捜索開始
◆幻想郷・人里
「ここが人里よ。まぁ、食糧とか服、消耗品なんかを売り買いする幻想郷の中心地ね」
「自ずと情報も集まりやすいとこってわけか。よし、とりあえず手当たり次第に聞き込みをしよう」
「あ、ちょっと待った」
早速聞き込みに行こうと足を踏み出しかけたところで、天子に制される。
「この人里の住人は基本的に外来人と関わりが薄いから、話をするにはあたしを介してちょうだい。ましてや、あんた人間なんだし」
「別に探し物してるだけだろ。なんだってそんな……」
「いいから、言うとおりにして。無駄にいざこざ起こされたんじゃ、連れのあたしが大変なのよ」
天子の言い方に少しばかりイラッとしたが、確かにここは任せた方が無難かもしれな
い。
だが、やたらと天子が「人間」と発するのにはとてつもない違和感を感じた。
「聞き込みの仕方は任せることにするけど、人間人間ってそんなに言わなくてもいいんじゃないか?」
「あのね、あんた。ついさっき幻想郷は種族間の争いが絶えないって言ったでしょ?何を聞いてたのよ、一体」
「いや、そもそもその『種族間』って言うのがいまいち理解できないんだけど……。人種の違いとかそういうことか?」
俺が疑問を口にすると、天子は肩をすくませながら呆れながら言う。
「あー……、そうね。外来人のあんたに理解しろっていう方が無理だったわ……」
「はぁ?それってどういう……」
天子は俺へと向き直り、答える。
「いい?この幻想郷にはね、あんたみたいな人間以外にもたくさんの者が住んでるの。妖怪やら、鬼やら、天狗やら、吸血鬼やらね。挙句の果てには神も仏もいるわ。そういう世界なのよ、この幻想郷は。数多くの魑魅魍魎、悪鬼羅刹と人間が共存する世界、それがこの幻想郷。そしてあたしも、人間じゃないわ」
「……えっ?」
一気に情報が脳内へ流れ込み、錯綜し、フリーズしそうになる。
それに、天子が人間じゃないって……?
いや、確かに髪色が普通じゃないけれど、どこからどう見ても人間だ。
人間の少女だ。
何言ってんだ、こいつ。
まさか、この期に及んで渾身のジョークでも飛ばしてきたのか?
しかし、天子の表情も眼差しも明らかに真面目なものだ。
「……本当なのか?」
「ええ、本当よ」
「…………」
言葉を失い、息をのむ。
いくらなんでも突飛すぎる。
たった数分で順応しろってほうが難しい。
「お前が人間じゃないってんなら、一体なんだっていうんだよ!」
「……はぁ。ったく、いちいち質問しなきゃわかんないわけ?」
「だって、いきなり人間じゃないなんて言われたって……」
「言っておくけど、協力はするわ。でもね、あんま立ち入ったことをずけずけと聞いてくるようなら、今すぐあんたのこと放りだしたって構わないのよ?」
痛烈な一言に一瞬たじろいでしまう。
確かに少し今のはいささか無礼だったかもしれない。
協力をしてくれると申し出てくれたが、友人になったというわけではない。
その点と礼儀を弁えて発言するべきだった。
「……ごめん。この世界へ来てからいろんなことを聞かされすぎて頭がパンクしそうなんだ。でも、だからといって今のはちょっと失礼だったよな。本当にすまん」
この世界のことを一ミリも知らない現時点で案内役になってくれた彼女を失うのは相
当な痛手になる。
訳も分からないまま見知らぬ土地へ放り出されたとなれば、元の世界に戻るなんてこ
とは到底できないだろうし、探し物ですら見つけ られない。
ここは素直に謝罪をしておかなければ。
天子は俺の言葉に素直に応えてくれた。
「いいわよ、別に。あたしもちょっと厳しいこと言いすぎたわね。あんたの面倒見てやるって言ったくせに放り出すだなんて無責任もいいとこだったわ。こっちこそごめんなさい」
何とか互いの関係は崩れずに済んだようだ。
ひとまずは安心かな。
「ま、このことは後で詳しく話すわ。協力者になったとはいえ、まだあんたのこと名前しか知らないし」
「そうだな。でも、俺は信用してるよ。よろしくな、てんこ」
「む……。だからあたしはて・ん・し!てんこじゃないって言ってるじゃないの!」
「えー、結構てんこってのいい愛称だと思うけどな」
「そーゆー問題じゃない!ったく、探し物するんでしょ?さっさと行くわよ、コータ」
ここでもう一つ彼女に対して気づいた点がある。
照れると赤面しながら悪態をつく、だ。
なんだか戒斗を思い出す。
あいつの場合は赤面しないし悪態ではなくただの強がりだったけど。