自分の部屋にあるパソコンの前に座った私はいつも通り作曲に使っているソフトを起動させる。
「ーースクールアイドル、かぁ」
いつもならそのまま打ち込みを始めるけど、さっき結衣に言われたことが気になった。ソフトをバックグラウンドで起動させながら、ネットでスクールアイドルについて調べてみることにした。
へぇ、一口にスクールアイドルっていってもいろんなグループがあるんだ。結衣が好きなA-RISEみたいにそれ専門の学科にいる人ばっかりかと思ったら、どっちかって言うと珍しい方らしい。もちろん、なんか流行ってるからやってみたっていうグループも多いみたいだけど、中には真剣に素人だけどアイドルになりたい! っていう思いで活動してる人もいる。
音ノ木坂と同じ廃校寸前の学校のスクールアイドルもいた。もっとも、そこの学校はすでに廃校が決まっていて、最後の思い出作りみたいな感じらしいけど。そういう学校のことを知るとちょっと寂しい。
「みんな頑張ってるんだな~」
ゆっくりと少しだけ伸びをしてからブラウザを閉じる。
「よし、私もガンバろ」
気持ちを入れ直して私は譜面と向き合って、ヘッドホンを着ける。
最後までは一応完成したから、あとはこれをどうアレンジしていくか。この曲のイメージとメロディーライン、その二つとうまく折り合いをつけながら使う楽器を選ぶ。一回音をつけてみてイメージと違って、またやり直してみて。プロの編曲者さんならきっとある程度頭のなかで構想が練れるんだろうな、とか思いながら着けては外してを何度も繰り返す。
…………………
……………
………
「……ちゃん、お姉ちゃん!」
肩を叩かれて結衣に呼ばれてることにようやく気づいた私はヘッドホンを外してくるりと結衣に向き直る。
「ごめん、ごめん。ちょっと真剣にやり過ぎちゃった。どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ。晩ごはん出来たって何度も呼んでるのに……もう」
そう言われて壁にかかってる時計を確認する。もうすぐ7時、二時間近く編曲をやり続けてたんだ。
「ずーっとやってて、お姉ちゃん、からだ大丈夫?」
「うん、大丈夫。心配してくれてありがと。さて、ご飯だご飯だ。早くしないとおいてくよ」
「あ、待ってよお姉ちゃん! 結衣が呼びに来たのに……」
先に行くっていってもすぐに追い付かれるんだけど、私は結構このやり取り、好きなんだよね。
でも、二時間やってまだ一番の部分すら終わってないって……完成はまだ先になりそうかな……
私の発病から塩分制限されてる私に合わせてうちのご飯は全体的に薄味になった。結衣も最初のうちは味ないーって文句言ってたけど、今は何も言わないでいてくれる。慣れただけかもしれないし、私を気遣ってくれてるのかもしれない。それはよくわからないけど、小学生のくせに周りの大人に合わせるようにしてるのはちょっと気になる。もっといろんなことをして遊びたい盛りだと思うーー少なくとも私は穂乃果に引っ張られて海未やことりと一緒に毎日外で遊び呆けてた。ときどき結衣も連れてったなぁ……結構ハードに遊んでたから結衣はだいたい疲れ果てて家に帰る前に寝ちゃって、私がおぶって帰ってたっけ。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
私の前でお夕飯を食べる結衣が聞いてきた。
「ううん、なんでもない」
「ふーん、変なの」
まさか結衣のこと考えてたなんて言えないよね。だって恥ずかしいし。
次の日、私は放課後にまた音楽室に向かっていた。昨日打ち込みはしたけど、少し気になるところを見つけたから。ピアノで弾くと良さげに聞こえるのに、なんか全体を編曲すると変な感じがするのはなんでかなぁ? 出来れば自分で解決したいんだけど、どうしても無理ならお父さんに聞くしかないかな……学生時代にお父さんが曲作ってバンドで演奏してたって言ってたし。今は普通のサラリーマンだけど。お母さんともそのライブで初めて会ったとかなんとか……って、それは今どうでもいいの! 考えすぎると詰まるのはそうだけど、あまりにも関係なさすぎ! なんて、自分で突っ込んでるからいつもと違うことにすぐには気がつかなかった。
「あれ……?」
いつも私が使ってる音楽室からピアノの音が聞こえる。それに続いて歌声も聞こえてきた。
私、曲を作るのはもちろんだけど、色んな音楽を聞くのも好きだから、毎月結構な曲数聞いてるんだけど今聞こえてくる曲は聞き覚えがなかった。もちろん私が聞いてない曲も多いし、分からない曲もあって当然なんだけど、流れてくる大体の曲がわかるって思ってた私はちょっとショックだった。
「それにしても綺麗な声……」
ピアノの音もきれいだけど、それ以上に声が私には印象に残った。今までこんなことする人いなかったし、今年入ってきた一年生? ううん、そんなことどうでもいい。
ーー知りたい。この歌を歌ってる人を。
自然と速くなる歩く速さをなんとか抑えつつ、それでもいつもよりは少し速めに歩いて音楽室に行く。
もうちょっとで誰が歌ってるのか分かると思ったとき
「きれーな声……」
別の方向から聞こえてきた声に私は慌てて来た道を少し引き返して曲がり角に隠れた。
穂乃果の声。
いつも私たちを見たことのない世界に連れて行ってくれた魔法みたいな声。一番楽しそうなことに全力で向かってく穂乃果が私たちを誘ってくれた声。
そして……
ーーゆ、ゆめちゃん……。……ごめんね
私が涙を含ませてしまった声。
いつの間にか歌は終わっていた。音楽室のドアが開いてるから、穂乃果は中に入ったみたい。
私はその場から逃げるように離れて、校門のところで待っててくれてると思うお母さんのとこに急いだ。