限られた日々のなかで〜女神と歩んだ1年〜   作:月白弥音

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#2 ハジマリノヨカン

昼休みも放課後も美優と廃校についてなんとかできないかって話してたけど、私たちの頭じゃ大人の決定を覆すようなアイデアは浮かばなかった。

「はぁ~なかなかいい案思い付かないね」

って突っ伏す美優。私もゆっくり体を動かしながら、そうだねって返した。

「やっぱりもっと突拍子のないこと考えるような人じゃないとなのかもね~どっかにそんな人いないかなぁ」

一人すっごく思い当たる人いるけど……

「そんなこと言っててもしかたないよ。それよりいいの? 生徒会、今日集まりあるんじゃなかったっけ?」

私が自分の腕時計を見せながら聞くと

「そうだった! ごめん、ありがとっ!」

謝ってるのか感謝してるのかわかんない返事をしてばたばた教室を出てった。美優も忙しそうだよね、ホントに。

さて、私も行こうかな。置いていける教材を机のなかに入れて軽くなった鞄を持って私も教室を出る。そして階段を上がった。

 

 

 

 

「ーーよし」

黒光りするふたを開けて、私は白と黒の歯に手をかける。そして指を動かして音を紡いでいく。

逃げていく音をなんとか五本の線のなかに閉じ込めて、今度は違うのを捕まえて、前のを逃がして……

そんなことを繰り返して少しずつ終わりに近づけていく。

全部失った私が唯一手に入れたものーー作曲。入院中にお父さんが暇潰しにって作曲用のソフトを入れたパソコンを持ってきたのがきっかけだった。他にもなんか色々持ってきてくれたものがあった気もしたけど、特に私が気に入ってやっていたのは作曲だった。っていうか他にやらなかったかも。

もともとピアノはやってたし案外出来るんじゃないって思って始めたんだけど、これが結構難しい。ホントにモーツァルトさんやベートーベンさんみたいな有名な作曲者はともかく、今いろんな歌手の歌を作曲してる人たちも本当にすごいと思う。

今さわってた曲は私のはじめての挑戦、歌。歌詞が乗ることを前提に伴奏とメロディーの両方を作る。これが本当に難しい。伴奏はまだしも、メロディーは伴奏ともマッチングや歌いやすさも考えないといけない。私の今回のテーマ、未来のことも考えないといけないし……

「あれ?」

考えながら顔をあげると携帯が着信を示してた。

「あ、やば」

お母さんからだった。メールも来てた。完全に怒ってるよね……私はピアノを急いで片付けて校門に急いだ。

 

 

 

 

「ごめん、お母さん! 待たせちゃったよね?」

校門の近くで車を止めて待っててくれたお母さんにとりあえず謝る。

「そんなに待ってないわよ。でも……」

「お姉ちゃん遅いよー、もう」

その声に後ろの席を覗くとランドセルを抱いた妹がいた。

「ああ、結衣も一緒だったんだ。結衣もごめんね」

車に乗りながら妹にも謝る。

私が中三のときに拡張型心筋症を発症してから、学校が始まってから最初の2‚3日はお母さんに行きか帰りのどっちかを車で送ってもらってる。家であんまり動かなかったのに、突然学校で動く量が多くなるからいつもより疲れ易くなる、らしい。私はあまり気にしたことないし、主治医の先生も私が大丈夫ならいいって言ってたんだけど、お母さんは結構気にしてていつの間にか毎学期の恒例みたいになってる。まあ、私に水分制限と塩分制限がついてるからこの三人で車に乗っててもおやつを食べにどっか寄ってく、みたいなことはできないんだけど。そう考えると結衣にも迷惑かけてるよねって思う。もちろんこれだけじゃないんだけど。

「どうだった、学校」

「うん、大丈夫だったよ。いつも通り」

「……穂乃果ちゃんたちとは?」

「……違うクラス」

「そう……」

穂乃果たち、私の幼馴染み。幼稚園くらいのころだっけ、ことりが引っ越してきてそこから小中高と一緒。でも今は色々あって疎遠になってる。ううん、私が一方的に距離をおいてるだけ。前みたいにまた一緒にいたいけど、もういまさら仲直りなんて無理、だよね。

「そういえば、お母さん。音ノ木坂、廃校になるかもしれないんだって」

私は無理矢理話題を変えるように今朝の話をする。そして思い出す

『あっ……』

懐かしい優しい声。

「やっぱりねぇ、そうなるんじゃないかって思ってたのよ」

「え、じゃあ私、お姉ちゃんやお母さんと一緒の学校いけないの?」

当然音ノ木坂に行くつもりだった結衣はかなり驚いてる。

「うーん、一応音ノ木坂が人気になって、入学希望者が多くなればいいんだけどね。半年やそこらで爆発的に人気が出るなんてことはないでしょ?」

「ならUTXの真似すればいいじゃん」

「あのお金持ち高校の何を真似しろと言うのかな、結衣ちゃん?」

来年中学生なんだからもうちょっとその辺のことがわかってもいいと思うんだけど……

「アイドルだよ、スクールアイドル! ほら、ARISEみたいな。そうすれば人気になるんじゃない?」

「あー、なるほど……そういえば結衣、ARISE好きだもんね」

「うん、好き! だからさ、音ノ木坂でもスクールアイドルやればいいじゃん!」

確かにスクールアイドルは今全国的に大人気だし、私も知らない訳じゃない。結衣が話してるARISEは前ダンスやってた私からすればまだ粗削りなところが目につくけど、十分すごいと思う。

「でも、あの人たちは専門的にその事を習ってるんだよ。私たちと違うの」

「そんなことないよ。お姉ちゃんが教えてあげればいいじゃん! 曲も作れるし」

「ふふ、穂乃果ちゃんが聞いてたらやるって言いそうね」

「もう、お母さんまで……手本が見せられなきゃ表面上しか教えられないし、素人の私が作った曲じゃ……そもそもできるかもわかんないのに」

「なんかお姉ちゃんらしくない。でも、穂乃果ちゃんたちがスクールアイドルやり始めたら絶っ対応援するけどな~」

「三人とも可愛いから絶対いいアイドルになりそうよね~」

二人だけで盛り上がってる話を聞きながら私は窓を開ける。

吹き込んでくる風に目を細めながら外を見ると電線に止まっていた三匹の小鳥がふらふらしながら空へ飛び立っていった。

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