東方果実錠   作:流文亭壱通

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発見

「あの、すみません。ちょっと聞きたいことが……」

 

「人間の外来人などと話すことは何もない!帰んな!目障りだ!」

 

「ちょっといいかしら、聞きたいことがあるんだけれど」

 

「天人風情が気安く話しかけるな!あっちへ行け!」

 

 意気揚々と聞き込みを再開したのはよかったのだが、誰に声をかけても軽くあしらわ

 れてしまう。

 それでも、粘り強く続けていく。

 小さな情報でもいい、謙虚なつもりではあったが、それすらも現段階では贅沢な希望

 らしい。

 道行く人はほぼ確実にこちらの話を聞こうともしない。

 酷い時には完全なシカトまでされる。

 本当にどん詰まりだ。

 まさかここまで最初の一歩でつまずくとは思わなかった。

 

「ちょっと、話するくらいいいじゃないのよ!」

 

 俺の少し離れたところで聞き込みをしていた天子の怒声が響く。

 疲労と聞く耳を持ってもらえない苛立ちで限界のようだ。

 

「今日はもう諦めて、帰ろう」

 

 俺自身、そろそろ限界だ。

 気分を新たに次の機会に臨むほうがいいだろう。

 俺の提案に不服というような顔をするも、天子は頷いた。

 

「……いろいろと策を練らないといけないわね。せっかく協力するって言ったのに情報の一つもつかめないんじゃあまりにも不甲斐なさ過ぎるわ」

 

 プライドの高さゆえか、そんなことを言って俺の横へ並ぶ。

 

「協力してくれるだけありがたいさ。そんなに気に病まれると俺が申し訳ない気になってくる」

 

「でも、なるべく早く見つけなきゃならないんでしょ?こんなことで手をこまねいていたんじゃ、お話しにならないわよ!」

 

 相当参ってるみたいだ。

 詳しい事情は知らないけれど、自身の過ちのせいで協力しきれていないことを歯がゆ

 く感じているらしい。

 

「だからって焦っても事態は変わらない。今は着実に根気よくやろう」

 

 諭すように言葉を返す。

 この現状ではその選択肢しか残されていないだろう。

 これは俺自身へ言い聞かせるためでもある。

 

「そうね……」

 

 はやる気持ちからか、納得出来ていなさそうに不機嫌な声で天子は返す。

 あまり刺激しない方が良いかもな。良かれと思って声をかけると逆効果になりそう

 だ。

 少し天子と距離を開けて歩を進めることにする。

 俯きながら肩を震わせ、強い歩調で数歩先を歩き続ける天子。

 なんだかこういう状況になると舞のことを思い出すな。

 

 舞とは、俺の幼馴染だ。

 同じビートライダースのチーム、鎧武に所属していた。

 アーマードライダーではないけれど、舞も自分なりに沢芽市で起こった戦いに立ち向

 かっていた。

 舞は今どうしてるだろうか。舞だけじゃない、ミッチにチャッキー、リカ、ラット。

 ザックにペコ、城之内、貴虎、シャルモンのおっさん。

 自分のことで手一杯でまったくみんなのことを考えてなかった。

 

 みんな俺がいなくなってどうしてるんだろう。まだ沢芽市では戦いが続いているのだ

 ろうか。

 そんなことを考えるだけで不安感と焦燥感がぶわっと波となって俺の心の中で暴れ出

 す。

 駄目だ駄目だ!きっとあいつらは大丈夫。俺がいなくてもうまくやってるはずだ。

 これぐらいのことであいつらを信じられなくなるなんて、俺はどうかしてる。

 

 別のことを考えよう。そうだ、天子と舞が似ているって感じたんだった。

 そう、何故か天子と舞は似ている。天子に親近感が妙に湧くのは、雰囲気がそこはか

 となく舞とかぶるからだ。

 勝ち気なところだとか誇りをもってしたたかに行動するところなんかそっくりだ。お

 まけにすぐにへそを曲げるところも。

 なんだか妙に笑いがこみ上げてくる。沢芽市でもこの幻想郷でも、俺のポジションは

 実はそれほど変わらないのかもしれない。

 

「あっ!」

 

 俺が物思いに耽っていると前方から天子の声が飛んでくる。

 

「どうした?」

 

 天子はその場で足を止め、直立不動となっている。

 その視線の先へと目を移すと、小さなショーウィンドウに様々な雑貨が並んでいた。

 

「雑貨屋、か……?一体、どうしたんだよ」

 

 一声あげたまま突っ立っている天子は俺の声に行動で返答する。

 ゆっくりと目の前のショーウィンドウを指差し、振り向きざまに口を開いた。

 

「……あ、あんたの探し物ってもしかしてこれじゃない……?」

 

 指差す先には、黒いバックルのような形状のものにナイフを模した飾りがついた近代

 的な端末が並んでいた。

 

「……あ、あったあああああああああ!!」

 


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