昼休み、私は昨日できたところまでの音源をもって、となりの教室、穂乃果たちの教室にいた。
「珍しいね、夢ちゃんがこっちに来るなんて。どうかしたの?」
「うん、ちょっとね。ライブの曲で相談があって」
ことりの質問に答えたとたん、穂乃果がパンをくわえたままがばっと顔をあげた。
「μ'sの最初の曲、出来たの!?」
「穂乃果、相談があるといっているのですからまだできてないと思いますよ」
うん、ごめん、まだできてない。それより、
「み、ミューズ?」
まさか石鹸、じゃないと思うし……
「違います」
「さらっと心読まないでほしい、かな」
「夢花なら考えそうですから」
「普通そっちが先に出てくる人が多いでしょ。一応知ってるよ。ミューズ、英語読みだとムーサ。文芸を司る女神で、芸術を司るアポロンが主宰神なんだよね。人数は三人だったり四人だったり、七人だったりするけど、今一番主流なのは九人って説じゃなかったっけ? 確か、musicやmuseumの語源にもなってたよね」
「えっと……」
「穂乃果、夢ちゃんが何言ってたのかよくわかんなかったよ……」
あ、最近神話系の本読んでたから嬉しくってつい語っちゃった。
ちなみにムーサはゼウスと時間の神モシュネの子って言われたり、天の神ウラノスと大地の神ガイアの子どもって言われたりしてる。でもどっちにしろ近s……それいったらきりないか、特にギリシャ神話は。
「それにしても三人なのにμ'sって……」
「夢花ほど知っている人はそうそういないと思います。それで、相談とは?」
話が脱線しかけたところを海未が引き戻してくれた。
「そうそう。ちょっと違和感がある感じなんだけど、何でかよくわかんなくて……」
そう言って私は音楽プレーヤーを渡す。
ワクワクした様子でイヤホンを片耳に入れた穂乃果と真剣な表情の海未。全部聞いてもらってからことりと変わってもらう。私ももう一度一緒に聞いた。でもやっぱり違和感の正体は掴めなかった。
「どう、かな?」
「すっごくいい曲だよ! やっぱり夢ちゃんに頼んで正解だったよ」
「私もそう思う! 違和感なんて何も感じなかったよ?」
「私も同感です」
「そっかぁ……でも何か違う気がするんだよね……」
「でもそういう感覚はことりたちにはアドバイスできないし……」
「そうですね……」
みんなで考え込んじゃって少し沈黙が流れる。あ、穂乃果が声をあげた。
「そうだ、あの子だよ、あの子! あの子に聞いてみようよ!」
「あの子?」
「ほら、いつも音楽室でピアノ弾いてる一年生の!」
あのきれいな声の。私が穂乃果から逃げた時にピアノを弾いてた子のことだよね。
「放課後、一年生の教室に行ってみるよ。穂乃果、一緒に来てもらってもいい?」
「もちろん! 迎えにいくね」
「うん、よろしく」
話し終わった頃には昼休みももう少しで終わりそうで、私たちは急いで残ってるお弁当を食べた。
放課後、一年生の教室に行ってみるともう生徒は疎らだった。結構前にSHR終わったのかな?
「あちゃ~やっぱりいない」
「そっか……」
頼みの綱になりそうな子もいないんじゃほんとにどうしよう?
「にゃん?」
考えてると穂乃果に似た髪色をしたショートの子が横から話しかけてきた。って……にゃん?
「あの子は?」
「あの子?」
あれ、この会話、さっきもした気がする。
「ほらあの赤い髪の……」
「西木野さん、ですよね。ピアノのうまい」
あ、その子の後ろにもう一人いたんだ。ふわふわしてそうなかわいい子。
「そうそう、西木野さんって言うの?」
「はい、西木野真姫さん」
「その西木野さんって今どこにいるかわかるかな? もう帰っちゃった?」
焦れったくなって私から質問した。ふわふわした子は驚いたみたいだったけどショートの子はそんなことなくて
「多分音楽室じゃないですか? あの子、あまりクラスにいないんです。休み時間はいつも図書室だし、放課後はだいたい音楽室にいますよ」
「そうなんだ」
もしかしたら帰っちゃったかもしれないけど、音楽室にいってみた方がいいかも。
「えーと……って、そういえば自己紹介してなかったね。私は白崎夢花。でこっちは……」
「スクールアイドルμ'sの高坂穂乃果です!」
「一年の星空凛です」
「あ、えっと……小泉、はな、よ、です……」
「星空さんに、小泉さん、ね。教えてくれてありがとう。音楽室、行ってみるよ」
私と穂乃果が音楽室に足を向けたとき
「あの!」
さっきは大人しかった小泉さんが声をあげた。私たちは足を止めて振り向く。
「頑張ってください……アイドル」
穂乃果の顔が明るくなった。たしか私が作曲を引き受ける前に生徒会長から甘く見てるって言われてたんだっけ。
でも今こうしてちゃんと応援してもらえた。もちろん、友達とかクラスメートとか、知り合いだからって応援してくれる人はいたけど、穂乃果たちのことを全く知らない人が応援してくれてる。穂乃果にとってこんなに嬉しいことはないと思う。
「うん、頑張る!」
そう返して穂乃果は走り出した。
「小泉さん、ありがとう。ライブ、見に来てね」
私もそれだけ小泉さんに伝えてゆっくり穂乃果のあとを追った。
おかしい、なんで真姫ちゃんが出てこなかったの…