東方果実錠   作:流文亭壱通

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出会い2

「はぁー……」

 

 探し物を始めてもう小一時間ほど経っている。

 探せど探せど見つからない。

 草むら、木の根元、道端。

 様々な場所を探したが、手掛かりになりそうなものすら見つけることが出来なかっ

 た。

 それどころか気づかぬうちに先ほどまで歩いていた道から外れ、完全に方角もわから

 なくなっている。

 完全に路頭に迷ってしまった。

 手詰まり、どん詰まりだ。

 

「にしても、ここは一体何なんだ? 沢芽市にこんなところあったっけか?」

 

 先のインベスの襲撃やヘルヘイムの森の浸食などで沢芽市の至る所へ行ったが、こん

 な場所は見たこともなければ聞いたこともな い。

 それにここが沢芽市ならどの方位からもユグドラシルタワーを一望できるはずだ。

 

「もしかして、ヘルヘイムの森で滅んだはずの文明がまだ生き残っていたとかか?」

 

 そういうことであれば、クラックに気付かぬうちへ入り込んで飛ばされたということ

 で辻褄は合う。

 だが、ヘルヘイムの森で見る果実は目の前の森に一つも実ってはいない。

 これがますます謎を深めている。

 ヘルヘイムでも沢芽市でもないのなら、ここは一体何なのだろうか。

 ひたすら脳細胞を働かせるが、何もつながらないし、トップギアにも入らない。

 

「だぁーっ、ダメだ! 何もかもまったくわかんねぇ!」

 

 頭をかきむしり、天を仰ぐ。

 もやもやした俺の心境とは裏腹に、雲一つないすんだ青い大きな空が目の前に延々と

 広がっている。

 自分が今ここにいる理由、そして無くなってしまった戦極ドライバーとロックシード

 の行方。

 やはりどんなに時間を費やしても解決しそうになかった。

 思考を停止し、俯きながら目を閉じる。

 混乱と動揺でかなり精神的にも肉体的にも疲労がたまっている。

 少しばかり休憩しよう。

 そう思った瞬間、不意に人の声がした。

 

「ねぇ、あんた。こんなとこでなにしてんの?」

 

 清らかで透き通った少女の声だ。

 一瞬にして眠りに落ちそうだった意識が急激にその声へと集中した。

 目を開くとそこには、一人の少女が立っている。

 凛とした立ち姿、紺碧の長髪、緋色の瞳、溢れ出る気品。

 その洗練されたような美しさにしばらく返答も出来ず、見とれてしまった。

 

「なによ、人が問いかけてんのに顔じろじろ見て」

 

 言われて気が付いた。

 それほどまでに少女の美しさに見とれていた。

 頭を振って邪念をかき消す。

 

「よかった……、ようやく人に会えた……」

 

 とりあえずこぼれたのはそんなセリフ。

 少女の美しさよりも、人と出会えたことへの安堵が勝ったのだ。

 

「はぁ?答えになってないわよ、それ」

 

 きちんとした返答になっていなかったため、素っ気なく切り捨てられてしまった。

 慌てて問いに対して答えなおす。

 

「いや、その……。気づいたらここにいて、特に何をしてたってわけじゃないんだ」

 

「気づいたらここにいた、か……。ふーん、なるほどねぇ……」

 

 返答を聞いた少女は、それを反芻するかのように呟くと、俺の身なりへ目を走らせ

 る。

 穴が開くほど見つめられ、少し気恥ずかしい。

 数十秒ぐらい少女は俺を見回し、合点がいったように手をポンと叩き、口を開く。

 

「あんた……、外来人ってやつね!」

 

 少女の突拍子のない言葉に一瞬、脳内が凍り付いた。

 今、この子は何て言った?

 外来人?

 この子には俺が外国人に見えたってことか?

 いや、そんなはずはないだろ。

 この子自身のほうが、むしろ外来人っぽい風貌じゃないか。

 髪の毛、青いし。

 少しばかり怪訝に構えて少女を見据える。

 

 「外来人って……、俺は日本人だぞ?」

 

 とりあえず、心に思ったことをそのまま口に出して反抗を試みてみる。

 すると少女は肩をすくめながら口を開いた。

 

「いや、そんなことはわかってるわよ」

 

 そう言って呆れた顔をしながら言葉をつなげた。

 

「あたしが言ってんのは、あんたはこの天界や幻想郷以外の別世界から来た人間だってことよ」

 

「天界……? 幻想郷……?」

 

 あまりにも突飛なことを言われた。

 聞きなれない言葉を二つ同時に耳にして、混乱に陥る。

 なんだ、それは。別世界?

 話がぶっ飛びすぎて意味わかんねぇ……。

 

「ま、すぐには理解できないだろうけど。簡単に言えば、あんたは次元の狭間にはまってここまで飛ばされてきたってことよ。大抵は幻想郷の下界へ流れ着くはずのところを、何の因果かこの天界まで来てしまった。どう?理解追いついてる?」

 少女は次から次へとこれまでの己の人生の中で見たことも聞いたこともない言葉、事

 柄を話していく。

 果たしてこの少女が言っているのは事実なのか、そもそもこの少女の正体は何なの

 か。

 謎が謎を呼び、思考回路の容量を超え、ショートしそうだ。

 

「えーっと……、悪い。本気で意味が分かんねぇんだけど……」

 

 少女は深いため息をつくと続ける。

 

「まぁ、いずれにしろあんたはこの世界の者じゃないってことよ」

 

 この世界の者じゃない。

 その一点だけは合点がいった。

 どう考えてもここが沢芽市の一部だとは到底思えなかった。

 目の前の少女のような風貌をした人間も、未だかつて見たことが無いし。

 

「だとすれば、俺は一体どうしたらいいんだ?どうやったら元の世界に戻れるんだよ」

 

 ここが違う世界だとしたら、いま沢芽市はどうなる?

 日に日に増えていくインベスとヘルヘイムの浸食。

 それを何とか焼け石に水状態で抑えているというのに、こんなところで道草を食って

 時間を無駄にしているわけにはいかない。

 早いところ戻らないと、どうなるかわかったもんじゃない。

 

「それはあたしも知らないわよ。知ってるのは時折他の世界から外来人と呼ばれるものが紛れ込んでくるということだけよ」

 

 少女はあっけらかんと絶望的な事実を突き付ける。

 帰る方法がわからないだって?

 それじゃあ、俺は本当に路頭に迷っちまうじゃないか……。

 

「分からないって……そんな……。俺、こんなとこで時間を使ってる暇はないんだ……。どうにかして帰らないといけないんだよ」

 

 一分の望みをかけて言ってみる。

 だが、そんな望みは叶うこともなくただ冷たい視線と冷徹な返答が待っていた。

 

「そんなこと言われても、あたしにはどうにもできないわよ。そんな切羽詰まった顔されても困るわ」

 

 もはや取り付く島もない。項垂れ息を大きく吐き出す。

 この右も左も全くと言っていいほどわからない土地にいきなり放り出されて、帰る方

 法がわからないという最悪の状況。

 解決策もなく、頼れる人もいない。本当にどうしたらいいんだ……。

 

「とりあえず、こんなところに座り込んでても仕方ないわ。行くわよ」

 

 少女が唐突に手を握り引っ張ってきた。

 その柔らかく暖かな感触に頬が熱くなる。

 

「あっ、ちょっ、ど、どこ行くんだよ!?」

 

 制止を聞かずに少女は俺の手を引き、走り出した……。

 


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