限られた日々のなかで〜女神と歩んだ1年〜   作:月白弥音

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#14 夢幻の可能性

「以上で新入生歓迎会を終わります。興味がある部活動がある人はどんどん体験入部に行ってみてください」

新入生歓迎会が終わった。この後はついにファーストライブ。

私たちは最後のビラ配りをするために外に出る。

「吹奏楽部に入部希望の方~」

「テニス部の見学はこちらです」

ほかの部活も少ない新入生をいかに集めるかの勝負だから気合入ってるなぁ。

「穂乃果たちも頑張らないと」

「そうだね」

穂乃果がことりとそう話してるのを見ていると一際大きな声が聞こえてきた。

「お願いしまーす! μ'sファーストライブやりまーす!」

海未の声だった。ビラ配りをしたおかげで少し吹っ切れたのかな? それともただ気合が入ってるからなのかな?

理由はどうなのかわかんないけど今の海未は始めたときに比べて生き生きとアイドル活動をやってる気がする。

「手伝ってくれるの?」

私が海未を見ていると横から穂乃果の驚きの声が聞こえた。

「夢ちゃん、ヒデコたちが手伝ってくれるって!」

「音響とか照明とか触ったことあるから調整できるから。リハーサルもやっておきたいでしょ?」

ショートヘアの子がそう言ってくれた。

まさか最初からこんな風に手伝いを申し出てくれる人がいると思わなかった。しかもステージ機材を動かせる人なんてなかなかいない。

「うん、やってもらえるとすごくうれしい! でも……」

「遠慮しないで。私たちも学校なくなるの嫌だし」

おさげの子がそう言ってくれる。

「ごめん。ところであなたたち、誰?」

私のクラスメートじゃないっぽいし誰だかわかんないんだよ……穂乃果の友達なのはわかるけど。

「そっか。夢ちゃんとおんなじクラスになったことないもんね。左からヒデコ、フミコ、ミカ。みんな去年も一緒のクラスで仲良くなったの。

それでこの子が夢ちゃん。私たちの幼馴染でμ’sの曲を作ったり、ダンスを教えてくれたり、いろんなことしてくれてるの」

ショートヘアがヒデコ、ポニーテールがフミコ、おさげがミカ、ね。たぶん覚えた。

「私も知ってるよ夢花ちゃんのこと。心臓病があるとか聞いてたけど大丈夫?」

やっぱり知ってる人多いなぁ……

「普段は無理しなきゃ大丈夫だから心配しないで。病人だからって腫物を扱うみたいにされるほうが嫌だから」

「わかった。でも何かあったらいつでも頼ってね。できる範囲で協力するから」

「うん、ありがと」

挨拶が一通り終わったところでミカにビラ配りを代わってもらって穂乃果たちは着替えに、私はその補助に、ヒデコとフミコはステージ機材の確認と準備に。それぞれ分かれて行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、着替え終了」

「ありがと、夢ちゃん」

穂乃果とことりの着替えが終わりあとは海未だけ……なんだけど、私の補助も断って一人でブースに入ったまま出てこない。大丈夫かなぁ。

「海未、大丈夫? やっぱり手伝おうか?」

「だ、大丈夫です! もう終わりますから……じゃーん、ど、どうでしょうか?」

ようやく出てきた海未はことりが作った二人と色違いの衣装を身にまとって……

「「え?」」

なぜかジャージをはいていた。

「どうでしょうかじゃないよ! さっきまでの海未ちゃんはどこ行ったの!?」

「い、いざ着てみて鏡を見たら急に恥ずかしく……」

もう、普段はあんなにしっかりしてて頼りになるのに自分のことになると本当に恥ずかしがりやなんだから。

私は穂乃果とアイコンタクトを取って海未に近づく。

「な、なんですか……」

警戒する海未を無視して私が後ろから海未を抱きかかえて

「往生際が」

「わるいよ、海未ちゃん!」

穂乃果がジャージを脱がした。私相手だと海未も本気で抵抗してこないからね。

海未を解放するついでに締まり切ってなかった後ろのファスナーを上げる。

「ね、補助必要だったでしょ?」

「はい、ありがとうございます。でも、やっぱり恥ずかしいです……」

そういう海未を穂乃果とことりが引っ張って三人並んで鏡の前に立つ。

「ね、こうしてみんなで立っちゃえば気になんないでしょ?」

「え、ええ」

やっぱり三人並ぶと決まるなぁ。さすがことり。

「ほら、三人とも。せっかくリハできる時間もらえたんだからやらないと損だよ」

「そうね」

ことりと穂乃果が控室を出る。

「ほら、海未も」

「わ、わかっています」

私も海未と一緒に部屋を出る。

「夢ちゃん、本当にいろいろありがとう。精一杯やってくるね!」

突然穂乃果にそんなことを言われた。

「まだ何にも始まってないのに終わりみたいなこと言ってどうするの。でも、私もこの一か月楽しかった。ありがとう。

さあ、穂乃果、ことり、海未。三人とも精一杯楽しんできて! 私は座席のほうで待ってるから」

「もちろん」

「うん」

「もちろんです」

これなら大丈夫。

きっとうまくいく。

そんな根拠のない確信めいたことは改めて座席のほうから入りなおした瞬間に崩れ去った。

「うそ……」

そこに広がってたのは無音の世界。人の声もしなければ姿もない。

つまり、お客さんがいない。見せるべき観客が誰もいなかった。

私はこうどうからなるべく急いで飛び出して外でビラ配りしてる二人に声をかける。

「どう?」

「頑張ってはいるんだけど……」

「人気がある運動部だと入部テストがあるみたいで……友達にも声をかけたんだけどみんな自分の部活で精一杯みたいで」

ついに今年の一年生は一クラスになっちゃってたし、さっきも思ったけどやっぱりみんな自分の部活に人を集める方に全力を尽くしてるのか。

どうしよう。そんなこと全く考えてなかった。

今取れる選択肢は二つ。

ひとつは今日のライブは中止して別の日にやること。これならまだ人を集められるだろうとは思う。でも、私はさっき見てきた、やる気に満ちた三人の姿を。そんな三人に今日はライブやめようなんて言えないよ……

もうひとつはこのままやること。でもお客さんがいないなかやらないといけないなんて……

「私たちもぎりぎりまで頑張ってみるから! そんなに気にしないで」

「ありがとう、ミカ。フミコもよろしくね」

「うん、任せて」

外の方を二人に任せて私は中に戻って美優に連絡を取ろうとする。

「出ない……」

そういえば美優は今日の新入生歓迎会の反省会があるって言ってたっけ。来たいって言ってたけどそれだから無理って言われたんだった。

あとは小泉さんたちが来てくれるかどうかだけどこれだとあんまり期待できないかも……

 

 

 

結局どっちにするという決断もできずに時間切れ。なにもせず座席に座ったまま開演時間直前になった。

この時間になってもやっぱり誰も来なかった。

開演を知らせる無機質なブザー音が講堂に鳴り響く。明るく照らされたステージが幕の間から見え始めてついに幕がすべて開かれた。

三人の笑顔はこの光景を見た瞬間崩れた。

「え……」

「穂乃果、ことり、海未……」

三人の顔を見て私はかけられる言葉がなかった。

「そりゃそうだ。世の中そんなに甘くない!」

穂乃果が泣き出しそうに顔をゆがめる。それにつられてことりも泣きそうになってる。

「……」

そうだった。私は決めたの。どうなっても私だけは穂乃果たちを応援するって。

「穂乃果、ことり、海未。歌って」

「え……?」

「みんなのために動いてくれたヒデコたちのために。私だってμ’sのライブを見に来た観客だよ」

今日まで努力してきた成果を披露して。みんなの努力が報われないなんて認めない……

そのとき、大きな音を立てて講堂ホールの扉が開いた。

「小泉さん!」

「あ、こんにちは……えっとライブは……?」

そう聞かれた私は穂乃果たちの方を見る。

「そろそろ始まるよ」

「うん、行こう! 全力で歌おう。そのために今日までやってきたんだから!」

照明が消えて前奏が始まる。ピアノソロから始まるこの曲。三人の始まりを飾る曲。

パフォーマンスの途中で何人か入ってきたのに気付いた。

よかったね、三人とも。少しだけど興味を持ってくれた人がいるみたいだよ。

後半疲れが出てきたのか少し腕が落ち始めた。頑張って、もう少し……

 

 

最後はきっちりポーズを決めた。練習以上、とはいかないけどほぼほぼ練習の成果はでたと思う。

まばらな拍手が起きる。穂乃果たちの顔は達成感で満ちていた。

そんな中、一つの足音が聞こえてきた。その主は

「……生徒会長」

だった。

「どうするつもり?」

まばらな、むしろほぼ空席の座席を見回しながら聞く。

「続けます」

「なぜ?これ以上やっても意味があると思えないけど?」

熱を持った穂乃果の言葉と冷たさを持った生徒会長の冷静な言葉。

生徒会長の言い分ももちろん正しい。でもね……穂乃果なら。

「やりたいからです!私、今初めての気持ちを持ってます。このままだれも見向きもしてくれないかもしれない。応援なんて全然もらえないかもしれない。でも私たちが頑張ってとにかく頑張って届けたい。私たちがここにいて感じている、この思いを!」

……この前私が生徒会長に言ったこととほぼ同じじゃん。思いは一緒、だったんだね。

「いつか私たち、ここを満員にして見せます!」

私も気合を入れなおした瞬間だった。

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