらっしゃい」
中央ホール、スクリーン前へと小走りに向かう。
思ったほど混雑している様子はないようだった。どの学校も1人が代表して見に来ているらしく人が集まってはいない。
「えーっと、梅乃台、梅乃台は……」
母校の名前を、スクリーンを指さしながら探していく。
大した校数ではないためほどなくしてその名は見つかった。
「あった!第8ギアース!相手は……SIT付属名古屋!?」
SIT付属といえば地元校、さっきあった天神さんの学校だ。シンガポールのヴァンガード学部有する名門大SITの付属校で、国内でも5指に入る強豪校。わたしでも知っているくらいの学校だ。
「……ポジティブに考えよう。これに勝てばあと敵は福原だけみたいなもんだよ」
自分に言い聞かせるように呟く。
戻ろうとすると視界の隅に、近づいてくる人影が見えた。
SIT付属の道峰部長だ。
「歌星部長、初戦はよろしくお願いしますー」
求められた握手に応える。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
道峰セセリ部長の物腰の柔らかさはなんだか安心する。会ったことないけれど、英国紳士とかこんな雰囲気なんじゃないかな。
「梅乃台とのファイト、本当に楽しみですー。ネオネクタール、アクアフォース、ロイヤルパラディン、かげろう、リンクジョーカー。どれも本当に個性的なデッキですし」
「へ?かげろう?あの、エンジェルフェザーです」
シュンヤくんのデッキだけ間違って認識されているようだったので訂正しておく。
それにしてもわたし達みたいな強豪でもない学校の使用クランまでよく知ってるなあ。
「ほう、エンフェでしたか。彼だけデータがなかったんでね。他の4人もクランの変更はなし、と」
「……っ!」
カマをかけてクランを聞き出された。
この人、見かけによらずえげつないことをしてくる……
「すんませんねえ。勝つためにはどんなデータも逃さず拾う。それがうちの流儀。そして、それができるからこそ、ミヤマではなく僕が部長やれてるんですー」
「いえ、今のはわたしの油断です。試合が始まる前でのかったと思うことにします……」
そう、戦いはとっくに始まっているんだ。
「けっこう言いますねえ。それじゃあ、またあとで第7ギアースで会いましょ」
「はい、また試合で」
……第8ギアースだ。遅刻で不戦敗にしてやろうという魂胆が透けて見える。道峰セセリ、強豪を率いる部長だけあって油断ならない。
今度こそ梅乃台の皆のもとに戻り、作戦会議だ。
「はあ?こっちのクランをバラしちまった?」
もちろんトウジの発言である。
腹立つけど、実際わたしのミスだから今回は仕方ない。
「まあまあ、オーダーがバレたわけじゃないしまだどうとでもなるんじゃないかな」
それにくらべてシュンヤくんは優しいのなんのって。
そこのメガネも少しは見習って欲しいね。
「オーダー、さっきわたしとミクちゃんで考えたんだけど、変えた方がいいかな」
わたしがいない間ミコねえはオーダーのことを既に考えていたらしい。味方にも油断ならない人がいる、心強い。
「……裏の裏をかいても堂々巡りになるだけだし、普通にいきましょ。セセリとミヤマはジュニア選抜の時からジェネシスとノヴァをずっと使ってるけど、他は分からないわ。選手層の厚いSITのことだから、予選の時とメンバーが違うだろうし」
天神さんだけじゃなく、道峰部長もジュニア選抜経験者なんだ……。
「で、結局もとのオーダーってどんななの?」
それをわたしは聞いてないわけで。
「先鋒シングルが俺、中堅タッグが天原先輩と比嘉、大将がユキネ。ってオーダーだ」
トウジがすかさず教えてくれる。先鋒がトウジ、これは予選決勝と同じで……って、ん?
「ミクちゃんが外れるの!?」
5人の部員で4人出場だから、1人は出られないわけだけれども、それがミクちゃん?
「勝つためにね」
ミクちゃん本人はそんな訳の分からないことを言うし……。勝つためなら最大戦力のミクちゃんを外す理由なんて矛盾している。
「ミクちゃんは出るべきだって!大将、わたしと代わろう?」
「いいえ、あんたが出なさいユキネ。わたしのデッキが新デッキなのは、福原もSITも分かってる。だから、福原と当たるまでわたしのデッキは隠したいのよ」
そう。つい最近、ミクちゃんのデッキはカードの使用制限に引っかかり、変更を余儀なくされた。それは分かる。
「でも、ミクちゃん抜きでSITに勝つなんて____」
「できないならどのみち福原には勝てないわ。優勝するためのオーダーよ。それに……」
「それに?」
「あんた達は十分強いわ」
ミクちゃん……
「……分かった。じゃあこれで行こう!そして勝とう!
」
手のひらを下にして腕を前に突き出す。円になり、みんながそれぞれ手を重ねていく。久しぶりだね、これやるのも。5人でやるのははじめてだけど、シュンヤくんもきっと分かるよね。
「行くよ!梅乃台高校ーっ!スタンドアップ!」
『ヴァンガード!!』
To be continued……