シンデレラを救え!   作:G.U.

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気まぐれで更新しました。

暇潰しに読んで頂ければ幸いです。


第1話「島村卯月の場合」

入社をして一週間が経った。

今のところ俺が担当しているアイドルはいない。

何故ならばその言葉通りアイドルが一人も居ないのだ。

俺が入社した310プロは一昨年からあるのだが去年に大手からアイドルを引き抜きされたらしい。それも全員。

310プロを完全に潰す気だな。それなのに何故ここ潰れていないんだ?

聞いてみたらとある筋から援助されていてなんとかなっているらしい。

とある筋とは一体なんなんだ?聞いても答えてくれないし、意味が分からない。

当分は潰れる事はないので気楽に頑張ってくれと上司に言われた。

本当に大丈夫かここ・・・?

まあ、気にしてもしょうがないので俺はアイドルになれる逸材を探すべく町を歩いている訳だが俺の目に適う逸材が見つからない。

流石に誰でもいいから適当に可愛い子を連れて行く訳には行かないので、慎重に探しているのだが上手くいかないものだ。

「ん?」

俺は公園に足を踏み入れるととある少女に目がいった。

サイドポニーで笑顔がとても似合いそうな少女。

彼女なら・・・って、あの子は37564プロの島村卯月(しまむらうづき)じゃないか。

37564プロはこの業界では1、2を争う大手のプロダクションだ。

俺は最初、ここに入社しようとしたんだけど会社見学で止めた。

なんというかアイドルを商品としか見ていない職員の態度が気に入らなかった。

プロダクションにとってアイドルは確かに商品かもしれない。

だが、それは契約上のものであってアイドルである彼女達自身を物扱いにしていい訳がない。

だから、俺は止めて今の310プロへと入社したんだ。俺が見学した中では一番雰囲気良かったし、やりがいがありそうだと思った。

まあ、俺の事はどうでもいい。

目に適う女の子を見つけたと思ったら他事務所のアイドルだったわけだけど・・・

「すみません!」

俺は構わず声をかけた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

私の名前は島村卯月。

37564プロでアイドルをやっています。

私はアイドル養成所で何年も頑張ってようやく夢のアイドルになりました。

やっぱりアイドルは大変でレッスンも養成所とは比べ物になりませんでした。

それでも私はレッスンを頑張りライブステージへと立つ事が出来ました。

お客さんは全然居ませんでしたがそれでも見てくれたお客さんから拍手を頂いて私はとても感動しました。

でも・・・

「どういうことだこれは!!」

「ひっ!?」

待っていたのはプロデューサーからの罵倒でした。プロデューサーはこの結果に満足していなかったみたいなんです。

初めてのライブ。知名度などあるはずの無い私にどれだけの人数を期待していたのでしょう?

その後は酷いものでした。レッスンは休む暇もなく、トレーナーさんが休憩と言ってもプロデューサーが口を挟んでレッスンをさせます。

その時、トレーナーさんが講義してくれたのですが聞いてもらえませんでした。

しかもその後、トレーナーさんは違う男性のトレーナーさんに代わっていました。

プロデューサーが使えないと上司に言ったらしく辞めさせられたそうなんです。

酷すぎる。あのトレーナーさんは私と同じように新人さんでしたが熱心で思いやりのある優しい人でした。

それなのに少し講義しただけで辞めさせるなんて酷すぎます!

でも、私にはトレーナーさんの事を考えられる余裕はありませんでした。

男性トレーナーから地獄のレッスンの毎日。

私はそれに必死で付いて行き怒られながらも頑張って来ました。

それで何度目かのライブで私はあることに気づいてしまいました。

来てくれたファンの人達が笑っていません。しかも、途中で席を立ち去っていきます。

何故?どうして?地獄のレッスンに耐えてきたのに結果は散々なの。

私は一切理解が出来ず控え室に入って、ふと鏡の前に立ちました。

「・・・・・・」

私は今回の結果の理由が分かりました。

鏡に映るアイドル(私)は笑っていないのです。

笑顔を振りまくアイドルが一切笑っていないのにファンの人達が笑うはずがない。

私は絶望しました。

笑えない自分に。夢だったアイドルになった結果の今の自分に。

そして私は今日、初めてレッスンを休みました。

体調が悪いと嘘をついてまで・・・

家の中で寝ていても気分は悪くなる一方でした。

なので、気分を変えるため近くの公園までやってきてベンチに座っているのですが何も変わりません。

そしてふと、あることを思い出しました。それは私がプロデューサーや周りの人達に言っていた私の自慢。

『私、笑顔なら誰にも負けません!ぶいっ!』

一番輝いていた時間。それはまるでお城で踊るシンデレラのように。

そして今の私は魔法が解けて全てを失った唯の女の子。唯一の魔法(笑顔)さえ消えてしまった。

もう、良いよね?私、頑張ったよね?もう何も思い残す事はないよね?

アイドルを辞めよう。

私がそう決めたときだった。

「すみません!」

一人のスーツを着た男性が私に声をかけてきた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「・・・はい。なんでしょうか?」

少し間を空けてから返事をしてくれた卯月ちゃん。

その顔はとても暗いものでCDや宣伝写真にあった明るく輝いていた笑顔はなかった。一瞬、別人なのかと思ってしまうほどに。

「島村卯月さん、ですよね?」

「はい。そうですけど、ファンの方でしょうか?」

「まあ、そうと言えばそうですね。あっ、サイン頂けます?」

俺は色紙を卯月ちゃんに渡す。

職業柄とは全く関係ないが俺は出会ったアイドルには必ずサインを貰うように決めていた。だから常にサインを常備している。

「もちろん、いいですよ。いつも応援ありがとうございます。どうぞ」

快くサインに応じてくれた卯月ちゃんは色紙にサインをしてくれる。

しかし、俺は見た。声は元気よく答えていたがその目は疲れきった目であることを。

これは危険だ。本当の自分が何かに封じ込まれてる。

「37564プロ、島村卯月。確かに!ありがとうございます!それと、私こういったものです」

「310プロダクションのプロデューサーさん、ですか?」

「はい。島村卯月さん。私の元でアイドルしていただけませんか?」

こういう他事務所のアイドルには嘘偽りなく誘った方が効果的だ。

卯月ちゃんは呆然としている。そりゃあ引き抜き行為だし、驚くのは当然だわな。

「ひ、引き抜きですか?それは御法度なのでは?」

「まあ、あまり良い顔はされませんね。でも貴女を見て思いました。勿体無いと」

「勿体無い?」

「そうです!貴女にはトップアイドルになれる輝きの持ち主だ。でも、今の貴女は埃にまみれている。私はそんな貴女を救いたい!」

「・・・ありがとうございます。でもお断りします」

「・・・理由を聞いても?」

「私は頑張りました。もう十分に・・・。だからもう良いんです。疲れてしまったんです。このアイドルという職業に・・・」

「そんな・・・」

その顔は本気の目だった。卯月ちゃんはまだ17歳。

まだ成人すらしていない彼女にどうしたらそんな結論にさせてしまうんだ?

「それではさようなら」

「卯月さん!」

一礼をしてその場から去る彼女に俺は追いかけはしないで声を掛けた。

「私は待っています!貴女が一番輝いていた『あの時』に戻りたいと願うその時まで!」

「・・・・・・・・・」

俺の言葉が届いてくれた事を祈りつつ俺は彼女の背を見えなくなるまで見続けた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「はあ・・・」

私は公園から帰った後、お母さんにアイドルを辞める事を話した。

少し残念そうな表情を見せたけど笑って許してくれた。

唯でさえ養成所時代で我侭を言っていたから怒られると思っていたのに・・・

私は本当に良い親に恵まれました。

そして、翌日私は事務所に行って辞める事を話しにいったのですがその前にプロデューサーから呼び出されました。

指示された部屋へ向かうと私は部屋のテーブルに置かれた物を見て驚愕しました。

それは私のグッズ商品。それが『壊された状態』で置かれていた。

そしてその商品よりも奥にプロデューサーが座っていた。

「島村。お前はクビだ」

「・・・えっ?」

私はプロデューサーが何を言っているのか理解出来なかった。

クビ?クビ?何でどうして?

私が混乱しているとプロデューサーが話し出した。

「何の才能も特徴もないお前に目を掛けてやったのに全く成果を出せていない。正直、お前には絶望したよ。やっぱり哀れみでアイドルに誘うんじゃなかった」

「なっ!?」

プロデューサーからの非常な言葉に私は言葉を失う。

哀れみで私をアイドルにしたの?

私は哀れんでもらう為に養成所でレッスンを頑張って居た訳じゃないのに!

「話は終わりだ。俺はお前とは違って才能豊かなアイドル達のプロデュースで忙しい。とっとと帰りな」

「・・・はい。短い間お世話になりました」

目の前が真っ白になりかけた私はなんとか声を振り絞り別れの挨拶をして部屋から出て行く。

でも、最後に一つだけ確認したい事があった。

「プロデュ、いえ鬼頭さん。最後に一つだけ聞いても良いですか?」

「なんだ?」

「私と初めて会ってスカウトしてくれた時に言った言葉を覚えてますか?」

「いや、覚えてないな」

プロデュ・・・鬼頭さんは即答でそう答えた。

私は何を期待しているのだろう?

これ以上聞いたら取り返しの付かない事になる。そんな予感がしたのに、私は鬼頭さんに聞いた。

「『君ならトップアイドルになれる。だから俺と一緒に頑張ろう!』って・・・。私はその言葉を信じて・・・」

「あっ、そうなの?悪いな、へんな期待持たせちゃって」

鬼頭さんは何の悪気もなく軽い返事でそう答えた。あの時の言葉が私の支えの一つだったのに

私はこの瞬間目の前の景色が完全に真っ白になった。

私がアイドルを辞めて、いえクビになって一週間が経ちました。

その日、私はどのように家に帰ったのか覚えていません。

いつの間にかベッドで寝ていて枕は私の涙で濡れていた。

そしてこの一週間、私は家から一歩も出る事はなかった。

出る気力が全くわかないんです。

お母さんも心配しているけど、それでもダメだった。

私は一体どうしちゃったんだろう?これからどうなってしまうんだろう?

また一週間が経った。私は学校にも行かずに部屋に引きこもっていた。

親とも話さなくなり、どんどん孤立していくのが分かる。

流石にこのままでは拙いと感じた私だったがどうすればいいのか分からない。

とりあえず、外に出よう。

そう思った私は2週間ぶりに部屋を出た。

外に出るとき、私は普段着のまま出かけるのが怖くなった。

私の友達や知り合いに会うのが怖かったからです。

私はニット帽と眼鏡、マスクを付け、目立たない服を着て誰にも分からない格好をして出かけた。

そして、足を運んだのは近くの公園でした。

一番近場で入りやすいのがそこだったからです。

お昼の真っ只中、この時間なら誰も居ない。そう思っていましたがベンチに誰かがいました。

スーツを着た男性で私はその人に会った事があります。

私がアイドルをクビになる前にサインを書いた人、私を引き抜こうとした310プロのプロデューサーさんだ。

なんでこんなところに居るのだろう?

貰った名刺には事務所はここから10km以上離れた場所にある。

それなのにどうしてここに?

そう思った私は彼と分かれる時ある事を私に言っていたのを思い出した。

「私は待っています!貴女が一番輝いていた『あの時』に戻りたいと願うその時まで!」

彼は私にそう言っていた。

その言葉通り、私を待っているの?

私は聞きたくなった。鬼頭さんと同じプロデューサー。怖いと思ったが彼は鬼頭さんじゃない。

私は意を決して歩き出す。

「・・・・・・」

私は彼の目の前まで来たのだが全く気づく様子がない。

自分のノートを見てぶつぶつ呟いていた。

はたから見たら怪しい人に見えます。

私はそのノートの中身が気になったので彼の後ろに回って確認してみたいと思います。

悪い事だと思ったのですが好奇心が勝り、私はそのノートを覗き込んだ。

書いてあったのは様々な女性の名前と写真にプロフィール、恐らく彼が調べて纏め上げたものだと思います。

その写真にはとても綺麗で可愛い人ばかりで私にはとても敵いそうにありません。

私はとある事に気づきました。さっきからずっと見続けている写真が私の写真だったのです。

しかもそれがデビュー当時の衣装を着た時の写真です。

その写真はとても輝いているように思えました。

自分の写真なのに何を言っているのだと思いますが私にはそう感じました。

そして、そのページは赤丸チャックで色々と書き足されています。

『笑顔が可愛い』『特徴が無い?それが特徴!』『彼女が最初にピンと来た逸材』

読んでいて恥ずかしくなるような事ばかり書かれています。

今の私は顔が真っ赤なのではないでしょうか?

そう思っているとノートが閉じられてしまいました。

もう少し読んでみたかったんだけど仕方ありません。

私は彼の方に顔を向けると彼も私の方に顔を向けていました。

「卯月さん!?」

「ひゃっ!?」

彼は大きな声をあげて驚きました。

私も彼の声に驚いて変な声を出してしまいました。恥ずかしい。

「あ、あれ?どうして私だと?一応顔を隠しているのに・・・?」

「魅力的な人がいくら変装しようとその魅力が溢れ出すものなんですよ」

「み、魅力的って・・・そ、そんなことありませんよ」

この人は恥ずかしい台詞を何の躊躇いも無く言ってきます。

そして、その目は真っ直ぐで嘘偽りないことがよく分かる。

「それにしても2週間ぶりですね!私の事務所のアイドルになって頂けるのでしょうか?」

「それは・・・そもそも私は今、アイドルではないので」

「それはどういう意味で?」

「私、アイドルをクビにされちゃいました」

「!?」

私の言葉に彼は驚愕した表情を見せる。

そして、私は何故かクビになった経緯を話しました。

彼は一度も私の話を遮らず黙って聞いていました。

「そうでしたか。それは酷い話ですね・・・。辛かったでしょう」

「いえ・・・」

話が終わると彼は変わらない表情で私を慰めてくれます。

ですが、彼はかなり怒っています。何故なら彼が持っていたボールペンが折れていたのです。

怒りで思わず力が入ってしまったのでしょう。

「卯月さん。貴女はこれからどうするつもりですか?」

「私は・・・」

彼の言葉に私は答えられません。

これから、私は一体何をしたいのか全くイメージ出来ないのです。

将来の夢であったアイドルはクビ。

夢が崩れ去った私は何をすればいいのでしょうか?

「・・・わからないです。自分が何をしたらいいのか考えると頭の中が真っ白になっちゃって・・・」

「では・・・また新たな夢を追いかけてみるのはいかがでしょう?」

「新たな夢・・・?」

「はい」

彼が何を言いたいのか私にはよく分からなかった。だけど、その後の言葉で私は理解した。

「私のプロダクションでアイドルになって『トップアイドル』を目指す。なんて夢はいかがでしょう?」

この時、私の中で何かが鼓動する。それは私を突き動かし、言葉を発した。

「無理です!!私はアイドルをクビになった。言わば欠陥品です!そんな私がアイドルなんて、ましてやトップアイドルなんてなれる筈がありません!!」

「なれる!」

私の言葉が終わったと同時に彼はそう答えた。

彼の目はさっきみたいに本当に真っ直ぐで綺麗でその目に飲み込まれてしまいそうになる。

「な、なんでそう言い切れるんですか?何の確証も無いのに」

「そんなのは簡単だ。俺がそう思ったからだ」

『そう思ったから』?

どういった理屈なんですか?

「それに君は欠陥品ではない。君は立派な人だ。私から見ればドレスがボロボロになってしまったシンデレラ(女の子)。俺は君に立派なドレス着せてあげよう!だからもう一度あの頃の君に戻ってトップアイドルを目指さないか?」

彼の言葉が私の心刺激していく。それはとても気持ちの良いもので失っていた何かが取り戻せそうな気がした。

「・・・一つ聞かせてください。あの頃の私って何時の私ですか?」

「アイドルになって始めてのライブで見せた輝く笑顔をファンに振りまいていたあの頃だ」

初めてのライブ。

そうだ。思い返してみればあのライブが一番楽しくてファンの人と一つになれたような気がした。

「偶然見かけた当時の映像はとても素晴らしいライブだった。ファンの人達と輝く君に私はトップアイドルになれると確信を持ったんだ」

この人はちゃんと私を見てくれている。それだけでも嬉しく感じた。

「だからもう一度お願いする。島村卯月さん、私と一緒にトップアイドルを目指さないか?」

彼は私に手を差し伸べる。

もう一度私にアイドルへの道・・・ううん。トップアイドルへの道を差し伸べてくれる。

私はゆっくりとその手を掴んだ。

「私、あなたに言いたい事があるんです」

「・・・なんだい?」

「私、島村卯月って言います。笑顔なら誰にも負けません!私をトップアイドルにして下さい!!」

私の再スタートとなる自己紹介に彼は・・・プロデューサーは笑顔で迎えてくれた。

私、島村卯月はトップアイドル目指して頑張ります!ぶいっ!!

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