東方果実錠   作:流文亭壱通

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後悔と落胆の狭間で2

 葛葉は天子のもとへと走って行った。

 その背中を見送る。

 

 扉が閉まると同時に私はかねてより感じていた気配に向かって声をかけた。

 

「さて、と。先ほどから気になっていたんだが、なぜお前がここにいるんだ?」

 

「ケッ!今の今まで無視しといて、話しかけてきたと思ったらそれかよ」

 

 気配の正体は黒ずくめの魔法使い、霧雨魔理沙だった。

 何の因果か知らないが、葛葉と共にここへやってきていたらしい。

 

「いや、すまん。そんなつもりじゃなかったんだが」

 

 ひとまず非礼を詫びておく。

 小さく溜息一つつくと、魔理沙は口を開いた。

 

「ま、いいさ。わたしは葛葉をここへ運んで来てやっただけだぜ」 

 

 なるほど。葛葉の行動が迅速だったのは彼女の助力のおかげだったのか。

 

「そうか、ならお前にも感謝しなければな。ありがとう」

 

 素直に礼を言う。

 彼女が葛葉を送り届けてくれなければ、私はもっと重傷を負い、天子や生徒も傷つい

 ていたかもしれない。

 

「別に礼を言われるようなことは何もしてないぜ?たまたま会った奴が怪物倒しに行くっていう馬鹿だったから暇つぶしに付き合ってやっただけのことだ」

 

 照れ隠しなのかそっぽを向いて答える魔理沙。

 だが、口角が上向いている辺り、喜んではいるようだ。

 

「それで、あの怪物。お前はどう見る?」

 

 単刀直入に問いを投げかけた。

 その問いに魔理沙も眼差しを真剣なものと変え、こちらへ顔を向ける。

 

「何でわたしにそんなこと聞くんだ」

 

「お前は博麗の巫女と共に数々の異変を解決してきた張本人だからな。その経験からの意見を聞きたいだけだ」

 

「……思うとこは特にない。けど、異変とみて間違いはないだろうぜ」

 

「……やはりか」

 

 前触れもなく突如として現れた謎の怪物『インベス』。

 その出現の理由を私は到底考えつかないが、とにかく幻想郷にまったく新たな事例の

 異変が巻き起こっていることは確かだ。 

 

「でも、今までの異変とは比べ物にならないほど異質だ。正直、わたしも霊夢の奴も手に余るだろう」

 

「やけに消極的だな。お前だけならまだしも博麗の巫女でさえ無理だと言い切るとは」

 

「実際戦ってわかってんだろ?弾幕もスペルカードも通用しない相手に勝てるわきゃねぇってさ」

 

「……確かに、そうだが。まだ私と比那名居天子の二人しか戦闘していない。他の物の攻撃も通用しないと仮定するのは早計ではないか?」

 

「そうか?弾幕やスペルカードってのは妖力や魔力、気力を使用する攻撃方法だ。この三つは似て非なるものだが、エネルギー構造自体は似通っている。お前の妖力、あの天人の気力が効かなかったってことは、どう考えてもあのインベスってやつらには対抗手段になり得ないってことだとわたしは思うぜ」

 

「では、今現段階で戦えるのは……」

 

「葛葉一人ってことになるな」

 

「今後インベスが出現するとも限らんが……、もしそうであれば彼に頼るしかないということなのか……」

 

「ま、そういうこったな。情けない話だぜ」

 

 葛葉は……、外来人だ。

 明らかに今回の件は幻想郷において脅威と言えようが、外来人である彼に今後頼ると

 いうのは如何なものか。

 出来ることならば我々が解決せねばならない問題だ。

 しかし、我々の力はインベスに対抗することが出来ないというのもまた事実。

 

 嘆かわしいな……。実に嘆かわしい。

 流れ着いて一週間と経っていない者に、こんな重荷を背負わせるしかないのか。

 

「まぁ、でもあいつは底抜けにお人好しっぽいからな。こっちが望まなくても勝手に首突っ込むと思うぜ。たとえどんなに周囲が止めようともな」

 

 確かにあいつなら、葛葉ならそうだろう。

 彼は私の理想を受け入れるどころか、後押しまでした。

 今日初めて会った者の理想を、だ。

 お人好し。

 聞こえはいいが、それは自己犠牲の上に成り立つことに他ならない。

 それが奴の身を亡ぼす原因とならねばいいんだが……。

 

「霧雨魔理沙、念のために博麗の巫女へ言伝を頼む。それからできれば八雲殿へも」

 

「いいけどよ、状況の打開策になるかと言ったら話は別だぜ?」

 

「承知している。しかし、このまま隠し通してもいい結果にならないだろう。ならば然るべき人物へ話を通しておいた方が策も立てられるはずだ」

 

 魔理沙は立てかけていた竹ぼうきを手に取り、扉へ向かう。

 そして、私のほうへ振り向き言った。

 

「ま、雑用ならいくらでも引き受けてやる。ただ、一つだけ言っとくぜ?」

 

「なんだ」

 

「わたしはかたっくるしいのが嫌いなんだ。わたしのことは魔理沙で良いぜ、慧音」

 

 そう言って彼女は帽子を目深く被りなおし部屋を後にした。

 

「ふっ、人間に呼び捨てにされるのは数百年ぶりだな……」

 

 この幻想郷は一体どうなるのだろうか。

 

 窓際へ移動し、美しい夕空を見上げる。

 東の空には微かに大きな半月が顔をのぞかせていた。

 


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