限られた日々のなかで〜女神と歩んだ1年〜   作:月白弥音

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#8 はじめてわかる難しさ

翌朝、私は穂乃果たちの練習を見るために神田明神に来ていた。

「お疲れ……ってかなりへばってるね」

「あっ! ゆめちゃん! おはよう」

「おはよー」

「おはようございます。来てくれたんですね」

「おはよ。うん、まあね」

昨日、私は三人と朝か夕方のどっちかの練習は付き合うって約束した。今日は初日だし、渡したいものもあったし、ね。

「で、今は何してるの?」

「階段ダッシュです。二人の体力や足腰を鍛えるのにはちょうどいいですから」

「じゃあ今度は海未の番?」

「そうですが……?」

ちょうど良かった。みんなの練習用に、といっても海未にしか今は出来ないと思うけど、持ってきたものがある。

「じゃあ海未、これちょっと聞いて」

私は海未にある曲を選択して音楽プレーヤーを渡す。

首をかしげながらもイヤホンを耳に入れて再生ボタンを押した海未。しばらくして海未が顔をあげた。

「これは……」

「私が歌を作ろうと思って前作曲したやつ。三人のは別で新しく作ってるからもうちょっと待っててね」

私がこの間完成させたあの曲を聞いてもらった。

誉めてもらいながら一旦音楽プレーヤーを返してもらう。

「ではなぜ……」

私に聞かせたのですか。きっとそう続きそうな海未の顔を見て私は少し笑いがこぼれた。

「この曲口ずさみながら走ってみて。あ、別に聞きながら走っていいよ」

さっきとは違うイヤホンに差し替えてもう一度音楽プレーヤーを海未に渡す。今度のイヤホンは片耳が断線して聞こえなくなったやつ。これだと耳を押さえて自分の音程を確認するのと同じことができる。

「はい、わかりました」

「大丈夫だと思うけど、無理しないで休んでね」

一応そう声をかけて私は階段を上る。って、結構この階段きつい!

「じゃあいくよ、よーいどん!」

ことりの合図でスタートした海未。海未が小さい声で歌っているのが聞こえてきた。

やっぱり当たり前だけど少し音がずれてる。そう思ってるうちに海未が階段を上りきって下っていった。

二往復目。聞こえてくる声が切れ始めた。これ以上はやめた方がいいかな。

「海未ストップ!」

海未が階段を上りきったところで止める。最初から飛ばし過ぎると体を壊す。それじゃ元も子もない。

「どうだった?」

「普段、より……はぁ、かなりきつい、ですね」

「でしょ?  一ヶ月後にはこれが楽に、とまでは言わないけどある程度の余裕をもってできるようにしないといけない。大変だけど頑張って。ことりと穂乃果は来週から同じことやるからね」

「はーい」

力なく返事をすることりとただ私を見てる穂乃果。

「どうかした?」

「ううん。ただこうしてゆめちゃんと一緒に入れるっていいなぁって思って」

なにも言えなかった。穂乃果のことだから単純にそう思っただけなんだと思う。でも私がそう思わせる状況を作ったのだと思うと少し気分が暗くなった。

「そ、そろそろ学校いく準備しないと! 穂乃果ちゃんとゆめちゃんも帰ろ」

助け船を出してくれたことり。特に穂乃果は、とすぐに続く海未のお説教。

もうさっきの重い空気はなくなっていた。

「ありがと、ことり」

穂乃果と少し離れてお礼を言う。

「ううん、気にしないで」

ことりは柔らかい笑顔でそう返してきた。

いつもこの笑顔で救われてるなって感じながら私も家に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

学校から帰ってきてすぐ自分の部屋にこもった私はキーボードの前に座って作曲を続けていた。

歌詞が先にあってそのイメージで作曲するのって結構難しい。あと単語の文字数とかイントネーションとか、気にしないといけないことが多い。やっぱりプロの作曲家さんって凄い。

作業が一段落ついて時間を確認しようとしたとき、いつも通り結衣が夕飯で呼びに来た。

「どぉ、お姉ちゃん。出来てきた?」

「うん、大体ね」

「そっか」

とりあえず元になる原曲は八割くらいできた。出来たんだけど……なんかいまいちな感じがしてる。

でもその違和感がなにかよくわからない。

「そうだ。ねえ結衣、あとで曲聞いてよ」

「え、いいの!?」

「いいんじゃない? 他のひとには言わないでね」

「うん!」

もう楽しみで楽しみでたまらないという様子の結衣とまずリビングに向かった。先に夕飯食べないとまたお母さんに遅いって怒られちゃう。

 

 

 

 

 

「……ふう。やっぱ一曲全部弾くのはちょっと長いな」

「お姉ちゃん、本当にこれ今日一日で作ったの?」

「うん、まあほとんど。少し前考えてた旋律も入ってるけどね。で、どうだった?」

「すっごくいいと思う! お姉ちゃん、なんか違うって言ってたけど結衣には全然違和感なかったよ」

「うーん、気にしすぎなのかな……?」

結衣にそう言われると問題ないんじゃないかとも思えてくる。

でもやっぱりなにか違う。前作った旋律を使ったから? それとも……

「お姉ちゃん、あんまり無理しないでね。悩んでるならほのちゃんたちとも相談してみればいいじゃん」

「え? あ、うん、ありがと」

ちょっと考え込んでたからか一瞬結衣の言葉を理解するのに必要だった。

そうだよね。これは私の趣味でやってる作曲じゃない。穂乃果たちに頼まれたもの。

明日、みんなの意見も聞いてみよっかな。

そう決めた私はキーボードの電源を切る。寝る前にお風呂に入ろうと一度部屋を出た。

なんか最近結衣に助けてもらってばっかだな。

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