「おはよ〜」
「おはようございます。今日は夢花も参加するんですね」
「ううん、今日も私は不参加。昨日のハードな練習でみんなどうかなって思って」
「確かに、生徒会長の練習はただの基礎ばかりだということでしたが今の私たちではやはり大変でしたね……」
今までそんなにきつく基礎練習やってなかったからねぇ……
急にあれをやるのはちょっと辛かったよね、きっと。
でも、さすが生徒会長。
筋肉痛にはかなりなってるみたいだけど体自体の疲労は残ってないみたいだね。
ギリギリまで絞られてるからまあ辛いとは思うけど、辞めさせる必要はないよね。
「じゃあ私は生徒会の手伝い、行ってくるね」
「はい、宜しくお願いします」
「うん、任せといて」
「エリチ、どんな感じだった?」
「どう、というのは?」
「他の子達のの様子見に行ったんやろ? きっと夢花ちゃんならそれからエリチの様子がわかるんやないかなって」
「さすがにそれは無理ですよ」
なんか、買いかぶられすぎじゃない?
私そんなに大したことないと思うんだけど……
「そういう希先輩こそどうなんですか? 私たちが生徒会長に練習を見て欲しいとお願いした時、星が動き出したって言ってましたよね?」
「……聞こえてたんやね。もう少しやと思うんやけどなぁ……?」
もう少し?
なんの話をしているの?
本当にこの人、掴み所ないなぁ……
「ごめん夢花ちゃん、ちょっと外出てくるね」
「あ、はい、わかりました……」
どこに行くんだろ?
まあいっか。私はとりあえずこれやっちゃおっと。
『しょうがないじゃない!!!』
っ!?
び、びっくりしたぁ……
どうしてみんな私を驚かそうとするのかな、まったく。
それはそうと、今の声、生徒会長だよね?
えっと、ごめんなさい!
扉に近づいて私は外の会話を盗み聞きする。
『自分が不器用なのはわかってる! でも! 私が……今更アイドルをやろうなんて言えると思う?』
『あっ!』
生徒会長……
そっか、生徒会長、諦めてなかったんだ……
「希先輩」
「夢花ちゃん。ごめんな、見苦しいところ見せたな」
「いえ、全然。希先輩が生徒会長を助けたいっていう気持ち、よくわかりましたから」
「夢花ちゃん、うちじゃ、うちじゃダメみたいなんよ……だから、お願い」
「穂乃果たちをお願いします」
私はゆっくり生徒会長を追う。
きっと今ので希先輩なら気づいてくれるだろう。
それまでに私は生徒会長と話して時間を稼がなきゃ。
さて、どこから行こうかな。
あんまり動き回りたくないから一番近い三年生の教室から行こうか。
ところで、生徒会長って何組?
3クラスしかないって言っても先に聞いておくんだったかな……
まあ、きっとなんとかなるでしょ。片っ端から探していこ!
「あっ……」
いた。生徒会長。一番手前のクラスだったんだ。
「生徒会長」
「あなた……どうしたの? あの子たちの練習を放り出してきたことに文句を言いにきたの?」
「いえ、まさか。ただお話をしにきただけですよ」
「別に私は話すことなんてないわ」
「なら勝手に私から話させてもらいます。生徒会長、あなたのバレエの動画を希先輩から見せてもらいました」
「っ!」
「純粋にすごいと思いました。あの歳ではありえないくらいの技術を持っていたと思います。でも、あのバレエに楽しさはなかった。
何かに追われているようで、何か大きいものを背負わされているようで。表情は笑顔でも楽しさからくるものじゃなくてそうしなければならないからしている作った笑顔でした」
「……あなたに何がわかるっていうの? 私はおばあさまの期待に応えなければならなかった。だから必死に努力してそれで……」
「何もわからないですよ? だって私は生徒会長じゃないですから。その努力は無駄だったんですか?」
「だ、だってそうじゃない……結果のない努力なんて無駄なものに決まってるじゃない!」
「なら今やっている廃校阻止の努力も無駄なんですね」
「そ、それは……」
「結果のでない努力だって無駄なわけない。私は私がやれなくなるまで頑張って努力してみんなと楽しんだダンスを無駄だったなんて思いたくない」
「……」
「生徒会長、絵里先輩だって本当はそうなんじゃないんですか? 素人みたいだからっていうのももちろんあったと思います。でも、絵里先輩は穂乃果たちに昔の自分を重ねていたんじゃないですか?」
これは完全に私の推測でしかないけど。
そうでないと説明がつかない。
わざわざ動画を撮ってネットに公開した理由。
後悔なんてしなければ他の人の目になんて止まらなくて知名度が上がらなくて諦めていた可能性が高かった。
そもそもライブを見にきた理由。
海未から聞いたんだけど、絵里先輩の妹にμ'sのライブを見せた理由。
私が都合よく取っているだけかもしれないけど。
私はそうだって思ったから。
「だったらやりましょうよ、あの時の夢の続き。せっかくほころびそうになったんです、今度こそ咲かせましょうよ、夢という大きい花を」
「何を言っているの? さっぱりわからないわ」
「さっきの希先輩との口論、聞きました。きっと受け入れてくれますよ」
だよね、穂乃果。
後は頼んだよ。
「絵里先輩! お願いがあります。μ'sに入ってください!」
穂乃果が教室に入って絵里先輩に手を差し出す。
「な、何言ってるの? 私は別に……」
「希先輩から聞きました。後、今の夢花との話も」
「やりたいならちゃんと言いなさいよ」
「にこ先輩には言われたくないけど」
真姫ちゃん、なんだかいつもにこ先輩の当たり強いよね……
「ちょ、ちょっと待ってよ! 私やるなんて……大体、おかしいでしょ? 私がアイドルなんて……」
「何がおかしいんですか? 極度の人見知りやおっちょこちょいですぐに振り付け間違える人なんかがいるですよ? 何もおかしいことなんてないじゃないですか」
「やってみればいいやん。理由なんて必要ない、本当にやりたいことってそんな風に始まるんやない?」
おずおずとほのかの手を握り返す手が一つ。
もちろん、絵里先輩の手だった。
「わぁ!」
「これで8人!」
「ううん、違うよ、ことり。ですよね、希先輩」
「あちゃー、気づかれてたかぁ」
「μ's、ムーサは神話では元々3人だったんだよ。だから私もてっきり詳しい人がつけてくれたんだと思ってたけど……最初から9人にするつもりだったんですね、希先輩」
「そこまでお見通しだったんやね。占いで出てたんよ、このグループは9人になった時道が開けるって。だからつけたん、9人の歌の女神『μ's』って」
「の、ぞみ……全く、呆れるわ」
本当にね。
他人のためにここまでできるのは本当にすごいと思いますよ、希先輩。
絵里先輩が教室のドアに向かって歩き出す。
「どこへ?」
「決まってるでしょ。練習よ!」
「やったぁ!!!!」
9人の女神はここに集い、この先どんな困難も乗り越えていける、そう思っていた。
でも確実、ゆっくりとその女神を刈ろうとするものが近づいていたことをこの時の私は想像もしていなかった。