今後もユキネの参加してないファイトは、当事者のうちの誰かに視点を合わせて書いていくと思います。
別にヴァンガードに興味はなかった。今でもない。
わたしはただかわいい後輩、ユキネちゃんとトウジくんが青春できる場所を作ってあげたくてヴァンガード部に入っただけ。部の存続条件に部員が2学年以上にまたがることってあったから。
「なにぼーっとしてんの?あんたの先攻よ」
「あ、ごめんなさーい」
すでに場には最初のヴァンガードが表になっている。ナツキさんの喧嘩屋ファイティングドラコキッド、そしてわたしの神宮衛士ヒハキ。
「スタンド&ドロー。神凪クエビコにライドしてターンエンドです」
結局トウジくんが全部デッキ組んでくれちゃった。よくわからないし。
「ちょっとミコねえ!先駆!先駆忘れてるって!」
「えっ?あ、そっか……」
ユキネちゃんに脇から指摘されて思い出した。ライドされたヴァンガードを移動できる能力があるんだったね。
「えっと、別にいいわよ。移動して」
ナツキさんはそう言ってくれたけれど、ここはそうはいかない。
「いえいえ、せっかくですけどセルフジャッジの交流試合ですから、宣言通りターンエンドで。気持ちだけ受け取っておきます」
わたしにとって大事なのは勝つことじゃない。ただ何事もなくこのファイトが終わればそれでいいのだから。
【天原ミコト:ダメージ0/手札5】
【浅倉ナツキ:ダメージ0/手札5】
「スタンド&ドロー。マイティボルト・ドラグーンにライド。ファイティングは移動」
何か能力が書いてあるけど、特に気にしない。
何度かヴァンガードの試合を見ていてわかったことだけども、基本的に相手のしようとすることを防ぐ術はないゲーム。別に前もって知っておくこともない。
「ファイティングでブーストして、マイティボルトでVにアタック。12kです」
「12k?」
「ああ、ごめんなさい癖で。パワー12000です」
「じゃあ神凪スクナヒコナでガードします」
ヒールトリガーをガードに出す。最近ようやくルールに慣れてきた。
「ドライブチェック。クリティカルゲット。効果を全てヴァンガードに。ガード貫通して2ダメージ」
「あららー」
ヴァンガードは運の要素も強い。こういうゲームだから仕方ないとも言うけど、わたしは好きにはなれない。
「あの……」
「はい、なんでしょう?」
「いえ、やっぱりなんでも……。ターンエンド」
ナツキさんが何か言いよどむ。
それが何かは分からないけれど、どうでもいいこと。わたしはとにかくルールだけ間違えずに無難にファイトを終わればそれで。
【浅倉ナツキ:ダメージ0/手札6】
【天原ミコト:ダメージ2/手札4】
わたしはもともと将棋部だった。去年までは。
昨年の3年生が卒業して、今の1年生、ユキネちゃん達の世代から新入部員希望が来なかったことで将棋部は廃部となった。今の2年生4人だけの部活となり、梅乃台高校の部活存続条件・2学年以上かつ3人以上が満たせなくなったためだ。田舎の、それも限界集落と呼ばれるような地域の学校ではよくあることらしい。学校ごとなくならないだけマシなんだと思う。
わたしはそんな中、もう1つ廃部の危機にある部活の存在を知った。それがヴァンガード部。ヴァンガード部は昨年度の3年生が卒業後、同時にその下の世代も退部したらしい。それでも新入部員希望は2人いて、その中の1人が家も近所でよく一緒に遊んでいたユキネちゃんだと言う。
こっちの部活は救える。そう思った。ユキネちゃんのやりたい部活は守ってあげられる。その一心でヴァンガード部へ入部した。
だからわたしはヴァンガードが好きでここにいるわけじゃない。
「ヴァンガードのクロイカヅチでアタックします」
「ノーガード」
「ドライブチェックー」
こんなトリガーが出るか出ないかの運試しゲームより、将棋がしたいのが本音。
「ダメージチェック、お互いトリガーなしね」
「じゃあターンエンド」
「……」
ナツキさんはほんの一瞬、自分のターンに入らずわたしを見つめていた。
もしかしたらバレているのかもしれない。わたしがヴァンガードを楽しんでないって。世の中ユキネちゃんやトウジくんほど鈍い子ばかりじゃないから。
【天原ミコト:ダメージ2/手札5】
【浅倉ナツキ:ダメージ1/手札6】
「スタンド&ドロー。ボルテージホーンドラゴンにライド」
淡々とカードを捌いていくナツキさん。ヴァンガードはよくわからないけれど、将棋で培った勝負勘でわかる。この子は場数を踏んでいる。
「魔竜戦鬼チャトゥラをコール。そのままチャトゥラでアタック、スキルでパワーを3000あげて11000」
「ノーガードです。ダメージチェック」
ダメージをめくる。五穀豊穣ダイコクテンというカード。
「ドロートリガーですね。パワーをヴァンガードに、そして1枚ドロー」
さくさく進めていこう。わたしが負けたら大将戦なしでフリー対局に入るのか、それとも一応大将戦はやるのか知らないけれど、粘っても仕方ない。
チャトゥラのスキルが解決されていく。言われるがままドロップのロゼンジをバインドする。
「次にファイティングのブーストしたVのボルテージホーンでアタック。パワーは14000です」
「えーっとじゃあアサルトダイブイーグルとアメノムラクモでガード」
「えっ……?」
ナツキさんの動きが止まる。
何か間違えたかなと思って確認してみても、何にもおかしなところは見当たらない。
「どうしました?」
「いや……何でもないわ。ドライブチェック、ヴァーミリオン。トリガーはなし。ターン終了」
【浅倉ナツキ:ダメージ1/手札7】
【天原ミコト:ダメージ3/手札4】
「スタンド&ドロー。覇天戦神スサノオにライド。後ろにクエビコをコールします」
グレード3まで来た。で、ストライドはグレード3同士になってから。うん、ちゃんと覚えてる。
「スサノオでヴァンガードをアタック」
「ノーガード。ダメージもらうわ」
「じゃあ、ツインドライブ」
完全ガードが1枚に、クロイカヅチが1枚。悪くはないのかもね。
「ダメージチェック」
向こうはグレード3がドロップゾーンへ。
「ターンエンドです」
【天原ミコト:ダメージ3/手札6】
【浅倉ナツキ:ダメージ2/手札7】
「ねえ、あんた」
「?はい……」
「ヴァンガード、楽しい?」
「えっ」
予想外だった。
楽しんでないと見破られてたことじゃなくて、それをこうして直接言ってくるところが。
「もちろん、楽しいですよー」
「……わたしは楽しくない」
気づけばナツキさんはわたしを睨んでいた。
「ちょっとなっちゃん何言って__」
「ハルさんは黙ってて!」
向こうの北岡部長が止めに入るけれどナツキさんは収まらなかった。
まあ、仕方ないと思う。実際彼女の怒りは正しい。自分が好きなものを適当な気持ちでやられて気分のいい人はいないだろう。
「初心者でもヘタでも、予算がなくてズタボロのデッキ構築でもなんでもいいけど、本気でやらないならやらなきゃいいじゃない!?」
まったく言う通りだ。特に彼女のようにヴァンガードが大好きだけどデッキの買えない子からすれば、好きでもないのにデッキを買ったわたしは1番許し難い存在だろう。
「何か言ったらどうなのよ。違うなら違うって言いなさい」
「やめなさい!なっちゃん!」
北岡部長がナツキさんの肩を掴んで止める。
「なんで止めるのハルさん!」
しばらく2人が睨みあう。
ユキネちゃんとトウジくんは固まっていた。ごめんね、2人とも。もうちょっとわたしが演技が上手ければ。
「…………」
ミクちゃんだけは何か違った雰囲気を醸し出していた。じっとナツキさんを見つめている。この場面、みんながナツキさんを注目してはいるけど、何か違う意味をもって見ている気がした。
「わかりました。ハルさんがそこまで言うならやめます。ただ、あたしは帰らせてもらいますから」
言い終わらないうちに荷物をもって席を立ち、ヅカヅカとその場を後にしていく。
「ちょっとなっちゃん!」
部長の制止も振り切ってそのまま店の外へ。
「あー、えっと、ごめんねぇ。なっちゃんには後でキツく言っておくよ。けっこう思い込みが激しくてさ」
思い空気の中、即座にアキナリさんがフォローしてくれた。
「ミコトちゃんはミコトちゃんなりに頑張ってたのにね」
少し申し訳なくもなる。実は彼の言うような思い込みではなく、ナツキさんが正しいのだから。
「ごめんなさい、彼女おこらせてしまったみたいで」
「いやいやミコトちゃんは悪くないのよ」
北岡部長も申し訳なさそうにしている。
「えーっとそうだ!そこのあなた、最後に大将戦わたしとやろうよ」
ミクちゃんをご指名して空気を変えようとまでしてくれる。
ただ、ここでも1つ問題が発生した。
「すいません、わたし部員じゃないので。ちょうど3人ずつになるし、わたしはこれで失礼しようかと」
言うとミクちゃんまで肩に荷物をかけて、ずっと寄りかかっていた壁から背を離す。
「ああ、あとユキネ。コレ、デッキケースの中に余ってたからあげるわ」
「えっ、あ、ありがとう……?」
1枚のカードを押しつけて、足早に店を去っていく。変な子だなぁ、あの子も。
「えっと、何ていうか、1人ずついなくなったからおあいこってことにしてもらえるかな?御堂部長ちゃん」
北岡部長がおどけてみせる。
「あ、はい。その、ごめんなさい。ナツキさんが__」
「だからそれはこっちが謝らなきゃいけないんだって」
北岡部長のおかげで空気がなごやかなものへと戻るのにそう時間はかからなかった。
____同時刻、十日町駅前。
「ねえ、待ちなさいよ。浅倉ナツキ」
歌星ミクは出ていったナツキを追っていた。呼びかけられてもナツキは足を止めない。
「話しかけないで。今は梅乃台のやつの話なんか聞きたくもないわ」
「わたしはあいつらの仲間じゃないわ」
「はあ?何言って__」
「あんたなんでしょ?わたしの探してる撃退者使い。アビスウイングは」
「……だったら何だって言うの?」
「何って、ヴァンガードファイターを探し出してヴァンガード以外にすることある?」
2人の間に、また新たな緊張が走る。
To be continued……