その日の夜、私は穂乃果に呼ばれて『穂むら』、穂乃果の両親がやってる和菓子屋に来ていた。一階が店舗で二階が住居。つまり穂乃果の家ってことだよね。
「こんばんは」
「いらっしゃい……ってもしかして夢花ちゃん?」
店番をしてた穂乃果のお母さんに見つかった。相変わらず商品のつまみ食いはしてるんですね……
「はい、お久しぶりです」
なんて挨拶をしてると奥の扉が開く音が聞こえて
「夢ちゃん来てるの!?」
穂乃果の妹、雪ちゃんが飛び出してきた。
「雪穂、久しぶ……」
「夢ちゃん!」
「ちょっ!」
いきなり飛びかかろうとしてきた。
「雪ちゃんストップ!」
「ふぇ?」
変な体勢で止まった雪ちゃんは穂乃果と同じように聞き返してきた。
「前ならいいけど、今はそれ受けると死んじゃうかもしれないから……」
「そ、そうだよね。ごめん……」
こういうとき、本当に嫌になる。前と一緒、そういうわけにはいかなくなってるから。
でも……
「でも、普通になら、ね」
シュンとしてた雪ちゃんを抱きしめて頭を撫でる。
「……なんか身長変わんなくなってない?」
「そりゃそうだよ。だって二年もたってるんだよ、最後に会ったときから」
「そっか……もう二年も、って私が成長してないみたいじゃん!」
「時間差すぎだよ! それに事実じゃん!」
そうなんだよ。何でか知らないけど高校入ってからそんなに身長伸びないんだよね……
私の病気と関係があるのかと思って朝倉先生に聞いてみたりもしたけど今のところそんなことはなさそうだって言われちゃったし。私の身長はどこへっ!
「あ、夢ちゃん。相変わらず、やっぱり雪穂ちゃんと仲良いんだね」
そのまま雪ちゃんを抱きしめてるとことりがそう言いながら店に入ってきた。私はしかたなく雪ちゃんから体をはなす。
「だって雪ちゃんだから」
「理由になってないよ!」
「それはいいとして、ことり、その大きい袋は?」
横で突っ込みを入れてくれる雪ちゃんを一旦おいといて、ことりが持ってる大きい袋に気がついた。
「うん、ついに出来たんだ、ライブの衣装。上でみんなで見よ」
私は雪ちゃんと別れて、二回に上がっていくことりのあとを追った。
「お待たせ~」
ことりのあとに続いて入った私はそのまま穂乃果のとなりに移動する。
「ことりちゃん、それってもしかして……」
「うん! さっき、お店で最後の仕上げをしてもらって……っと。じゃーん!」
「「「おぉー」」」
ことりが出したのはワンピース型のピンクの衣装。カーブのラインとかなんか難しそうな部分が多い。
「えっと、これ、本当にことりが作ったの?」
正直なところ、私の感想はそこだった。既製品だって言われても絶対に気がつかないほどのクオリティ。それが個人で、私の幼馴染みが作ったってことが信じられなかった。
「まあ、ほとんど。ちょっと大変なところはお店でやってもらった部分もあるけど……」
「すごい、すごいよことりちゃん! すっごくかわいいよ!」
いくらお店に頼んだ部分があるとしてもこの完成度はすごい。それにとっても可愛いし。
「ことり……」
海未の声は重かった。こんないい衣装をことりが作ってくれたのにどうしたんだろ?
「そのスカート丈は……?」
「えっ……あっ!」
スカート丈? あ、そっか。海未、恥ずかしいのね。
「だってしょうがないじゃん、アイドルだもん」
「アイドルならスカート丈は短く、なんてルールはないはずです!」
頑固だねぇ、海未。きっと最後には折れることになるのに。
「だって、海未ちゃんが悪いんだよ?」
「私が、ですか?」
「うん、小学校のとき、私にミニスカート持って迎えに来てくれたことがあったでしょ?」
「はい、正確に言えば穂乃果の、ですが」
そういえばそんなことあった。確か海未が偶々病院であって、その時にことりがロングスカートばっかりはいてる理由を聞いて、じゃあミニスカート持ってこうって話になったんだっけ?
「ですがいったいどういう関係が……」
「私ね、それ以来すっかりミニスカート派になっちゃったの!」
「……はい?」
「だからね、この衣装がミニスカートなのもしかたがないの。嫌、なんて言わせないよ?」
ことりにしては頑張った、というか事実なんだろうね。確かにそれから全然ロングスカートはかなくなったし。
「そ、そういう話で私を丸め込もうというのは卑怯です! それなら私は一人だけ制服で歌います!」
「むしろ制服の方が丈短い気が……それに、この衣装で三人が並んだらきっと綺麗なんだろうなぁ」
「夢花!」
「それにね、みんなで一緒の衣装の方がきっとうまくいくよ」
私がダンスをやってた頃、先生に言われたこと。
気持ちを揃えるために、まずは外見から揃えなさい。そうすれば自然に気持ちが揃い、動きが揃う。
これは本当だと思うから。三人で一緒の衣装を着てステージに立って欲しい。
「みんなでできてよかった、そう思いたいの」
窓にかけよってもう一度。
「思いたいのー!」
外に向かって叫んだ。本当に穂乃果はまっすぐだ。だから私たちはついてっちゃう。いろんなところに連れてってくれるから。
「それは、私も賛成」
「もう……三人とも、ずるいです。……わかりました」
神田明神にお参りにいくという三人と別れて私は家に帰った。
本番はいよいよ明日。
でも、どこかうまくいくだろうと楽観してる私は夜空の星が雲に覆われ始めていたことに気づいていなかった。